連載記事 奥野麻衣子
第4回 ESG融資〜企業の信用力とインパクト創出

本稿は月刊アイソス2020年1月号に掲載された奥野麻衣子氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 環境・エネルギー部 主任研究員 サステナブルビジネス戦略センター長)執筆の連載記事『環境ファイナンス分野における国際規格動向』第4回の全文です。(本誌編集部)

ISO 14100の現状

ISO 14100は、2018年6月に新規作業項目として承認・登録されたもので、現段階では作業を始めたばかりの、非常に検討の浅い規格案である。2017年7月に中国が「グリーンファイナンスプロジェクトの評価」のためのプロジェクト委員会(PC)の新規設置をISOに提案。しかし、既にTC207で環境ファイナンス関連の規格開発(ISO 14097やISO 14030シリーズ)が進められていたことから本提案は承認されず、改めてTC207内で検討されることとなった。その結果、2018年6月に新規提案が可決、同年8月に新しく作業部会(WG11:グリーンファイナンス)が設置され、ISO 14100の規格作成が進むことになった。

初期のPC提案では、プロジェクトファイナンスにおいて何がグリーンかを示すグリーンプロジェクト分類と、グリーンプロジェクト評価のための原則や方法論を含む内容だった。その後、TC207/WG11で作業が開始され、2019年3月に最初の作業原案(WD1)への意見照会があった。2019年6月のベルリン会合で検討が行われた結果、タイトルやスコープが大きく変わった(図表1)

当初のタイトルからはプロジェクトファイナンスがイメージされたが、実際はアセットや活動もファイナンス対象としており、想定ユーザーも金融機関から資金需要のある企業側やその他の利害関係者へと広がっている。形態としては出資も融資も想定される。規格が対象とするファイナンスの規模については、ベルリン会合前のWD1では、プロジェクトファイナンス、法人向け大口融資、小口のリテール融資まで視野に入っていたが、現段階では言及がない。今後どうなるか全く分からない規格といえるが、個人的には、銀行業務におけるグリーンファイナンスの基準について指針を提供するものになると理解している。

ファイナンス対象案件の環境性を評価する

金融機関(銀行)からの資金調達を考えている企業の立場に立って、ISO 14100(以下、本規格)を考察してみる。企業の資金調達方法には大きく分けて銀行からの借り入れ(負債による調達:デットファイナンス)と新株発行による投資家からの調達(資本による調達:エクイティファイナンス)がある。金融機関は、投資(融資・出資)に対するリターンがあることを前提に企業へ資金を提供するので、デットファイナンス(ローンや社債)ならば、借り手の企業は期限までに原本と利子を返済する義務がある。一方、エクイティファイナンス(株式発行等による増資等)であれば、出資者には配当を受ける権利や経営に参加する権利が生まれ、企業には、期限までに元本を返済する義務はないが収益に応じて配当を行う必要がある。我が国の企業の伝統的な資金調達方法はデットファイナンス(特に、銀行借入れ)である。金融機関側の企業に対するファイナンス手法には、債務の返済能力といった企業全体の信用力に基づいて資金を提供するコーポレートファイナンスと、特定のプロジェクト(事業)の資産やキャッシュフローを信用力の裏付けとして融資を行うプロジェクトファイナンス、特定の資産を担保として融資を行うアセットファイナンスがある。もちろんこれ以外にも金融の手法は多々あろうが、大まかには、本規格がファイナンス案件として想定する活動、プロジェクト、アセットに対応するファイナンス手法の3つと考えられる(図表2)

本規格のスタート地点は、企業側に、事業なり企業活動の環境配慮要素を生かして何らかの資金調達を有利な条件で行いたいという需要があることである(なお、それ以前の問題として、経済成長が低迷する中で企業の投資が滞り資金需要自体が発生しないという状況があるが、これは一旦脇に置く)。金融機関側には、そうした需要に対応する何らかの環境金融商品がある、または今後開発するということになる。その際、この規格が、資金使途として想定される活動やプロジェクト、アセットの環境特性と各々の環境影響・環境パフォーマンス基準について指針を提供することが考えられる。なお、グリーン債券についてはISO 14030シリーズがあり、気候変動に特化したファイナンスについてはISO 14097が扱うため、本規格はそれを包含した形で、資金需要のあるグリーン案件に焦点を当てた指針を開発しようとしているものと思料する。また、TC207では絶対的なパフォーマンス基準を定めることはないため、環境影響のカテゴリーと指標の指針が提供されることになるのではと、現時点では推察する。さらに、本規格は、個別案件において環境要素を考慮した融資・出資を実行するにあたり、対象となる案件(プロジェクト、アセット、活動)の環境属性の評価範囲、方法論、評価体制に関する指針を提供しようとしている。ただし、現時点での規格の内容及び方向性はきわめて流動的であり、本稿での推察が全く当たらない規格になる可能性もある。今後の議論の深化が待たれる(図表3)

