連載記事 奥野麻衣子
第2回 グリーンボンドとEMS

本稿は月刊アイソス2019年11月号に掲載された奥野麻衣子氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 環境・エネルギー部 主任研究員 サステナブルビジネス戦略センター長)執筆の連載記事『環境ファイナンス分野における国際規格動向』第2回の全文です。(本誌編集部)

グリーンボンドとは

グリーンボンドとは、資金を必要としている主体(企業や地方自治体等)が、再生可能エネルギー事業や省エネ建物建築・改修等の環境改善効果が期待される事業に要する資金を調達するために発行する債券である。企業が発行するならば社債、地方自治体が発行するなら地方債、国が発行すれば国債の一種といえるが、グリーンボンドにはこうした一般的な債券にはない環境上の特色がある。まず、グリーンボンド発行によって調達した資金の使途は、環境改善効果が期待される特定の事業に限定される。また、調達資金がきちんと当該環境事業に充当されていることを確実にするため、資金の追跡管理を行う必要がある。さらに、グリーンボンド発行後は、当該グリーンボンドを購入した投資家や社会に対して、環境事業の状況や資金の使用状況、環境改善効果などについて情報開示し、透明性を確保することが望ましいとされる。このため、一般的にはグリーンボンド発行にあたって第三者機関に資金使途対象事業の環境改善効果や資金管理プロセスなどをレビューしてもらい、外部意見書をつけてもらうことでその適格性を担保する(図表1)

なお、企業が自らの環境事業を実施するにあたって資金調達のためグリーンボンド発行体となる他、環境事業を実施する事業者に投融資を実行するための原資を調達する目的で銀行等がグリーンボンドを発行する(銀行が発行体となる)こともある。また当然ながら、グリーンであろうがなかろうが、投資家にとっては社債の発行体が倒産しないこと、定期的に利息が支払われ、満期になれば償還される(元本と利息が支払われる)ことが重要である。つまり基本的かつ重要な投資判断情報として企業の信用リスクに関する外部意見である信用格付に加えて、ESG投資において重要な情報として環境改善効果等に関する外部意見が付くという仕組みである。

国内外のグリーンボンド発行状況

近年のESG投資の世界的な普及を背景に、グリーンボンドの発行金額はここ数年大きく拡大している。英国を本拠とする国際NGOのClimate Bond Initiative(CBI)によれば、2018年の世界のグリーンボンド発行総額は1,676億米ドル(約18.8兆円)、2007年からの累積では5,210億米ドル(約58.4兆円)に上る。期限が来れば必ず元本と利息が支払われる債券投資は、基本的に投資家にとって安定的な運用スタイルであり、資産運用の多くを債券投資に割り当てている投資家も多い。そこで、ESG投資を行うことを表明している年金基金や保険会社等(アセットオーナー)や、アセットオーナーから資産の運用を受託する資産運用会社(アセットマネジャー)が、債券投資の一部でもESG投資を行っていると表明できるような商品を求め始めたのである。投資家が多く集まり、発行した債券がよく売れるのであれば、証券会社や銀行にとっても新たなビジネスになる。しかし、グリーンボンドは既に見たとおり発行や管理に追加的なコストがかかるため、資金調達手段としては未だ非効率であり、企業側には相当のモチベーションが必要となる。わが国では環境省が2017年3月に「グリーンボンドガイドライン」を策定、2018年度よりグリーンボンド発行促進のための補助事業を行っており、国内グリーンボンド市場の拡大に寄与している(図表2)

ISO 14030(グリーン債務証書)の概要

ISO 14030「環境パフォーマンス評価−グリーン債務証書」は、パート1(グリーンボンドのためのプロセス)、パート2(グリーンローンのためのプロセス)、パート3(タクソノミー)、パート4(検証)で構成される。2019年9月現在、いずれもCD段階にあり、2020年から2021年にかけてのIS発行が目指されている。環境効果が期待される事業や投資に必要な資金をグリーンボンド発行やグリーンローンの仕組みを通じて調達したい企業は、パート1やパート2に規定のプロセスを参照し、資金使途となる事業や設備投資がパート3のカテゴリーを満たすかどうかの審査を受け、証券を発行し、定められた資金の適正管理と環境改善効果の測定やレポーティングを行いつつ事業を実施し、期限内にお金を返済する(図表3)

