連載記事 菱沼雅博
第1回 規格及び認証

本稿は月刊アイソス2019年4月号に掲載された菱沼雅博氏(一般財団法人日本品質保証機構 審査事業センター 品質審査部 参与)執筆の連載記事『IATF 16949 ワンポイントレッスン』第1回の全文です。(本誌編集部)

1. 規格

1-1 ISO 9001

■開発経緯

IATF 16949のベース規格はISO 9001である。まずは、ISO 9001の成立ちから解説していこう。

第二次世界大戦後、軍需品の品質問題に対処するために各国で品質システム規格が制定された。その中から、英国の規格管理団体であるBSI(英国規格協会)が1979 年に発行したBS 5750が、ISO 9001の母体となった。BS 5750にはpart1、part2、part3 の3種類があり、それぞれpart1が設計、製造、part2 が製造、part3 が最終検査についての品質システム要求事項であった。この品質システム要求事項は、購入者からの要求事項であることが、将来制定されることになるISO 9000 シリーズ規格の性格を決めることになる。

各国に異なる品質システム規格が存在することは、国際的な通商活動の妨げになることから、各国共通の規格を作るため、1976年にISO(国際標準化機構)に「品質保証」の技術委員会TC176 が設置された。そして、1987 年にISO 9000 シリーズ規格の第1版が発行された。このときISO 9001:1987、ISO 9002:1987、ISO 9003:1987 の3種類の規格が作られたのは、BS 5750 の影響である。

当時、この規格は購入者と供給者の二者間取引の際に用いるものとして意図されていた。しかし実際は、認証の基準規格として国際的な取引の場で使用されるようになった。これは、欧州統合のため、多くの通商障壁を取り除かねばならない状況におかれた欧州企業が、ISO 9001を使用して、供給者の品質保証能力を客観的に保証するために使用したからである。

■特徴

この規格は、購入者(顧客)からの要求事項である点が最大の特徴だ。

ISO 9000 シリーズに定められた品質保証の定義は、「製品又はサービスが、所与の品質要求を満たしていることの妥当な信頼感を与えるために必要な計画的で体系的な活動のすべて」であり、購入者(顧客)の立場から定義されている。つまりISO 9001規格は、購入者からの供給者に対する活動を要求している。それは自分が買う物の品質が確かによい物である、という確信を持つためであり、購入者からみて確実によい物を入手する1つの方法は検査である。

一方、日本の品質管理は供給者の立場で実施されてきて、製品品質を確保することに努めてきた。供給者自ら主導する品質保証が推進されてきたため、検査よりも工程で品質を作り込むことが優先され、その理念に沿った品質保証活動が推進されてきた。しかし、購入者の立場は違う。極端に言えば、購入者は供給者の工程内不良には関心はなく、自社が受け入れる製品品質にすべての関心が向く。したがって当初のISO 9001は購入者主導の品質管理であり、工程での不良防止より、選別、検査に重点を置いたものであった。

その後、1994年改訂、2000年改訂、2008年改訂を経て、2015年版が現行規格である。特に、2000年版では、品質改善、プロセス重視となり、日本の品質管理に近づいたと考えられる。ISO 9001:2000 は、ビジネスプロセスに沿って構成されており、組織内における仕事の流れを反映している。また、ISO 9001:2000 は、環境マネジメントシステム規格ISO 14001 との両立性を配慮して作成された。2015年改訂は、それまでの改訂の中で最大の改訂であった。リスク、パフォーマンス重視、等々、本稿でも解説していくことになる概念を多く含んでいる。

1-2 IATF 16949

■開発経緯

自動車産業は、次の特徴を備えており、ISO 9001規格だけでは不足と考えられた。

1)安全への配慮
自動車には、ユーザーの安全のためにリコール制度、製造物責任等が制定・運用されている。これらの問題を予防する仕掛けを規格に盛り込む必要があった。
2)大量生産
自動車は、一つのモデルで月産数千台~数万台の規模になる。このような場合のばらつきのない品質確保の仕掛けが必要であった。
3)顧客(自動車メーカー=OEM)との同時開発
自動車開発は、企画、製品設計、工程設計、試作、量産試作、量産というプロセスで進み、顧客のイベントに対応しなければならない。そのための仕掛けが必要であった。

