連載記事 飯塚悦功
第9回 プロセス管理

1. 品質は工程で作り込め

今月は、目的達成行動において「要因系を管理する」、すなわち、結果を生み出すプロセスに注目しこれを管理する「プロセス管理」について、品質管理の歴史におけるこの考え方の発展をたどりながら考察します。また、関連する概念でもありますので、ISO 9000で広まった「プロセスアプローチに」にも触れます。さらに、来月は、「知的業務におけるプロセス管理」について考えてみたいと思います。

1.1 検査だけでは品質は向上しない

連載第1回(4月号)で述べましたように、わが国の近代的品質管理は戦後に始まりました。先生はアメリカです。まず、占領政策において重要な通信インフラ充実の要である電子部品の品質向上の指導から始まりました。1949年が日本の近代的品質管理の歴史が始まった年と言えます。日本科学技術連盟や日本規格協会が、製造工程での品質管理の普及・啓発を始めました。

品質を確保する方法の中心は「検査」でした。検査の基本的考え方は、保証の対象となる製品の集まり(ロット)について、その全部または一部のいくつかの特性からロット全体の品質を評価し、あるレベル以上と判断されたものだけを出荷または次工程に流すというものです。製品の一部からロット全体を評価する際には、確率論を基礎とする「抜取検査」によって合理的な判断を行います。抜取検査は当時の品質管理の主要なテーマでした。

しかし、検査には弱点があります。検査だけでは品質は向上しません。一部から全体を推測できるような安定した製品ロットにはなっていないかもしれません。全数検査を行ったとしても、評価すべきすべての品質特性を評価できるとは限りません。検査後に特性が変化することもあります。検査には作ってしまった不良品を除くだけの機能しかありません。はじめから良品を作るほうが良いに決まっています。

こうして日本では、1950年代に入って、製造工程をきちんと管理することによって始めから良いものを作ろうという考え方が広まっていきました。「品質は工程で作り込め」(Build quality in the process)という教えは、この考えを端的に物語っています。工程のアウトプットに影響を与える工程の条件を明らかにした上でその条件を管理し、また中間特性値を的確に把握し早めに対応するという方法を採用し、要因系で結果を保証しようとしたのです。

1951年に創設されたデミング賞は、1960年代初期まではSQC(Statistical Quality Control;統計的品質管理)のレベルを評価し表彰するものでした。当時の選考理由には4つのキーワードが頻出します。それは「抜取検査」、「管理図」、「工場実験」、そして「標準化」です。検査の重要性を認識しつつも、製造工程の統計的管理を推奨していたことが分かります。

「管理図」は、アメリカのW. A. Shewhartが1920年代半ばに着想した製造工程の統計的管理法で、(製品ではなくそれを生み出す)工程の状態を判断して、工程を安定した状態に維持することによって製品品質を確保しようとする方法です。ITが高度に発展した現代では古臭い方法と思われていますが、「工程を管理する」という概念の深遠さを学ぶべきで、その思想は現代の様々なプロセスの管理にも適用可能です。この連載で詳しく触れる機会はないと思いますが、いくつかの重要概念を表す用語だけを挙げておきます。それらは、工程能力、管理状態(安定状態)、管理限界、避けられないバラツキ/避けられるバラツキ(許されるバラツキ/許されないバラツキ)、偶然原因/異常原因、郡内変動/群間変動、標準化などです。

「工場実験」とは、当時のバッチ生産型の素材産業において、実験計画法を利用して、量産での操業条件を少しずつ変えながら最適条件を探すという方法です。ある意味、非常に危険な試みで、「少しずつ」とは言いながら、私はとてもお勧めできません。

「標準化」は、良い結果が得られる条件を特定し、これを標準書に表し、教育・訓練し、遵守することによって品質を確保しようという方法論と認識されていました。この話題は、次々号(2月号)で取り上げることにします。