「グリーン」とは何か

ここで、グリーンボンドやグリーンローンの「グリーン」とは何だろうか。あるいは、グリーンボンドの他にも、気候変動対策関連のプロジェクトを資金使途とする「気候ボンド」や、海洋保全や持続可能な漁業プロジェクトを資金使途とする「ブルーボンド」があることを踏まえれば、環境改善効果が期待される事業とは何か、ということになる。

これについてはEUでの検討状況が参考になる。欧州委員会は2018年5月に「持続可能な投資を促進するための枠組み確立に係る規則案(タクソノミー規則案)」を提出。そこには下記の6つの環境目的が挙げられており、これはISO 14030委員会原案にも反映されている(もちろん、環境目的はこれに限られるわけではない)。

• 気候変動緩和
• 気候変動適応
• 水及び海洋資源の持続可能な使用と保護
• 循環経済への移行、廃棄物防止、及びリサイクル
• 汚染予防・管理
• 健全な生態系の保護

EUではさらに、気候変動の緩和と適応について経済活動別の技術的なスクリーニング基準が検討されているところだが、大本の法令であるタクソノミー規則案では、「環境に調和した持続可能な経済活動」の定義に合致し適格とみなされる活動には、1つ又は複数の環境目的に実質的に貢献し、その他の環境目的のいずれにも重大な害を与えないこと等が求められる。大まかにいって、上記の環境目的に対して改善効果が実証できる事業活動や設備投資は、グリーンボンド適格性があることになる。例えば、再生可能エネルギー、省エネルギー、廃棄物管理・資源循環、汚染予防・管理、持続可能な農業・森林、持続可能な漁業・海洋資源利用・沿岸域商業、生態系保全活動、低炭素ビル、クリーンな輸送、持続可能な水インフラ・水資源保全などである。

上記のISO 14030の中では、パート1で環境目的が例示されている他、パート3においてグリーンな事業、資産、活動の分類と基準が定義されている。規格の検討には、グリーンボンド発行に関する自主的ガイドライン「グリーンボンド原則」及び同原則のためのプロジェクト分類を持つ国際資本市場協会(ICMA)や、「気候ボンド分類」及び「気候ボンド基準」を定めて認証を行う英国CBI、サステナブルファイナンスのタクソノミーの法令化と技術基準策定が進む欧州各国が積極的に参加しており、適格性基準についてはかなり欧州寄りの内容になることが予想される。

企業への示唆

①環境適格性について

経済活動を環境効果の面から分類し、環境上の便益がどうあるべきかの基準を定めようとするタクソノミーは、それ単体では技術的なスクリーニング基準の国際的な妥当性が問題になる。他方、制度としては、その分類の使われ方が問題となると考える。欧州や我が国が、持続可能なグリーン経済への移行を促進しグリーン資産への資金動員を奨励するような分類定義をするのか、環境に悪い活動や資産(いわゆるブラウン資産)を規定して当該事業や資産への投資をやめさせるように働かせるのか。企業の資金調達手法は債券発行や証券化だけではないので、すぐに影響するわけではないが、環境適格性分類をどのように設計しどのように使うのかの政策動向に着目する必要がある。

②信用力について

社債発行において信用格付は重要だが、今のところEMS(環境マネジメントシステム)があるからといって格付が上がることはない。企業が、あるいは対象となる事業、資産、活動が将来生み出すキャッシュフローが返済原資となるので、それに信用力があるかどうかが問題となる。ただ、ESG投資に関する研究では、ESGに積極的に取り組む企業は危機時のリスク耐性が高いということも指摘されている。適切で効果的なEMSは、コンプライアンスや監査など基本的な内部統制の要素を含み、コミュニケーションや環境配慮などを通じて高い社会関係資本を有することで、組織の能力を高めてくれている可能性があるのではないか。なお、社債発行は市場(投資家)から直接資金を調達する手法であるのに対し、多くの中小企業は銀行からの借入れを行っているであろう。このような場合でも信用や事業性は重要だ。さらにいえば、企業や事業の基盤をなす社会経済の中長期的な持続可能性が重要だ。ESG要素を考慮した融資については、また回を改めて取り上げたい。