連載記事 飯塚悦功
第7回 管理のサイクル

1.PDCA

品質管理を少しでもかじった人は誰でも「PDCA」という用語を聞いたことがあるに違いありません。管理・マネジメントにおいて、PDCAは基本的な方法論であり、またPDCAのサイクルを回すことが効果的・効率的であると言われています。

PとはPlan(計画)、DとはDo(実施)、CとはCheck(確認)、AとはAct(処置)という意味です。これだけ聞けば、「なあんだ、そんなの当たり前」と思うことでしょう。管理のために、計画を立て、計画に従って実施し、結果が満足できるものかどうか確認し、満足できなければ処置をする、と言うのですから、当然と言えば当然です。当たり前じゃないかとバカにしたくなります。でも、実は、なかなか深い意味があります。

PDCAを構成する4つの活動を、それぞれ2つずつに分解してみます。これを図表1に示します。


これは私流であり、一つの説明の仕方です。ちなみに、品質管理の先生方がいろいろに説明しているので、それらを比較するのも面白いでしょう。これらPDCAのそれぞれのステップで実施することが期待されている事項を以下に記してみます。その意味を考えながらPDCAの深い思想を味わっていただければ幸いです。

2. Plan

2.1 Plan − P1:目的・目標の明確化

Plan(計画)においては、2つのことをします。一つは、目的・目標の明確化(P1)、もう一つは、目的達成のための手段・方法の決定(P2)です。

Planの第一の目的・目標の明確化(P1)では、まず管理の対象についての「目的」を明確にします。例えば、「不良を減少したい」、「売上を向上したい」、「画期的新製品を開発したい」などです。次に「管理項目」、すなわち目的達成の程度を計る尺度を決めます。例えば、市場クレーム件数、工程内不良率、売上高、利益、市場導入6ヵ月の売上などです。第三に、その管理項目に関して到達したいレベル(管理水準、目標)を定めます。これが目標ということになります。

管理の主眼は目的達成にありますから、どのような目的・目標を定めるかは極めて重要です。まず、取り上げる目的は、根拠ある妥当なものでありたいものです。通常は、上位または究極の目的の分解、あるいはそれらの目的を達成するための方策であることが多いので、「設定しようとしている目的は、結局のところ、何のために」と考えてみるとよいと思います。達成に必要なリソースを考慮したとき、目的にしたいことが多すぎる場合には重要なものを選ぶ必要があります。

「管理項目」は、目的の達成度を把握し、適時適切に必要な対応処置をとるための尺度、管理指標です。管理とは目的達成行動ですから、それが順調に進んでいるかどうか端的に把握する指標が必要で、それが管理項目というわけです。管理項目には、目的尺度のほかに、効率尺度、すなわち目的達成をどの程度の効率でできたかを測る尺度を考えることもあります。

管理項目について達成すべき水準、すなわち目標を決めるとき、鉛筆を舐めながらこれまでの実績やトレンドと少しの努力目標を考慮して「こんなもんだろう」と決めることが多いようですが、もう少しよく考えた方がよいと思います。上位の目標達成への必要性、究極の目的への貢献、自分たちに対する周囲のニーズ・期待への対応、そして実現可能性などを考慮して、根拠ある妥当な目標を設定したいものです。

これらのことは、前回の記事で、管理における目的・目標についての考察のときに触れています。聞いたことあるぞ、と思っていただければ、実は成功です。

2.2 Plan − P2:目的達成のための手段・方法の決定

Planの第二の目的達成手段の決定(P2)では、方策・手段への展開、業務標準・作業標準の策定などを行います。目的を達成するために最適な方法、手段、手順を明らかにして、実施する人がその最適な方法を適用できるように、作業標準、業務標準、ガイド、マニュアルなどの形にしておかなければなりません。

こうした標準類は、目的を達成するための実現手段として、推奨できる内容を記述したもので、その通り実施すれば、一応は目的を達成できるように十分に検討されたものであると期待されます。この手の標準類は、繰り返し使われることになる、目的達成手段を記述した計画書ということになります。

世の中には、目的・目標だけを示してその達成手段、実現手段を十分に考えていない計画もありますが、計画というにはいかがなものかと思います。目的・目標だけ示して実現手段を全く考えていない計画は計画とは言えないのではないでしょうか。夢まぼろし、白日夢とか幻想とか言ったところでしょう。

