連載記事 飯塚悦功
第1回 人と組織を賢くする品質管理

月刊アイソス2018年4月号から2020年3月まで24回にわたって掲載された飯塚悦功氏(東京大学名誉教授)執筆の連載記事『持続的成功を実現するための武器 〜品質管理の基礎を学ぶ〜』の全文をアイソスHPに掲載しています。本稿はその第1回「人と組織を賢くする品質管理」です。本稿では、冒頭でこの連載が「1年間、12回」であることが述べられていますが、実際は執筆内容がどんどん膨らみ、2年間24回の連載となりました。また、本稿最終章で次回以降の連載テーマが掲載されていますが、こちらについても、第2回以降、かなり変更されていますので、ご了承ください。(本誌編集部)

1. はじめに

今回から1年間、12回の連載講座を始めます。こうなったきっかけは、言わずと知れた中尾さんの依頼です。「月刊アイソスの主要読者層は企業の品質管理担当者ですが、彼らはQMSリーダーであり、社内研修の講師でもあり、新人の品質教育のリーダーでもあります。月刊アイソスの記事をコピーして、研修テキストとして使うこともよく行われています。そこでお願いしたいのは、品質教育のリーダーが社内研修で使えるような品質管理入門テキストを書いていただきたいと考えております」ということでした。

引き受けました。お引き受けした理由には、ISO 9001認証が品質管理に取り組む契機になった方々に、品質マネジメントの深遠さをお伝えしたいという思いもありました。

そうした思いを抱くには伏線がありました。ISO 9001の普及によって、QMSと言えばISO 9001が提示する品質マネジメントシステムで、これこそが品質マネジメントの唯一無二のシステムモデルと考えている方がいらっしゃるようですが、本当に勘弁してほしい、きちんと視野を広げて全体を見てから論評してほしい、と思ったことです。今があるのは、過去があり、現代の環境を踏まえて過去の知見を再構成しているからなのに、自分が知っていることがすべてで、他は傍流、亜流、派生と考えているかのような方にお会いして、滑稽さを感じるとともに憐憫の情がわきました。そうではない、柔軟な頭の持ち主に、少しでも品質管理の奥深さをお知らせしたいと思い、連載を決意しました。

私の背景を少しだけご説明しておきます。私は東大工学部の計数工学という学科で学びました。「計数」というと数を数えると思うかもしれませんが、そうではありません。「計測」+「数理」の頭の一文字ずつをとって作った造語です。その「数理」コースで学びました。

卒業研究で「統計」の研究室を選びました。工学部の統計ですから、理学部での清らかな統計ではなく、応用統計、統計解析です。私が学んだ1970年ごろ、統計的方法の有力な適用の場は品質管理で、関わりを持つようになりました。修士課程のとき、さる品質管理セミナーの書記を務めたことがきっかけです。全カリキュラム180時間のうち7割ぐらいがSQC(Statistical Quality Control;統計的品質管理)をカバーするセミナーです。

修士修了後にフツウの企業に就職がかなわず、電通大の助手に奉職しました。そして間もなく、当時同じ学科にいらした狩野紀昭先生(電通大→東京理科大)に連れられて、企業の品質管理推進の現場での共同研究のようなことを始めました。電通大には2年いて、その後1976年に、日本の近代の品質管理の父ともいうべき石川馨先生のあとを継いだ久米均先生の助手になりました。

この2〜3年のうちに、統計を始めとする手法・技法よりも、マネジメントの方が遙かに重要と痛感しました。また、品質管理の発展に同期するかのように、製造工程の管理より、その上流である設計プロセスに異常な関心を持ちました。製造工程での品質を統計的に管理するのではなく、1回しか実施しないように見える設計という高度に知的なプロセスにおいて、まともなアウトプットを産出するために、どのような原則に従ったマネジメントをすべきか検討しました。このとき考え始めたことが、後々まで私の思考法の原点になりました。

