連載記事 菱沼雅博
第3回 リスクおよびFMEA

本稿は月刊アイソス2019年6月号に掲載された菱沼雅博氏(一般財団法人日本品質保証機構 審査事業センター 品質審査部 参与)執筆の連載記事『IATF 16949 ワンポイントレッスン』第3回の全文です。(本誌編集部)

IATF 16949およびそのベース規格であるISO 9001は、第2回で解説したプロセスアプローチに加えて、リスクに基づく考え方を基調としている。第3回では、リスクについて、またIATF 16949における代表的なリスク分析の手法であるFMEAについて解説する。

1. リスクに基づく考え方

リスクとは、不確かさの影響(Effect of Uncertainty)と定義される。危険、という意味ではなく、あくまで不確かさが原因となって何らかの影響があるということである。規格ではリスクを特定し、リスクについて取り組みを決めよ、と書かれている。不確かさが与える影響には「望ましい影響/望ましくない影響」があるが、その両方を特定することが必要である。

対処の仕方としては、望ましくない影響については、それを軽減するということが考えられる。またはリスクそのものを回避する、つまり不確かさが起こらないようにすることも取り組みといえるだろう(下例参照)

例: 最寄り駅から会社に徒歩で通勤している。
望ましくない影響: 出勤時間に遅刻する(原因:電車の遅延、体調不良、天候不良など)。
リスクを軽減する取り組み: 最寄り駅に到着する時間を早くして、出勤時間に遅れるという可能性を軽減する。

また、規格では、リスクに加えて機会(opportunity)を特定し取り組むことが要求されている。機会についてはISO 9000で定義されていないが、「何らかのことが起こる時機が来たときに逃さずに取り組む」ということが機会に取り組むことだといえる。例えば、新製品の開発や新規顧客の開拓など、望ましい影響が期待される状況がある場合、機会と呼ぶ。

例えば自動車産業においては、過去大きなパラダイムシフトがあった。1900年初頭には自動車というものはなく、乗り物といえば馬車の時代であった。しかし1908年にT型フォードがアメリカで開発されたことで、それが巨大なパラダイムシフトとなり、その数年後にはニューヨークでは多くの自動車が街を走るようになっていた。このとき自動車産業に真っ先に参入し、部品などを供給していた企業は大きな機会を逃さず取り組んだといえる。

近年にあっても、このように産業に影響を及ぼす転換はみられる。例えば、安全規制や環境規制が社会的要請として重要視され、それに応えることに成功した企業が業績を伸ばし利益を拡大している状況にある。また、今後社会に大きな影響を与えると推測されることとしては、自動運転車の普及というものが現在提唱されている。自動運転車が実現すると、人が運転するよりも「安全で」「速く」目的地に到着することができるようになる。今はタクシー運転手が不足し、必要な利用者がタクシーを使うことができなくなっている地域もあるが、自動運転車の普及によりその問題も解決される。ユーザーはスマートフォンで自動運転タクシーを呼び、音声で目的地を指定し、電子マネー等で支払うことで目的地に着いたらそのまま降車できる、というような社会になるかもしれない。

このような巨大なパラダイムシフトに社会は今まさに直面しており、その中でどの企業が覇権を握るのかという点で極めて大きな「機会」だといえる。

今取り組むべき「機会」は何なのかを捉え、特定し、取り組むことが必要だと規格要求事項には書かれているのである。

2. IATF 16949におけるリスク分析の手法:FMEA

2-1 FMEAとは

一方、IATF 16949においてはリスク分析(Risk Analysis)というものがある。多くのOEM顧客で、リスク分析にはFMEA(Failure Mode Effect Analysis)を用いると規定されている。そこで、ここからはFMEAについて解説する。

FMEAとは、製品の潜在的故障モードを特定し、その影響の厳しさ(severity)すなわち重大性・故障モードの潜在的原因の発生頻度(Occurrence)・故障モードの検出のされやすさ(Detection)の3要素の観点から分析するものである。FMEAはこのような分析を行うことによって、リスクを特定し、望ましくない影響を予め軽減する処置をとる方法論である。FMEAには、設計段階で行う設計FMEAおよび製造工程設計段階で行う工程FMEAがある。

2-2 設計FMEA

設計FMEAの場合、潜在的故障モードというのは、その製品のある部分が機能を果たさなくなることであり、その機能不全の様態について技術用語で記述するものである。そして故障モードによる影響というのは、カスタマーの受け止め方である。このときのカスタマーとは、エンドユーザー、法令規制当局、直接顧客である。カスタマーの受け止め方によって、厳しさ(S)のランキングを評価する。ランキングの付け方にはいろいろあるが、日本のIATF取得企業のほとんどがAIAG FMEAマニュアルの基準を利用している。最もSの値が高い10は「前兆を伴わず、潜在的故障モードが車両の安全な操作に影響を与える、及び/又は政府規制不適合となる」、9は「前兆を伴い、潜在的故障モードが車両の安全な操作に影響を与える、及び/又は政府規制不適合となる」、一番低い1は「認識される影響なし」というような形でランキング付けされている。

