連載記事 飯塚悦功
第5回 クレーム処理

「品質保証」について書いているうちに、その代表的な活動である「クレーム処理」について書いておきたくなりました。この調子でいくと、この連載は1年では終わりそうにありません。

1. クレーム発生

販売した製品に対する市場での品質問題の処理は、品質保証活動の重要な要素です。顧客から寄せられた苦情やクレームに対して、これらをどの様に処理すべきか、例を使いながら考察してみたいと思います。



機械製品の設計・生産・販売を行っているある会社に対して、この会社の製品を買ったユーザーから、 回転部分で「異音」が発生しているから直してほしいとの訴えがあり、回転軸を交換しました。この会社はこの品質問題に対してどう対処すべきでしょうか。



1.1 苦情、クレームとは

この例のような、「品物やサービスの欠陥などに関して、消費者や製造者が供給者に対して持つ不満」のことを「苦情」と言います。苦情のうちで、とくに修理、取替え、値引き、解約、損害賠償などの請求があり、供給者がクレームと判定したものを「クレーム」と言います。

苦情は、その表明ならびに判定形態により、図表1のように分類されます。



機械製品の回転部分の「異音」についての苦情は、「具体的請求を伴う苦情」です。この会社は、この苦情に対して、きちんとした手続きでのクレーム判定はしませんでしたが、実際にはクレームと同じ処理をしました。



1.2 苦情処理とクレーム処理

苦情を表明した使用者の不満を取り除くための活動に加えて、他の使用者の持つ不満をも含む同種の苦情の再発防止や苦情情報の収集・解析・活用を「苦情処理」と言います。苦情処理のなかで、クレームに対して無料で行う修理・取替え・部品交換の請求、あるいは値引き・解約・損害賠償請求に対する対応を「クレーム処理」と言います。クレーム処理は、苦情処理のなかで中核的な活動です。

2章以降で詳しく述べますが、苦情処理の概要は以下の通りです。

(1) 応急処置
① 苦情の受付
② 現品調査または実地調査
③ クレーム判定
④ クレーム品に対する修理・取替えなどの処置
⑤ クレーム処理報告書の発行
(2) 解析
⑥ 現象の的確な把握
⑦ 重要品質問題への登録
⑧ 解析担当部門の決定
⑨ 解析担当部門による現品調査または実地調査
⑩ 不具合原因の究明
⑪ QMSの不備の解析
(3) 対策
⑫ 対策案(方法、範囲)の立案
⑬ クレーム品と同一の製品に対する処置
⑭ 他の製品に対する処置
⑮ 設計・製造・評価プロセスに対する処置
⑯ QMSの改善
(4) 苦情情報の活用
⑰ クレーム処理報告書の作成
⑱ 苦情情報の分析

1.3 品質管理における苦情処理の重要性

苦情というのは、使用者などが製品やサービスに対して欠陥を指摘し、何等かの処置を求めるものですから、訴えられた方にとっては決して楽しいものではありません。しかし、苦情処理は品質管理活動のなかで極めて重要な活動の一つです。

なぜなら、苦情処理は、

① 製品の欠陥によって生じた使用者の不満を解消し、信頼を維持するための活動
② 同種の製品に今後同様の苦情が生じないように予防するための活動
③ 保有する技術の不足や、ユーザーがその製品の品質に対して持っている要望を知るための活動
④ 品質マネジメントシステム(QMS)の不備を改善するための活動

だからです。苦情処理は1つの失敗から多くのことを学び、より良いQMSを構築するための前向きな活動なのです。



「異音」クレームについてなすべき処置は、単に苦情を申し出たユーザーの所有する製品の回転軸を交換して修理することだけには止どまりません。もしこの不具合が、安全性あるいは機能上の重大な欠陥に関連するものなら、すでに販売した製品に対して回収・修理などの処置が必要です。今後生産する製品が同様の苦情を引き起こさないためには、生産工程や設計仕様の変更が必要です。「異音」に関する技術が不足しているなら、この機会に充実させねばなりません。この苦情が、「異音」のレベルについて、ユーザーが、会社側が考えているよりずっと高い品質要求を持っていることの現れであるのなら、市場の要求レベルを再確認するための調査が必要です。さらに、「異音」という欠陥を作り込み、見逃して、ユーザーからの苦情を受けるに至ってしまった、この会社のQMSの不備を明らかにして改善する必要があります。