1960年代になると、「いくら製造工程が整然としていて、製造工程における不良率がどんなに低くても、売れなければ何にもならない」という考え方が生まれました。規格に適合しても品質が良いとはいえず、真に品質を保証するためには、まずは良い製品仕様を作ることが重要であるという考えです。しかも、製造工程でのトラブルをよく分析してみると、その原因の多くは上流工程である生産準備や設計・開発にあることが次第に明らかになり、その後10年ほどのうちに、新製品開発において品質を確保しようという考え方が主流を占めるようになりました。こうして生まれたのが「品質は企画・設計で作り込め」という表現です。この考えを具体的にどのように実現するかについては、次号(1月号)で「知的作業のプロセス管理」と題して考察します。

1.2 工程で品質を作り込む

「プロセスで(仕事の)質を作り込む」という考え方は、合理的な管理の原則に従ったものであると言えます。この宇宙は、結果は原因があって生まれるという法則に支配されており、結果を左右する原因を管理するのが得策だからです。その昔、「クサイ臭いは元から断たなきゃダメ」とかいうコマーシャルがありましたが、それです。良い結果を得ようと思ったら要因系を抑えよ、問題が起きたらその原因を明らかにして再発しないようにせよ、という教えです。

思考の視界を広げれば、「クサイ臭い」への対処法には、「クサイものにはフタ」なんていう手や、もっと積極的に消臭剤を使うという手も考えられます。あるいは、「金持ち喧嘩せず」の教えに従って、その場から逃げ出すという手もあります。いろいろな手がありますが、クサイ臭いの源を探って元から断つことができれば、これは完璧だというのでしょう。

だからと言って、検査を軽視しない方がよいと思います。結果に影響を与える重要なプロセス条件がよく分かっていないとか、分かっていても厳密に管理できないときには、事後の検査に頼らざるを得ません。あるいは、もしも把握すべき品質特性がすべて明らかになっていて、それをコストゼロで瞬時に検出できる測定・検査機器があれば、検査に頼ってもよいとは思いませんか。でも、このような条件を満たす検査法がそんじょそこらに転がっているとは思えません。たとえそのような理想の検査法があったとしても、出荷品質の確保という点ではよいですが、不良品はそのままでは出荷できませんので、生産性が落ちることに違いはありません。

「工程で品質を作り込め」とは、何でもかんでも、高い金を使ってでも工程の条件を押さえることによって、無検査でもよいような工程を作り上げることを言っているのではないということです。品質が工程でどう作り込まれるか、その全貌を知り、現在の技術でもっとも合理的な方法で作り込み、あるいは検出すべきだと言うのが、「品質は工程で作り込め」の真意です。

1.3 プロセス管理

上述してきたように、良い結果を得るためには、その結果を生み出すプロセスに着目するのが有効で、これが「プロセス管理」の基本的な考え方です。プロセス管理とは、「結果を追うだけでなく、プロセス(仕事のやり方)に着目し、これを管理し、仕事の仕組みとやり方を向上させることが大切」という考え方に基づくマネジメントの方法です。

図表1に示したプロセスは、典型的な製造工程を想定して書いています。原材料・部品、作業者の技量、作業方法、手順、製造条件、作業環境、設備・機器の状態などを、良い結果が得られるように管理し、適当なステップで中間製品・サービスを確認し必要に応じて処置をとる、というようなイメージです。



プロセス管理を実際に行うためには、良い結果を得るためにどのようにしたらよいか、すなわち「良品条件」を明らかにしておかねばなりません。そのためには、「プロセスで作り込むべき品質」と「プロセスの条件」との関係を知る必要があります。かつて日本の各工場では、製造工程のまともな管理のために、「工程解析」がもてはやされました。それは、工程で作り込む品質(製品特性)と工程条件との間の関係を明確にするための、統計的手法を駆使した工程の理解・解析で、製造工程における品質管理の中心的活動と位置づけられていました。検査だけではダメだと悟り、10年ほどでこのような品質管理の方法論を現場で使うようにするのですから、日本人というのはなかなかのものです。これが、日本から提案されることになる「QC工程表」(工程管理計画)を生むことになります。

