連載記事 水流聡子
第3回 現時点までのサービスエクセレンスの国際標準(ISO/TC312)についての活動・議論と日本の思案 〜ISO/TC312 Service in Excellence 2017年9月〜2019年10月までの経緯〜

本稿は月刊アイソス2019年12月号に掲載された水流聡子氏(東京大学大学院工学系研究科 品質・医療社会システム工学寄付講座 特任教授)執筆の連載記事『サービスエクセレンスの国際標準化動向と日本の取組み』第3回の全文です。(本誌編集部)

 本稿では、先進国のサービスイノベーションにとって重要な、卓越したサービスを持続的に提供できる能力である「サービスエクセレンス」に関する国際規格開発に向けて、ISO/TC312がDIN(ドイツ規格協会)から提案され、ISO内投票によって設置が確定した2017年9月から、その後2年間のISO/TC312の活動を通して、現時点でのサービスエクセレンスの国際標準がどのような展開となってきたかについて、ご紹介します。

DINのTC312設置提案と日本の対応

CEN 16880:2015をもとにISO内にサービスエクセレンスのTCを立ち上げようとするDINからの提案が、2017年6月にISO加盟国に送付され、新TCの設置投票により、2017年9月に、ISO/TC312の設置が決まりました。当該TCの事務局はDINとなり、ISO加盟国への参加の呼びかけと議長投票が開始され、DINがリーダーシップをとる形となりました。TC312設置提案時におけるDIN提案の概要は、以下のようでした。

• 顧客の喜びを実現するエクセレントなサービスの提供を通じて傑出した顧客経験を創出するための指針開発である。
• 組織がすでに具備している基本的な顧客サービスの提供については対象外とする。
• 規格開発分野として4つのプロジェクトを置く。
① 傑出した顧客経験及び顧客の喜びを実現するための、用語、原則及びモデル
Terminology, principles and a model to achieve outstanding customer experiences and customer delight
② サービス及び顧客経験の設計
Design of services and customer experiences
③ 内部及び外部指標の特定
Identification of internal and external metrics
④ サービス志向の創出へ向けた実践と変革のための指針
Guidance on implementation and transformation of creation of service orientation

日本では、JSA(日本規格協会)が当該TCの担当事務局となり、国際エキスパートの選出と国内審議委員会の整備が進められました。日本が重視したのは、複数WGのうちの1つのWGを獲得することと、国際ルール開発に携わることができる若手の育成でした。国際規格開発の知識・技術・人脈を有する若手が育成されることで、グローバルな活動展開が当たり前の社会になることが期待されます。そのため、国際規格開発に携わるエキスパートとして、可能性のある若手がエキスパート及び事務局に選出され、初期の全体マネジメントと若手支援をすることができるISO経験者もエキスパートに選出されました。若手4名+ISO経験者3名のISO/TC312エキスパートと事務局若手2名で、総会に臨む体制ができました。他方、国内審議委員会は、サービス及び規格開発の専門知識を有するメンバーが、産業・学術の双方から選出されました。

第1回総会2018年3月(ベルリン)

2018年3月には第1回目総会がベルリンで開催され、5つのプロジェクトが当該TCの活動対象となり、その中の1つ、WG1(サービスエクセレンスの原則とモデル)が設置され、DINがコンビナーとなることが決議されました。投票権のあるPメンバーは日本を含む16カ国、オブザーバーでの参加となるOメンバーは18カ国でした。顧客の喜び創出し続ける組織能力を謳うサービスエクセレンスという概念の規格化には、まだまだ理解が少ないという状況であることが伺えます。しかしながら、サービスイノベーションを起こすことになる国がこのPメンバーなのかもしれません。(図表1)

第1回総会では、提案されていた4つのプロジェクトに公共サービスが追加され、5つのプロジェクトを実施することが確定しました。そのうち、まずは3つのプロジェクトにそれぞれWGを設定することが決まりました。

WG1は、プロジェクト①の基本規格となる「サービスエクセレンスの用語・原則・モデル」の開発担当となり、DINが規格原案を準備し、TC312内の投票にかけることが確定しました。本規格はこの時点では「IS(ISO全体の投票による規格)」ではなく「TS(当該コミッティのメンバー投票による規格)」を目指しており、「ISO/NP TS 23592 “Service Excellence - Terminology, principles and model”」としてISOの新規格のコードが決まりました。2018年6月20日国際幹事から、DINにより準備された基本規格の提案が回付されました(投票期限は9月12日まで)。

WG3は、プロジェクト③の「計測」の開発担当となるWGです。これはフランス規格協会(AFNOR)が担当することになりました。2018年8月20日国際幹事から、AFNORが準備したサービスエクセレンスの測定と評価に関する規格提案が回付されました(投票期限は11月12日まで)。ISOの新規格提案のコードとしては、「ISO/NP TS 23686 “Measurement and evaluation of Service Excellence”」と決まりました。

第2回総会2018年11月(ベルリン)

WG1(原則・モデル)の事務局はDIN、コンビナーはドイツから選出され、投票後確定となっていました。また、WG3(サービスエクセレンスの計測)の事務局はAFNOR、コンビナーはフランスから選出され、投票後確定となっていました。

この第2回総会で、日本としてはWG2(設計)担当を獲得する必要がありました。国内で準備してきたWG2(設計)提案について規格原案を提示し、修正の機会をもらい、翌日の会議で再度の提案を行い、出席者の賛同を得ることができました。WG2が開発する規格は、「Designing excellent service and outstanding customer experience: エクセレントサービスの設計と卓越した顧客経験」であることが本大会で決議され、本総会後にWG2投票に入ることが確定しました。今後の日本の若手の育成や活動の場を考えたとき、重要な1つのハードルを越えることができた総会となりました。

