連載記事 菱沼雅博
第4回 製品安全及び特殊特性

本稿は月刊アイソス2019年7月号に掲載された菱沼雅博氏(一般財団法人日本品質保証機構 審査事業センター 品質審査部 参与)執筆の連載記事『IATF 16949 ワンポイントレッスン』第4回の全文です。(本誌編集部)

今回は、第3回に続けてリスク、中でも“望ましくない影響の緩和”のためのIATF 16949の要求事項(4.4.1.2 製品安全、8.3.3.3 特殊特性)について解説する。製品安全(Product Safety)は、“顧客に危害、危険を与えないことを確実にする、製品の設計及び製造に関係する規範”である。リコール又は製造物責任につながりかねない事項で、OEMが最も警戒している現在及び将来の課題に取り組むことが規格要求事項の意図である。リコールは、何らかの製品欠陥によって安全法規(日本では、“道路運送車両の保安基準”)を満たせなくなった場合に、該当車両に施す市場処置である。大規模な例では数百万台にも及ぶことがある。一方、製造物責任は、製造物の欠陥によって生命・財産への被害が発生したことを構成要件として損害賠償の手続きを規定したものである。どちらも製造業者にとって、財務上、信用上のダメージが大きい。8.3.3.3項の特殊特性は、安全をはじめとする重要な特性を管理するための規定である。

1. 製品安全

4.4.1.2 製品安全 (IATF 16949:2016)
組織は,製品安全に関係する製品及び製造工程の運用管理に対する文書化したプロセスをもたなければならない.それには,該当する場合には, 必ず,次の事項を含めなければならない.しかし,それに限定されない.
a) 法令・規制の製品安全要求事項の組織による特定
b) a)における要求事項の顧客からの通知
c) 設計 FMEA に対する特別承認
d) 製品安全に関係する特性の特定
e) 安全に関係する製品特性及び製造時点での特性の特定及び管理
f) コントロールプラン及び工程 FMEA の特別承認
g) 対応計画(9.1.1.1 参照)
h) 定められた責任,トップマネジメントを含めた上申プロセス及び情報フローの明確化,並びに顧客への通知
i) 製品安全に関係する製品及び関連する製造工程に携わる要員に対する,組織又は顧客によって特定された教育訓練
j) 製品又は工程の変更は,工程及び製品の変更(ISO 9001 の 8.3.6 参照)による製品安全に関する潜在的影響の評価を含めて,実施前に承認しなければならない.
k) 顧客指定の供給者(8.4.3.1 参照)を含む,サプライチェーン全体にわたって製品安全に関する要求事項の連絡
l) サプライチェーン全体にわたって,(最低限)製造ロット単位での製品トレーサビリティ(8.5.2.1 参照)
m) 新製品導入に活かす学んだ教訓
注記 特別承認は,安全に関係する内容をもつ文書を承認する責任のある機能(通常は顧客)による追加の承認である.


箇条4.4.1.2では、a)〜 m)項を含めて、組織が製品及び製造工程に関係する製品安全に対して“文書化したプロセス”を構築して取り組むことが要求されている。

文書化したプロセスの典型的な例は、第2回の解説に示したタートルチャートである。プロセスであるから、インプット/アウトプットを明確にして PDCA を回すためのプロセス評価指標を備える必要があり、それらを文書として明示するには、タートルチャートが簡明である。もちろん他の形式の文書であることを妨げるものではない。“文書化したプロセス”は、IATF 16949で頻出するので要注意である。

本箇条の“文書化したプロセス”には、a)〜m)の事項を含める必要がある。それぞれの項について解説する。

a): 日本の道路運送車両の保安基準、米国の FMVSS(Federal Motor Vehicle Safety Standards)、欧州 ECE(United Nations Economic Commission for Europe)、オーストラリア ADRs(Australian Design Rules)などがあり、組織の製品が該当するか否かを特定する。最終組立製品の安全性能に影響する製品及び製造工程の特性に重点を置いており、これらの特性は、法令・規制要求事項で直接定められていなくても、b)項のとおり顧客によって定められることもある。

道路運送車両の保安基準には次のような例がある。組織は、第3回で解説したFMEAなどによって該当するか否かを特定する必要がある。

道路運送車両の保安基準(抜粋)
第11条 かじ取装置
 自動車のかじ取装置は、堅ろうで、安全な運行を確保できるものとして、強度、操作性能等に関し告示で定める基準に適合するものでなければならない。
第12条 制動装置
 自動車には、走行中の自動車が確実かつ安全に減速及び停止を行うことができ、かつ、平坦な舗装路面等で確実に当該自動車を停止状態に保持できるものとして、制動性能に関し告示で定める基準に適合する独立に作用する二系統以上の制動装置を備えなければならない。
第15条 燃料装置
 ガソリン、灯油、軽油、アルコールその他の引火しやすい液体を燃料とする自動車の燃料装置は、燃料への引火等のおそれのないものとして強度、構造、取付方法等に関し告示で定める基準に適合するものでなければならない。


