ISO 50000 シリーズの最新開発状況


原油価格の騰落や地球環境問題の深刻化などによってエネルギーマネジメントシステム(EnMS)への関心が急速に高まっており、ISO 50000シリーズの開発・改訂作業を行っているISO/TC301では新たな規格開発が進められている。本稿では、TC301の国内審議団体である(一財)エネルギー総合工学研究所の石本祐樹氏と坂本茂樹氏に、エネルギーマネジメントシステム国際規格の最新開発動向について解説いただいた。

1. エネルギーマネジメントシステム国際規格の現状



1.1 ISO 50001開発を含む規格開発の経緯



ISO 50001及び関連規格はTC301において開発が進められている。図表1にPC242、TC242、 TC257及びTC301の時系列的展開を示す。



TC301の前進であるPC242は米国の提案により2008年2月に設立された。エネルギーマネジメントシステム(以下、EnMS)規格の開発を行うPCが提案された背景には、当時の国際市場における原油価格高騰や気候変動問題の深刻化に伴って、EnMSに対する関心が高くなってきたことによるものと思われる。我が国の産業競争力強化の観点からも、企業活動等の根幹をなすエネルギーについてのマネジメントシステムの重要性は、一段と増していると考えられる。一方、我が国は、省エネルギーにおいて世界トップレベルの水準を達成しており、EnMSの国際標準化を待つまでもなく、実質的にはエネルギーマネジメントを高度に実施してきているとも言える。したがって、規格開発に当たっては、我が国の実情に即していることが重要である。

その後、PC242は、2011年6月にTC242に移行した。この背景には、同年6月に発行されたEnMS国際規格ISO 50001の普及促進を図るため、本規格の導入及び実施を支援するエネルギーマネジメント要素及び認証に関する国際標準化に対するニーズが高まったことがある。また、2010年4月に中国より、省エネルギーに関連する新たなTCの設立が提案され、2010年8月にTC257(プロジェクト、組織及び地域における省エネルギーの決定のための一般的技術ルール)が設置された。

両TCにおいて、それぞれ複数の国際規格が開発されてきたが、両TCの適用範囲は相互に関連するため、TMB(技術管理評議会)の提案を受けて2016年9月にTC301へと統合された。2020年8月現在TC301には66カ国がPメンバーとして加盟し、EnMS及び省エネルギー量に係わる国際規格の開発を実施している。

2020年9月現在、TC301の議長は、米国エネルギー省出身のRoland Risser氏が務めている。TC301年次総会において参加国が全体の進め方を審議し、TC301の下に設置された各ワーキンググループ(以下、WG)は作業グループとして各規格案の開発を行う。CAG(Chairman’s Advisory Group、議長諮問グループ)は、議長への助言機能を持つ。CAGメンバーは、議長、副議長、WG主査、PL(プロジェクトリーダー)、世界各地域(大陸)から各2カ国の代表(任期2年)+リエゾン4組織から構成され、アジアでは中国(副議長)の他に日本と韓国が参加している。

日本はPメンバーの一員としてTC301の規格開発全般に参加している。日本のTC301の国内審議団体は(一財)エネルギー総合工学研究所が務めている。同研究所は、国内のエネルギーに関連するステークホルダによる国内審議委員会(委員長:松橋隆治 東京大学教授)を設置し、規格開発にあたっている。日本提案による国際規格では、経済産業省の実証事業の成果に基づいたISO 50009「複数組織が実施する共通のエネルギーマネジメントシステムのガイダンス」を開発しており、2020年6月末のDIS投票において可決された。投票時のコメントの議論・反映を行い、FDIS段階へ進む見込みである。さらに新規の日本提案「エネルギーマネジメント進捗度の測定」はNWIP投票が行われ、賛成多数で可決された。これまでは予備検討の段階であったが、今後、本規格はISO 50001とも関連するため、その開発を担当するWG1において本格的な開発が開始される。

図表2にTC301で開発された規格の一覧を示す。

これらには、TC242、 TC257において開発された規格も含んでいる。これらのうち、主要な規格とISO 50001の関係を図表3に示す。

EnMS規格であるISO 50001を中心に、ISO 50001全体のガイダンス規格であるISO 50004、ISO 50001の活動の1つであるエネルギーレビューを外部組織が行う場合のISO 50002、エネルギー管理指標であるエネルギーパフォーマンス指標等のガイダンスであるISO 50006、EnMSを段階的に導入する際のガイダンスであるISO 50005(開発中)、複数の組織がEnMSを導入する際のガイダンスであるISO 50009(日本提案、開発中)、エネルギーマネジメント進捗度の測定(日本提案、開発中)、ISO 50001の審査のためのISO 50003などがある。これらの周辺規格は、ISO 50001全体に関係するものと一部の活動に関係するものに大きく分けられる。