品質分野で取り組んだのは、TQM(TQCの革新)、(設計)知識の構造化、ソフトウェア品質、医療質安全、原子力安全、国際的QMS認証制度などです。いろいろ手がけてきて、私にとって品質マネジメントとは「一般化目的達成学」、すなわち「妥当な目的の設定と目的達成のための合理的な方法論の全体像」と思えるようになりました。

いまさらりと「国際的QMS認証制度」と申しましたが、要するにISO 9000とそれをシステム基準とする認証制度ということです。最初の出会いは1982年のことでした。1980年に産声をあげたTC176(品質保証と品質管理)に日本も参加することになり、久米先生が代表として出席するようになりました。同時に国内対応委員会も組織されました。久米先生の助手だった私は、委員会への出席を指示され、参加するようになりました。日本は1985年にTC176東京総会を開きました。最盛期には参加者は300名以上に膨れあがりましたが、このときは50名程度で、かわいいものでした。私のTC176国際会議への参加はこのときが初めてです。その後は、TC、SCの総会を始め、担当するグループの会議にはほぼすべて出席しました。最後の出席は2013年です。

QMS認証には、日本での認証制度立ち上げに関わりました。1993年11月1日にJABが発足しますが、その前3年ほど制度設計に関わりました。JABとは、MS認定委員会の委員長を長く務めるという関係がありました。2000年ごろから2012年までです。その後JABの評議員を4年勤めたあと、理事長になったという次第です。

この連載講座を通じて読者の皆様にお伝えしたいことは、次のようなことです。第一は、品質マネジメントの説明を通して、私なりの「マネジメント論」を展開したいと考えました。品質管理というと、品質を達成するための工学的方法論と思われるかもしれませんが、決してそんな範囲にはとどまりません。品質概念とは、すなわち目的志向の思想に他なりません。マネジメントとは、目的を効率的に達成するためのすべての活動です。すると、品質マネジメントとは、まともな目的を設定し、その目的を合理的に達成するための方法論の体系と言えることになります。「一般化目的達成学」と言い換えてもよいはずです。

第二は、適合性評価において多かれ少なかれ精通しているべき「マネジメント」あるいは「マネジメントシステム(MS)」について、その基本となる品質マネジメントの全貌を、適合性評価に関わる方々に伝えておきたいと考えました。MSの適合性評価は、直接的にMSに関する基礎知識を要求されます。製品認証においても、基準に適合する製品を供給する能力という点で、MSの評価が重要な要素になっています。

第三は、品質マネジメントを通して、私自身がこの40年余の間に得た、生きる上で有用な知見の数々を伝えたいと考えました。これは年寄りの戯言と言えなくもないのですが、私自身は、品質マネジメントを通して、かなり賢くなれたと思いますので、その一端を伝えたいと考えました。

2. 人と組織を賢くする品質マネジメント

その手始めに、品質マネジメントの思想と方法論をマスターすると、人も組織も賢くなるということをご紹介しておきたいと思います。

「賢い」とか「頭が良い」とは、どういうことだと思いますか。私はこのことを、正月に新年のご挨拶とか言いつつ、しこたま飲み食いにくる卒業生との議論を経て、何となく分かってきました。頭が良いとは、①目的が分かる、②因果関係を考える、③本質を把握できる、などの程度をいうと考えてよいと思います。

卒業生との議論では、はじめ記憶力が話題になりましたが、これは即座に否定しました。年をとっていく者には面白くないし、記憶力が良いから賢いなんて考えたくもありませんでしたから。次に、上の③の本質把握、雑然としたことから本質を見極める力、訳の分からぬ話を鮮やかに理解する能力などが話題になりました。でもこれも面白くありません。遺伝で決まってしまうに違いないからです。そこからは、延々と、訓練で向上できる能力、努力で何とかなる能力について、酔っぱらいの議論が続きました。

努力できるということ自体が、頭が良いということに他ならないとなって、それからはなぜ努力できるかについての議論が続きました。努力できるのは、①目的が分かっているから、②目的達成への手段が分かっているから、となって、それが①目的志向、②因果関係・目的手段関係考察へとつながりました。