もちろん、目的が与えられたとき、その目的を達成する手段が誰にとっても明確なら、手段まで言う必要はないし、もし実施する人が優秀で、目的を与えられればたちどころに手段を編みだして目的を達成できるなら、やはり目的達成手段まで明らかにしてあげる必要はありません。どの程度の詳細さで目的達成手段を明示するかは、実施者の能力に依存します。

組織で設定する標準類は、それを使う人々の能力にある種のレベルを想定しなければ、まともなものは作成できないということです。その想定レベルに引き上げるために教育・訓練があると言ってよいでしょう。いずれにしろ、目的達成のためにその達成手段はなければいけないし、実施者にとって、何らかの形で明らかになっていなければなりません。

PDCAの派生として“SDCA”ということも言われます。“S”とは“Standard”(標準)ということです。PlanのうちのP1(目的・目標)が与えられ、P2(目的達成手段)がすでに明確になっていて、標準(Standard)として確立されている状況での管理の方法論の説明によく使われます。

日常業務の管理、とくに維持活動では、日常業務の目的達成の手段としての作業標準・手順が確立しており、あらためて「何のために(P1)、どのようにするか(P2)」について沈思黙考する必要がなく、とりあえずはそれを遵守(D)することから始まるような状況を想定してのことです。

3. Do

Do(実施)においては、まず実施の準備・整備(D1)、すなわちP2(目的達成のための手段・方法の決定)に従って、設備・機器、作業環境を整備し、実施者の能力の確保など、実施の準備・整備を行います。

実施者に対する実行手順の教育・訓練は、目的達成に必要なことを現実に実施できるようにしておくためです。教えればよいのですが、実はこれがなかなか難しいことです。他人に何かを伝えて意図どおりに実施してもらうことの難しさは、誰でも多かれ少なかれ経験していることでしょう。人は自分の経験してきたことに照らして、他人に言われたことを理解しようとします。言った人とそれを聞く人とで経験したことが違えば、同じ言葉の意味するところが微妙に異なってしまいます。したがって、なるべく現場で現物を使って教えること、了解した(と思っている)内容を実施者の言葉で言ってもらうことなどが対応策になります。

Doでは次に、計画・指定・標準どおりの実施(D2)、すなわち、実施者がPlan(計画)で定めた実行手順どおりに実施します。

実行手順どおり実施しても良い結果が出ない(つまり実行手順が悪い可能性が高い)ときに、自分で手順を変えて良い結果を出すことは良いことでしょうか。管理者はその実施者をどのように扱うべきでしょうか。手順どおり実施しても良い結果が出ないので自分で工夫して良い結果を出すことは良いことのように思えます。しかし、私はそうは思いません。

ずいぶん昔の話ですが、ある電気製品の製造ラインの調整工程でこんなことがありました。ある作業者が産休に入るので、交代することになりました。なかなか難しい調整で、この作業者は優秀でした。代わりに入れた人もまた優秀でした。そうしたら、なんと調整不良が急増しました。不良急増の原因を調べてみたところ、代わりにラインに入った人は作業標準をきちんと守っていました。そこで産休で抜けた作業者が標準を守っていたかどうかを調べたら、守っていませんでした。作業標準通りに実施すると正しく調整できないので、自分で工夫していたのです。

これに対し、製造課長は、手順の誤りを正して調整してくれたということで、産休に入った作業者を誉めようとしました。私は、叱るべきと言いました。この方は賢い方でしたので、叱っても大丈夫との確信があってのことです。悪法も法です。ルールを破ることは良くありません。しかし破らなければ良い結果を出せませんでした。そのことをすぐに申し出るべきでした。そして不備のあるルールを正したうえで、新たなルールに従って実施すべきです。さもないと、さまざまな業務実施上の良い知恵が、組織全体で保有・共有すべき知識として蓄積されません。結果さえ出せれば良いというものではありません。その基盤としての良いプロセスを明日のために獲得しておくべきです。

4. Check

Check(確認)においては、目標を達成しているかどうかを管理項目(管理指標)と目標との対比によって確認するとともに、いわゆる副作用、すなわち意図していなかった望ましくないことが起きていないかどうかを調べることも大切です。