2. QC工程表

2.1 組立工程のプロセス管理

1960年代初め、わが国の品質先進企業は、製造工程の管理から、その上流の生産準備プロセスの充実に取り組みました。重要なのは、製造工程の設計と工程管理計画であると認識して、「QC工程表」というツールを生みました。

面白い逸話があります。ご承知のように、日本の近代の品質管理は、1950年代に、鉄鋼、重化学などの基幹産業で展開されます。バッチ生産される製品の特性と操業条件の関係を知り、望ましい条件を維持し、製品特性の変化に応じて操業条件を調節するような管理を展開しました。組立産業はその後、品質管理の優等生になりますが、このころ信じ難いことを言ったそうです。「組立産業に品質管理は向かない。これはバッチ生産する製品の品質管理に適した方法だ。我々の製品は、数多くの長い工程を経て作り込まれていくのだから向かない」というのです。

その組立産業から、「QC工程表」という素晴らしい工程管理の方法が生み出されることになります。「長い工程を経るのであれば、各段階でどのような品質を作り込み、確認していくのが合理的かを考察し、それに基づく管理計画を作ればよい。各工程がやるべきことをきちんとやっていけば、最後にはまともな製品ができるはずだ」というのです。まさに至言です。

その後、今度は設計・開発者が、「設計は、製品ごとに仕様を決めていくという、いわば一品生産であり、量産工程の管理手法である品質管理など使えるわけがない」と言います。でも、それは間違った考え方であり、わが国が品質大国になるのは、実に設計プロセスの充実に依るところが大きいのですから、興味深いことです。

誰もが多かれ少なかれ、自分が関わっている業務は他とは異なる特異なものであり、確立した既存の方法論の適用に積極的に取り組むことを厭います。品質確保の方法論についても同じような「冷静な」判断が闊歩していました。しかし、時代の勢いというのでしょうか、この判断が誤りであることを見事に暴き、同じ原理原則で適用分野の特徴を巧みにとらえた有用な方法を編み出したのです。

2.2 工程設計と工程解析

製造に先立って、製品の要求品質を満足する製造方法について、技術的仕様、すなわち「どのように作るか」という仕様を決めなければなりません。例えば、以下のような事項を指定します。

• 使用する原材料、部品、ユニット(の仕様)
• 製造方法(工法)が満たすべき操業条件
• なすべき作業・業務の方法
• 検査・監視の方法・基準
• 作業、業務、検査実施の環境条件

初めてということは稀でしょうから、通常は「標準工程設計」を修整することによって製造工程の設計が行われます。例えば、優れたTQC企業では、製造技術標準として、適度な分類ごとの「標準工順」、重要な単位工程に関する「工法標準」、複数の工法がある場合には「工法比較表」、工法によっては「設備構造標準」などが整理・蓄積されていました。

工程設計にあたって、実は「工程解析」、すなわち「工程において作り込むべき品質特性とそれに影響を与える要因との間の関係の把握」が重要です。これは、工程設計の内容をさらに詳細化して充実させるためにも、「QC工程表」(工程管理計画)を根拠あるものとするためにも重要です。「工程解析」は、製造段階における日本のTQCが誇るべき特徴の一つでした。

「解析analysis」とはすなわち、「全体の性質を理解するために要素や原理に分解すること」であり、そのためには部分と全体や、原因と結果の関係の把握が必要であり、これを科学的に行うためにSQC(統計的品質管理)手法が活用されました。

2.3 工程管理計画

工程設計において明らかにされた工程の技術仕様を満たすように、具体的にどのように工程を管理するか、その計画が必要となります。技術的にどうすればよいか明らかになっているその条件を、日常の製造工程において満たし続けるための管理計画を作成するということです。その際、以下のような事項を考慮していました。

