連載記事 飯塚悦功
第12回 継続的改善

1. 究極のPDCA−未然防止

1.1 Actをめぐって

品質管理は、PDCAサイクルにおいてA(Act;処置)に特別の思いがあると言えます。IE(Industrial Engineering;経営工学)ではPDS(Plan、 Do、 See)というのに、そのSeeをCheckとActに分離してまで、フィードバックのあり方に蘊蓄を傾けようというのですから。

PDCAについて立て板に水のごとく説明する人に、その流れを少し滞らせるのによい質問があります。「PDCAのDoとActの違いは何でしょうか。どちらも実施ですが、ニュアンスはどう違うのですか」とか、「Aは、応急処置にしても再発防止にしても、結局は次のPだと思うのですが、なぜ同じ内容を示す行為をAとPという異なる用語を使ってまで繰り返すのですか。PDSを回すと言った方が論理的と思うのですが」などです。

私には、ぜひともこの質問はしないで下さい。とても答えにくいし、納得してもらえる自信はないし、きっとまともにはお答えできません。格言、教訓、ご託宣、諺のたぐいは、字義、定義、文法構造に従って厳格に解釈するより、全体として何を訴えたいのかに意識を集中した方が得ではないでしょうか。名言と言われるものでも、多くは、それを発したご本人が推敲に推敲を重ねてそう表現しているわけでもありませんので。

PDSと言わずに、Doと類似の意味をもつActを使い「PDCA」と表現したそのココロは、フィードバックのあり方について深く考察することを推奨したかったからだと思います。実際、品質管理では、PDCAのAct(処置)の種類を応急処置、再発防止、未然防止に分けて認識しています。意味の相違、フィードバックのかけ方の相違などについては、この連載の第7回(2018年10月号)で「PDCA」を取り上げたときに説明しましたので簡単にします。

応急処置とは、望ましくない状況、現象そのものを除去することです。これに加えて、原因不明、あるいは原因は明らかだが何らかの制約で直接対策のとれない異常に対して、とりあえずそれに伴う損失をこれ以上大きくしないために、仕事の結果や原因系に対してとる処置、再発防止に先駆けて行う暫定処置を含めて考えてもよいでしょう。火が出たらとりあえずは消す、命の危険が迫っていたら迅速に救命処置を行うことが大切ということです。応急処置においては、迅速、正確、誠実が重要です。

再発防止とは、問題が発生したときに、プロセスや仕事の仕組みにおける原因を調査して取り除き、今後二度と同じような原因で問題が起きないように対策を行うこと、すなわち原因分析に基づく原因の除去を言います。結果は原因によってもたらされますので、その原因を除去すれば、同じメカニズムで問題は起きないだろうという理屈です。

未然防止とは、実施に伴って発生すると考えられる問題をあらかじめ計画段階で洗い出し、それに対する修正や対策を講じておくことを言います。これが、管理における予測と予防という概念につながります。

ISO 9000の世界に馴染みの概念として「修正」、「是正処置」があります。修正はここでの応急処置、是正処置はここでの再発防止と同じ概念です。以前の版に含まれていましたが2015年版では「リスクを考慮した良くできた計画」という概念に包含された「予防処置」は、ここでの未然防止に相当します。

1.2 未然防止

この連載の第7回では、「未然防止」と「再発防止」の違いを区別するのは難しいとも申し上げました。この2つを厳密に区別するためには、「再発」の意味を明確にしなければなりません。極めて厳密な意味での「再発」はあり得ません。「ある時」に起こったことを、同じ時に再現することはできないからです。

私たちが再発というとき、それは、ある抽象レベルでの因果メカニズムが同じときであろうと思います。同じ製品、同じ部品、同じ部位で起きる、同じ設備、同じ工法で起きる、同じ物理化学現象で起きる、同じ業務で起きる、同じ人が起こす、同じプロセス条件で起きるなど、どのような抽象レベルでとらえるかによって、それが「再発」と言えるかどうか変わるのではないでしょうか。

この宇宙で起きる現象は、ある意味では、すべて再発です。この宇宙を支配する法則に従って“また”起きているからです。でも、ここまで抽象レベルを上げてしまうと、予測・予防のためには、その現象に関わるすべての法則を適用して、膨大な推論をしなければなりません。これは現実的ではありません。そこで、適当に抽象レベルを落として、「○○のようなときには○○が起きる。だから○○すればよい」というような知識が得られるように、「再発」というものを理解しているのではないでしょうか。

