食品安全マネジメントシステムのメリットとデメリット


日本で運用されている主要な食品安全マネジメントシステム規格である ISO 22000:2018、FSSC 22000、JFS-Cの3規格について、その特徴とメリット及びデメリットを、日本環境認証機構(JACO)審査本部の水上浩審査本部長と藤尾高志参事に解説いただきました。組織の状況に応じて、マネジメントのパフォーマンス向上に最も有効なシステム選択に有益な情報が得られると思います。

1. 今、なぜ食品安全マネジメントシステムなのか?



本稿で、対象とするマネジメントシステムは以下の3種とする。
① ISO 22000:2018 ISOにて制定された食品安全マネジメントシステム規格
② FSSC 22000 オランダに本部を置く「FSSC(Food Safety System Certification)財団」により開発された認証プログラム(以下、スキーム)。食品安全マネジメントシステムの継続的改善を目的として設立された非営利団体のGFSI(Global Food Safety Initiative)により承認。
③ JFS-C 本規格は一般財団法人食品安全マネジメント協会(JFSM)より開発され、2018年10月31日に日本発のGFSIスキームとして承認。



食品製造産業では、原材料の調達から製品の販売までグローバル化が拡大する中で、海外で起きた食品安全を揺るがす事故は、決して対岸の火事ではなく、「農場から食卓まで」のサプライチェーンのビジネスに甚大な影響を及ぼすリスクがある。このような食品安全上のリスクに迅速かつ適切に対応するために、HACCPを内包した経営ツールとしてのマネジメントシステムの必要性と有用性が世界的に再認識されてきており、食品安全マネジメントシステムの認証件数は大きく増加している。

ISO 22000は世界約160カ国にて2018年には32,120の認証件数となっており、2007年対比で約8倍に増加している。日本においても同様の傾向を示しており、2007年対比で約8.6倍まで増加している。

下の図表にそれぞれのスキームの相違を示す。図中、「プログラムの信頼性維持・向上のための仕組み」における、「認証業務の評価」とは、スキーム・オーナーがスキームの信頼性の維持向上のため、認証機関の業務評価を審査報告書のモニタリングや各種審査情報の点検等を通して行うもので、FSSC財団及びJFSMにおいて実施されている。また、FSSC財団は独自に、組織向けの内部監査員養成コース等を実施する研修機関に対してTO(Training Organization)の認定を2019年から開始しており、筆者の所属するJACOでも、TOの認定を取得している。



食品安全マネジメントシステムの基本となるのはISO 22000と言えるが、これに要求事項を追加したFSSC 22000と、JFS-C規格とでは多くの相違点がある。また、同じGFSI承認スキームであってもFSSC 22000と、JFS-C規格とでは規格の構成や運用の枠組みが異なっている。次にそれぞれのマネジメントシステムの具体的な特徴、メリット・デメリットについて紹介する。

2. ISO 22000の特徴、メリット・デメリット



ISO 22000:2018は2018年6月に発行された。ISO 22000:2005の規格構造が大きく見直され、新たな要求事項が追加されたことにより、進歩の著しい社会状況を考慮した内容となっている。



2-1 特徴


最大の特徴はハイレベル・ストラクチャ—(HLS)の採用といえる。HLSはISOによって2012年に定められ、以降に制定・改訂されるすべてのISOマネジメントマネジメントシステム規格は共通の構造と目次を備えることが義務化された。ISO 22000にHLSが採用されたことにより、既にHLSに準拠して改訂されたISO 9001(品質)、ISO 14001(環境)や、後に制定されたISO 45001(労働安全衛生)などとの統合マネジメントシステムの構築、適用及び維持が容易になったといえる。

また、HLSの要求事項の一つである「事業プロセスへの統合」に対応することによって、食品安全マネジメントシステムの運用を通して、本来の経営課題の解決を支援することができるようになった。



2-2 メリット


以下、ISO 22000導入のメリットについて列挙する。
• HLSに示されている、組織のリスクに基づくアプローチが食品安全マネジメントシステムに組み込まれたことにより、「組織の状況(内部・外部の課題/利害関係者のニーズと期待)」及び「リスク・機会」の決定をベースとして、いわゆるPDCAサイクルを回すことが求められるようになった。トップマネジメントのリーダーシップへの要求も強化され、パフォーマンス評価に裏付けられた改善を推進することが明確になった。この一連の流れは経営プロセスそのものであり、食品安全マネジメントシステムの運用により経営基盤の強化を図ることができる。(下図表参照)


• 従来の「回収」に加えて、緊急事態対応、トレーサビリティシステムが要求事項として強化されたことにより、組織のBCP(事業継続計画)の有効性を高めることができる。緊急事態については、自然災害や環境事故、公衆衛生での緊急対応等、具体的な例が示されており、組織にとっての分かりやすさにも配慮されている。さらに手順を試験し、有効性を検証するという実務的な要求も加えられている。
• ISO 22000は、様々な世界的食品小売業者が構築した重要な規格要求事項を含んでおり、その認証を取得することは高度な食品安全についての要求事項を満たしている証であり、認証による信頼獲得により、ビジネス上の取引拡大につながる効果も期待できる。