Check において留意すべきことは「事実に基づく」確認を心がけることです。「……となっているはずです」、「……と聞いています」では不十分です。コトが思いどおりに進むものなら最初から確認など考える必要はありません。何かあるかもしれないと思って調べるのですから事実に基づかなければ意味がありません。

アメリカでは“Check”の代わりに“Study”(検討、研究)を使い「PDSAサイクル」と言うこともあります。“Check”と言われたら、ただ見ただけでオシマイという印象を与え、確認結果に応じた追加調査・分析などまでは含まれないと誤解されることを恐れ、“Check”より格好よい“Study”を使うというわけです。見ただけで他に何もしないなんて、確かに少々おかしいですね。

でも“Study”と言うことによって、なぜ確認するのか、何のために情報を得るのかを考えるよい契機になるかもしれません。私たちは、折にふれ情報を収集し、コトがどうなっているか確認します。業務の中間段階でレビューをします。最終確認もします。何のために行っているのでしょう。もちろん何らかのアクション(対応行動)を取るためです。次に取るべき行動が、確認した結果に応じて変わると思っているから見ているのです。アクションを伴わない情報収集はムダであり、何の対応もしないのなら確認の必要はありません。

こう考えれば、Checkしてオシマイということはあり得ません。ここでのCheck、確認とは、次にどのような対応をすべきかの判断材料となる知見を得ること、すなわち必要に応じて行う追加調査・分析も含んでいます。

5. Act

5.1 2つのAct

PDCAのサイクルのうち、Act(処置)に品質マネジメントの特徴が現れます。ご存じの方も多いでしょうが、経営工学(Industrial Engineering、IE)の分野には、PDSサイクル(Plan:計画する、Do:実施する、See:見る)という本質的に同じ概念があります。品質マネジメント分野ではAct(処置)にこだわりがあるので、“See”を“Check”と“Act”に分けたと言ってもよいかもしれません。

さて、Act(処置)においては、Check(確認)での目標との対比に応じて、(特段の対応をしないことも含めて)何らかの処置をとります。誰でも行う処置は、管理対象となった案件・ケースについて、とにかくやりくりをして所期の目的を達成するように対応することです。それは望ましくない現象の解消であり、いまも事態が進行しているなら影響拡大防止の手を打つことです。これら望ましくない現象の影響を最小にする処置が「応急処置」と総称されるものです。

PDCAサイクルの第一の意味は、現在進行中の案件について、目標との乖離が認識されたら、修正や影響緩和処置など何らかの対応をとって、所期の目的を達成しようとするような、管理対象に対する直接的な目的達成行動です。Checkにおいて(中間)目標を達成していて、特段の問題ある事象も認識されていない場合には、当初の計画通り管理活動を継続・進行させます。問題はなくとも状況の変化に応じてより確実・効率的な方法が示唆される場合には、強化・だめ押し的な対応をとることもあるでしょう。

PDCAサイクルには第二の意味もあります。PDCAについて語られるときには、実はこちらの方に重点が置かれていることが多いかもしれません。それは、現象を好転させるための応急処置とともに、二度と同様の問題が起きないように原因を除去し、将来に備えることです。この処置を「再発防止策」あるいは「未然防止」と称して、ことのほか強調しています。なぜ、このようなことを強調するのでしょうか。

得をするからです。転んでもただでは起きないというか、学習能力のなせるワザとでもいうのでしょうか、将来に備えることができる好機だからです。再発防止の基本は原因の除去です。結果は原因があって起こります。同様の状況が将来起きたとき、その原因が除去されていれば、同じ原因での問題は起きません。ことが起きる因果構造を理解し、原因系に手を打っていく、このことによって、繰り返し行われる管理活動においてそのレベルが上がっていくことが期待できます。管理における重要な行動原理として「要因」への着目があります。この連載でも次々月に「プロセス」について語りますが、そのとき再びその意義や重要性を強調することにします。

原因に手を打つ活動が、主にP2(目的達成手段)の改善につながります。もちろんP1(目的・目標)の妥当性向上、D1(実施準備)の完全性確保、D2(P2通りの実施)の阻害要因の除去による確実性向上にもつながります。これらが「PDCAを回す」ということの意義・意味であり、これこそが「マネジメント力」の向上を促します。