• 各工程で作り込むべき品質: 各工程において作り込むべき品質特性を明確にする。この品質特性と最終製品特性との間の関係が明確になっていなければならない。
• 各工程における管理規準: 各工程で作り込むべき品質特性に影響を及ぼす要因を明確にし、それらについての管理規準を定める。管理規準は要求品質を満たすように、その管理幅を明確に定める。要因による管理が、技術的あるいは経済的に困難な場合には、結果として得られる品質特性について管理規準を定める。
• 工程の区切りにおける品質確認: 単位となる工程が多い場合には、工程の途中にいくつかの区切りを設け、品質の達成状況の確認を行う。
• 検査: 工程検査、完成品検査、最終検査などの検査方式を定める。工程が安定している場合には、検査をより簡便な監視方法に切り替えて品質の傾向を把握することを検討する。

賢い皆さまは、これらの原則が製造工程の管理に限定されず、ほぼすべての業務の管理の原則であることにお気づきと思います。

2.4 QC工程表

上述した計画について、製造、とくに組立製品の製造における工程管理計画として、わが国で開発されたツールが「QC工程表」です。これは、材料・部品の受け入れから完成品の出荷にいたる工程全体、あるいはその重要な一部の工程について、工程設計に基づいて、各工程で確保すべき品質特性とその管理方法を明らかした管理表です。この管理表は、製造工程全体を通じて品質管理活動の整合性を検討するときや、製造工程の監査に役立っていました。

QC工程表に記述すべき事項としては以下のものが挙げられます。

• 管理項目: 各単位工程が正常かどうかを判断するための項目(作り込むべき品質特性、それらの品質特性に影響を与える要因、工程の状態を表す特性値などを考慮して決定する)
• 管理水準: 目標値、限界値
• 標準類: 準拠する作業標準、設備・治工具標準など
• 管理手段: 管理に用いるツールと頻度(管理図、チェックシート、チェックリスト等)
• 異常処置: 異常報告の基準
• 担当者: 管理担当者、報告先

作成にあたって注意すべきことは、妥当な管理項目を選定し、適切な管理水準を設定することです。そのためには、最終製品の品質特性と各工程での品質特性との間、および各工程で作り込むべき品質特性と工程の要因との間の定量的関係を正しく把握することが重要です。その意味で、よいQC工程表は充実した工程解析があってはじめて作成されると言えます。

QC工程表は、組立工程の管理のために考案されました。しかしながら、一連のプロセスをいくつかの単位プロセスの連結とモデル化し、各単位プロセスにおいて作り込むべき品質特性とその管理方法を定めるという考え方は、製造に限らずあらゆる業務プロセスの管理にも適用可能です。いわゆる事務・販売・サービスなどの業務プロセスについて、QC工程表を作成することによってプロセスを定義し、管理し、改善する活動は、1970年代から試みられていました。

3. プロセスアプローチ

3.1 プロセスアプローチとその適用

プロセスについて語ってきましたので、ISO 9000を通して広まった「プロセスアプローチ」について触れておきます。専門家を自称する多くの方が、「みなプロセスアプローチの本質を分かっていない」と嘆かれます。私がこれから書くことも、「ほら見たことか」と言われそうです……。

私は、プロセスアプローチの中核となる考え方に対応して、これを適用した場合の具体的活動は以下のような要素から構成されると考えています。

①プロセスネットワーク
• QMSの目的(=顧客満足)に必要なプロセスの明確化
• それらのプロセス間の関係の明確化と運用
• プロセス間の関係のあり方の改善

②ユニットプロセス管理
• 各プロセスの定義(当該プロセスに関連する要素の明確化)ーインプット、アウトプット、活動(変換)、資源、測定・管理など
• 各プロセスの管理ープロセスを構成する要素の(PDCAの原則に従った)管理
• 各プロセスの(機能の)改善

3.2 プロセスモデル+プロセスアプローチ → プロセスアプローチ

プロセスアプローチに従った上記の具体的活動を考察する前に、この考え方がどのような経緯で生まれてきたのか説明しておきましょう。

ISO 9000ファミリー規格が「プロセスアプローチ」の採用を推奨し始めたのは、2000年改訂からです。プロセスアプローチが何を意味し、何をねらいにして生まれてきたのかを理解するためには、ISO 9000ファミリー規格の2000年改訂審議の過程でなされた「プロセスモデル」に関する議論を知っておくとよいと思います。