今後、ISO 22000:2018の認証件数の伸びを左右する要素は、経営ツールとしての有効性の理解にあるといってよい。



2-3 デメリット


ISO規格では、基準の設定は組織の自主的取組みに委ねられており、例えば、ISO 22000に求められている前提条件プログラム(以下、PRP)の実務上の具体化も、組織が自主的に定める。このため組織の成熟度の影響を受けやすく、多岐にわたるPRPの要求事項を必ずしも十分にカバーしきれないことが懸念される。また、規格の改訂頻度が低い(原則5年。実際にはそれ以上)ので、社会の変化や、これまでに想定されなかった食品防御・食品偽装対策等の食品安全についての要求事項に、タイムリーに対応することが難しい。

以上を踏まえて、ISO 22000の認証取得が適していると考えられる組織は以下のようになる。
① 組織としての経営上の課題を食品安全マネジメントシステムで解決することを目指す組織
② 他のマネジメントシステム(ISO 9001、ISO 14001、ISO 45001等)を運用しており、統合を検討している組織
③ ISO 22000をベースにしているFSSC 22000の認証取得を目指す組織

3. FSSC 22000の特徴、メリット・デメリット



FSSC 22000は、冒頭に述べたようにFSSC財団が開発・運営する、食品安全マネジメントシステムのスキームである。



3-1 特徴


ISO 22000をコアとして、分野ごとに固有のPRP規格であるISO/TS 22002シリーズ等(食品製造ではISO/TS 22002-1、食品容器包装の製造ではISO/TS 22002-4など)や、独自の追加要求事項を組み合わせた構成となっている。

冒頭に述べたように、FSSC 22000はGFSIの承認を受けている。GFSIは、世界中で乱立する食品安全規格の収束と等価性向上を図るため、独自のベンチマーキング要求事項に基づく規格の承認活動を行うようになった経緯がある。ISO 22000は上述したように、自主的に設定するPRPにおいて組織によるばらつきや、詳細さを欠く状況があり得ることから、GFSIの要求事項を満たせず、承認を得られなかった。一方、ISO 22000に上述のようにPRP規格を補う形で開発されたFSSC 22000は、GFSIに承認された。我が国において、FSSC 22000はGFSI承認規格の認証取得件数において独占的なシェアをもっている。



3-2 メリット


PRP規格のISO/TS 22002シリーズは、食品業界で広く受け入れられており、大手の食品・流通事業者が取引条件としている。そのため、FSSC 22000の認証を取得することで、二者監査が軽減、免除される場合がある。また、ISO/TS 22002シリーズにはない食品防御や食品偽装についても、FSSC 22000では追加要求事項とされている。さらに随時発行される利害関係者委員会(BoS:The Board of Stakeholders)決定リストに対応することで、著しく変化する社会の動向に対して、タイムリーにきめ細かく対応することができる。

このようにFSSC 22000は、食品安全に求められる要素が詳細に網羅され、GFSIの要求に沿って随時アップデートされていることから、本規格の認証取得は、食品安全に関して国際的に合意された「最新の」水準を満たしている証明となり、特に、法人向けビジネス(B to B)において大きな強みになるものと考える。

また、別の視点からのメリットとして、米国食品安全強化法(FSMA: Food Safety Modernization Act)への対応が挙げられる。現在、米国への輸出を行う食品事業者には、FSMAに基づくリスクベースの予防管理が要求されている。この予防管理では、従来のHACCP+αの取組みが必要とされており、たとえHACCP手法に基づく規格の認証を受けていても、それだけでFSMAの要求事項を満たすことはできない。

この課題に対して、FSSC財団は、FSSC 22000規格とFSMA要求事項との差分分析を行い、その情報をFSSC財団のHP上に公開している。FSMA要求事項の順守を保証できる運用が示されているわけではないが、FSSC 22000に基づくシステムへの反映に向けた有益な情報として活用ができ、FSMA対応への大きな助けとなる。



3-3 デメリット


多岐にわたる要求事項は400以上にも及び、そのすべてを検討するためには、相応のリソースが必要となる。よって、特に中小の組織が採用することは容易ではないと考えられる。また、GFSIの追加要求事項やBoS決定リスト発行への対応は、最新の管理ができることをメリットとしてあげたが、反面、これらの要求に対して、都度迅速に対応することは、認証の維持においても、応分の負荷を見込まなければならない。

また、詳細かつ多面的なスキームであるがゆえに、設備面での対応(ハード)を運用による対応(ソフト)でカバーする等の緩和策も一部容認されている(例えば、ISO/TS 22002シリーズの要求事項は、ハザード分析による正当性の証明により、要求事項とは異なる方法〈代替手段〉での管理が認められている)。しかしながら、FSSC 22000の要求を満足するためには、一般的には、一定程度のハード的な投資が必要となると考えるべきである。

