もし私が企業の一員ならどの審査会社と契約するか?


認証審査のバラツキは実在する。これは約20年にわたって認証審査を受け続けてきた私の実感だ。どのようなバラツキを体験してきたのか、マネジメントシステム規格の箇条6.2(目的/目標及びそれを達成するための計画策定)に絞ってバラツキの一例を挙げてみよう

審査の実際はどうだろう?



• A審査員は、組織が策定した目的/目標の中から前期の結果が未達であったものと今期の進捗状況が芳しくないものを選んで審査をし、審査所見を作成した。
• B審査員は、組織が策定した目的/目標の中から前期の結果が未達であったものと達成したものの両方、今期の進捗状況が芳しくないものと順調なものの両方を選んで審査をし、審査所見を作成した。
• C審査員は、組織の目的/目標の中から目をつぶって適当に(同等の別法:乱数表を用いて無作為に)数個を選んで審査をし、審査所見を作成した。
• D審査員は、組織が「この目的/目標について審査を受けたいのですがよろしいでしょか?」との申し出を全て採用して審査をし、審査所見を作成した。

この事例は、審査におけるサンプリング方法のバラツキを示すものだ。
サンプリング方法によって収集される審査証拠に相違が生じることがある。審査証拠に相違があれば、審査基準は同じでも審査所見に相違が生じることはあり得る。すなわち、同じ情報源に接しながらもサンプリング方法によって審査結論が異なることがあり得るわけだ。
もちろんサンプリング方法を決定するのは審査員の役割であるし、「審査はサンプリングに基づいているため、要求事項に100%適合していることを保証するものではない」という免罪符的な決め台詞を終了会議で言い審査報告書にも書くからといって、適切なサンプリング方法についての考察をおろそかにして良いことにはならない。

この事例から、審査の実際にはまだまだ課題があることが分かる。
でも、気持ちを暗くしてはいけない。認証審査に課題があるということは、言い換えれば、まだまだ認証審査の質向上の伸び代がある!ということでもある。我々は、明るい未来のために、前に進まなくてはならない。
このサンプリング方法のバラツキの影響についての説明をする前に、私が審査員だったらどのサンプリング方法を選ぶかを披露しておこうと思う。



もし私が、第三者認証機関の審査員だったら



私はB審査員と同じサンプリング方法を採用する。すなわち、目標達成できなかった事例に偏ることは避け、成功裏に推移した事例も適切な運営管理の結果であること(偶然の結果ではないこと)を確かめる。
なぜかと言えば、プロセスの有効性評価のための情報をより多く得るためである。有効性という用語は「計画した活動を実施し、計画した結果を達成した程度」とISO 9000:2015の箇条3.7.11で定義されているように、結果が良ければOKというものではない。なので、結果が良い事例についても計画された活動の実施に裏打ちされた結果であることを確認しておく必要があると考えるのである。

サンプリングのバラツキの影響



プロセスの有効性を判定するために必要となる2つの要素(計画した活動の実施、計画した結果の達成)をマトリクスで捉えると考えやすいと思う。(下図参照)





4つの象限を考慮してサンプリング計画を立てると審査での検出力の確保に役立つ。
図に示したように、B審査員は①〜④の全ての象限を検証し得る。検証し得ると表現するのは、例えば目標達成しているが計画通りには実施していないという③の事象がサンプリングした事例にはなかったということは起こり得るということである。

A審査員の場合は、②と④の事例しか見ない、言い換えれば、①と③の事例は見ないことを選択したことになる。これは、①の事例(プロセスが有効に運用された証拠)を見るよりもイマイチな結果の事例を見る方が改善につながる指摘が出しやすいという善意からなのか、審査時間を節約したいということなのか、それとも目標を達成してさえいれば問題はないはず!という大胆な思い込みなのか、動機は様々考えられるが、①と③については別の審査の場で検証済みということが無い限り、このサンプリング方法は検出力の点でイマイチということになる。

同様に検出力の点からは、運次第のC審査員もD審査員のケースもイマイチなのである。

サンプリング方法の決定は審査員の裁量ではあるのだが、D審査員のケースは、サンプリングをするという役割の放棄とも考えられ、さすがにまずいのではないかと思う。また、A審査員の場合は、結果は達成しているが計画通りの活動が実施されていない事例があった場合にはこれを見つけられないことになり、適切なサンプリングは言えないケースも発生すると考えられる。

このようなイマイチな事態を防止するすべは無いのか?と調べてみたところ、ISO/IEC 17021-1:2015(JIS Q 17021-1:2015)「適合性評価−マネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項−第1部:要求事項」という規格に行きついた。この規格は、タイトルの通り審査機関に対する要求事項が規定されている。
箇条9.4.4.1(情報の入手及び検証)では、審査機関に対して次の要求事項が規定されている。

「審査証拠となるように、審査中に、審査目的、審査範囲及び審査基準に関する情報(機能間、活動間及びプロセス間のインタフェースに関連する情報を含む。)を適切なサンプリングによって入手し、検証しなければならない」

B審査員以外のサンプリング方法の場合、「適切なサンプリングによって入手」するという要求事項を満たさないケースが発生することがあるのではないかと私は考えている。そして「要求事項を満たさない」ということは、すなわち、不適合なのである。もしもそのようなおそれが現在もあるならば、それは認証審査をする審査機関の不適合になり得るので、審査機関自身による適切なモニタリングと事実に基づく判定と、状況に応じた是正処置の発動が認証制度の健全化のために望まれる、という理屈になるのではなかろうか。

もし私が、現在も企業の一員だったら



ところで、認証審査でバラツキを感じたのはプロセスの有効性の審査でのサンプリング方法だけではない。例えば、「リスク及び機会への取組み」の取り扱いの妥当性を評価する場面など、他の要素でのバラツキも実在した。
ひるがえって、もし私が現在も企業の一員だったら何をするか。審査会社の再評価を着手したいと思うだろう。例えば、先の例で言えば、B審査員の考えをもつ審査会社と契約したいと思うのだ。

具体的には、有効性を適切に評価できる力量とリスク及び機会への取組みに対する審査方針を重点に審査会社をアンケートや面談などを通じて調査し、お付き合いする審査会社の決定や変更(認証の移転)への参考情報とするだろう。
在職中になぜこれを実行に移さなかったのか。心残りの一つである。

(この記事はアイソス2021年3月号の鈴木信吾氏執筆の連載記事『SDGs達成に貢献するISOマネジメントシステムとは?』から抜粋したものです。鈴木氏の同連載はアイソス2020年10月号から2021年3月号まで6回にわたり掲載されました)


執筆者: 鈴木 信吾 氏

マネジメントシステムアドバイザー。勤務先の自動車部品メーカーが自動車セクターQMSの認証取得活動を始めた1995年からマネジメントシステム規格に関わる。品質(ISO 9001/IATF 16949)、環境(ISO 14001)の全社事務局をあわせて18年務めた後、ヒューマンエラー対策に重点的に取り組むため労働安全衛生を担当。2018年定年退職、現在フリーランスでマネジメントシステムアドバイザー、研修講師を務める。