連載記事 菱沼雅博
第9回 工程管理及びSPC

本稿は月刊アイソス2019年12月号に掲載された菱沼雅博氏(一般財団法人日本品質保証機構 審査事業センター 品質審査部 参与)執筆の連載記事『IATF 16949 ワンポイントレッスン』第9回の全文です。(本誌編集部)

今回は工程管理について解説する。工程管理は、品質管理の原点をなす領域である。品質管理の活動は、工程管理から始まった。

戦後、アメリカから来日し品質管理について指導したデミング博士が教えたのは工程管理の内容であった。デミング博士は、この工程管理の分野に統計的手法を用いることを指導し、統計的工程管理を推進した。その後、日本では飛躍的に品質管理が進展し、高品質の製品生産により高度経済成長したことは周知のとおりである。このことを記念して、デミング賞が創設され、顕著な業績を上げた人、及び企業を表彰することによって品質管理が発展していったのである。

この工程管理については、ISO 9001でも重視されており、1987年版及び1994年版において代表的要求事項として取り上げられていた。さらにそれは、最新の2015年版においても8.5.1の要求事項として継承されている。IATF 16949においても、8.5.1に加えて様々な箇条にわたって規定されている。

1. 工程管理

工程管理に関する要求事項は、8.5.1が中心である。IATF 16949に引用されているISO 9001の要求事項に、製造業を対象としたIATF 16949の解釈を加えると下記のようになる。

8.5.1.1 製造及びサービス提供の管理 (ISO 9001:2015)
組織は,製造及びサービス提供を,管理された状態で実行しなければならない.管理された状態には,次の事項のうち,該当するものについては必ず,含めなければならない.
a) 次の事項を定めた文書化した情報を利用できるようにする.

 1)製造する製品の特性


⇒ 8.3.5(設計・開発からのアウトプット)、8.3.5.1(設計・開発からのアウトプット−補足)に基づく製品の特性を述べた情報が利用できる。特に“特殊特性”を述べた情報については、格別の注意が必要である。

2)達成すべき結果

⇒ 検査規格、合否判定基準に代表される情報である。

b) 監視及び測定のための適切な資源を利用できるようにし,かつ,使用する.

⇒ 7.1.5.2 (測定のトレーサビリティ)に基づいて管理された監視機器及び測定機器が利用でき、使用する。これは、7.1.5.1.1(測定システム解析)、7.1.5.2.1(校正/検証の記録)にも適合していなければならない。

c) プロセス又はアウトプットの管理基準,並びに製品及びサービスの合否判定基準を満たしていることを検証するために、適切な段階で監視及び測定活動を実施する.

⇒ アウトプット(製品)の管理基準とは、管理図使用の場合の管理限界を意味し、製品の合否判定基準は検査規格などで示される。それらを検証するために、b)の適切な資源を利用して、適切な段階で監視及び測定活動を実施する。

d) プロセスの運用のための適切なインフラストラクチャ及び環境を使用する.

⇒ 7.1.3によって明確化された“インフラストラクチャ”、7.1.4、7.1.4.1によって明確化された“プロセスの運用に関する環境”を使用する。

e) 必要な適格性を含め,力量を備えた人々を任命する.

⇒ 適格性確認された要員、特に特殊工程作業者、特殊特性作業者、検査員などに留意して任命する。

f) 製造及びサービス提供のプロセスで結果として生じるアウトプットを,それ以降の監視又は測定で検証することが不可能な場合には,製造に関するプロセスの,計画した結果を達成する能力について,妥当性確認を行い,定期的に妥当性を再確認する.

⇒ ISO 9000の3.4.1(プロセス)の注記 5に“結果として得られるアウトプットの適合が、容易に又は経済的に確認できないプロセスは、‘特殊工程(special process)’と呼ばれることが多い”とある。したがって、“製造プロセスの結果として生じる製品を、それ以降の監視又は測定で検証することが不可能な場合”は特殊工程である。この場合、妥当性確認及び定期的に妥当性を再確認する。その方法は次による。
−プロセスのレビュー及び承認のための明確な基準
設定した製造工程性能(Ppk)又は製造工程能力(Cpk)を達成しているか。量産工程からのアウトプットである製品は仕様を満たすか。
−設備の承認及び要員の適格性確認
製造工程性能(Ppk)又は製造工程能力(Cpk)、測定システム解析(MSA)結果、要員の作業習熟度などの達成状況
−所定の方法及び手順の適用
コントロールプラン、作業指示書などの適否
−記録に関する要求事項(7.5.3参照)
記録に残す内容(設備点検チェックシートなど)の適否
−妥当性の再確認
製造工程の結果として生じる“製品”を評価する、又は製造工程監視項目(管理図など)によって、製造工程(設備、要員、方法・手順、記録方法)を見直す必要があるかを判断する。

g) ヒューマンエラーを防止するための処置を実施する.

⇒ 製品設計、製造工程設計からのアウトプットとしてのポカヨケを適用する。

h)リリース,顧客への引渡し及び引渡し後の活動を実施する.

