連載記事 菱沼雅博
第2回 自動車産業プロセスアプローチ

本稿は月刊アイソス2019年5月号に掲載された菱沼雅博氏(一般財団法人日本品質保証機構 審査事業センター 品質審査部 参与)執筆の連載記事『IATF 16949 ワンポイントレッスン』第2回の全文です。(本誌編集部)

IATF 16949では、内部監査員の要件として“リスクに基づく考え方を含む、監査に対する自動車産業プロセスアプローチの理解”が規定されている。また、認証機関に対しても“自動車産業プロセスアプローチを活用した、現地審査”が、ルール第5版に規定されている。しかしながら、規格及びルールには、“自動車産業プロセスアプローチ”の定義はなく、解説もない。したがって、被認証組織にとっては、セミナー等による修得以外に手段がなく、不親切な要求となっている。一方、認証機関の審査員が資格を取得するためには、3日間のセミナーを受講し、その後の試験に合格することが必須となっている。この審査員セミナーでは、規格、ルール、コアツール等の解説はなく、ほぼ“自動車産業プロセスアプローチ”の講義及び演習が行われる。第2回は、この“自動車産業プロセスアプローチ”について解説しよう。

1. エレメントアプローチからプロセスアプローチへ

IATF 16949のベース規格であるISO 9001は、1994年版と2000年版で大きく構成が変わり、2000年版においてプロセスアプローチが取り入れられた。まずは、その経緯からみていこう。

1-1 エレメントアプローチ

ISO 9001:1994の要求事項では品質管理の要素(Element)と呼ばれる20の項目が挙げられていた。審査は、この要素(Element)を実行している部署に対して実施し、「手順はどうなっているか?」、「それは文書化されているか?」、「実施記録はあるか?」といった購入者(顧客)からの要求を確実に実施することが強調されており、営業〜設計〜購買〜製造のリンケージといった視点は希薄であった。つまり、定められたことを確実に実施していることを実証することで“品質要求事項が満たされるという確信を与える(ISO 9000)”という考え方であった。このエレメントアプローチ(Element approach)には、過剰な文書や記録の要求、パフォーマンスとのつながりが見えにくいとの批判があったことから、業務フローに即したプロセスに審査の重点を置くプロセスアプローチが提起されたのである。

1-2 プロセスアプローチ

全ての活動(仕事)はインプットをアウトプットに変換するプロセスとみなせる。例えば、原材料、部品、エネルギー等のインプットに付加価値を付けて、製品としてアウトプットする活動もプロセスの一つだ。言い換えると、プロセスは仕事のまとまりであり、大きなプロセスは小さなプロセスの集まりで構成されると言える。そしてプロセスアプローチとは、このプロセスに注目して管理するという考え方である。定められた手順通りに実施すれば要求品質は達成されるというエレメントアプローチの手法とは根本的に異なる。プロセスアプローチは、個々のプロセスを明確にし、その相互作用を把握し、一連のプロセスをシステムとしてマネジメントすることで、「プロセスのアウトプット」と「プロセスに影響を及ぼす要素を管理すること」が重要となる。  ISO 9001:2000において、このプロセスアプローチ(Process approach)の考え方が導入され、組織のシステム構築、認証機関の審査が劇的に変化した。ISO 9001:2015にも踏襲され、その詳細は箇条4.4.1に示されている。

4.4.1  組織は、この規格の要求事項に従って、必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む、品質マネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、かつ、継続的に改善しなければならない。
組織は、品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらの組織全体にわたる適用を決定しなければならない。また、次の事項を実施しなければならない。
a) これらのプロセスに必要なインプット、及びこれらのプロセスから期待されるアウトプットを明確にする。
b) これらのプロセスの順序及び相互作用を明確にする。
c) これらのプロセスの効果的な運用及び管理を確実にするために必要な判断基準及び方法 (監視、測定及び関連するパフォーマンス指標を含む。) を決定し、適用する。
d) これらのプロセスに必要な資源を明確にし、及びそれが利用できることを確実にする。
e) これらのプロセスに関する責任及び権限を割り当てる。
f) 6.1 の要求事項に従って決定したとおりにリスク及び機会に取り組む。
g) これらのプロセスを評価し、これらのプロセスの意図した結果の達成を確実にするために必要な変更を実施する。
h) これらのプロセス及び品質マネジメントシステムを改善する。