1.4 クレーム処理の管理

クレーム処理をその目的通り実施していくためには、クレーム処理そのものに対する管理が必要です。クレーム処理の主管部門では、クレーム即時処理率(たとえば24時間以内に修理や交換が終了した件数の割合)、クレーム再発率(処置済みでありながら同種のクレームが再発した割合)、クレーム発生率(ある一定期間に製品一個当たりに発生したクレーム件数)、クレーム費(クレーム処理に要した総費用)などの管理項目を設定し、クレーム処理の実状を把握し必要な処置をとっていく必要があります。

2. 苦情に対する応急処置

苦情処理において、まず苦情を表明した顧客に対する処置が必要です。この活動は顧客の不満を解消し、信頼を維持するためのものですから、迅速、正確、誠実に行う必要があります。この活動によって顧客の怒りが鎮まるばかりでなく、逆に信頼をかち取ることさえできることがあります。どのような活動をすべきでしょうか。

2.1 苦情の受付け

苦情の受付けは、小売店、サービス店、営業所などの流通経路を含めて、種々の窓口においてなされます。したがって、受付けにおける処理方法、留意事項について関係者に十分周知しておく必要があります。苦情の受付けの主管部門を決めておき、受付けられた苦情のすべてがこの部門に集まるようにしておくとよいでしょう。

2.2 現品調査と実地調査

受付けられた苦情については、できるだけ現品を入手するか、実地調査をすることが望ましいです。苦情の現象の正確な把握が引き続く活動を円滑にするからです。

2.3 クレーム判定

苦情が修理・交換など具体的請求を伴う場合、その苦情をクレームとして処理するかどうかを判定します。クレーム判定は、製造側において、カタログや品質保証書などに記載されている事項を基準として行います。

「品質保証書」は、製品の引き渡し時に使用者に対して交付される製造側の証書で、その製品が意図された使用条件のもとで、意図された使用目的を満たしうることを保証するとともに、もし使用時にその製品に欠陥が生じた場合には、無料で処理することを明記したものです。通常、品質保証書には、保証者、保証事項、非保証事項、保証期間、保証内容(クレーム処理の内容)、クレーム処理の手続き、顧客の費用負担などの内容を記載します。記載にあたっては、法令ならびに社会的慣行を十分考慮する必要があります。

クレームと判定されない苦情としては、保証期間切れのもの、使用者の誤使用・異常使用など使用者側の責任によるもの、消耗部品に対する請求などがあります。なお、保証期間切れのものであっても、製造者側の責任による重大な欠陥についてはクレームと判定する必要があるでしょう。また、基準の上ではクレームと判定できないものであっても、営業上の理由でクレームと同じ処理をすることもあります。

クレーム判定を小売店、サービス店などの代行店に依頼する場合には、とくに、その判定基準を明確にしておく必要があります。

2.4 クレーム品への対応

クレームと判定された苦情については、修理、交換を無料で実施したり、値引き、解約、損害賠償などを行います。クレーム処理を代行店に依頼している場合には、クレーム判定と同様に、処理方法、経費請求などの手続きを明確に定め、それに従って確実に実施されるようにしておくことが大切です。

2.5 クレーム処理報告書の発行と主管部門への送付

クレームとして処理した苦情については、クレーム発生状況とその処理内容を「クレーム処理報告書」に記録します。この報告書は、クレーム判定及びクレーム品への対策を実施した部門で作成し、クレーム主管部門へ送付します。クレーム処理報告書は、引き続きなされるこのクレームに関する処理内容の記録のためにも利用されます。クレーム処理報告書に記載すべき内容については、5章で触れます。