5.2 処置のいろいろ

処置のいろいろ、あるいはPDCAサイクルの多重性について、例を使って考えてみます。部品1,000個の設計・生産を受注して、200個作ったところで材料硬度に関する不具合が発見されたとします。熱処理に問題があったとして、その200個の処理をやり直して所定の硬度となるようにする処置が「応急対策」です。ときにはスクラップ(廃棄処分)にし、部品を作り直すことが応急処置となります。不良になってしまった200個について、仕様に適合する部品を作るという目的を達成するための処置となります。

これから作る800個をどうすればよいでしょうか。確実な熱処理ができるように製造工程に工夫を加えることでしょう。不良になってしまった200個を廃棄して新たな部品を作るときには、この800個に対して行う工夫と同様の処理が必要になります。製造工程のみならず製品設計内容(製品仕様)の変更を行うかもしれません。これらは直接的な「再発防止策」です。実は、このことによって、将来生産する同じ部品に対しても、この問題については再発防止ができていることになります。

ところで、応急処置の一環としてなされることになる、この1,000個のロットの前に作った同じ仕様の部品がある場合、その処置はどうなるのでしょうか。以前のロットの熱処理に同様の問題がある場合には、その問題の範囲を特定し、回収、再熱処理、廃棄・代替部品製作などを行うことになります。これは影響緩和という応急処置と言えます。このような処置を的確に行うという視点からは、トレーサビリティ管理の仕組みの精度が気になります。やや時間が経過してからの広い範囲にわたるリコールのニュースなどを見ると、トレーサビリティの仕組みの問題以外にも、異変に気づくのが遅れたのか、本格対応着手の判断が遅れたのか、原因分析に手間取ったのか、対応策決定に時間を要したのかなど、品質保証の仕組み全体の脆弱性に懸念を抱いてしまいます。いずれにしても、過去に起こした問題の始末は、取り返しがつかない場合もあり、一般的にはとても厄介です。

話を「再発防止」に戻します。再発防止として、製造条件の変更、製品仕様の変更にとどまらず、もっと広く考えることもできます。そのような不適切あるいは不安定な工程を設計し、工程管理計画を立案し、管理を実施した方法に問題があると考えれば、製品設計、工程設計、工程管理計画、工程管理の方法という「システム」に対する処置も考えられます。これは設計や計画の方法・システムに対する再発防止と言えます。これらの処置は、まだ問題を起こしていないプロセス、活動要素の改善にも及ぶでしょうから、問題の発生を事前に防いでしまう「未然防止」とも言えます。

再発防止とは、起こしてしまった問題を材料にして、いろいろ分析・検討をし、技術やマネジメントの不備の除去、改善の可能性を探り、自分たちをレベルアップする学習の機会ととらえることができます。その意味では、「再発防止」と「未然防止」を厳密に区別するのは難しいかもしれません。一応、再発防止は起きた不具合の原因を除去することによって再発を防止すること、未然防止は事前に原因を除去することによりまだ起きていない不具合の発生を防止すること、と区別することはできます。しかし、「何が再発したのか」の解釈によってその区別は曖昧になります。

厳格な意味での「再発」はあり得ません。ある時にある場所で起きたある現象は、決して再発はしないからです。少なくとも「時」が違いますので、厳格な意味で再発とは言えません。私たちが「再発」という表現を使うときは、同じ(ような)状況・条件における同じ(ような)現象、あるいは同じ(ような)因果メカニズムによってコトが起きるという意味です。同じ部品仕様で起こるのか、同じ材料仕様で起こるのか、同じ製造条件で起きるのか、同じ製造ラインで起こるのか、同じ設計グループで起きるのか、同じ設計プロセスで起こるのか、同じ設計開発インフラ上で起こるのか、どこで何が起きるのかのとらえ方次第で、「再発」の意味も変わり「再発防止」の意味も変わります。

例えば、工程設計プロセスの脆弱性によりトラブルが起きたとします。ある一つの工程設計の経験からプロセスの問題を発見し、将来実施する工程設計で起きるかもしれないトラブルを防止したら、その工程設計案件については未然防止ですが、工程設計プロセスについては再発防止です。品質マネジメントは、何か問題が起きたときに、合理的な範囲で深い層までの処置をとることを勧めています。このような処置をとるためには、現象から原因、それもときには根本原因を含む因果メカニズムの全貌を理解するための解析が必要で、品質マネジメントに科学的問題解決法が含まれ、そのためのさまざまな手法があるのは、再発防止・未然防止への強い思い入れがあるからです。