2. 自動車産業プロセスアプローチ

自動車は“安全”が最優先される製品である。部品の欠陥によって一度でも事故が起きれば、人の身体や財産に影響を与えかねない製品であるから当然である。自動車は通常、2万〜3万点の部品を組み立てて製造される。自動車産業プロセスアプローチを理解するためには、自動車という製品特性を念頭に置く必要がある。

2-1 顧客志向プロセスの重視

IATF 16949で推奨されている“自動車産業プロセスアプローチ”(automotive process approach)は、ISO 9001のプロセスアプローチと少し異なっている。ISO 9001のプロセスアプローチでは、あるプロセスのインプットは前のプロセスから提供され、そのプロセスのアウトプットは次のプロセスに提供される。しかし自動車産業プロセスアプローチのインプットは、顧客が規定及び期待する「顧客のニーズ」となり、アウトプットは顧客の満足につながるもの、つまり「満たされた顧客のニーズ」でなければならない。

例えば、ISO 9001でいえば、製品設計、製造工程設計からのアウトプットが製造へのインプットとなるが、自動車産業プロセスアプローチでは、あくまでも顧客のニーズがインプットになるため、設計図面やコントロールプランのようなものは、インプットにはならない。そしてアウトプットは、製品設計では“顧客満足につながる設計図面”、製造では“顧客満足につながる製品”となる。不良品は、顧客満足につながらないので自動車産業プロセスアプローチのアウトプットには含まれない。例えば製品実現プロセスでは、図表1のような顧客とのやりとりが考えられる。顧客志向プロセスは、顧客からニーズが発信されて、組織内で処理され、顧客に戻るいくつかのプロセスからなるため、組織の“オクトパス”を形成する(図表2)

IATF 16949において製品とは、“製品実現プロセスの結果として生じる、意図したアウトプット”と定義されている。意図したアウトプットは、良品、すなわち顧客満足につながるものを意味し、不良品のような副産物(by-productと呼ばれるもの)は含まれない。このように、自動車産業プロセスアプローチは、ISO 9001:2015の箇条4.4.1を、自動車産業として解釈することが必要となり、顧客志向プロセス(COP; Customer Oriented Process)、支援プロセス(SP; Support Process)、マネジメントプロセス(MP; Management Process)の3つに区分され、特に顧客志向プロセスが重視されている。これは、顧客満足を達成するためには、いかなる組織も、顧客が規定及び期待するニーズ(アウトプット)に適合するための顧客からのインプットを必要とする事実に基づいている。

2-2 タートル分析

タートル分析は、自動車産業プロセスアプローチに基づいてシステムを構築する際にも有効なツールとして推奨されている(図表3)。

箇条4.4.1におけるa)〜h)の実施は、“タートル分析”に当てはめることができ、顧客志向プロセスに適用して、プロセスを効果的に運営する。インプットは、ISO 9001でいえば、製品設計、製造工程設計からのアウトプットが製造へのインプットとなる。しかし、IATF 16949の“タートル”では、あくまでも顧客のニーズがインプットになるため、設計図面やコントロールプランのようなものは、プロセスのインプットにはならない。タートル分析に従うと、ISO 9001のインプットは、“with What”、“with Who”、“How”にそれぞれ分類される。一方、アウトプットは“Measures”に分類される。タートル分析の“with What”、“with Who”、“How”+顧客のニーズ(インプット)、“Measures”+顧客満足につながるもの(アウトプット)は、ISO 9001のインプット及びアウトプットを論理的に分析したものである。このツールを使うことによって、IATF 16949に基づく品質マネジメントシステムの有効性の改善につながるとともに、顧客満足を得ることも期待できる。