「異音」クレームの処理状況は次のようでした。顧客はその苦情を、はじめは、販売・サービス代行店に持ち込みました。その代行店は、その会社の製品以外も扱っていたので、このクレームより前に同様の苦情が何件もありましたが、適当にあしらっていました。ところが、あまりにも件数が多く、しかも今回の顧客からは修理を強く要求されたので、仕方なく回転軸を交換しました。代行店で握り潰された他の苦情は、その会社からみれば潜在苦情です。苦情の報告がされないことと苦情がないこととは異なることに注意しなければなりません。

回転軸の交換には一週間かかりました。こんなに時間がかかっても良いものでしょうか。欠陥が異音ですから、修理するまでの間この製品を使えないわけではありませんが、1日か2日で直さなければいけないでしょう。交換した回転軸は危うく捨てられるところでした。その会社の経理担当者が、交換した現品がなければクレーム処理費用を払えないと言ったので、ようやく現品を入手できたのです。この会社のサービス部門が、あとでこの回転軸を調べてみたところ、偏摩耗していました。

クレーム処理報告書は経費請求のために発行されていましたが、欠陥の内容については何も書かれていませんでした。この製品の保証期間は1年で、その顧客の場合には購入して3ヵ月でしたので、クレームとして処理してよかったのですが、クレーム判定の基準は代行店には伝わっていませんでした。

3. クレーム解析

苦情を表明した顧客に対する直接的処置によって、確かにその顧客は不満を解消することができるでしょう。しかし、これだけでクレーム処理のすべてが終わったわけではありません。クレームの原因を究明し、それに対する処置をとらないと同様のクレームが続々と発生することでしょう。欠陥現象そのものの除去のみならず欠陥の原因を除去しなければ、品質管理のレベルは上がりません。クレームの原因を究明しこれに対して処置をとる活動としてどんなことが必要でしょうか。これらの活動は、1つの失敗を他へ波及させないためと、この失敗からできるだけ多くのことを学びとるための活動として重要です。

3.1 クレーム現象の正確な把握

クレームの原因を究明するための最初の重要なステップは、欠陥現象の正確な把握です。このためには、苦情の受付けからクレーム判定までのステップが極めて重要です。クレーム品の製造番号、クレーム品の使用開始時期・使用頻度、欠陥が発生した部位、欠陥の内容・発生月日、欠陥発生時の使用状況・使用環境などに関する情報を入手し、できる限り現品を入手するか、必要なら現地を調査します。

この調査によって、そのクレームが重大な欠陥によって引き起こされており、使用・安全に及ぼす影響が大きく、徹底的な原因の究明と対策が必要なのか、それともユーザーの使い方に関して開発者が気付いていない点があったのかが分かります。あるいは、外観の欠陥など使用に及ぼす影響が小さいとか、すでに対策方法が確定しているため、クレーム品に対して処置をすればそれで済むものかが分かります。

3.2 重要品質問題への登録

クレームのうち使用・安全に影響が大きいもの、あるいは解決に部門間の連携が必要となるもので、全社的見地からみて重要なものは、全社的にオーソライズされた重要品質問題として登録し、クレーム主管部門において、クレーム解析・対策の進捗状況のチェック、対策の有効性の確認、及び対策完了の判定による登録解除を定められた手続きのもとに実施し、早期解決と処置の徹底を図るとよいでしょう。

とくに、新製品の初期流動段階のクレームは、できるだけ早く、確実に原因を究明し解決を図る必要がありますので、積極的に重要品質問題として登録すべきです。

3.3 解析担当部門の決定

クレームの原因究明を担当する部門を決めます。担当部署はそのクレームの原因に関する固有の技術を有していなければなりませんので、3.1節のクレーム現象の把握の際に、原因に関しておおよそのこと、たとえば製品の仕様に問題がありそうなのか、製造工程に問題があり仕様通りの製品になっていないのかという程度については分かっていなければなりません。

3.4 解析担当部門における現品調査と実地調査

解析担当部門が、欠陥の原因究明を目的として、現品を調査したり現地の調査を行います。例えば、顕微鏡による観察、化学分析、精密測定などを行い、クレーム品を詳細に観察します。使用・環境条件などに問題がありそうなときは、現地に出向き詳しく状況を調査します。

