連載記事 菱沼雅博
第5回 緊急事態対応計画及び工程管理の一時的変更

本稿は月刊アイソス2019年8月号に掲載された菱沼雅博氏(一般財団法人日本品質保証機構 審査事業センター 品質審査部 参与)執筆の連載記事『IATF 16949 ワンポイントレッスン』第5回の全文です。(本誌編集部)

今回も、第3回、第4回に続けてリスク、中でも“望ましくない影響の緩和”のための要求事項(6.1.2.3 緊急事態対応計画、8.5.6.1.1 工程管理の一時的変更)について解説する。緊急事態対応計画とは、何らかの要因で主要製造設備が稼働できなくなった場合でも顧客に確実に製品を納入できるようにする対応計画である。一方、工程管理の一時的変更とは、主要製造設備は稼働できるが、付帯するポカヨケ装置、検査装置などが故障した際に一時的にバックアップ又は代替方法を使用して生産を継続することである。いずれも顧客への供給中断という望ましくない影響を緩和することが目的である。

1. 緊急事態対応計画

6.1.2.3 緊急事態対応計画 (IATF 16949:2016)
組織は,次の事項を実施しなければならない.
a) 顧客要求事項が満たされることを確実にし,生産からのアウトプットを維持するのに不可欠な全ての製造工程及びインフラストラクチャの設備に対する内部及び外部のリスクを特定し評価する.
b) 顧客へのリスク及び影響に従って,緊急事態対応計画を定める.
c) 次のような事態において,供給の継続のために緊急事態対応計画を準備する.主要設備の故障(8.5.6.1.1も参照),外部から提供される製品,プロセス,及びサービスの中断,繰り返し発生する自然災害,火事, ユーティリティの停止,労働力不足,又はインフラストラクチャ障害
d) 顧客の操業に影響するいかなる状況も,その程度及び期間に対して,顧客及び他の利害関係者への通知プロセスを,緊急事態対応計画の補完として含める.
e) 有効性(例 必要に応じて,シミュレーション)について,定期的に緊急事態対応計画をテストする.
f) トップマネジメントを含む部門横断チームによって,緊急事態対応計画のレビューを行い(最低限,年次で),必要に応じて更新する.
g) 緊急事態対応計画を文書化し,また,変更を正式許可した人を含む, いかなる改訂をも記述した文書化した情報を保持する.
緊急事態対応計画には,生産が停止した緊急事態の後で生産を再稼働したとき及び正規のシャットダウンプロセスがとられなかった場合,製造された製品が引き続き顧客仕様を満たすことの妥当性確認条項を含めなければならない.


自動車生産は、2万〜3万点の部品を組み立てる。一つでも部品が供給されないと、生産停止又は完成後交換といった事態に陥る。顧客に部品を予定どおりに出荷できないような緊急事態が発生することを想定し、どう対処するのか(緊急事態対応計画)を事前に決めて、顧客に迷惑がかからないようにしておかなければならない。そのため、次の事項を実施する。

a) 顧客要求事項が満たされることを確実にするとは、100%良品を100%オンタイム納入することである。生産からのアウトプットを維持するのに不可欠な製造工程の設備とは、プレス機、樹脂成形機、機械加工設備などである。インフラストラクチャの設備とは、受電設備、発電設備、水道設備、エア供給用コンプレッサなどである。それらに対する内部及び外部のリスク(特に望ましくない影響)、すなわち、生産不可能による組織のロス、顧客への供給不可能の可能性を特定・評価し、リスクの高低に基づいてランク付けするとよい。アウトプットはそのような設備ごとのリスク一覧表が考えられる。

b) a)のリスク評価結果から、顧客へのリスクに基づいて緊急事態対応計画を定める。それには、代替設備の使用、他工場による生産、協力会社による生産、復旧までを想定した在庫の維持などが考えられる。

c) a)で特定したリスクが発生する要因は様々あるが、次の事態において、供給の継続のために緊急事態対応計画を準備する。
・ 主要設備の故障:予防保全は実施していても不可抗力で故障する場合がある。後述する工程管理の一時的変更が不可能な場合も該当する。
・ 外部から提供される製品、プロセス、及びサービスの中断:供給者から部材の供給、加工工程、整列、選別などのサービス提供が中断することである。
・ 繰り返し発生する自然災害:地震、台風、火山噴火などである。
・ 火事:消火後の復旧までに受ける影響を考慮する。
・ ユーティリティの停止:停電、断水、エア供給停止などである。
・ 労働力不足:ストライキや、インフルエンザなどの流行による大量の休暇などが該当するであろう。
・ インフラストラクチャ障害:試験所、出荷場などの施設の障害である。
・ ITシステムへのサイバー攻撃:ランサムウェアなどによって生産システム、物流システムに障害を受けることである。
→IATF 16949:2016 Sanctioned Interpretations(公式解釈集)にてこの項目が追加されており、組織は取り組む必要がある。