前節の最後に述べましたように、ここで言う「未然防止」という概念は、ISO 9000での「予防処置」と同じです。2015年版で直接の要求事項からは消えましたが、2008年版で確立していたその基本概念は「まだ起きていない問題事象の原因を除去して問題発生を予防する」というものです。

ここで言っている「まだ起きていない」とはどのような状態かという問いは、ちょうど「再発」とは何かという問いとウラオモテの関係にあって、同じ問いであると言えます。

実は、2015年版で「予防処置」という概念が消えたわけではありません。リスクベースの考え方に包含されています。「未然防止」あるいは「予防処置」の意味をそのまま素直に受けとめるなら、発生すると考えられる問題をあらかじめ計画段階で洗い出し、それに対する修正や対策を講じておくこと、ということになります。

実施する前に未然に防止するためには、トラブルを予測し予防しなければなりません。予測し予防できるためには、こういう状況ではこんなことが起こる、その原因にはこんなことがあり得る、それを防ぐにはこのような手がある、ということが分かっていなければなりません。当初の目論見との乖離があったとき、その原因と対応策を検討しますが、それらの原因と対策を適度な抽象レベルで理解し体系的な知識として蓄積しておくことが重要です。これらの知識が体系的な組織知を形成していれば、何らかの計画を立てるとき、同様の因果メカニズムが働いて望ましくない事象が起きるかどうか考察し(予測)、そのメカニズムを回避・緩和する対応策をあらかじめ計画のなかに盛り込む(予防)ことができます。これが、計画におけるリスクベースの考え方です。

これが可能となるためには、自らが経験した様々な問題事象に対する深い分析から導かれる「予防処置」に関わる知識(適度な抽象レベルでの因果メカニズムと対応策に関する体系的知識)が基礎となります。この知識の“獲得”に力点を置くと「予防処置」、これらの知識の“存在と活用”に力点を置くと「計画におけるリスクベースの考え方」になると、私は受け止めています。

PDCAのCにおいて望ましくない事態に直面したとき、応急処置にとどまらず、再発防止、未然防止のための処置をとることによって、管理のレベルが上がります。これこそが、PDCAのねらいでもあります。Pには2つの要素が含まれると説明してきました。①目的・目標の設定と、②その達成手段の明確化です。達成手段の不備に問題の原因を求めてこれを修正していくことにより、目的達成の腕前が上がります。このことを称して管理のレベルが上がると言っています。再発防止、未然防止のための有効な処置を導出するためには、問題の発生、見逃し、拡大させた原因に対する深い解析が必要です。こうした問題解決力を基盤とする管理能力の向上によって組織の実力が上がっていくのです。

2. 改善

2.1 改善の意義

前章で「究極のPDCA−未然防止」と題して、PDCAのCとAに関して再発防止・未然防止、あるいは是正処置・予防処置について考察しました。「PDCAを回す」とさりげなく言いますが、究極のPDCAは、望ましくない事象の要因を考察してこれを未然防止できる計画を立案することだという趣旨でした。

PDCAを回すのは、当初の目的を達成するためであり、また次はもっとうまくやるためですから、「改善」と密接な関係があります。PDCAを回すことによって改善ができるでしょう。でも、PDCAの回し方の考察から、改善においても、結果の改善のみならず、結果をもたらす要因系の改善が将来のために重要ということが示唆されます。そのためには、起きた現象の要因系を深く分析し、妥当な対応策を考察する、優れた問題解決力が必要となります。

私は、人も組織も国も、自己を変えていくメカニズムを持っていなければ、まともに生きていくことはできないと考えています。環境変化の大きさによっては生き残れないかもしれません。良いシステムというものは、内部にシステム自体を改善するためのサブシステムを持っていなければならないと思うのです。

品質管理では異様なほど「問題解決」を重視しますが、それは問題解決というより「改善」を重視してのことだと思うことがあります。問題は起きてしまったのですから、ある意味では、仕方ありません。解決といっても、うまく後始末するのが精一杯です。それなのに、なぜあれほど頑張るのだろうかと不思議でした。

過去の失敗を執拗に悔やむことを推奨しているのではないことは確かです。それはやはり、製品・サービス、プロセス、システムを継続的に改善していくことの重要性を強調してのことでしょう。改善を進めるときに、表面的なことばかりでなく、改善の効果が大きく広く現れるような改善をするためです。