2000年のISO 9000ファミリー規格の改訂において「プロセスモデル」を採用するということは、改訂作業の初期から、ISO 9000-1:1994における「プロセスモデル」に関する記述を受ける形で検討されていました。ISO 9000-1の内容を検討したのは、故Don Marquardt(米国)に率いられたSC2/WG10でした。この規格には、プロセスモデルのほか、製品分類(ハードウェア、ソフトウェア、サービス、素材製品)、利害関係者(顧客、従業員、取引先、社会、所有者)、品質の側面(企画品質、設計品質、適合品質、サービス品質)などの概念に関する記述もなされていました。

2000年版ISO 9001とISO 9004の開発を担当したSC2/WG18は、開発の初期に、

• 顧客インプットを、資源を使用しながら、顧客要求事項を満たすアウトプットに変換する活動群の図的表現
• プロセスモデル

という2つのことを検討していました。この検討は、ISO 9001とISO 9004を、あらゆる業種・規模の組織に適用可能にするために、一般化したユニットプロセスに関する要求事項・指針を記述し、それらをQMSとして統合できるようにすることを目的とするものでした。この考え方が、QMSを構成するプロセスネットワークという概念につながります。

ここに多少の混乱を引き起こす要因が加わります。それは、SC2/WG15が開発した品質マネジメントの8原則を、ISO 9000ファミリー規格に大々的に取り入れるという方針です。その8原則の一つに「プロセスアプローチ」がありました。ここで強調されていたのは、QMSをどのようなプロセス群で構成して統合するかというよりは、業務を「インプット→プロセス→アウトプット」という図式で理解した上で、アウトプットの品質を高めるための思想や方法論を適用することでした。これがユニットプロセス管理の考え方につながります。プロセスの管理にあたりPDCAの採用も示唆されていました。

2000年版のISO 9001の原案執筆の過程で、この「プロセスモデル」と「プロセスアプローチ」という2つの考え方がよく整理されないままにもち込まれ、これがその後の「プロセスアプローチ」に統合されました。ISO 9001の序文のプロセスアプローチの説明が分かりにくいのは、このためです。プロセスアプローチの理解のためには、このような事情を理解した上で補足しながら読む必要があったのです。

例えば、この序文にある図は、ISO 9001:2000の箇条4〜10がPDCAのようなループを構成し、QMSの継続的改善につながることを示すものですが、これだけでプロセスアプローチの全容が理解できるわけではありません。プロセスアプローチを理解するための図としては、

a) 一つのプロセスの構成要素(インプット、アウトプット、資源、判定基準、責任・権限、リスク・機会など)を説明する概念図
b) QMSが、複数のプロセスがつながったネットワークのようなもので構成される概念図
c) ISO 9001が提示するQMSモデルがどのような代表的なプロセスから構成され、どのような相互関係をもつかを説明する図

の3つが必要です。序文にあった図はこのうちの最後のc)に対応するものとみなせます。

3.3 ISO 9001モデルの適用

プロセスアプローチの理解に必要な、上述の3つの図のうちb)とc)について考えてみます。要するに、自組織のQMSを構成するプロセスネットワークを明らかにするために、 ISO 9001のQMSモデルに沿っていて、しかも自組織のQMSの目的達成に必要なプロセスを特定する方法について考えるということです。

c)については、表面的には簡単です。ISO 9001の箇条を適当な大きさでまとめ、それらを、QMSを構成する「プロセス」と言ってしまえばよいのですから。しかし、これでは自社の状況に合ったQMSにはなりません。多くのISO 9000の専門家が嘆く問題の源です。これは各組織で頑張ってもらうしかありません。

お勧めしたい方法があります。まず、ISO 9001のモデルを参考に、ISO 9001での表現丸写しではなく、ISO 9001を参考にしながら、自組織の業種・業態に相応しい表現で、必要な経営機能、あるいは品質機能を挙げてみることです。