ISO 9001の世界に馴染みの概念として「修正」、「是正処置」があります。修正はここでの応急処置、是正処置はここでの再発防止と同じ概念です。以前の版に含まれていましたが2015年版ではリスクを考慮した良くできた計画という概念に包含された「予防処置」は、ここでの未然防止に相当します。

6. PDCAで重要なのは?

6.1 Plan、Do、Check、Actのうちどれが最も重要か

PDCAの話題の最後に、「PDCAのうち最も重要なのはどれか?」ということについて考えてみたいと思います。実はこのお題は、この連載でも取り上げた「魅力品質・当たり前品質」の提唱者であり、私を品質分野に引っ張り込んだ狩野紀昭先生によるものです。

読者諸賢はどう思われるでしょうか。Plan、Do、Check、Actのいずれが欠けてもまずいし、いずれもそれぞれに重要なので、どれか一つだけ選ぶとなると難しいことでしょう。それでも、ここまでの説明から、P(Plan)あるいはA(Act)と答える方が多いと思います。でも、ここでは敢えて、たぶん最も少数派の「“Do”ではないか」と申し上げておきます。

目的達成に必須のこと、それはどんなに拙くてもよい、とにかく実施することで、これが基本だろうということです。やらなければ何も始まりません。昔から多くの人が、仕事をしなさいと言われて、とにかくDo-Do-Doでやってきました。Pにしろ、Aにしろ、またCにしろ、それはみなDo-Do-Doをもっと価値あるものにするための活動といえます。

Doが基本であって、そのDを効果的かつ効率的なものにするために、P、C、Aがあるとはいえ、「Pの重要さはどんなに強調してもし過ぎることはない」との反論が聞こえてきます。「実行力は重要だが、P抜きとか、貧相なPでは、単なるバカだ!」との声も聞こえてきます。「いやAこそ重要だ。経験から何を学ぶかという学習能力こそが人を賢くするのだから」という論もありそうです。大いに結構です。PDCAの意味を再度よく考えていただければ、幸いです。

さてここで、Doの重要性について、とくにP2通りのDoという意味での重要性を強調しておきます。それは「賢者の愚直」、「ABCのすすめ」ということです。第3章でご紹介した、ある電気製品の調整工程での話も趣旨は同じです。

ABCとは、「(A:あ)当たり前のことを、(B:ば)バカにしないで、(C:ち)ちゃんとやる」という意味です。その「こころ」は、

• 当たり前: 望ましい結果が得られる優れた方法を知っている
• バカにしない: 望ましい結果が得られる理由・根拠を知っている
• ちゃんと: やるべきことは誰も見ていなくも愚直にやる

ということです。目的達成(P1)のために、目的達成手段(P2)の妥当性(合理性、合目的性)を理解し、これを遵守して実施(D2)するということの重要性を強調してのことです。そして、その通りできる人を「賢者」と呼びたいし、こういう方々の行動様式を「賢者の愚直」と言いたいと思います。

この連載の第1回で「頭が良い」ということを話題にし、品質管理をマジメにやると頭が良くなると申し上げました。そのときは、以下の3項目を挙げました。

• 目的が分かる、目的志向の思考と行動ができる
• 因果関係、目的手段関係を考える
• コトの本質を把握できる

これに加えたいのが

• 正しいことを、「愚直」に継続的に行うことができる

ということです。そもそも「頭が良い」ということの意味を議論したとき、出発点になったのが「我慢できる。継続できる」ということでした。そして、そのために必要なこととして「目的志向」や「因果関係・目的手段関係の理解」を挙げていましたが、その原点に戻る感じです。Pの根拠を知り、愚直にDができる、その思考行動様式が「賢者の愚直」と言いたいのです。

6.2 応急処置と再発防止のどちらが重要か?

