FMEA-MSRへのアプローチ


2019年に発行されたAIAG & VDA FMEAハンドブックは、設計FMEA、工程FMEA、FMEA-MSR(監視及びシステム応答の補足FMEA)の3つが主要部分になりますが、巷の同ハンドブックに関するセミナーを受講しますと、FMEA-MSRの講義をサラリと流してしまう講師の方がいます。そういった講師の方々は、たいていメカ系のみで品質をやって来た方です。本稿の著者である岩波好夫さんは、米国フォードで品質保証部長だけでなく半導体LSI開発部長も経験されていますので、電子制御分野もきちんとフォローしていただけます。今回はFMEA-MSRにポイントを絞った解説記事をご紹介します。

FMEA-MSRの概要



FMEA-MSR(監視およびシステム応答の補足FMEA)では、顧客運用条件下で発生する可能性のある潜在的な故障原因が、システム、車両、人員、および法規制順守に対する影響に対して分析されます。顧客運用(customer operation)には、エンドユーザーの運転および自動車の整備などがあります。この方法は、故障原因または故障モードがシステムによって検出されるか、または故障影響が運転者によって検出されるかどうかを考慮します。

すなわち、設計FMEAとプロセスFMEAが製品の設計段階および製造段階で、故障のリスク(顧客への影響度S、発生度Oおよび検出度D)を低減する活動であるのに対して、FMEA-MSRは、市場(自動車の運転や整備中)の故障のリスク(顧客への影響度S、発生頻度Fおよび監視度M)を低減する活動です。

FMEA-MSRでは、自動車の電子制御システムが対象となります。FMEA-MSRは、電子制御装置(ECU、electronic control unit)が、故障(failure)の原因である障害(fault)の発生を監視(monitoring)し、障害が発生した場合に検知して、大きな故障(事故)が起こらないように応答(response)するものです(図表1参照)。



電子制御システムは、図表2に示すように、センサー(sensor)、電子制御装置(ECU)およびアクチュエータ(actuator)で構成されます。

センサーで必要な情報を受け取り、電子制御装置で種々の情報から必要な処置を決定し、アクチュエータを働かせて、必要な装置や部品を動作させます。障害(fault)発生を監視・検出し、システムとして応答するフローを図表3に示します。

この図表の障害耐性時間間隔(FTTI、フォールト・トレラント時間間隔、fault tolerant time interval)は、障害(故障の原因、fault)が発生してから、対策をしないと危険事象が発生するまでの時間を意味します。FMEA-MSRにおけるこれらの考え方は、ISO 26262にもとづくものです。



FMEA-MSRのステップ



FMEA-MSRも設計FMEAと同様、7ステップアプローチで実施します。FMEA-MSR実施のフローを図表4に示します。

ステップ1(構造分析)からステップ4(故障分析)までの進め方は、設計FMEAと同じでが、ステップ5とステップ6は、設計FMEAとは異なります。ステップ5(リスク分析)とステップ6(最適化)は、まずは、設計FMEAと同様の方法で実施します。そして次に、FMEA-MSAとしてのステップ5とステップ6を行います。

ステップ5では、電子制御システムが、故障の原因である障害(fault)の発生を監視し、障害が発生した場合に検知して、大きな故障(事故)が起こらないように応答します。そのために、障害の発生頻度(F、frequency)と監視度(M、monitoring)の程度を評価します。

ステップ6(最適化)では、追加の予防処置と診断監視の処置を計画して実施し、処置後の処置優先度(AP)を再評価します。そしてステップ7(結果の文書化)では、分析結果と結論を文書化し、伝達します。

FMEAの評価基準として、発生頻度(F)、監視度(M)および処置優先度(AP)をそれぞれ図表5〜図表7に示します。FMEA-MSRの影響度(S)の評価基準は、設計FMEAと同じです。ここで、監視度(M)には、図表6に示すように、いわゆる監視(monitoring)だけでなく、監視結果に対する検出(detection)と応答(response)も含まれています。また、これらの発生度(F)および監視度(M)という考え方は、ISO 26262にもとづくものです。





(この記事はアイソス2021年2月号の特集記事「IATF 16949コアツールとAIAG & VDA FMEA」から抜粋したものです)


執筆者: 岩波 好夫 氏

岩波マネジメントシステム 代表。名古屋工業大学大学院修士課程修了(電子工学専攻)。株式会社東芝入社、米国フォードECU開発プロジェクトメンバー、半導体LSI開発部長、米国LSIデザインセンター長、品質保証部長などを歴任。現在、岩波マネジメントシステム代表、JRCA/IRCA ISO 9001主任審査員、IATF 16949コンサルタント。【著書】「図解 IATF 16949の詳細解説」、「図解 IATF 16949よくわかるコアツール」、「図解 IATF 16949よくわかるFMEA」(日科技連出版社)など、ISO 9000、IATF 16949関係書籍多数