上記要因を考慮した緊急事態対応計画を準備する。製品に与える影響や復旧までにかかる時間など、影響する度合いを考慮して、対応計画を定めなければならない。また、主要設備の故障に関しては、TPMの要求事項(8.5.1.5)に従って、故障が起きないような保全を行い、故障を予防することが重要である。

d) 顧客及び他の利害関係者対応として通知プロセスは重要である。したがって、通知プロセスを緊急事態対応計画の補完として含める。

e) “緊急事態対応計画をテスト”とは、そのような緊急事態が発生したと想定して、緊急事態対応計画を発動させてうまくいくか否かテストすることである。したがって、緊急事態対応計画は具体的でなければならない。単に関係部署で協議するだけでは不十分である。ISO 14001では、従前からあった要求事項である。

f) 緊急事態対応計画のレビューは、e)のテスト結果を受けて、トップマネジメントを含む部門横断チームによって、年次で実施しなければならない。

g) 当然ながら、緊急事態対応計画を文書化する必要がある。改訂記録も保持する。

2. 工程管理の一時的変更

8.5.6.1.1 工程管理の一時的変更(IATF 16949:2016)
組織は,検査,測定,試験及びポカヨケ装置を含む,工程管理のリストを特定し,文書化し,維持しなければならない.そのリストには,当初の工程管理及び承認されたバックアップ又は代替方法を含める.
組織は,代替管理方法の使用を運用管理するプロセスを文書化しなければならない.組織は,このプロセスに,リスク分析(FMEAのような)に基づいて,重大性及び代替管理方法の生産実施の前に取得する内部承認を含めなければならない.
代替手法を使用して,検査され又は試験された製品の出荷の前に,要求される場合,組織は,顧客の承認を取得しなければならない.組織は,コントロールプランに引用され,承認された代替工程管理方法のリストを,維持し,定期的にレビューしなければならない.
標準作業指示書は,各代替工程管理方法に対して利用可能でなければならない.組織は,コントロールプランに定められた標準工程に可及的速やかに復帰することを目標とする,標準作業の実施を検証するために,代替工程管理の運用を,最低限,日常的にレビューしなければならない.方法例には次の事項を含める.しかし,それに限定されない.
a) 日常的品質重視監査(例 該当する場合には,必ず,階層別工程監査)
b) 日常的リーダーシップ会議
重大性によって定められている期間及びポカヨケ装置又は工程の全ての機能が有効に復帰しているとの確認に基づいて,再稼働検証を文書化する.
組織は,代替工程管理装置又は工程が使用されていた間,生産された全ての製品に対しトレーサビリティを実施しなければならない(例 シフトごとに得られた初品及び終品の検証及び保管).


ポカヨケ装置、検査機の故障などで、代替管理方法によって製造する場合がある。その場合でも、要求事項を満たした製品を製造することが必須である。この要求事項は、2016年4月のローマでのIATFグローバルミーティング時点では、バイパス工程の管理と呼ばれていた。正常な工程をバイパス(bypass・迂回)するからである。

実施事項は次のとおりである。

・ 検査、測定、試験、及びポカヨケ装置を含む、工程管理のリストを特定し、文書化し、維持する。
・ リストには、当初の工程管理及び承認されたバックアップ又は代替方法を含める。 (下表参照)

・ 代替管理方法の使用を運用管理するプロセスを文書化する。
・ プロセスに、FMEAに基づいて、重大性及び代替管理方法の生産実施の前に取得する内部承認を含める。
・ 代替手法を使用した製品の出荷の前に、要求される場合顧客の承認を得る。
・ 代替工程管理の運用を、日常的にレビューする。
・ 再稼働検証を文書化する。
・ 代替工程管理装置又は工程が使用されていた間、生産された全ての製品に対しトレーサビリティを実施する。

GMの顧客固有要求事項によれば、主としてポカヨケ装置の故障を想定しているようである。参考にするとよいだろう。