以上を踏まえて、FSSC 22000の認証取得が適していると考えられる組織をまとめると以下のようになる。
① マネジメントシステムの確立、実施、維持するために十分なリソースを確保できる組織
② ISO 22000に対して、更に詳細なPRP規格により管理強化をしたい組織
③ 取引先よりGFSI承認スキームの認証取得を求められている組織
④ 輸出(特に米国)に取り組んでいる、あるいはこれから輸出を目指す組織

4. JFS-C規格の特徴、メリット・デメリット



4-1 特徴


JFS-C規格は食品安全マネジメントシステム(FSM)、ハザード制御(HACCP)、適正製造規範(GMP)の3つから構成される比較的シンプルな構造であり、ISO 22000、FSSC 22000と比較すると要求事項の数は少なく設定されている。JFS-C規格の認証件数は、2020年9月現在で76件となっている。



4-2 メリット


以下、JFS-C規格導入のメリットについて列挙する。
• 日本語で開発された規格なので、組織として受け入れやすい。
• JFS-B規格(一般衛生管理にHACCPの要求事項を含む)からJFS-C規格に段階的にステップアップできるよう構成されている。ただし、JFS-B規格とJFS-C規格のギャップは大きく、実際にステップアップされた実績は少ない。
• 日本独自の企業文化である、現場からの改善活動を取り込んでおり、「組織は、現場の従業員からの食品安全の改善に関する提案を適切に活用する仕組みを構築し、実施しなければならない」が要求事項となっている。



4-3 デメリット


GFSI承認スキームとしては、FSSC 22000が日本国内で独占的なシェアをもち、優位な立場にあるため、顧客要求によって、JFS-C規格を指定している取引先以外は、メリットを享受しづらい面が否めない。

一方、発行されてから日が浅いことから、FSSC 22000のように規格の要求事項を満足するためのガイダンスが今後充実化される予定であり、現状、審査機関としては各要求事項についての解釈に差異が生じる懸念があるとの意見がある。

また、取引先、顧客の要求や、組織の事業展開の経緯によって、FSSC 22000とJFS-C規格の両方の認証取得を受けている事例が散見され、コスト・労力の増加を招いている状況がある。

以上を踏まえて、JFS-C規格の認証取得が適していると考えられる組織は以下のように考えられる。
① 取引業者よりGFSI承認スキームの認証取得を求められている組織
② 構成が比較的シンプルで、日本の独自性が反映されたJFS-C規格の特徴を生かして、マネジメントシステムを構築したい組織



5. まとめ



ここまで、我が国で運用されている、代表的な食品安全マネジメントシステムであるISO 22000、FSSC 22000、及びJFS-C規格の特徴、メリット・デメリットについて整理した。最後に費用面についてもふれておきたい。上述より明らかなようにFSSC 22000は、ISO 22000より要求事項がはるかに多いため、認証取得時にかかる初期費用は高くなる傾向があり、一般論として、ISO 22000に比べてFSSC 22000に必要な費用は1.3〜1.5倍程度とみておく必要がある。なお、JFS-C規格の認証取得費用については、ISO 22000やFSSC 22000の認証との組合せの有無により大きく異なるため、注意が必要である。

以上、代表的な3つの食品安全マネジメントシステムについて、種々の視点から比較した。現状分析、事業展開、あるべき姿、リソース等に鑑みて、自組織に最も相応しい規格選択のヒントとなれば幸いである。

(JACO執筆による連載記事はアイソス2020年10月号から2021年3月号まで6回にわたって掲載されました。本稿は、その連載の中から、2020年11月号に掲載された記事を一部編集して転載しています)


執筆者: 水上 浩 氏

株式会社日本環境認証機構(JACO)審査本部/食品ビジネスユニット 審査本部長/食品ビジネスユニット長。東京農工大学大学院博士課程修了。博士(工学)。1983年、株式会社東芝入社。研究開発センターにて、機器の伝熱に関する研究開発業務を経て、同センターのISO 14001に基づく環境マネジメントシステムを構築。2007年、東芝 環境推進部にて東芝グループの環境経営方針・施策の策定および全社展開・推進業務に従事。2011年、株式会社日本環境認証機構入社。取締役技術部長を経て、2015年より審査本部長。各種マネジメントシステムの審査スキームの確立・実施・維持及び審査員の育成などを統括管理。2018年より食品ビジネスユニット長。食品安全マネジメントシステムに関わる事業を統括管理。


執筆者: 藤尾 高志 氏

株式会社日本環境認証機構(JACO)食品ビジネスユニット 参事。筑波大学第2学群生物学類卒業。1982年、日東製粉株式会社(現 日東富士製粉株式会社)入社。中央技術研究所にて、各種分析、家庭用商品の開発を担当。その後、家庭用商品の営業を経て2017年より品質保証部にて規格書の作成管理、二者監査ほか品質保証業務全般の統括及びISO事務局としてFSSC 22000の認証取得等を推進。2019年、株式会社日本環境認証機構入社、現在に至る。