以上の理由によって、各国でISO 9001をベース規格とした自動車セクター規格が制定・運用された。中でも普及したのは米国BIG3のQS-9000、ドイツのVDA6.1である。さらに、それらを国際的に統一することを意図し、1999年に発行されたのがISO/TS 16949:1999である。さらにISO 9001が2000年に改訂されたことを受け、2002年にISO/TS 16949:2002が発行(日本からも日本自動車工業会が改訂作業に参加)され、これが実質的に利用されるISO/TS 16949となった。そして、ISO 9001:2008の追補改訂を受けて、2009年にISO/TS 16949:2009が発行された。その後、2015年にISO 9001:2015が発行されたことに伴い、ISO/TSの後継としてIATF 16949:2016が2016年10月1日に発行されたのである。

■特徴

このIATF 16949は、次の特徴をもつ。

1)購入者(顧客)からの要求事項
1-1に述べたように、ISO 9001は購入者(顧客)から供給者への要求事項であった。ISO/TS 16949ならびにIATF 16949は、この性格を色濃く残している。ISO 9001:1994までは、要求事項は“The supplier shall・・・(供給者は・・・しなければならない)”と記述されていて、購入者(顧客)からの供給者への要求が明確であった。2000年版以降は、ISO 14001 との両立性を配慮して“The organization shall・・・(組織は・・・しなければならない)”となったので、この視点は多少曖昧になった。しかし、GM、フォード等の顧客固有要求事項(CSR)は、“The supplier shall・・・(供給者は・・・しなければならない)”と記述されているように、購入者(顧客)から供給者への要求事項となっている。つまりGM、フォード等の顧客は、規格と自身のCSRとを共に供給者への要求事項としているのである。ここでいう供給者とは、ISO 9001:2000以降の供給者(サブサプライヤー)ではなく、GM、フォード等に対する供給者を意味する。

2)安全
顧客(特にOEM)が最も警戒することは、リコール、PL裁判等の問題である。そのために、製品安全、特殊特性、リスク分析等々の要求事項を規定している。

3) 大量生産
顧客(特にOEM)の生産ラインを円滑に稼動させるための要求事項として、緊急事態対応計画、工程管理の一時的変更等々の要求事項を規定している。緊急事態対応計画とは、生産設備が稼動できなくなった場合にも顧客への供給を継続するための要求事項であり、工程管理の一時的変更とは、生産設備は稼動できるが付帯するポカヨケ又は検査機等の故障によって一時的に工程変更しなければならない場合の要求事項である。いずれの場合も「何があっても顧客に迷惑をかけるな」という趣旨の要求事項である。

4)開発
顧客(特にOEM)の開発プロセスに合わせた開発が要求される。これは、APQP等、CSRで具体的に要求されることになる。

2. 認証

2-1 認証の対象組織

規格があるだけではその実施は保証されない。したがって、実施を保証する手段として第二者監査又は第三者機関認証がある。これは、経済の世界の物々交換と貨幣制度の関係に似ている。貨幣のおかげで特定の交換相手を探す必要がなくなるように、第三者機関認証によって複数の顧客による監査を回避でき、顧客の側も多数の供給者監査を回避できるメリットがある。

IATF 16949の認証は、どのような組織が取得できるであろうか。IATF 16949では“自動車産業サプライチェーン全体にわたって適用することが望ましい”とされている。したがって、“自動車”とは何か、“組織”とは何かを明確にしなければならないが、それが承認取得及び維持のためのルール第5版(以降ルール5)によって明確にされている。

“自動車”とは、乗用車、小型商用車、大型トラック、バス、自動二輪であって、産業用車両、農業用車両、オフハイウェイ車両(鉱業用、林業用、建設業用など)は除外される。日本の法区分には原動機付自転車があるが、これは自動二輪(motorcycles)に含まれると解される。