⇒ 製品のリリース、顧客への引渡し及び引渡し後の活動を規定されたとおりに実施する。引渡し後の活動の例としては、市場クレーム対応、故障修理などのアフターサービスがある。

2. SPC

SPCはStatistical Process Controlであり、統計的手法による工程管理である。その主要な管理方法は、Xbar-R管理図、p管理図などの管理図である。

工程を変動させる要因としては、特別原因と共通原因とがある。特別原因とは、工程の異常、例えば工作機械や治具類の故障などであり、共通原因とは、製造工程に本来備わっている変動要因(4M1E=MAN(人)、Machine(設備)、Material(材料)、Method(方法)、Environment(環境))である。管理図において異常と認められるものは特別原因である。したがって、管理図異常に関しては、その特別原因を除去することが重要である。IATF 16949においては、共通原因を分析して改善することが製造工程の継続的改善と呼ばれている。共通原因は、製造現場における改善ではなく、マネジメントレベルでの改善が必要とされる。

このことに関連して、オーバーアジャストメント(過剰調整)の問題がある。これは、工程変動の要因が共通原因しかないにもかかわらず、特別原因があると考えて調整を行ってしまうことにより、変動がより大きくなることを言う。このことを、前出のデミング博士は漏斗の実験で示した。漏斗からビー玉を落とし、目的とする点からのずれに対して、その都度漏斗の位置を調整すると、何もしない場合と比較して変動がより大きくなるということを示したのである。

SPCに関するIATF 16949の中心的要求事項は、9.1.1.1である。ここでは、新しい製造工程の立上げ及び既存製造工程の維持について、組織がSPCを適切に使用した方法を定め、実施することを意図している。

9.1.1.1 製造工程の監視及び測定 (IATF 16949:2016)
組織は,全ての新規製造工程(組立又は整列を含む.)に対して,工程能力を検証し,特殊特性の管理を含む工程管理への追加インプットを提供するために,工程調査を実施しなければならない.
注記 製造工程によっては,工程能力を通じて製品適合を実証することができない場合がある.それらの工程に対しては,仕様書に対する一括適合のような代替の方法を採用してもよい.
組織は,顧客の部品承認プロセス要求事項で規定された製造工程能力(Cpk)*又は製造工程性能(Ppk)*の結果を維持しなければならない.組織は,工程フロー図,PFMEA 及びコントロールプランが実施されることを確実にしなければならない.これには次の事項の順守を含めなければならない.
a) 測定手法
b) 抜取計画
c) 合否判定基準
d) 変数データに対する実際の測定値及び/又は試験結果の記録
e) 合否判定基準が満たされない場合の対応計画及び上申プロセス
治工具の変更,機械の修理のような工程の重大な出来事は,文書化した情報として記録し保持しなければならない.
組織は,統計的に能力不足又は不安定のいずれかである特性に対して,コントロールプランに記載されている,仕様への適合の影響が評価された対応計画を開始しなければならない.対応計画には,必要に応じて,製品の封じ込め及び全数検査を含めなければならない.工程が安定し,統計的に能力をもつようになることを確実にするために,特定の処置,時期及び担当責任者を規定する是正処置計画を策定し実施しなければならない.この計画は,要求される場合,顧客とともにレビューし承認を得なければならない.
組織は,工程変更の実効日付の記録を維持しなければならない.


・括弧内の記号は、AIAG承認のもと、日本語版にのみ加筆したものである。

9.1.1.1は、製造工程に特化した要求事項であり、明記されてはいないが、IATF 16949が重視している製造工程及び適切なコアツール(SPC レファレンスマニュアル)の使用を要求している。

新しい製造工程に関する工程調査は、次のようなサイクルで行う(SPC レファレンスマニュアル参照)。

• 工程の分析:統計的管理状態にあるかを分析し、特別原因がある場合には、それを除去して統計的管理状態を実現する。
• 工程の維持(管理):工程性能を監視する。
• 工程の改善:共通原因変動を減少させ、工程能力を高める。

部品承認プロセスで、量産前の段階で顧客にデータを提出し保証した工程能力、機能・性能の値については、量産に入ってからも実証できなければならない。

管理図を用いて工程の状態を監視する際には、工程の異常と読み違えることを防ぐために、次のような工程の重大な出来事を管理図上に記録しておかなければならない。

• 治工具の変更
• 機械の修理
• 材料メーカーの変更
• 作業者の変更

不安定と能力不足との関係で、とるべき処置は次のとおりである。

(1) 安定かつ能力あり:理想の状態であり、処置は不要。
(2) 不安定かつ能力あり:特別原因を特定し対策することが必要。ただし、ある条件下で、顧客が生産の継続を認めることもある。
(3) 安定かつ能力不足:共通原因の削減が必要。
(4) 不安定かつ能力不足:共通原因、特別原因ともに削減が必要。

不安定及び/又は能力不足の場合の対応計画(暫定処置)としては、次のようなものがある。

• 製品の封じ込め(containment)
• 生産(ライン)停止
• 生産数量又は生産速度の減少
• 出荷停止
• 全数検査
• 既に次工程に進んでいる、又は出荷された可能性のある疑わしい製品の特定(8.7.1.3)
• 出荷された可能性のある製品に関して、当該顧客への速やかな通知(8.7.1.6)

工程変更が行われた後にリコールが発生した場合、どの出荷分から新しい工程で製造されたのかがわかるように、新しい工程を実際に使い始めた日付の記録を残さなければならない。