連載記事 菱沼雅博
第7回 購買

本稿は月刊アイソス2019年10月号に掲載された菱沼雅博氏(一般財団法人日本品質保証機構 審査事業センター 品質審査部 参与)執筆の連載記事『IATF 16949 ワンポイントレッスン』第7回の全文です。(本誌編集部)

今回は購買に関して解説する。IATF 16949においては、購買に関する要求事項が非常に多い。その理由は、リコールなどの重大品質問題はしばしばサプライチェーンにおける購買品の品質が原因であることが多いからである。自動車は、2万から3万点程度の部品から組み立てられる総合組立製品である。その品質を確保するためには、大部分が購入品であるところの部材の品質確保が極めて重要である。さらに、自動車は大量生産されるものであって、その全ての部材がばらつきなく機能することが求められているのである。品質マネジメントシステムにおける購買要求事項は、主として供給者をいかにマネジメントするかに焦点を合わせている。

1. 法令順守

8.4.2.2 法令・規制要求事項(IATF 16949:2016)
組織は,購入した製品,プロセス及びサービスが,受入国,出荷国及び顧客に特定された仕向国の現在該当する法令・規制要求事項が提供されれば,その要求事項に適合することを確実にするプロセスを文書化しなければならない.
顧客が,法令・規制要求事項をもつ製品に対して特別管理を定めているならば,組織は,供給者で管理する場合を含めて,定められたとおりに実施し,維持することを確実にしなければならない.


法令順守に関しては、ISO 9001・IATF 16949に共通して重視されている内容である。IATF 16949において組織は、自動車部材が製造される国・地域だけでなく、その部材を使用して製品を製造する国・地域、及びその製品が出荷される仕向国・地域に適用される法令・規制要求事項にも適合していなければならないので、注意を要する。通常、どの国の法令・規制要求事項に適合させるかは、顧客から指示がある。指示がない場合でも、販売国・地域がわかっていれば適用される可能性のある法令・規制要求事項を調べる努力は必要である。

製造に使用される薬剤などに関する法令・規制要求事項にも、当然従う必要があるが、規格で要求されているのは、製品に使用される購買製品又は材料(自動車に組み込まれるもの)に対する法令・規制要求事項への適合である。また法令・規制要求事項への適合の証拠としては、調査、特定、その写しの入手、レビュー、理解、及び順守を保証する方法をもつことが必要である。

顧客から完全な仕向国リストが提供されない場合、組織はそのリストを顧客に依頼することが期待されている。組織は、その証拠として、レター、電子メール、議事録等を保持するべきである。

2. 供給者のQMS開発(IATF 16949:2016 8.4.2.3 供給者の品質マネジメントシステム開発)

IATF 16949に認証されることを最終的な目標として、組織はISO 9001に認証された品質マネジメントシステムの開発、実施及び改善を供給者に要求しなければならない。この要求事項は、IATF 16949に対する適格組織、すなわち車載される製品の製造を行う供給者に適用される。その際、次の a)〜 d)の順序を追って適用することが望ましい。

a) 第三者審査を通じたISO 9001に対する認証。その認証は、IAF MLAメンバーの認定マークをもつ認証機関が発行する第三者認証でなければならない。ただし、顧客の許可を得て第二者監査を通じたISO 9001に対する適合とすることができる。
・本項は、公式解釈集(SI)によって変更された内容である。
・SIとは Sanctioned Interpretationsの略で、オリジナルの規格条文の解釈であり、規格条文に置き換わるものである。それに抵触する場合、不適合の根拠となる。
b) 第二者監査を通じた、顧客が定めた他のQMS要求事項への適合を伴う ISO 9001に対する認証。“顧客が定めた他のQMS要求事項”がなければ該当しない。
c) 第二者監査を通じたIATF 16949 への適合を伴うISO 9001への認証。これも、7.2.4に規定された力量を備えた監査員によって、IATF 16949に対する適合を実証することになる。
d) 認証機関によるIATF 16949に対する認証。

OEMでのリコールなどの重要品質問題の原因分析では、直接取引先(Tier1)の下位の組織(Tier2以降)の原因によって発生しており、この要求事項は、それに対処するためのものである。

最低限の要求事項は“第三者認証機関による認証、又は顧客承認を得たうえでの第二者監査プロセスを通じて実証される ISO 9001への適合”であり、まず ISO 9001の認証を取得することが簡明である。第二者監査は、監査員の力量が問題になるだろう。その力量のガイドとして、IATF 審査員ガイド、ISO 19011(マネジメントシステム監査のための指針)がある。監査員に関しては、所定の資格を有する監査員をもつなど、顧客固有要求事項をもっている顧客もある。

