連載記事 水流聡子
第4回 サービスエクセレンスの国際標準規格構成と、日本が主査を務めるWG2による「卓越した顧客経験を実現するためのエクセレントサービスの設計:ISO/TS 24082 Designing excellent service achieving outstanding customer experience」

本稿は月刊アイソス2020年1月号に掲載された水流聡子氏(東京大学大学院工学系研究科 品質・医療社会システム工学寄付講座 特任教授)執筆の連載記事『サービスエクセレンスの国際標準化動向と日本の取組み』第4回の全文です。(本誌編集部)

サービスエクセレンス規格の全体構成

2018年2月に第1回総会が開催されたISO/TC312(Service in Excellence: サービスエクセレンスの国際規格)は、ドイツが幹事国となってDIN(ドイツ規格協会)が事務局を務めています。このTC(Technical Committee)は、3つのワーキンググループ(WG1/WG2/WG3)で構成されていて、それぞれのWGは、DIN、JSA(日本規格協会)、AFNOR(フランス規格協会)が事務局を務めています。各WGには、ISO/TC312への参加を表明した各国のエキスパートが参画して議論検討し、WGのアウトプットを出すことになりますが、このTCでは各WGを並列して開催せず、順番に検討していくやり方で相互の関係性を調整しながら、各WGのアウトプットを出そうとしています。

以下に各WGで作り上げようとしている規格とその概要を示します。

①WG1:ISO/IS 23592 Service Excellence − Principles and model
サービスエクセレンスという組織能力について、その原則とモデルについての規格を開発しています。この規格が提示するサービスエクセレンスモデルは、「顧客の喜びの実現」に向けて、a)サービスエクセレンスリーダーシップと戦略(リーダーシップ、戦略)、b)サービスエクセレンス文化(従業員のエンゲージメント、サービスエクセレンス文化)、c)卓越した顧客経験の創出(顧客のニーズ・期待・要求の理解、卓越した顧客経験の設計とリニューアル、サービス革新のマネジメント)、d)サービスエクセレンスのオペレーション(効率的・効果的なプロセスと組織構造に関連する顧客経験のマネジメント)、という4つのグループで、サービスエクセレンスという組織能力を表現しようとしています。

②WG2:ISO/TS 24082 Designing excellent services to achieve outstanding customer experience
卓越した顧客経験を実現するためのエクセレントサービスの設計のための規格です。前述のサービスエクセレンスという組織能力を表現する「サービスエクセレンスモデル」の中で、「c)卓越した顧客経験の創出」グループが、WG2(日本が主査)で開発に取り組んでいるエクセレントサービスの設計に特に関係する部分となります。WG2では、この組織能力を「卓越した顧客経験を実現するためのエクセレントサービスの設計」に変換していく作業も踏まえ、WG1とWG2のアウトプットの関係性をわかりやすく提示しつつ、独立した1つの価値ある規格として開発していくことになります。

③WG3:ISO/TS 23686 Measurement and evaluation of Service Excellence
組織能力であるサービスエクセレンスの計測と評価のための規格です。この規格ではWG1が提示するサービスエクセレンスモデル全体、あるいは各グループの計測・評価をし、サービスエクセレンスという組織能力を向上させていくことに貢献する規格が開発されるものと思われます。

第1回総会から第3回総会まで、大枠の議論をしましたが、2019年10月に開催された第4回総会では、主査であるフランスから、WG1の規格の完成度による影響が大きいので議論をいったん休眠させ、サービスエクセレンスの原則とモデルに関する規格が完成に近づいたら、再度開始することが提案され、承認されました。

卓越した顧客経験を実現するためのエクセレントサービスの設計:ISO/TS 24082 Designing excellent service achieving outstanding customer experience

今回は、特に、日本がその主査を獲得したWG2で開発される規格、「卓越した顧客経験を実現するためのエクセレントサービスの設計:ISO/TS 24082 Designing excellent service achieving outstanding customer experienceに注目して、第1回総会(ベルリン)〜第4回総会(東京)までで、検討されてきた、WG2で取り扱うエクセレントサービスに関する考え方、開発する規格にとって重要な概念などを解説したいと思います。

【サービスエクセレンスピラミッド】(上の図表1参照)
これは、「WG1:ISO/WD 23592 Service Excellence -- Principles and model」の中で、提示される図ですが、その前身は、欧州規格CEN 16880の中にある図です。CENでは、サービスエクセレンスピラミッドを4段階に分けて、それぞれに該当するISO規格番号を提示しています。レベル1:ISO 9001、レベル2:ISO 10002、レベル3:CEN/TS 16800、レベル4:CEN/TS 16800 といった具合です。ISO/WD 23592 では、他のISO規格の配置はなく、ただ4段階に分かれた図となっており、レベル1と2からは「顧客満足」が生まれ、レベル3と4からは「顧客の喜び」が生まれる、と提示されています。