ときには、苦情のあった不具合そのものが再現せず欠陥の原因を究明しようがないこともあります。例えば、クレーム品を調べると正常に動作して、顧客が言うような不具合現象が現れないのです。このような場合は、必ず何かが起きているはずだという信念をもって、不具合現象を再現させるべく執念をもってことに当たらなければなりません。それでもノイズなどによる誤作動の状況を特定するのは容易ではありません。メカ的なトラブルでも、温度変化による動作部分の状態変化や微小な異物の存在が誘因になっているときには、再現が難しいことがあります。

問題解決にあたり、現物を観察し、現場に行くことは極めて大切なことです。事実が何であるかを把握せずに憶測に基づいた行動をとると、思わぬ誤りを犯すことになりかねません。まさに「事実は小説よりも奇なり」です。何が本当なのか、他人の根拠のない主張や噂に惑わされずに、しっかりと事実を把握しなければなりません。

3.5 欠陥の原因の究明

その欠陥がどのようにして発生したのか、そのメカニズムを究明します。このためには、欠陥の現象と製品の使用状況(使用・環境条件)をよく確認して、いくつかの欠陥発生のメカニズムを想定し、どのメカニズムで起きたのかを事実に基づいて論理的に証明します。

この際、製品に固有の技術とともに、統計解析、実験計画法、故障解析などの手法を利用すると効果的であり効率的でもあります。ときには、シミュレーション、試験、再現実験を行うとよいでしょう。再現実験とは、クレームとなった欠陥が発生する条件を確認するために、クレームと同じ欠陥を意図的に発生させる実験であり、原因究明の手段として有効な方法です。



「異音」クレームの解析状況はこんな具合でした。実は、この会社は、このクレームに対して、しばらくの間、クレーム品そのものに対する処置以外は何もしていませんでした。ところが、同じクレームが相次ぎ、また「異音」以外にも「回転軸ガタ」「回転軸回らず」というクレームも数多く発生して、クレーム処理費用がかさみ、見過ごすことができなくなっていました。

クレーム品を回収して調べてみると、いずれも回転軸が偏摩耗しており、特に「回転軸回らず」はその程度が激しいものであることが分かりました。クレームの発生状況を調べてみると、欠陥は特別な環境や特別な使い方をして発生したわけではなく、通常の使用方法で起きていることや、使用開始後100〜500時間という比較的短時間のうちに起きていることなどが分かりました。

この会社には重要品質問題登録の制度はありませんでしたが、このクレームが社内で大問題となるに及んで、品質部門が中心となって、設計部門、生産技術部門、製造部門の技術者がチームを作って解析にあたりました。すると、偏摩耗している部分の硬度が低く、部品仕様を満たしていないことが分かりました。硬度が低い原因を探ったところ、回転軸の焼入れ工程の温度が低く、そのため焼入れ時の温度降下速度が設計した速度より緩やかであるため、そうなったのであろうということが分かりました。すると、最初にクレームを申し出たあの顧客の所有する製品に対して交換した新しい回転軸も、適切でない製造条件で生産されたものかもしれないので、いずれまた「異音」が起こる可能性があることになります。



3.6 QMSの不備の解析

クレーム品が作り込まれ、種々のチェックで見逃され、ついには顧客の手に渡ってしまったのは、品質管理の方法にも問題があることを意味しています。根本的な改善を行うためには、

① クレームとなった欠陥を作り込んでしまった工程とその原因
② その欠陥を見逃してしまった工程とその原因

の2つの観点から分析すべきでしょう。

ある欠陥は、その欠陥に関わる特性が設計仕様に盛り込まれていなかったり、不適切な仕様であったために起きたのかもしれません。ある欠陥は、その特性が試作評価時に試験されずに見逃されたために起きたのかもしれません。ある欠陥は、製造工程で作業標準通りに作業されなかったために生じたのかもしれません。またある欠陥は、最終検査を実施したにもかかわらず判定基準が不明確なために見逃されて発生したのかもしれません。このような分析を通して、QMSの不備を発見し、改善に結び付けることが大切です。