b): 通常、OEM からは展開されるので、それに従う。Tier 2(IATFメンバーである自動車製造会社をIATF OEM(OEM)と呼ぶのに対し、OEMに直接製品を納入するメーカーをTier 1、さらにTier 1に対し自社製品を納入するメーカーをTier 2と呼ぶ)以降は顧客の通知による。
c): 特別承認は、顧客による承認又は組織内の追加承認である。設計 FMEAを顧客に提出している場合は、その受領によって承認とみなしてよいであろう。顧客提出が該当しない場合は、組織内で、例えば通常承認者の上位職が特別承認すると定めてもよい。
d): 法令・規制又は顧客からの通知に基づいて、組織の製品における製品安全に関係する特性を特定する。通常、それらは特殊特性の一部として特定される。
e): 製造時点での特性とは、製造工程パラメータ(工程の温度条件、圧力条件など)である。安全に関係する製品特性とともに、安全に関係する製造時点での特性を特定して管理する。特殊特性の管理では、SPC 手法である管理図が義務付けられることがある。
f): 設計 FMEA に対する特別承認と同様に、コントロールプラン及び工程FMEA を特別承認する。
g): 9.1.1.1 に定める製品安全に関係する特性は、通常、特殊特性であるから、統計的工程管理が採用されている場合が多い。工程の不安定又は能力不足の場合の対応計画実施が必要になる。
h):上申プロセスは“組織内のある問題に対して、適切な要員がその状況に対応し、解決策を監視できるよう、その問題を指摘する又は提起するために用いられるプロセス”であり、“定められた責任”をもつ要員がトップマネジメントを含めて上申し、顧客への通知を含めて情報フローを明確化する。
i): 該当する要員への教育であるが、本箇条の文書化したプロセス、図面、FMEA、コントロールプラン、作業指示書などを使用して実施するとよい。
j): 変更は、全て実施前に妥当性確認を行い承認しなければならない。
k):8.4.3.1 において、法令・規制要求事項、特殊特性の供給者への連絡が規定されている。それに従って、展開する。
l): 8.5.2.1 に定める製品トレーサビリティは、(最低限)製造ロット単位での実施が要求されているが、個別製品のシリアル化された識別を顧客に要求される場合もある。
m):新製品導入に、リコールなどから学んだ教訓を活かす。学んだ教訓は、FMEA などに反映されていることが想定される。

2. 特殊特性

8.3.3.3 特殊特性 (IATF 16949:2016)
組織は,顧客によって決定された,また組織によって実施されたリスク分析による特殊特性を特定するプロセスを確立し,文書化し,実施するために部門横断的アプローチを用いなければならない.それには次の事項を含めなければならない.
a) 図面(必要に応じて),リスク分析(FMEA のような)),コントロールプラン及び標準作業/作業者指示書における全ての特殊特性の文書化.特殊特性は,固有の記号で識別され,これらの各文書を通じて展開される.
b) 製品及び生産工程の特殊特性に対する管理及び監視戦略の開発
c) 要求がある場合,顧客規定の承認
d) 顧客規定の定義及び記号,又は記号変換表に定められた,組織の同等の記号若しくは表記法への適合.記号変換表は,要求されれば顧客に提出しなければならない.


特殊特性とは、その特性の許容限度を超えると、製品安全、政府規制への適合、組付け性、機能、外観などに影響を与える可能性がある特性である。通常、顧客が指定(8.2.3.1.2 参照)するが、製品/製造工程に関する知見に基づいて組織が特定してもよい。“リスク分析による特殊特性を特定するプロセス”とは、設計 FMEA 及び工程 FMEA によって高い厳しさ(Severity)が特定されたものから特殊特性を特定するプロセスである。このプロセスは、次の事項を含めて、文書化しなければならない。リスク分析として、FMEA以外の手法を使用することを妨げるものではないが、世界的に通用するFMEAを使用することが簡明であろう。

a): 図面、FMEA、コントロールプラン、及び標準作業/作業員指示書に全ての特殊特性を固有の記号で識別する。一部の製品では図面は適切ではない。例えば、塗料、樹脂材料、ブレーキオイルなどのバルク材では、図面に替えて製品仕様書、納品仕様書など、製品を規定する文書とすることが適切であろう。また、特殊特性を識別するのであるから、文書のタイトル部に記号を付すだけでは不十分であり、何が特殊特性かが明示されていなければならない。
b): 製品及び生産工程の特殊特性に対する管理(例 Xbar-R管理図、ポカヨケ、全数検査など)を明確化する。不適合が発生した場合、たとえ 1個であっても発生原因究明及び対策並びに発生前の製品のさかのぼり確認を行うなどのアクション基準を特別に考慮する必要がある。
c): 顧客から要求がある場合、顧客規定の承認を得る。顧客によって製品承認プロセスが定められていて、FMEA、コントロールプランの提出要求がある場合、その承認によってなされることが多い。
d):顧客規定の記号、又は記号変換表に定められた、組織の同等の記号若しくは表記法に従って記載する。

以上、製品安全及び特殊特性について解説した。次回は、“望ましくない影響の緩和”のための要求事項の一つ「緊急事態対応計画」について解説する。