設計FMEAにおいては、どのような管理が行われているかによって、発生頻度(O)ランキングと検出のされやすさ(D)ランキングも決める。Oについては、各々の原因の発生しやすさに基づいて決める。Dについては、設計開発中にどのようにして故障モードを検出するのかということであって、大部分は実験・シミュレーションによって行うことになる。

このようにしてS・O・Dが決まると、対策を取るべきリスクが特定される。特定されたリスクには推奨処置(Recommended Action)を取り、リスクを下げる。これが設計FMEAである。

この設計FMEAについて、よくみかける不適切な例としては次のようなものがある。

◆ 一つの故障モードに対して、一つの原因しか特定されていない。
→ 一つの故障モードを発生させる原因は通常複数あるはずである。極力全ての原因を特定し、対策につなげるべきであり、FMEAにおける肝要な点である。

◆ 故障モードを工程検査で見つける、としている。
→ 設計FMEAはあくまで設計工程で行うものであって、製造工程で行うものではない。そのため不適切である。

◆発生度と検出度について混同が見られる。
→ どんな推奨処置を取ったことによって、発生度が下がったのか、検出度が下がったのかが異なるはずであるが、両者の混同が見られる。

2-3 工程FMEA

次に工程FMEAについて述べる。工程FMEAはある意味では設計FMEAよりも重要といえるかもしれない。というのも、顧客が製品設計を行っている場合は、設計FMEAは適用除外となるが、製造工程についてはいかなる場合も適用除外にはできない。すなわち、全ての組織にとって工程FMEAは必須なものである。

また、工程FMEAは、IATF 16949の要求事項のうち最重要文書であるコントロールプランに直結している。工程FMEAの機能/要求事項はコントロールプランの製品特性の欄に記述される内容であるということである。また、工程FMEAで特定する原因は、コントロールプランの工程特性に記述される。そうすることによって、工程FMEAの内容を完全にコントロールプランに反映することができる。これは、IATF 16949のコントロールプランはFMEAに基づいて作成せよ、という要求に完全に適合するやり方である。

工程FMEAにおける故障モードとは、工程における失敗の仕方である。そしてその影響には2種類ある。一つ目は、カスタマーへの影響であり、ランキングの付け方は設計FMEAと同様である。二つ目の影響は、工程への影響である。工程への影響における厳しさ(S)のランキング10は「前兆を伴わず、作業者(機械操作又は組立)を危険にさらすおそれがある」ことであり、9は「前兆を伴い、作業者(機械操作又は組立)を危険にさらすおそれがある」こととなる。

設計FMEAと同様に発生度(O)と検出度(D)もランク付けするが、Oについては故障モードを引き起こす原因が発生する確率のことである。原因というのは先に述べたとおり、コントロールプランの工程特性に記述されるものなので、「管理できる言葉」で書かれなければならない。典型的な例でいうと、「設定温度が高すぎる/低すぎる」や、「設定圧力が高すぎる/低すぎる」、「ラインスピードが速すぎる/遅すぎる」などである。現行の管理を分析し、「設定温度が高すぎる」などの故障モードを引き起こす原因が発生する確率を出す。

故障モードの発生を管理する方法として、ポカヨケという装置を設置しておいて、不具合が発生しないようにする工程がある。このようなポカヨケが設定されている場合は、発生度ランキングは通常一番低い1になる。ポカヨケについては、コントロールプランに明記することがIATF 16949の要求事項である。

さらに、統計的工程管理を管理方法として採用している例がある。SPCと呼ばれるものである。SPCは、製品に異常が発生する以前に、工程の異常を検知して、工程に改善を加えることを目的としている手法である。すなわち、SPCを実施することによって、発生度のランキングを下げていることになる。特殊特性については、SPCを採用している企業が極めて多い。

SPCを採用している場合にはコントロールプランの管理方法に、SPC管理を行っていること、またSPCにおいて工程異常が発見された場合の対処方法を明記することがIATF 16949の規格要求事項である。

検出については、検査によって故障モードが発生したかどうかを検出するとされている場合が多い。検査にも色々なやり方があるが、例えば全数検査であれば故障モードを非常に見つけやすいので、検出のランキングは低い値になる。抜き取り検査であれば、それよりもランキングは上がってくる。検査の中でも目視検査、つまり人間の判断に基づく検査の場合は、ランキングは通常6よりも高い値になる。

このように、IATF 16949におけるFMEAというものは、リスク分析を行うことである。全産業に適用できるISO 9001では、リスク分析は必ずしも製品だけに限って行うものではないが、自動車産業は製造業なので製品に関するリスク分析をすることになる。IATF 16949においては、FMEAを活用することが強く期待されている。