この話のオチは、これらの3つの側面は品質マネジメントによって醸成されるということにあります。品質の考え方で最も重要なのは、品質の良し悪しは顧客が決めるということです。提供する側の価値基準では決まらないということです。これはコトの良し悪しが外的基準で判断されるということで、目的志向にほかなりません。これが頭の良さの①につながります。品質マネジメントでは、何かあると「なぜ?」と聞きます。問題が起きれば原因を問題にします。何かあると、ごく自然に「何でだ?」と自問します。あるお題を出されれば、どのようにしてそれを実現しようかと手段を考えます。これが頭の良さの②を鍛えます。品質マネジメントでは、深い再発防止、水平展開、共通要因とかいって、物事の本質を理解し、その教訓を広く適用しようとします。これが、頭の良さの③に少しは貢献するでしょう。

こうした思考・行動を長いこと繰り返すうちに、品質マネジメントをマジメに続けると、人も組織も賢くなるというのです。これらの思考様式を促す品質マネジメントの基本的考え方については、次回以降解説していきたいと思います。

本当に賢い人にとっては、傍らの子供がギャーと泣いても、何か得るところがあるに違いありませんので、品質マネジメントに限らず、あらゆる思想・方法論は人を賢くするに違いありません。でも40年余り付き合ってきてみると、品質マネジメントというのは、なかなか味わい深く、その深遠なる考え方や方法論をご紹介する価値は大いにあるな、とつくづく感じます。

3. 品質管理の系譜

歴史から語るというのは教師の悪い癖かもしれませんが、やはり品質管理の発展の経緯について少しは触れておいた方がよいと思いますので、ご辛抱下さい。

3.1 品質立国日本

1980年のこと、米国の3大テレビネットワークの一つNBCで“If Japan can ..., why can't we?”という番組が放映されました。番組の主題は、工業製品において世界に冠たる品質と生産性を誇り奇跡的な経済発展を遂げた日本の成功の理由を分析し、「日本にできてなぜ米国にできないのか」と訴えるものでした。バブル経済崩壊後、経済構造の変革に手間取る日本、そして一方では自信を取り戻した米国を考えると隔世の感があります。

でも確かに、歴史的事実として、日本は、1980年代に、品質立国日本、ものづくり大国日本、ジャパン・アズ・ナンバーワンなどともてはやされ、品質を武器に工業製品の競争力を確保して世界の経済大国にのし上がったことは間違いありません。

まず手始めに1970年代に、鉄鋼において大型の高炉とコンピュータ制御を武器に米国の鉄鋼産業に致命的な打撃を与えました。そして、低燃費、高信頼性、高品位によって米国の自動車産業に殴り込みをかけます。さらには、家電製品、半導体でも、圧倒的な高品質、高信頼性、合理的な価格によって、世界の市場を席巻しました。ついには、日米経済戦争などといわれる経済摩擦を起こすに至りました。こうした経済・産業活動を支えたもの、それは日本的経営と日本的品質管理でした。

3.2 TQC

日本の品質管理の思想・方法論は長いことTQC(Total Quality Control:総合的品質管理)と呼ばれていました。そのTQCの何たるかをひとことで表現するのは易しくありません。その発展の過程において確立されてきた様々な概念、思想、哲学があり、先人の血と汗と涙の結晶ともいえる優れた技法、手法があります。TQCは、枝葉末節を取り払うと、「品質を中核とした、全員参加による改善を重視する経営管理の一つのアプローチ」と表現できます。

TQCの特徴は三つのキーワード、「品質」「全員参加」「改善」に凝縮されると言えます。組織は顧客にその組織のアウトプットである製品・サービスを提供することによって存続できます。TQCには、そのアウトプットの品質を経営の中核に置くべきであるという哲学があるのです。そして、アウトプットの品質を確かなものとするには、それを生み出すプロセスの品質を上げなければならないと主張します。