1.2 ISO 50001:2018の概要



図表4にISO 50001:2018の概要を示す。

ISO 50001:2011からの大きな変更は、その開発時に並行して議論されていたマネジメントシステムの共通テキスト(HLS、 High Level Structure)を利用することで他のマネジメントシステム規格と統合しやすいようにした点である。ISO 50001:2018の開発は、ISO 50001:2011の要求事項をHLSに追記する形式で進められた。また、HLSを利用したことによる追加の要求事項(4 組織の状況、6.1 リスク及び機会への取組み)もある。エネルギーパフォーマンスインディケーター(EnPIs)及びその関連用語の整理と明確化も行われた。2011年版では、エネルギー管理の重要な指標であるEnPIsと関連変数(relevant variable)、正規化(Normalization、関連変数を用いた調整)が言及されているが、それらの関係が不明確であった。また、EnPIsが関連変数の影響を著しく受ける場合は(比較のために)正規化しなければならない、という要求事項が盛り込まれた(例:生産量や床面積以外の関連変数がEnPIsに著しい影響を与える場合、原単位を50001のEnPIsとして利用する場合、正規化が必要になる可能性もある)。また、ISO 50001:2011では、「エネルギーパフォーマンスの改善を達成するため」という表現がなされ、「エネルギーパフォーマンスを改善しなければならない」という明確な要求事項はなかったが、「継続的にエネルギーパフォーマンス改善を実証しなければならない」が盛り込まれた。最後に省エネ法との整合であるが、EnPIsに原単位(比)が定義されていること、比較対象のベースラインに移動平均が利用可能なこと、エネルギーパフォーマンスの継続的改善の要求から、省エネ法とISO 50001の基本的な管理方法は整合していると考えられる。



2. 今後の開発計画



2.1 ISO 50001関連規格



図表5にTC301において開発中の規格を示す。

 ISO 50005は、ドイツが提案、開発を主導している規格で、中小企業等がISO 50001の導入を段階的に実施するためのガイダンスである。新たに提案・開発される規格のほかに、発行されたISO規格は、5年に一度改訂の必要性等をメンバー国が投票によって検討するシステマティックレビューがあり改訂が必要とされた場合はその活動も開発中の規格として扱われる。ISO 50003、 ISO 50006はISO 50001:2018の改訂に伴い改訂が行われており、特にISO 50003は、新たな試みとして新型コロナウィルスの感染拡大前から物理的な会議を実施せずにすべての開発工程をオンラインで実施している。最近の定期的見直しでISO 50015:2014、ISO 17742:2015は改訂を行わず確認(現状維持)となった。ISO 50002:2014も改訂を行わず現状維持となったが、これまで欧州(特に英国)にて運用された経験に基づき、改訂を検討するための準備作業グループが設立されている。また、ISO/AWI 50010(韓国提案、Zero Net Energy〈エネルギーマネジメントと省エネルギー、運用におけるゼロネットエネルギーのガイダンス〉)は、主査の申し出により、2020年6月5日オンラインで開催された第5回年次総会にて活動休止が決議されている。これは、本規格の適用範囲が曖昧であり、規格開発の開始後に適用範囲に新たな要素を追加しようとするなど、議論が迷走したことから、TC301の参加国の興味が低下し十分な開発リソースを確保できなかったことによると思われる。

2.2 現在俎上に上がっている計画



現在開発が提案されている規格は、Labor Competence(EnMS実施者の選択と力量)とZero Energy Townである。

Labor Competenceは、コロンビアによって提案され、新規提案のための予備検討を行うためのグループが設置され、現在オンライン会議で新規提案の際に添付する規格ドラフトを作成している。

Zero Energy Townは、前節で述べたZero Net Energyに代わって韓国の建築系の研究機関が新たに提案した。都市のエネルギー需給の両方を制御してエネルギー消費最小化と再エネ利用の最大化を目指すための規格のようである。資料の説明時には、エネルギーだけではなく炭素をネットでゼロにすることも言及し、GHGに関係するTCの協力も得て計画を進めようとしている。GHG以外にもスマートシティやビル関連のTCなど適用範囲によっては関連する利害関係者が多数に上る可能性もあり、今後の動向を注視する必要がある。

3. まとめ



EnMS関連の国際規格は、2018年のISO 50001のHLSを用いた大幅な改訂を受けて関連する規格であるISO 50006等の改訂作業が進められている。さらに、エネルギーマネジメントを複数の組織で行うためのガイダンスやマネジメントシステムの進捗度を測定する新たな概念の規格開発が日本から提案され、各国の賛同をうけて共同で開発が進められている。一方、Zero Energy Townなど、影響の広さや程度が不明確な提案もあり、今後注視が必要である。なお、EnMS関連国際規格開発への参画を希望されるステークホルダは、国内審議団体(エネルギー総合工学研究所)までご一報いただきたい。

(この記事はアイソス2020年12月号の特集記事「EnMS国際規格 最新開発動向と活用の奨め」から抜粋したものです)


執筆者: 石本 祐樹

一般財団法人エネルギー総合工学研究所 ISO/TC 301 国際エキスパート。2006年エネルギー総合工学研究所入所。2008年のPC242設立当時からエネルギーマネジメントシステム関連規格開発や国内審議団体業務に従事している。また、水素エネルギーシステムの環境性や経済性評価、エネルギーモデルを用いた超長期のエネルギー需給に関する研究を行っている。


執筆者: 坂本 茂樹

一般財団法人エネルギー総合工学研究所 ISO/TC 301/WG14 主査。2014年からエネルギー総合工学研究所勤務。ISO/TC301が管轄する「エネルギーマネジメント・省エネルギー量」分野に係る国際規格開発、および同業務の国内審議団体(事務局)に係る業務を担当。2018年6月以降、TC301に新設されたWG14主査(日本提案の国際規格ISO50009「複数組織が実施する共通のエネルギーマネジメントシステムのガイダンス」開発を実施)。