異音クレームの場合、欠陥の技術的原因が解明され、要するに硬度を上げればよいことが分かったので、ここまでやれば十分だからもう解析を止めようという意見が多くありました。しかし、なぜ見逃されたのか明らかにする必要があるとの意見もあり調査を続行したところ、いろいろ分かってきました。焼入れ工程後の硬度は、1日の最初のロットから2つサンプルをとって調べ2つとも規格内であることを確認することになっていました。ときどき基準から外れることがありましたが、僅かの外れであったし、2つとも外れることはなかったので何の報告もされていなかったことも分かりました。

欠陥発生原因も見逃した原因も分かったので、チームは対策案の検討を始めました。しかし、一人の設計技術者が、自分だけで、クレームを再発させる実験を続けました。いろいろな温度条件で焼入れをし、硬度を測定し、さらに車軸の摩耗試験をして、硬度の低い部品が早く偏摩耗することを実験的に確かめました。彼は、設計部門が図面に指定した硬度ではやや不十分で、もう少し高く指定する必要のあることも明らかにしました。

この会社はここまでしか解析しませんでしたが、実はもっと深い解析が必要だろうと思います。例えば、硬度と摩耗の関係を示す技術標準がなぜ存在しなかったのか、他に必要な技術標準は何か、仕様の不十分さをデザインレビューで発見できなかったのはなぜか、試作品の評価のときにこの不具合を発見できなかったのはなぜか、作業者はなぜ標準を守らなかったのか、作業標準の教育方法に何か問題はなかったのかなど、品質を達成するための「製品に固有の技術」と「仕事の仕組み」のどこに欠陥があるのか検討すべきと思います。

4. 再発防止策

クレームの原因解析の結果、そのクレームを発生させるに至った種々の原因が明らかになったら、再発防止を目的とする対策を打ちます。どのような活動が必要でしょうか。

再発防止を目的とする対策には以下のようなものがあります。

① クレーム品と同一の製品に対する処置
② 他の製品に対する処置
③ 設計・製造・評価プロセスに対する処置
④ QMSに対する処置

ここに挙げたように、対策には、3章で述べたクレーム品そのものに対する処置にとどまらず、クレーム品と同一のすでに製造された製品に対するものから、QMSに対するものまで、様々のレベルがあることに注意すべきです。

4.1 対策案の立案

問題の性質に応じて、対策を実施する範囲を決定します。変更を行おうとする時には

① 新たな問題を引き起こさない
② 全体として統一のとれた変更を完全に実施する

の2点に注意します。

「より良いことは良いことの敵だ(The better is the enemy of the good)」という格言があります。変更によって、改善しようとした点については確かに改善されますが、思わぬところに副作用が現われることがあります。変更案を考えたら、その変更によってどんな品質トラブルが起こり得るか予測し、影響の評価をすべきです。

また、変更は矛盾なく実施されねばなりません。関連する変更は漏れなくあげ、それらの変更の間に矛盾のないことを確かめ、変更の情報を関係者全員に周知徹底しなければなりません。変更したはずなのに古い仕様で製造されて、再びクレームが起きるなどということがないようにしなければなりません。

4.2 クレーム品と同一の製品に対する処置

再発防止の第一は、クレームを起こした製品と同一種類の、すでに製造された製品に対する処置です。この処置は、クレームを起こした欠陥の影響が大きく、すでに製造・販売された製品についても処置をとる必要がある場合にとられます。

すでに顧客の手に渡っている製品について、状況によっては人に危害を及ぼす恐れがあると推測されたり、機能・性能上看過できない時には、欠陥のある製品が含まれる製品群について、その欠陥について公表し、無料で点検し、所要の修理・交換を行います。いわゆるリコールです。この処置を的確に行うためには、欠陥の原因の特定を速やかに行うとともに、日ごろから、いつどのように作られた製品群がどの顧客群に渡ったのかが特定できるという意味での製品のトレーサビリティ(追跡性)についての考慮がなされている必要があります。これが確保されていれば、処置をとるべき範囲が明確になり、不必要に広い範囲にわたる処置をしなくて済みます。

すでに販売された製品以外についても、販売店など流通経路にあるもの、製造者の倉庫にある在庫製品、あるいは製造工程の途中に仕掛かっている中間製品についても、販売済み製品と同様の処置が必要です。