【エクセレントサービスとは何か?】(上の図表2参照)
「WG2:ISO/TS 24082 Designing excellent services to achieve outstanding customer experience」では、まずは「エクセレントサービスとはなんぞや?」ということを明示する必要があります。本規格では、さきほどのエクセレンスサービスピラミッドをさらに概念化して、サービスを「基本的サービス」と「エクセレントサービス」とに分けて、レベル1・2のあたりに「基本的サービス」を配置していますが、その周囲にわずかながら「エクセレントサービス」部分があり、レベル3・4はすべて「エクセレントサービス」として提示されています。顧客がどのような経験をしてどのように感じるかが重視されますので、例えば、日本のタクシーサービスの全体は、日本では当たり前のサービスとなっていますが、特にUSAから訪日した方の場合、このタクシーに驚きと喜びを見出すようです(制服を着て、礼儀正しい、運転が安全でうまい、顧客のニーズにこたえようとしてくれるなど)。このように、ある顧客にとっては、基本的サービスと認識されているものが、別の顧客にとっては、エクセレントサービスと評価されることがあるわけです。「JSA-S(日本規格協会規格):エクセレントサービスのための規格開発の指針」を開発する工程でも、レベル1・2の部分に魅力を感じる場合もあり得るということが議論されました。WG2ではこの観点も組み込んだ図を描くことにしました。

さて、サービスとエクセレントサービスの違いは何でしょうか? WG2主査である日本がTC312総会に提案したモデル案は、次のようになります。

プロセスとしては、①サービスの提供、②経験、③感情と、流れるモデルとして表現されています。基本的サービスからは、「顧客の経験」がなされ、当該経験から「顧客の満足」がアウトプットされます。これに対し、エクセレントサービスからは、「卓越した顧客の経験」がなされ、当該経験から「顧客の喜び」がアウトプットされます。エクセレントサービス提供による顧客の卓越した経験・喜びの感情を繰り返すことができるように、①②③の各場において、IT活用による生産性の変革が必要であり、適切なデータポイントを設定してデータの自動取得が行える環境を整備し、データに基づく改善PDCAサイクルを高速に回す仕組みが重要といえます。

【カスタマージャーニーにおける顧客経験の重要性】
カスタマージャーニーとは、顧客がサービス提供を受けるたびに経験し感じたコトのつながり(連続)として理解することができます。サービス提供者は、サービス提供前・提供時・提供後、というタイミングにおいては自然な形で、顧客との接点を、直接的・間接的に持つことができます。その接点における顧客の経験をどのような経験として実現できるかは、顧客がリピーターとなるかに、大きく影響を与えると思われます。顧客の経験を、通常の経験ではなく卓越した経験として、またそこで喜びを感じていただくことができるかを、個別に、前もって考えることが必要となります。個別化サービスはエクセレントサービスとなる可能性が高いサービスです。各顧客が大事にしていること、それが推測できる情報などを、サービス提供側がきちんと入手し管理できていることが必要となります。カスタマージャーニーの履歴が、サービス提供者側に貴重なデータ・情報として蓄積され、活用されていく環境を整備できているか、が重要だと思われます。

【製品・サービス提供者と顧客との共創の重要性】(上の図表3参照)
製品・サービス提供者と顧客との接点の重要性はさきほど述べましたが、顧客が重視していること(価値)の創出に対して、双方が作用し合う現象を「共創」として捉えます。共創という概念はエクセレントサービスの設計上、大変重要な概念となっています。製品・サービスの提供者だけが顧客の価値創出に向かっているよりも、顧客側も一体となって価値の創出に向かっているときの方が、コストパフォーマンスが高く、顧客の価値を創出できます。顧客の価値を特定するためのコストは顧客が積極的に関与してくれた方が少なくなります。価値を特定した後に当該価値を生み出す仕組みを構築する際も、顧客が積極的に関与してくれた方がPDCAを早く回せるので、コストパフォーマンスは高くなるはずです。価値創出にかかるコストを最小化して、当該価値を実現できることは顧客にとっても大きなメリットがあるはずです。

このような環境を、WG2では「共創環境」と呼ぶことにしました。この共創環境という用語は、さきほど紹介した「エクセレントサービスのための規格開発の指針」を開発する工程で導出された用語でした。それをTC312エキスパートたちが学術的に論理的に研究を進め、概念化しようとしています。

図表3に示すように、従業員(サービス提供者)のベクトルと、顧客のベクトルを長くすることによって、2つのベクトルで構成される面積・あるいは和としてのベクトル、に何らかの意味を持たせ、論理的に定量化できるようにする手法の開発研究を進めています。このような学術研究で提示されたものの中で、現実世界でより容易に利活用が可能な部分を抽出して利用しやすくするためのモデルとして規格を開発していくことが、今のISO TC312の日本エキスパートの中で検討されています。

【共創環境を構築するとはどういうことか?】
共創環境の重要性が理解できると、製品・サービス提供組織では共創環境を構築したいと考えます。どうやったらいいでしょうか? 「エクセレントサービスのための規格開発の指針」の中では、附属書として、従業員側と顧客側の姿勢を、受動的・能動的の2つに分けて、そのセル内で今、自組織はどこにいるかを特定し、両者が能動的な状態になっているセルに移行していく道筋を考えることができるように、共創戦略マップなるものを紹介しています。

【各組織が構築した共創環境のアウトプットとはなにか?】
共創環境は重要だと理解できたら、共創環境をより良いものに構築するためにも、各組織が構築した共創環境からアウトプットされるものを機能として具体的にイメージすることも大切です。例えば、以下のような機能を持つものとなるかもしれません。

• 賢い顧客を創り(顧客を支援し、賢くする)、支援する機能
• 賢い従業員を創り(従業員を支援し、賢くする)、支援する機能
• 相互作用の最大化をねらう機能

本稿を読んでいただきました読者の皆様、あなたの組織にはどのような共創環境が構築されているでしょうか? 本稿が、そのことを考えてみるきっかけになればと思います。