TQCはまた、組織のアウトプットの品質を達成するために、組織を構成する全員による参画が効果的、効率的であることを証明してきました。品質を確保するためには、固有技術とその技術を活かす管理システムの双方において高いレベルが要求されます。TQCは、いついかなるときも十分とは言えない、これらの技術および管理システムを改善するよう推奨し、そのための豊富な道具も提供してきました。TQCは古典的な経営学(経営論)にあきたらなかった経営者を引きつけました。それは古典的経営論にはなかった新しい考え方や方法論が、競争力のある企業の基盤を構築するうえで有効で魅力的だったからです。

収入の基礎となる組織のアウトプットの品質を中核に置くことは、いわれてみれば当然のことです。組織のアウトプットの品質を確保するための活動は、それを生み出す仕事の質の向上をめざす活動につながり、結局は組織の質そのものを向上させる活動となります。さらに、全員参加の思想に基づく経営は、管理する人/される人、多数の考えない人の存在という構造から、全員が目的達成のために努力するという極めて効率的な組織運営への変化をもたらします。

改善を重視するという方法論もまた魅力的でした。これは、プロセス、システムを定義してそのとおりに実施させるという欧米の管理スタイルにはないものであり、したがって古典的経営論の教科書には書かれていません。一部の優れた人が構築した枠組みで多数の人が働く構造ではなく、全員が今より高いところをめざし、不十分でもとにかく動き始めるという独特の経営管理哲学をもっています。各部門の個別の改善の寄せ集めがいつのまにか総合的な品質管理システム、経営管理システムの構築につながっていく推進方法も斬新でした。しかも、改善が決して単なる精神論ではなく、科学的問題解決法、統計的データ解析法、言語データ解析法などの確かな科学的方法に裏付けされていたのです。

TQCは日本的品質管理の代名詞のように思われていますが、最初にこの用語を使ったのはA.V. Feigenbaum[A.V. Feigenbaum (1961): Total Quality Control, McGraw-Hill]です。彼は、それまで品質部門の仕事であったQC(Quality Control:品質管理)を、会社の全部門の品質スタッフの仕事にしてシステム化すべきであると主張し、その新しい概念をTQCと名づけたのです。

この魅力的な用語を知った日本の品質管理界は、見事な(誤解に基づく)拡大解釈をしました。三つの意味でTotal(総合的)な品質管理にしたのです。第一にFeigenbaumの主張と同じく全部門の参加、第二に経営トップから第一線の作業者・事務員までにわたる全階層の参加、そして第三に品質中心という原則を堅持しつつも、品質だけでなくコスト、量・納期、安全などあらゆる経営目標を品質管理の対象としたのです。

3.3 TQCの発展

日本の近代的品質管理は1949年に始まったと言えます。1970年代に至る20数年の間に日本の工業の発展とともに、いや工業の発展を支える管理技術として、大きな発展を遂げました。それは、1950年代の製造業の製造部門における製造工程での製品品質の管理から、生産準備、設計、企画などの上流工程へ、生産技術、設計、営業、事務などの部門へ、製品品質だけでなくコスト、量・納期、安全なども管理の対象にする、というように拡大してきました。TQCを適用する業種も建設、電力、サービス、ソフトウェアなどの非製造業へと広がりました。

1980年代半ばまでTQCは我が国の製造業を中心に高い評価を受けてきました。それはなぜでしょうか。要は時代の要求に合致していたということだと思います。すなわち、企業経営において最も重要であった、良いものを安く作るための経営システムの構築に多大な貢献をし得る方法論であり、長期的利益の基盤の構築に直結するものでした。このように、わが国の工業の発展において、製品の品質を経営戦略の中核に置くことが有効であり、そのための様々な概念と方法論をTQCとして提供してきたからにほかなりません。

お客様あるいは品質という概念、さらには経営における品質の重要性を真に理解し、行動に移すことは容易ではありません。このように、TQCは、アタマでは分かってもカラダで理解することが難しい品質管理を有効に機能させるために、理論と実践の両面から様々の表現、方法論、手法を通じてその核心を語ってきました。しかもこれを信じた組織の成功ということで有効性を実証してみせたのです。