4.3 他の製品に対する処置

クレームの原因となった部品、機構、原理を用いた製品はクレーム品と同一の製品以外にもあり得ますから、これらの製品群についても対策する必要があります。方法については前節4.2に準じます。

4.4 設計・製造・評価プロセスに対する処置

前節4.2、4.3は、すでに製造されたり製造途中にある製品群に対する処置ですが、クレームの再発防止のためには、これだけでは不十分です。これから製造する製品に対しても処置をとる必要があります。すなわち、クレームを起こした製品と同一の製品あるいは他の製品の設計仕様に、誤り・不備・あいまいさがあるなら、これを改めなければなりません。

製造工程について、クレームの原因が製造方法の誤り、管理水準の抜けや誤り、作業者のミスなどにあるのなら、これらを是正しなければなりません。生産技術上の問題については、技術者がこの工程について研究し、より良い標準を作成すればそれでよいのですが、作業ミスの防止は一般には難しいことです。作業者の教育・訓練とともに、できるだけミスを起こさないような工程の工夫、ミスを発見できる方法を考える必要があります。

部品・製品の品質評価に不備があって欠陥を発見できずに顧客の手に渡ってしまう場合もあります。これを防ぐためには、部品の受け入れ検査、工程中の検査、最終検査における検査項目の追加、測定機器の改善、測定方法の改良、判定基準の改訂などが必要です。

あるいは、包装・輸送・保管中の扱いによって欠陥が生じることもあります。その場合には、包装方法の変更、輸送手段の変更、保管環境の改善、出荷時の検査などが必要になります。



「異音」クレームの対策は次のように行われました。まず、クレーム品と同一の製品の回転軸の焼入れ温度が低くなったのは、熱処理炉の温度記録用紙を調べることにより6ヵ月前からであることが分かり、相当数の不良回転軸が組み込まれた製品が販売されてしまったことが明らかになりました。このクレームが安全上の重大な問題を引き起こすことは極めてまれであると考えられたので、交換用回転軸を販売・サービス代行店に配布し、クレームが生じたら直ちに交換ができる体制を作りました。また、同じ熱処理炉で処理した他の部品も多くありましたが、機能・性能上問題が現われることはないと考えられましたので、他の製品については処置をとりませんでした。  次に、設計・製造・評価プロセスに対する処置ですが、まず、図面の硬度規格は少し高いほうに変更しました。焼入れ条件についても、作業標準に明確に記述しました。また、焼入れ温度管理を確実に行うために、バッチ毎に温度を確認し記録を残すようにしました。焼入れ後の硬度チェックは、本来のルール通り、毎日の初バッチについて2本測定して記録をし、基準外の時には監督者に報告するようにしました。



4.5 QMSの改善

前節4.4の対策は、現在、製造・販売中の製品に対する再発防止策です。再発防止を真に実りあるものにするには、将来、企画・設計・製造・販売する製品群に対して何らかの処置をとる必要があります。3.6節の解析は、クレームの直接原因ではなく、そのクレームを引き起こしたQMSの不備の発見とその除去を行うためのものです。

もし欠陥が、関連する重要特性が設計仕様に盛り込まれていないために起きたのなら、仕様項目の抜けをなくすための方法を考え出さなければなりません。欠陥が、関連する特性が試作時に試験されずに見逃されていたために起きたのなら、試験項目の選定方法を改善しなければなりません。さもなければ、いま試験していない項目について同様の失敗が起こることでしょう。欠陥が、製造工程で作業標準通りに作業されていないために起きたのなら、作業者に対する作業標準の内容の教育・訓練の方法の不備を明らかにし、これを改めなければなりません。欠陥が、関連する特性について最終検査をしているにもかかわらず、判定基準が不明確なために見逃されたというのなら、判定基準の定め方を改善して、検査の計画時にその明確さを確認するように改めなければなりません。

