連載記事 菱沼雅博
第8回 APQP、PPAP

本稿は月刊アイソス2019年11月号に掲載された菱沼雅博氏(一般財団法人日本品質保証機構 審査事業センター 品質審査部 参与)執筆の連載記事『IATF 16949 ワンポイントレッスン』第8回の全文です。(本誌編集部)

今回は、APQP関連事項について解説する。APQPとは、Advanced Product Quality Planningであり、新製品の開発におけるプロジェクトマネジメント要求事項である。このAPQP活動の結果は、PPAP(Production Part Approval Process)として顧客承認の対象となる場合がある。

典型的な例としては、OEMによる開発スケジュールに従うことが要求されている場合である。そこでは、モデル決定(1/1クレイモデルの最終決定)及び量産立ち上がりを最大のイベントとする厳密なスケジュールが作成されており、供給者はそのスケジュールに適合することが要求されている。そして最終的な量産立ち上がり前に、APQP活動の集大成としてPPAP承認を受けることになる。

1. APQP (Advanced Product Quality Planning)

自動車産業品質マネジメントシステム規格には、コアツールと呼ばれる手法が導入されており、顧客との共通の意思疎通ができ、品質マネジメントの改善に貢献できるように配慮されている。コアツールには、APQPの他にPPAP、FMEA、SPC及びMSAがある。コアツールの詳細は、それぞれのレファレンスマニュアルを参照されたい。

APQPは、新製品の開発におけるプロジェクトマネジメントに関する米国BIG 3の要求事項であり、APQPレファレンスマニュアルとして公開されている。APQPは、IATF 16949の品質マネジメントシステムを構築するうえで、非常に重要なプロセスであり、この考えを理解することが重要である。

APQPの目的はレファレンスマニュアルにおいて次のように規定されている。

このマニュアルには,顧客が満足する製品又はサービスの開発を支援する製品品質計画を作成するための指針が示されている。この指針を使うことによって次の効果が期待される。

1. 顧客及び組織にとって,製品品質計画策定の複雑さが緩和される.
2. 組織にとって,供給者への製品品質計画要求事項の伝達を容易にする手段となる.
このマニュアルには,IATF 16949及び適用される顧客固有要求事項に記述される要求事項を支援する指針が含まれている.


APQPの製品品質計画タイミングチャートは、次の5段階で構成される。

① 計画
② 製品の設計・開発
③ 工程の設計・開発
④ 製品及び工程の妥当性確認
⑤ フィードバック、評価及び是正処置

以上が、製品実現の全てのプロセスに対する指針となっている。

8.5.1.1 コントロールプラン(IATF 16949:2016)
組織は,該当する製造サイト及び全ての供給する製品に対して,コントロールプラン(附属書Aに従って)を,システム,サブシステム,構成部品及び/又は材料のレベルで,部品だけではなくバルク材料を含めて,策定しなければならない.ファミリーコントロールプランは,バルク材料及び共通の製造工程を使う類似の部品に対して容認される.
組織は,量産試作及び量産に対して,どのようにつながっているかを示し(もし顧客から提供されれば)設計リスク分析からの情報や,工程フロー図及び製造工程のリスク分析のアウトプット(FMEAのような)からの情報を反映する,コントロールプランをもたなければならない.
組織は,顧客から要求される場合,量産試作又は量産コントロールプランを実行したときに集めた測定及び適合データを顧客に提供しなければならない.組織は,次の事項をコントロールプランに含めなければならない.
a) 作業の段取り替え検証を含む,製造工程の管理に使用される管理手段
b) 該当する場合には,必ず,初品/終品の妥当性確認
c) 顧客及び組織の双方で定められた,特殊特性に施される管理の監視方法(附属書A参照)
d) もしあれば、顧客から要求される情報
e) 不適合製品が検出された場合,工程が統計的に不安定又は統計的に能力不足になった場合の,規定された対応計画(附属書A参照)
組織は,次の事項が発生した場合,コントロールプランをレビューし,必要に応じて更新しなければならない.
f) 不適合製品を顧客に出荷したと組織が判断した場合
g) 製品,製造工程,測定,物流,供給元,生産量変更,又はリスク分析(FMEA)に影響する,変更が発生した場合(附属書A参照)
h) 該当する場合には,必ず,顧客苦情及び関連する是正処置が実施された後
i) リスク分析に基づく,設定された頻度で
顧客に要求されれば,組織は,コントロールプランのレビュー又は改訂の後で,顧客の承認を得なければならない.