管理とは、単なる監視でも統制でもありません。TQCは、組織における管理の概念や有効な方法論を、PDCAサイクル、プロセス管理、事実による管理、重点志向、源流管理、未然防止などによって提示し、その有効性を実証しました。また、TQCは、全員参加による改善の重要性を説き、その有効性を遺憾なく実証しました。これらは管理論における思想革命でした。QCサークル活動(第一線の職場で働く人々が継続的に製品・サービス、仕事などの質の管理・改善を行う小グループ)はこの思想革命を具現化する場であったのです。

TQCは、品質や管理にかかわる思想だけでなく、これらの思想を具現化するための具体的手法をも備えていました。単なる思想、概念、理論だけでは、実践において有効ではあり得ません。いわゆるQC手法の開発と適用例の提示によって、製品・サービス、プロセス、システムの改善を現実のものとしました。

組織における経営管理体制の改善・改革にはトップのリーダシップが必須です。TQCは、高度な思想をトップの指導のもとに全員で具現化する方法であり、経営トップ層を巻き込む活動であり得ました。これもまた、TQCが現実に適用され有効であった一つの理由となりました。

以上を要約すれば、TQCの強み(アイデンティティ)は、品質概念の普及・啓発と管理の大衆化にあったといえます。全社で品質中心経営を遂行していくには、高度な思想や方法論が必要です。これらを分かりやすく実施可能な形で提供し大衆化に寄与したのがTQCでした。それが経済成長・市場拡大期に必要となる企業経営における価値観・方法論と合致し、その結果として多大な寄与をしました。

3.4 TQM

1995年ごろから、TQCをTQM(Total Quality Management:総合的品質管理、総合質経営)と呼ぶ企業が増えてきました。TQC界においても、経営環境の変化の中で、これまでのTQCをその中核として継承しつつも、新たな品質管理のモデルとしてのTQMの再構築が図られました。

こうした状況を踏まえてTQCを発展的に再構築しようというTQMの全体像[TQM委員会:TQM−21世紀の総合「質」経営、日科技連出版社、1998]が示されるようになりました。すなわち、

• TQMがめざすものは、「企業目的の達成への貢献」である。それは、「存在感」のある組織の実現、組織の使命(ミッション)の達成、適正利益の継続的確保であり、すなわち、顧客・従業員・社会・取引先・株主との良好な関係・満足度の向上である。
• これら企業目的の達成には、顧客の視点、質の追究という経営哲学に基づく顧客満足の高い製品・サービスの提供が基礎として必要であり、それを現実のものとするのが「組織能力(技術力・対応力・活力)」の向上である。
• こうした組織能力は、全社の組織を効果的・効率的に運営する体系的活動によって現実のものとなる。すなわち、「経営トップのリーダシップ、ビジョン・戦略」のもと、「TQMの考え方・価値観」と「科学的手法」を適用することにより、主要経営基盤としての「ひと」と「情報」という経営リソースを重視し、管理・改善・改革の考え方を具現化する適切な「経営管理システム」のもとで「品質保証システム」と「経営要素管理システム」の合理的な運営によって実現される。

4. TQMの構成要素

このような全体像で表現されるTQMがどのような要素から構成されているかをうまく説明するのは容易ではありません。ここでは、基本的考え方、管理システム、手法、運用技術の4つに整理し、図表1に示しておきます。


わが国においては、おもに工業界が、戦後30年ほどでその骨格を形成し、その後も経営の中核に位置づけているTQMと称される品質管理の全貌は、製品の検査やクレーム処理といった狭い範囲にとどまらず、組織を構成する人々の能力開発、意欲向上までをも視野に入れる総合的な経営ツールなのです。

4.1 基本的考え方

図表1に示すように、TQMには、TQMの名のもとで実施されるさまざまの活動の指針としての哲学・思想・価値観があります。これらTQMの基本的考え方について、この連載で触れていくことにします。