読者諸賢は、たった1件のクレームに対してここまでの対策をとる必要があるのだろうか、と疑問を持たれるかもしれません。1件のクレームは、運が悪くたまたま出たものと思われがちですが、多くはそうではありません。その会社の「品質に対する考え方」「仕事のやり方」「品質を達成するために必要なその製品に固有の技術」など、本質にかかわる所に何らかの問題があって、その結果がクレームという現象につながるのです。1件のクレームは、その会社の品質管理の方法と保有する技術の不備の現われであって、1件のクレームの陰には何件ものクレームが潜在していると考えるべきです。失敗に対して「しまった」と言うのみで何もせずに放置することなく、これを生かすために深い解析をしてQMSのレベルアップを図らなければなりません。



「異音」クレームの処理において、製造工程に対する処置を決め、品質保証部長に報告したところ、部長は「QMSの改善もすべきである」と主張しました。しかし、他の品質問題が生じ、改善は進みませんでした。

本来なら、主な材料別に焼入れ条件とその結果得られる硬度の関係、さらに硬度と耐摩耗性の関係を調べ技術標準として蓄積し、今後耐摩耗性や硬度の設計の際に生かすべきでしょう。また、設計プロセスの改善のために、FMEAやDR(デザインレビュー)の本格的導入を検討するとよいでしょう。さらに、試作品の評価をきちんと行って、設計品質の確認を確実に行うようにすべきです。

製造工程の管理計画を立案する際には、QC工程表を作ったほうがよいでしょう。すなわち、各工程で作り込むべき品質とそれに関係する主な製造条件を明記し、その管理方法、たとえば、その工程で作り込まれた品質を、どんな頻度で誰がどんな方法で確認し、どう記録するのか、あるいは、製造条件のうち作業者が確認すべき項目は何か、その値はどんな範囲になければならないか、異常があった場合どんな処置をとるか、などを一覧表にまとめたものを全製造工程について作成するのです。

また生産技術者が作業者にQC工程表と作業標準を解説し、そこに書かれていることを守らないとどんな不具合が起こるか、きちんと教えるようにすべきでしょう。さらに、新製品の立ち上げ時に行う作業者に対する教育・訓練方法のマニュアルも作成すべきでしょう。

今のままでは、この回転軸に関するこの原因によるクレームはたぶん再発しないでしょうが、別の製品についての設計、試作、生産準備の不備によって、重大な品質問題が近い将来起きる恐れがあります。

5. 苦情情報の活用

苦情処理に関する情報にはどんなものがあり、これらの情報はどの様に活用すべきでしょうか。

5.1 情報源

苦情情報は、図表1に示したように、

① クレーム
② クレームと判定されなかった苦情
③ 具体的請求を伴なわない苦情
④ 潜在苦情

からなります。①、②は様式化されますが、③、④は販売・サービスの日報などから拾い出すものですから、一般には収集、分析が難しくなります。とくに、潜在苦情には、本来クレームとなるものが含まれる可能性がありますので配慮が必要です。これを積極的に収集しないと大事に至ることがあります。

5.2 クレーム処理報告書

クレーム処理報告書は、クレーム処理を円滑に進め、クレームの内容・処置の記録を残し、クレーム情報をのちに解析できるようにするために書かれます。クレーム処理報告書には、少なくとも以下の事項が含まれるようにしたいものです。

① ユーザー名
② クレーム品の製品名、製品番号、製造番号(またはロット番号)、使用開始時期、使用頻度に関する情報
③ 欠陥部位、欠陥内容、欠陥発生状況(欠陥発生月日、欠陥発生時の使用条件・使用環境など)
④ クレーム品に対する処理月日、処理内容、処理費用
⑤ クレーム解析担当部門、クレーム発生の技術上の原因(欠陥発生のメカニズム)、クレーム発生の管理上の原因(QMSの不備)
⑥ クレームの再発防止策の内容(クレームと同一製品に対する処置、他の製品に対する処置、設計・製造・評価プロセスに対する処置、QMSの改善内容)、実施月日、実施方法、実施部門、所要費用

クレーム報告書が的確に記入されるためには、その記入方法(記入時期、記入内容、記入部門など)について予め明確に定め、関係者に周知徹底しておかねばなりません。上記①〜④については、クレーム品に対する処置を行った部門で記入し、⑤はクレーム解析部門、⑥は対策実施部門において処理後すみやかに記入します。