総会では、「ISO/NP TS 23592 “Service Excellence - Terminology, principles and model”」の提案文書を全員で討議しました。特にそのモデルについては、中心におくべきは「achieving customer delight : 顧客の喜びの実現」であると議論され、確定されました。また、中心となる顧客の喜びに向けて、4つのパートで必要とされる組織能力があること、それぞれの要素が箇条となる規格構成にすることが賛同されました。また、英国から提案されていたTS(TC312内投票で決まる規格)ではなくIS(ISO内投票で決まる規格)にする提案について意見交換がありました。

WG2・WG3で開発する規格のIS化については何も提案はなく、TSのままとなっていました。日本としてもWG2で開発するエクセレントサービスの設計に関する規格は早急に公開したいという戦略があり、TSのままにするという国内審議委員会での対応方針がありましたので。このまま進めることにしました。

WG3が提案する「ISO/NP TS 23686 “Measurement and evaluation of Service Excellence”」については、コンビナーのフランスからそのフレームワークや計測手法のリスト等に関する提示があり、意見交換がなされました。

第2回総会では、WGのコンビナーを担当するそれぞれの国(当該国の規格協会)の意欲・姿勢を通して、ヨーロッパと日本が先進国として同じような成長の悩み・苦しみの中にあり、どうにかしてそれらの状況から脱するためのアクションに挑戦しているということが理解できてきました。また、同時にこのサービスエクセレンスという考え方の変革を通して、再度先進国として立ち上がろうとする気概やもがきのようなものを感じることができました。日本もこの中で一緒に活動することで、何らかの前向きで発展的な要素を得ることができるかもしれないという期待もできてきました。

第3回総会2019年5月(ロンドン)

小規模のTC312では、総会を半年毎に開催し、規格開発速度を高めることが可能です。予定通り、第3回総会が約半年後にロンドンで開催されました。第3回総会では、総会会期中の3つのWGの進め方について、パラレルで行うのではなく、全員参加のもとすべてのワーキングを連続して行っていくというやり方とすることで合意されました。基本規格を先行して開発してから次の規格開発に着手するよりも、パラレルで開発することで相互に完成度が上がる可能性を追求する方がよいと合意された結果です。日本もパラレル方式に強く賛同しました。WG2(エクセレントサービスの設計と卓越した顧客経験)は、WG1(〈組織能力である〉サービスエクセレンス)が提案するモデルの中の、エクセレントサービスの設計に強く関係する組織能力部分について、WG2が開発する「エクセレントサービスの設計」に変換した規格を開発する必要があるため、相互の整合性を維持する必要があると判断したためでした。

本会議では、WG1の基本規格に多くの時間を割きました。WG1は、TSではなく、ISとして開発することが決議され、その可能性と手続きをISO本部に確認することになりました。また、WG1の開発する基本規格の名称から、「term」を削除し、原則とモデルに重点が置かれることになり。「ISO/NP IS 23592 “Service Excellence - principles and model”」と修正されました。国際規格の文書は、できるだけ簡潔に平易にして、各国で翻訳できるレベルの表現が必要とされます。そのため、センテンスごとに、本総会での考えや想いが最適表現となるように、英語nativeである英国のエキスパートがこまやかに最適な英語表現を提示してくれました。国際規格づくりの醍醐味は、各国の文化を知り認めた上で、国際的に最適な内容として、翻訳できる文書とすること、その中で国際エキスパートチームが形成されていくことかもしれません。

第4回総会2019年10月(東京)

第4回総会(上の図表2参照)の東京開催は、第1回ベルリン総会で議長から日本に相談があり、第2回総会でも議長からの依頼で日本規格協会の揖斐理事長にその可能性を検討していただいたうえで、決定に至ったものです。第4回総会の前に、各WGは各規格文書案をTC312内で回付しコメントを求めておき、できればコメント対応案まで検討して提示し議論していくことが要求されていました。半年毎の総会のため、各国の国内審議委員会及びそのメンバーは大変忙しい状況に置かれていたと思われます。しかしながらいずれのWGにおいても、検討された文書が事前に提示されました。また、各国国内審議委員会のメンバーからのコメントも複数の国から送付されました。

WG1では、これらのコメント1つ1つを取り上げ、全員で丁寧に検討しました。コメント対応に伴い、原案修正をしていく中で、より明確な文章となっていくのが理解できました。今回の総会で、「サービスエクセレンスモデル」(図表3)と「サービスエクセレンス・イフェクトチェーン」(図表4)がほぼ確定となりました。この2つのモデルを基本として、WG2・WG3が開発する規格の立ち位置を明示することとなりました。

今回は、ISOの国際規格が産声を上げて、初期の形を成していくまでのプロセスを日本の戦略も交えながら、お届けいたしました、各規格の現時点での詳細は、次回に解説させていただきます。

第4回東京総会は、開始直前に超大型台風が信越・関東・東北に襲来し、大変な被害が出た週に東京で開催されました。海外からの参加者のフライトが欠航となり、参加者はフライト変更を余儀なくされたり、乗継の空港で待ち状態やフライトキャンセルがあったりと、開催側も参加者側も大変な状況に対応しながら、無事に開催され規格検討ができました。海外から超大型台風が来ている日本に行くことを断念せずに予定参加者はみな来日し会議に出席してくださったこと、また日本側の諸関係者のみなさまのご支援・ご協力に、本紙面をお借りして、深く感謝申し上げます。