狩野先生の問いかけには、もう一つ「PDCAのActのうち、応急処置と再発防止のどちらが重要か」というのもあります。

上述したように、品質マネジメントでは、再発防止・未然防止に深い思い入れを持っていて、そのように教えますので、「再発防止」と答えたくなります。でも、PDCAでDoが重要というくらいですから、きっと「応急処置」の方が重要とくるに違いない、とお考えでしょう。その通りです。

問題が発生して、いま望ましくない事態が進行している状況を考えてみて下さい。例えば、火事が起きているとしましょう。その場で火災の原因を追及していると、全部燃えてしまいます。「そもそも燃えるには、酸素、エネルギー、可燃物が必要で……」なんてことを考えている場合ではありません。あるいは、もっと早く見つけられなかった原因とか、初期消火に失敗した原因を追及している場合でもないでしょう。とりあえず消し止めて、延焼を防ぎ、その後に落ち着いて、なぜ起きたか、なぜもっと早く発見できなかったか、なぜもっと初期に消火できなかったかを分析して将来に備えるべきです。

この連載で取り上げた「クレーム処理」でも同じでした。とにかくいま目の前のお客様の不都合を解消することが重要です。大切なことは、迅速、的確、誠実な応急処置です。ただ、応急処置だけで終わらせず、将来のためにまともな原因分析をして再発防止・未然防止を図るのが筋です。

医療での緊急時の救命救急も同じです。そうなってしまった原因、経緯はいろいろありますし、そうならないようにできたかもしれませんが、その分析をする前に、すでに危険な状態になってしまったのですから、とにかく安心できる状態にするための処置を考えるべきです。

事件、事故が起きたときの「レジリエンス」という概念も、緊急対応・影響緩和という応急処置の重要性を物語っています。もちろん、事前の計画においては、様々なリスクを想定して目的達成のためにいろいろ備えるでしょう。それでも想定を超える事象や、想定はしていたがマジメに備えていなかったような事象が起きるかもしれません。そのとき、そこからの現実的な回復力・復元力のような能力、対応力を持ちたいものです。

「応急処置が重要か、再発防止が重要か」という議論は、PDCAの回し方に、少なくとも2つのフィードバックのかけ方があることが指摘されているとも言えます。一つは、管理の直接の目的である当該案件の目標をクリアするためのCとAです。このAが修正、影響拡大防止などの応急処置です。もう一つは、将来類似の案件の処理に適用することになるPのレベルアップのためのCとAです。つまり、目的・目標達成手段のレベルアップのためのAで、これが再発防止ということになります。管理の直接の目的を達成し、それに満足することなく、もっと合理的に、もっと効率的に達成できるように、再発防止をするということです。

最近、お役所の文書に「PDCA」という用語や「PDCAを回す」というフレーズがよくでてきます。ときには、マネジメントやマネジメントシステムの運営の重要性の強調というような広い意味で、ときには、まともなフィードバックとか、広く深い考慮に基づく改善の必要性の指摘のためなど、いろいろな文脈で使われています。私たちは、意味をよく分かったうえでこの用語を使い、読み取りたいと思います。

PDCAは、管理すなわち目的達成行動における基本的な行動原理といえます。したがって、管理に関する様々な話題で直接・間接に思い起こすことになります。とくに、そのうち取り上げようと考えている「日常管理」や「方針管理(目標管理)」の話題のときに、再び引用して説明したいと思います。

問題

[1] あなたの業務について、PDCAの各ステップで何を実施しているか確認し、次にPDCAの教えに従うと何を充実すべきか検討してみて下さい。

[2] あなたの部門の業務分掌のうち、一つだけ取り上げ、その業務の機能展開を試みて下さい。

[3] [2]で取り上げた業務について、どのような「管理項目」を設定すべきか検討してみて下さい。そして現実に使っている指標と比べてどう対応すべきか検討してみて下さい。

[4] [2]で取り上げた業務について、その実施手順書(業務標準)の十分性について検討してみて下さい。すなわち、インプットは何か、アウトプットは何か、インプットからアウトプットを得ることができる手順になっているかを検討してみて下さい。

[5] 「PDCAのうちDoが重要」というのは、「Doがないと何も始まらないから」というのが大きな理由でした。そこで、それなりのDoを期待できるとき、PDCAのどれが重要と思うか、その理由とともに考えてみて下さい。

[6] PDCAの多重性について、あなたの担当業務を題材に検討してみて下さい。もし、最近ちょっとしたミス、トラブル、手戻りがあれば、それを例にどのような応急処置をすべきか、どのような再発防止・未然防止まで考えるべきか検討してみて下さい。