とくにクレーム品に対する処置を代行店に依頼している場合、クレーム処理報告書の記入・提出について、予め取り決めておくとともに、その履行状況を定期的に把握し、必要に応じて是正処置を講じなければなりません。これが確実に実施されないと、製造者側から見て、クレームが潜在化することになります。

5.3 苦情情報の分析と活用

クレーム処理報告書は、個々のクレームに対する処理の進捗に役立てるとともに、定期的に集約して、製品別、内容別、部位別、使用者別、製造月(または製造ロット)別、重要度別、発生責任部門別、見逃し責任部門別などに分類・整理して、製品の市場での評価を知るため、社内の品質意識の高揚のため、将来の新製品開発への反映のため、QMSの改善のために活用します。市場評価、新製品開発への反映、QMSの改善などの目的のためには、クレーム以外の苦情情報も積極的に活用するとよいでしょう。

クレーム以外の苦情の解析によって他のことも分かります。クレームと判定されなかった苦情の解析によりクレーム判定条件、取扱説明書などの見直しができます。また、潜在苦情の分析は、苦情情報収集体制の見直しにも用いることができます。



 

「異音」クレームの場合、問題が大きくなるまでクレームが潜在化していたので、これを改善するためクレーム処理報告書の書式を作成して、販売・サービス代行店に記入してもらうことにしました。このことを実施するにあたり、クレーム処理全体としての規定を制定し、その手順と担当部門を明確にしました。

とくに、代行店に依頼する分については、苦情受付からクレーム判定までの処理内容について、特別に契約書を取り交わしました。契約には、苦情の受付け件数に比例して費用を支払い、確実に情報が収集できるように変えました。クレームと判定されたものについては、サービスに対する支払いのみでなく、クレーム処理報告書に書かれた情報にもその価値に応じて対価を支払うように変えました。さらに、品質部門において苦情情報の分析をし、毎月「市場品質評価報告書」を発行し、関係部門に配布することにしました。

6. おわりに

企業の品質管理活動が妥当であるかどうかの総合的尺度は、売上げとクレーム件数と考えられます。ある製品が長期間売れ、その売上げが多いということは、その製品の品質企画が良いことの現われです。クレーム件数が少ないということは、もし潜在クレームがなければ、設計・製造段階において、企画された品質が作り込まれ、たとえ欠陥があっても出荷までにはくい止めることができるQMSが確立されていることを意味しています。

たとえクレーム件数が少ないからといって、品質管理活動がすべてうまく行っているとは言えませんが、多ければ、確実に、QMSに問題があると言えます。クレーム処理において、クレーム品そのものに対する処置に加えて、4章で述べた再発防止を行うのは、1件のクレームを教訓として自社の技術を向上しQMSの改善を目指すからです。クレームは設計・製造において欠陥を作り込み、それを検出することなく市場に出してしまったという意味で、本来あってはならないものです。それゆえ、深い解析とまじめな反省が必要なのです。

結論を申し上げましょう。クレーム処理で最も重要なのは、そのクレーム品に対する迅速、正確、誠実な処理です。と同時に、1件のクレームからQMSの不備について多くのことを学ぶことも重要です。

問題

[1] この会社のクレーム処理の体制には多くの改善の余地がありますが、どの問題から改善に着手すべきと思いますか。

[2] 「異音クレーム」の解析で明らかにされたこの会社のQMS上の問題点を指摘し、経営者に進言するとして、その意見書と改善計画書の素案を作ってみて下さい。

[3] この1件のクレームに関する解析から、この会社のQMS上の問題のうち何割くらいが解明されたと思いますか。この解析から導かれた改善策を実施することによって、将来起こるかもしれないクレームのうちどの程度を防げることになると思いますか。それはどれほどの損害を防止することになると思いますか。

[4] あなた自身が関わっている会社(自社、関連会社、クライアントなど)で外部からの苦情の処理がどのように行われているか、分かる範囲で調査してみて下さい。判明した問題点の改善策を立案してみて下さい。

[5] あなた自身の所属組織が引き起こしたクレームの何件かを深く解析してみて下さい。その過程で明らかになったQMS上の問題点を指摘し、改善計画を作成してみて下さい。