例えば、価値提供の主プロセスの視点では、①製品・サービス企画、②設計・開発、③製造・サービス実現、④検証・確認、⑤調達、⑥提供・販売・サービスがありますが、それが自組織の事業ではどの機能・活動にあたるのか考察してみます。同様に、経営資源の視点では、①人材、②技術・知識、③施設・設備・治工具、④ユーティリティ、⑤支援プロセスなどが挙がってくるでしょう。他には、QMS全体を運営するフレームワーク機能として、①監視・測定、②評価・監査・診断、③改善・革新、④管轄・責任・権限などがあるでしょう。

次に、上記の一般的なモデルを頭に描きながら、自組織の「事業構造」を再認識するとよいと思います。まずは、その事業分野にはどのようなプレーヤーがいて、どのような価値提供連鎖を構成し、どのような情報が流れ、どのような競争関係があるのかを理解することが基礎となります。その上で、こうした事業環境において成功するためには、顧客にどのような価値を提供すべきであり、どのような能力・特徴で競争優位を確立すべきであり、またその能力をどのマネジメントシステム要素に実装すべきであるかを理解します。

ここで明らかになってきた、事業成功の鍵となる能力を実装すべきマネジメントシステム要素が、先に特定されているどのプロセスに該当するのかを明確にします。該当する要素が抜けているなら追加します。比較的大きなプロセスに埋もれているなら分割したプロセスにすることを考えます。

こうして特定できたプロセス群は、自組織の事業を運営するうえで必要なプロセスであり、経営のためのQMSとは別物の、認証のためだけのQMSを構成するプロセスと違うものとなるでしょう。

ISO 9001では、ほとんど評価対象になっていませんが、提供すべき価値→持つべき能力→実装すべきマネジメントシステム要素を、現状と比較して明らかになってくる経営課題への対応方策が戦略となります。根拠ある妥当な事業戦略と、QMS設計は表裏一体なのです。この方法は、2015年版ISO 9001の4.1〜4.3への対応に使えると思いませんか。

3.4 ユニットプロセスの管理

ユニットプロセスの管理においては、プロセスを構成する要素の理解が起点となります。一つの例は、以下のような理解です。もちろん「タートル図」のようなモデルでも結構です。重要なことは、プロセスの目的を達成するために、どの要素が重要であり、どのような管理をしなければならないかを明確にすることです。それらの内容は、業務標準・指針に反映されることになるでしょう。

■インプット: プロセスに入力され出力に変換されるモノ、情報、状態
 例: モノ(原材料、部品、補助材、処理対象など)、情報(指示、入力情報、参考情報など)、状態(活動前の対象の初期状態)
■アウトプット: プロセスのインプットが変換されて出力されるモノ、情報、状態
 例: モノ(製品、半製品、部品など)、情報(出力情報、知識、分析結果、知見など)、状態(最終状態)
■活動: インプットからアウトプットを得るために必要な諸活動
 例: 実施事項、手順、方法、条件
■リソース: プロセスの活動を支え、また投入される広義の経営資源
 例: 人材、供給者・パートナー、知識・技術、設備・機器、施設、作業・業務環境、ユーティリティ(電気、ガス、水など)、支援プロセス、支援システム、インフラなど
■測定・管理: プロセスの目的達成、活動状況を把握し管理するための、測定・管理項目・管理指標、統制・介入、管理、責任・権限、役割分担など
 例: アウトプット特性、プロセス活動状況、プロセス条件特性など

ユニットプロセスの管理において推奨される「PDCA」については、連載第7回(10月号)で詳述しています。

問題

[1] 自身が関わる業務プロセスについて、QC工程表を作成してみて下さい。

[2] 電気・機械の組立製品の製造プロセス、監査計画立案プロセス、設備管理プロセスのQC工程表がどのようなものになるか考察してみて下さい。なぜこの3つのプロセスが取り上げられているのかを考えながら、これらのプロセスのQC工程表を作成するうえで留意すべき点を、挙げて下さい。

[3] 3.3節で推奨した方法で、あなたの組織のQMSに必要な「プロセス」を特定し、それらのプロセス間の関係を図示してみて下さい。