APQP活動が実施されることにより、製造工程が構築され、製造工程が稼働すると製品がアウトプットされる。この製造工程を規定するものがコントロールプランである。コントロールプランはIATF 16949において極めて重要な事項であり、APQPにおける最大のアウトプットの一つである。IATF 16949 要求事項では、8.5.1.1、附属書Aに、その具備要件及び更新要件が規定されている。その規定を遵守するためには、APQPレファレンスマニュアルに示されているフォーマットを使用すると漏れがないので、推奨される。

ちなみにISO 9001では、「設計・開発」とは製品の設計・開発を意味し、工程の設計・開発に対しては適用することを要求していない。しかし、IATF 16949では工程の設計・開発はAPQPの中で重要なフェーズの一つとして位置づけられている。自動車産業では2万〜3万点の部材を組み立てて量産を立ち上げなければならず、それら全ての部品をばらつき無く大量生産するためには、工程の設計・開発が極めて重要なのである。

このAPQP活動は、多岐にわたる部門の知見を結集する必要があるため、部門横断チームで実施しなければならないが、そこに参加する代表的な部署は、設計、生産技術、製造、品質、営業、購買などである。部門横断チームのリーダーは、要求事項5.3.1(組織の役割,責任及び権限)の要件を満たすことが望ましい。

もしOEMが、ISO 9001は存在しないものと仮定して品質マネジメントシステムを構築するならば、ISO 9001の箇条8及び箇条9の構成ではなく、APQPの構成にするだろう。プロジェクトの企画段階から量産段階、そして量産後の継続的改善まで、部門横断チームで運営されるAPQPのシステムは、自動車のプロジェクトに最適な構成だからである。したがって、APQPの意図をよく理解することによって、ISO 9001で明記された“意図した結果”を達成することを容易にする。“顧客(OEM)への納入不良は0 PPMなのに、市場クレームが多発している”というような問題は信頼性にかかわるもので、“設計・開発の妥当性確認が十分でない”、“エンドユーザーでの潜在的故障モードの想定が十分でない”などが原因である場合が多い。APQPにはこのような問題に対処するのに適切な指針が示され、さらにFMEAレファレンスマニュアルなどのコアツールを適切に使用すれば、予防できる内容が多い。APQPの部門横断チームに顧客や供給者も含めるよう構成するなど工夫して、潜在的故障モードの想定、妥当性確認などをしっかり実施することで、市場クレームの減少につなげていくことが重要である。

2. PPAP(Production Part Approval Process)

8.3.4.4 製品承認プロセス(IATF 16949:2016)
組織は,顧客に定められた要求事項に適合する,製品及び製造の承認プロセスを,確立し,実施し,維持しなければならない.
組織は,自らの部品承認を顧客に提出するのに先立って,外部から提供される製品及びサービスを ISO 9001の8.4.3によって承認しなければならない.
組織は,顧客に要求される場合,出荷に先立って,文書化した顧客の製品承認を取得しなければならない.そのような承認の記録は,保持しなければならない.
注記 製品承認は,製造工程が検証された後で実施することが望ましい.


米国BIG 3の場合、 PPAPが製品承認プロセスの義務的要求事項として位置付けられている。PPAPの目的は、レファレンスマニュアルによれば“顧客の設計文書及び仕様書に示された要求事項の全てを組織が正しく理解しているかどうかを判定し、またその製造工程が所定の生産能率における実生産において、これらの要求事項を満たす製品を一貫して製造する能力をもっていることを判定する”ことにある。組織としては、顧客への納入を開始するための非常に重要なプロセスであるが、PPAPの内容にはAPQPで要求されている、FMEA、SPC、MSAなどの文書及びデータがほとんど含まれている。したがってPPAPを展開するには、コアツールをよく理解することが必要になってくる。

実は、日本のOEMでもPPAPという用語は使わないが、それ相当の確認をしている。そしてそのプロセス(手順)は、新規プロジェクトの対サプライヤー管理という面で最重要視されている。

組織が量産を開始して製品を納入するためには、PSW(Part Submission Warrant)などと呼ばれる文書を作成し、それに検査成績書、信頼性試験報告書、外観承認申請書などの提出要求資料を添付して顧客承認を得ることになる。PSWは、直訳すると“部品提出保証書”となり、PSWはPPAP全体を代表する文書であるといえる。PSWの内容としては部品名、部品番号、提出理由、技術変更レベル、技術変更日など、数多くの情報をインプットすることになっている。すなわち、新規プロジェクト開発を進め、量産移行判断を顧客から得るための集大成がこのPPAP(生産部品承認プロセス)であるといえる。IATF 16949規格要求事項としては、8.3.4.4 製品承認プロセスに規定されているように、顧客要求に従うということである。

このPSW及び添付資料に関して、内容の乏しい例がしばしばある。組織の責任者の中には、“このPSWは、既に顧客が承認しているので問題ない”と答える場合もあるのだが、顧客が承認しているからどんな内容でもかまわないというのは正しくない。顧客も、時として間違えることもある。有効な品質マネジメントシステムを構築し維持する責任は組織側にあるということを再認識する必要がある。PSWはA4判一枚の紙切れだが、非常に重要な文書であり、注意してその内容を記入する必要がある。PPAP提出文書は、製品実現プロセスにおける活動結果である。