3. 供給者の監視

8.4.2.4 供給者の監視(IATF 16949:2016)
組織は,外部から提供される製品,プロセス及びサービスの内部及び外部顧客の要求事項への適合を確実にするために,供給者のパフォーマンスを評価する,文書化したプロセス及び判断基準をもたなければならない. 最低限,次の供給者のパフォーマンス指標を監視しなければならない.
a) 納入された製品の要求事項への適合
b) 構内保留及び出荷停止を含む,受入工場において顧客が被った迷惑
c) 納期パフォーマンス
d) 特別輸送費の発生件数
もし顧客から提供されれば,組織は,必要に応じて,次の事項も供給者パフォーマンスの監視に含めなければならない.
e) 品質問題又は納期問題に関係する,特別状態の顧客からの通知
f) ディーラーからの返却,補償,市場処置及びリコール


組織が顧客満足を測るパフォーマンス指標(9.1.2.1 顧客満足−補足)とほぼ同等な指標で、供給者のパフォーマンスを監視する。

a) 納入不良率(ppm)、納入不良件数、特別採用件数など。
b) 顧客が被った迷惑
− 構内保留は、顧客の構内で、納入製品が品質問題などの原因で保留されること。
− 出荷停止は、顧客の最終製品が品質問題などの原因で出荷できないこと。
− 製造ラインの停止、オフライン後の部品交換に至った品質問題の発生。
c) 納期遅延件数、納期順守率など。
d) 特別輸送費とは、通常の定期便では納期に間に合わないために、特別便を仕立てた場合にかかる費用をいう。この場合、納期実績としては問題なくても、供給者に起因する場合、供給者としての改善が必要である。一般に供給者からの申告による。

顧客から提供されれば次の事項も供給者パフォーマンスの監視に含める。

e)顧客ごとに定められており、GMのNBH(New Business Hold)や、フォードのQ1取消しなどが該当する。いずれも新規部品の発注が停止される処分が科される。
f) いわゆる市場クレームに関する事項で、OEMからの連絡に依存する。

4. 第二者監査(IATF 16949:2016 8.4.2.4.1 第二者監査)

第二者監査は、供給者に対する組織による監査であるが、a)〜 e)の用途がある。

a) 供給者のリスク評価:8.4.1.2(供給者選定プロセス)に関連し、供給者選定が主目的である。
b) 供給者の監視:8.4.2.5(供給者の開発)に関連し、その後の供給者開発へのインプットとなる。
c) 供給者のQMS開発:8.4.2.3(供給者の品質マネジメントシステム開発)に関連し、第二者監査によって、ISO 9001またはIATF 16949への適合を実証する。
d) 製品監査:供給者のサイトにおける製品監査
e) 工程監査:供給者のサイトにおける工程監査

リスク分析に基づいて、組織は、第二者監査の方式、頻度及び範囲を決定する基準を文書化する。

第二者監査員の力量は、7.2.4(第二者監査員の力量)を満たしていなければならない。特に、供給者のQMS開発を目的とする場合、その方法は自動車産業プロセスアプローチと整合性がとれていなければならないので、その力量は必須である。

供給者のリスクによって、必ずしも第二者監査が必要とは限らない。ただし、その場合でも、リスク分析は完了させる必要がある。リスク分析を促すために、組織は次のような判断基準を考慮すると良い。

供給者の認証状態、製品の複雑さ、新製品の立上げ、著しい従業員離職率、製品品質問題、納期問題、顧客固有要求事項及び組織又はその顧客に対する他のリスクなどである。

5. 供給者の開発(IATF 16949:2016 8.4.2.5 供給者の開発)

「供給者のQMS開発」と「供給者の開発」との違いは、人事評価に例えて言えば、供給者のQMS開発は能力(コンピテンス)評価、供給者の開発は業績(パフォーマンス)評価に該当する。供給者の開発は、供給者のパフォーマンスを改善することで、その優先順位、方式、程度及びタイミングなどについて、次を考慮して決定する。

a) 8.4.2.4の監視から得られたパフォーマンス問題(品質、納期ほか)
b) 8.4.2.4.1の第二者監査の所見(不適合、改善の機会)
c) 認証機関による品質マネジメントシステム認証の状態
d) 組織による供給者のリスク分析

6. 購買製品の検証(IATF 16949:2016 8.6.4 外部から提供される製品及びサービスの検証及び受入れ)

外部から提供されるプロセス、製品の品質を確実にするために、次の方法のうち一つ以上を実施する。

a) 供給者が品質の監視及び測定として使用している統計データを定期的に取り寄せて、その傾向を評価することによって、購買製品の品質を判断する。
b) 実績に基づいて抜取り数、検査項目を定めて、受入検査及び/又は試験で判断する。
c) 供給者のサイトを第二者又は第三者の審査又は監査によって判断する。この場合、供給者から提出された記録(検査成績表、試験結果、化学成分分析表など)が信用できることを第二者又は第三者の審査又は監査で実証する。
d) 外部試験所による部品評価で判断する。この場合、外部試験所は7.1.5.3.2(外部試験所)の要求事項を満たしていなければならない。
e) 顧客から指示される、又は組織が提案して承認してもらう方法によって判断する。

以上、購買に関する要求事項について解説した。次回は、新製品の開発におけるプロジェクトマネジメント要求事項であるAPQP(Advanced Produce Quality Planning)関連事項について解説する。