“組織”は認証スキーム上、“依頼者”(client)であり、それは、IATF 16949認証を申請する組織全体(全ての製造サイト及び遠隔地支援部門を含む)と理解しなければならない。したがって、サイトに加えて、サイトにはない機能を有する遠隔地支援部門が認証の対象、すなわち審査対象となる。

2-2 認証範囲

IATF 16949ではサイトが認証対象であり、その認証範囲(Scope of Certification)は次に限られる。

①製品の設計及び製造
②製品の製造

ここで、“製品”とは何か明確にする必要がある。それは、“顧客規定生産部品、サービス部品及び/又はアクセサリー部品”である。これらをルール5の定義に基づいて説明する。

“顧客規定生産部品”とは、車両に不可欠な部品、すなわちOEMの生産ラインで車載される部品である。この定義には合わないが、顧客規定生産部品に含まれるものには、消火器、カージャッキ、フロアマット、オーナーズマニュアル、三角警告板、反射ベストがある。

“サービス部品”とは、“OEMの仕様どおり製造される交換部品であり、OEMが再生部品を含めてサービス部品として使用するために調達又はリリースするもの”である。通常、OEMは部品センターなどと呼称される物流拠点を有していて、ディーラーからの連絡を受けて、サービス交換される部品を供給している。部品メーカーは、その部品センターに交換部品をサービス部品として供給しているのである。

“アクセサリー部品”とは、“OEMの仕様どおり製造され、OEMによって調達又はリリースされる追加部品であり、最終顧客に引渡される前又は後に、車両に機械的に組み込まれる、若しくは電子的に結合されるもの”である。カタログに純正ディーラーオプションとして載っているものが該当する。

以上のような、顧客規定生産部品、サービス部品及び/又はアクセサリー部品を製造し、自動車産業顧客に供給する製造サイトのみが、IATF 16949認証に対して適格性がある。ルール5では、顧客を選択することはできない。被認証サイトの全ての自動車産業顧客が対象となる。

例えば、A社をIATF 16949顧客としてA社向けのXX製品だけを認証範囲にして認証取得するといったことは許されない。当該サイトがB社向けにYY製品を供給していれば、それも認証範囲に入れなければならない。したがって、YY製品に対しても、コントロールプラン、FMEA、製品監査などのIATF 16949要求事項を適用しなければならない。

IATF 16949認証対象:
 ・ 全ての自動車産業顧客
 ・ その顧客向けの全製品(顧客規定生産部品、サービス部品及び/又はアクセサリー部品)

ただし、サイトが複数ある場合、どのサイトを認証対象とするかは、組織の判断に委ねられる。すなわち、IATF 16949認証取得を要求していない顧客に対して供給しているサイトは、組織の裁量によって除外できる。

2-3 サイト及び遠隔地支援部門

“サイト”とは、IATF 16949の定義にあるとおり、“価値を付加する製造工程のある事業所”である。このサイトが認証の対象であるが、“顧客が設計責任をもつ場合の製品設計”以外は適用除外できないので、営業、物流拠点等がサイト外にある場合、それらをシステムに取り込む必要があり遠隔地支援部門の概念が必要になる。

以上、IATF 16949の規格及び認証の特徴を述べてきた。それを通じて言えることは、“IATF 16949は、ISO 9001の原点である購入者(顧客)からの要求事項という面をより強調した規格であり、認証もそれに応えるものである”ということである。規格、ルール改訂時にIATFによって世界の認証機関を招集してグローバルミーティングが開催されることがある。そこでは次のように展開される。

認証制度には次の3者が登場する。

 ・ 顧客(購入者)
 ・ 依頼者(被認証組織)
 ・ 認証機関

その中で最も重要なのは顧客であり、規格、ルールの解釈は顧客の利益を最優先せよ、ということである。多くの認証機関では、「組織の改善に役立つ審査、組織のために・・・」という視点が強調されているようである。しかし、IATF 16949は徹頭徹尾顧客本位の規格であり、ビジネスパスポートとしてそのように運用されることが期待されている。