4.2 管理システム

企業・組織の組織能力向上のために、全社の組織を効果的・効率的に運営する体系的な活動において、TQMはその基本的考え方を具現化する経営システム・経営リソースの管理の方法論を有しています。TQCが提案し経営一般に普及した「方針管理」「日常管理」を中心に、品質のための管理システムについてもこの連載で触れることにします。

前述したように日本的品質管理は1980年ごろまでに大成功を収めます。電気・機械の組立製品や自動車など一部の工業製品分野で世界的な競争力をもつことに大きく貢献しました。この時代までに、品質管理の中心的課題である製品・サービスの品質保証の方法論に関するさまざまなノウハウが蓄積されました。これらはおもに組立製品分野での知見であり、他の製品分野への適用にあたって限界がないわけではありませんが、それでも品質保証に関わる普遍的な知恵から学ぶべきことが少なくありません。これら品質保証に関わる概念、方法論についてもこの連載で触れます。

TQMは経営システムにおける総合的な品質向上のための方法論であり、狭義の品質(提供する製品・サービスの技術的品質特性)のみならず、原価、量・納期、安全性など製品・サービスに関わる広範な特性もまた管理の対象となります。通常の組織は機能的組織形態をとっていますので、品質と同様に他の経営要素、経営目的についても組織を横断的に管理するシステムが必要です。この管理はTQCにおいて「機能別管理」と呼ばれるものですが、組織の経営要素、経営目的の管理です。機能別管理(経営要素管理)においては、まず、機能的組織形態における部門横断的管理(マトリックス組織運営の一形態)の必要性と重要性を認識することが必要です。品質以外の代表的な機能別管理としては、量・納期管理、原価管理、環境マネジメント、安全・衛生・労働環境管理などがありますが、TQMはこれらについてのシステムモデルを有しています。

TQMは経営システムのレベル向上のために、経営リソースの質的向上が必須であり、とくに「ひと」と「情報」が重要であると認識しここに力点を置きます。品質管理において人の重要性は繰り返し強調されてきました。TQMは、経営における「ひと」の位置づけ、教育・訓練、人の尊厳の尊重、一人ひとりの参画などについて、多くの主張をしてきました。重要視すべきもう一つの経営リソースは情報です。経営において情報が重要であることは、これまた時代を問いません。いま重視しなければならない背景には、「知識ベース」と「スピード」という経営ニーズと、「情報技術の進展」というシーズにあります。TQMは、経営における「情報」の位置づけ、情報システム、解析と意思決定支援、標準化と構成管理などについて多くの知見を提供しています。

4.3 手法

TQMの実践において、おもに問題解決・課題達成において、さまざまな手法を活用します。TQM独自の手法もありますが、大半は既存の手法をTQMの目的達成の道具としてどう使うかの試行錯誤のうちに、適用法も含めて洗練させてきたものです。

4.4 運用技術

TQMは、製品・サービスの品質向上を核にした組織的経営改善のツールとして有効です。こうした経営科学の方法論であるためには、TQMを使いこなすための技術が必要です。TQMは図表1に掲げたような運用技術を有し、組織におけるその推進に寄与してきました。

5. 次回以降のテーマ

変更するかもしれませんが、次回以降は、下記に示すような主題を取り上げる予定です。

第2回 品質第一
第3回 品質保証
第4回 管理≠締め付け
第5回 管理の要諦
第6回 標準化≠画一化
第7回 人間尊重
第8回 問題解決
第9回 日常管理
第10回 方針管理
第11回 品質管理手法
第12回 持続的成功

問題

次回以降の講座で説明することになる側面もありますが、以下の問いかけにどう答えますか。

[1] 「品質概念とは目的志向にほかならない」とはどういう意味でしょうか。

[2] 「品質立国日本」はなぜ成立したのでしょうか。いまでも生きている行動原理は何だと思いますか。

[3] 品質管理をやると儲かるのでしょうか。利益と顧客満足は両立できるのでしょうか。