ESG/SDGs金融とインパクト金融の大きな流れ

我が国には、比較的早い時期から環境金融の取組みが存在した。代表的な例として「環境格付融資」がある。環境格付融資は、金融機関が融資に当たり融資先企業の環境経営の取組みや環境配慮活動を評価し、その評価を考慮に入れて金利の段階的変更など融資の条件等を設定したり、融資の実行を判断したりするもので、2004年に日本政策投資銀行が「環境格付」(環境経営の評価)と格付に応じた「優遇金利融資」を世界で初めて実施したことが契機となっている。2007年には環境省が環境格付融資に係る利子補給事業を立ち上げてその普及を促進。今では複数の金融機関が環境格付融資に取り組み、一定の浸透を見せている。金融機関にとって環境格付融資は、金融機関自らのリスク管理の一環として有効なツールの一つと考えられ、非財務情報の取得による財務的な信用度(財務格付など信用リスク)の補完の機能が期待されている他、取引先とのリレーション強化による融資案件の発掘等に有意義であるとされる。

近年は、ESG(環境、社会、ガバナンス)の概念の出現に伴い、融資先企業の取組みをESG要素の観点から評価する「ESG評価型融資」が出てきている。ESG要素を考慮して企業や事業を評価すれば、従来検討されてきた純粋な環境改善への貢献や、法令順守や監査の仕組み導入による経営基盤の強化、環境問題に積極的に取り組むことによって見出される事業機会等に加えて、環境問題を考慮しないことによる事業継続上のリスク(例えば、気候変動に関連して、豪雨災害による事業停止や、電動化などの産業構造の変化への対応遅れ)も検討することになろう。

また、環境省は今年、「地域におけるESG金融促進事業」に参加する地域金融機関を7月と9月の2回にわたり公募し、全9機関を支援先機関に決定した。本事業では、有望なグリーンプロジェクト等の地域の市場調査、将来性・利益性の掘り起こし、支援先機関におけるESG要素を考慮した事業性評価及びそのプロセス構築等の支援を実施することで、環境・社会にインパクトがあり、地域の持続可能性の向上や地域循環共生圏の創出に資するESG金融促進を図ることを目指している。単なる融資商品に仕立てるだけではなく、地域金融機関がESG要素を考慮して融資先企業の事業性評価を行うことで、非財務情報による財務的な信用度(財務格付など信用リスク)の補完や、取引先とのリレーション強化による融資案件の発掘につなげようとするものである。加えて、環境・社会にインパクトを創出する金融であろうとしている。

インパクト金融については、UNEP FI(国連環境計画金融イニシアチブ)がSDGs達成に向けて2017年1月に「ポジティブインパクト金融原則」を公表、今年9月には銀行業務をSDGsやパリ協定が示す社会的目標に整合させることを目指す「責任銀行原則」が発効した。ポジティブインパクト金融とは、経済、環境、社会の3側面のいずれかで潜在的マイナス影響を緩和し、少なくとも1側面でプラス貢献がある金融を指す。UNEP FIは、2018年11月に資金使途を特定したプロジェクト関連ファイナンス及び資金使途を特定しない企業向け融資商品のためのガイダンスを、今年9月にコーポレートファイナンス等においてインパクト評価を行うためのツールを公表した。国内では三井住友信託銀行が、今年3月に不二製油グループと世界初のポジティブインパクト金融(資金使途を特定しない事業会社向け融資タイプ)の契約を締結している。個人的には、今後のインパクト金融は、評価だけでなくインパクト創出のためのマネジメント(融資・出資実施後、目標とするプラスの影響の達成に向けてフォローし、モニタリングと対話を続ける)へとシフトしていくのではと考えている。

企業への示唆

融資を受けた企業は、債務を返済するために事業や資産、活動が十分なキャッシュフローを生み続ける必要がある。出資を受けたなら、配当を支払えるキャッシュフローを生み続けるだけではなく、企業価値向上のための成長も見せなければならない。気候変動やSDGsといった国際社会が合意した持続可能性に関する目標や、少子高齢化や地域経済の縮小といった我が国の社会問題は、企業にESGの観点から新しい事業リスクをもたらし、場合によっては既にキャッシュフローが影響を受け、製品・サービス構成や生産体制を見直す必要性も出ているだろう。ESG金融の潮流は、金融機関が環境・社会的課題やインパクトといった新たな目線で企業の信用力や収益力を見る力の向上を後押ししつつある。ISO 14001は企業のESG経営をサポートする要素を十分備えており、環境格付評価においてもベースであったが、今後は外形的に満たすだけでは不十分といえる。目指す方向性が企業の状況に対して時宜を得ており、意図した成果が出るよう仕組みが効果的に機能し、リーダーシップが発揮されていることが必要である。