品質の良い製品・サービスを提供するためには、その製品・サービスに固有の技術と、その技術を使って製品・サービスを生み出すマネジメントシステムが必要です。いついかなるときも、こうした技術やマネジメントシステムは完全ではあり得ません。それゆえに常に改善を怠ってはいけないのです。

優秀な組織なら、これで良いと思えるときを経験するかもしれません。でもそれは、一時的なものでしょう。事業環境、市場が変化して、あっという間に状況は変わります。技術革新が起きて、製品・サービスを作り出すもっと良い方法が生まれます。変化のことを考えれば、常に最善を求めて改善を積み重ねていかないと生き残れません。

2.2 組織的改善

品質管理では、常に最善を求めて改善を積み重ねていく活動を全員で行うことを推奨しています。「全員参加の改善」は、日本の品質管理の特徴の一つで、改善の実践を有効に機能させる枠組みを持っていました。

例えば、QCサークルが第一線の作業者層にとっての全員参加の改善の場として果たした役割には大きなものがあります。サークル活動を通じて全員参加の場を実現することによって、「全員管理者」を実感し、「私の仕事」を意識し、「プロセスオーナー(私の工程)意識」を高揚しました。QCサークル活動で職場の改善をすることによって、品質と生産性は向上し、仕事への自負心も高まりました。

小さな改善をコツコツと続けることの効果に疑問を持つ人もいました。でも、その考え方は間違っていると思います。小さな改善の積み重ねはバカになりません。何せ、小さくても全員なのです。しかも頭でっかちでなく地に足のついた改善の積み重ねです。そもそも画期的な革新などそんなに頻繁に起こるものではありません。堅実なカメは軽薄なウサギよりはるかに強いし、進歩が速いと思います。

日本の品質管理の特徴として「QCサークル」があまりにも有名になってしまい、第一線の作業者・事務スタッフの地道な改善に光が当たり過ぎましたが、実はそれ以外にも多くの組織的改善活動が展開されていました。

まず、改善の実施者としては、全員参加と言うに相応しく、技術者や管理者層が、それぞれの業務上の課題を取り上げ改善活動を進め、組織の運営管理の枠組みのなかで改善策が実行に移され、また相互啓発を目的とした事例発表会も行われました。また、「方針管理」や「トップ診断」(この連載の何回かあとで取り上げます)の枠組みの適用により、全組織一丸の戦略的な改善・革新が進められました。

組織的改善のために重要な側面として「標準化」を挙げることができます。改善活動の成果を、組織の知的基盤としての標準類に反映していく仕組みが重要ということです。何か問題があって、その分析の結果として改善策が明らかになったとき、この改善の効果を日常的なものにするには、業務標準類を適時適切に変更していかなければなりません。効果が一時的なものにならないように、組織の仕組みの改善に確実に反映していく体制が必要です。

改善の組織的な運営のためには、これを推進する組織が必要です。改善には2つの意味があることを認識し、必要に応じ管轄・支援し、改善の意義を説き、すべての部署が必要な改善を進めるように主管する部署の設置が望まれます。改善の第一の意味とは、上述したような、組織保有の技術・知識のレベル向上、マネジメントのレベル向上です。そして第二は、たとえ現時点では未熟でもより上をめざし、また変化する経営環境において常に最善を求めて努力し続けるという、組織運営上の価値観の重要性を認識することです。

3. 改善の基盤−問題解決力

有効な改善を組織的に推進していくためには、その基盤として、発生した問題の解決能力が必須です。

「問題解決」というと、言葉の響きからは後ろ向きの小さなことのようにとらえる方もいらっしゃるようですが、視野が狭いなぁと思います。「問題解決」という用語が適切でないなら、「課題」という用語も用いて、「問題解決・課題達成」と表現してもよいと思います。もっとも課題だって、問題には違いありませんが。

私は「問題」を「自分たちの将来までをも考えたときに、いま実施しておかなければならないこと」くらいの広い意味ととらえたいと思っています。「あるべき姿と現実のギャップ」と表現してもよいかもしれません。

さらに私は、「問題解決力」があるというのは大変な高い能力の持ち主で、考えようによっては「マネジメント力」と同等の能力と言えるとも考えています。なぜなら、問題解決力があるということは、何かコトが起きてもテキパキと片づけて前進できることを意味しています。それだけで積極的な良い仕事ができる基盤になります。また、問題解決力があるということは、因果関係、目的・手段関係、それにリスクを考慮した周到な目的達成のための実現手段を導く能力が優れていることを意味しており、これはマネジメントにおいて重要な、優れた計画を立案する能力があることを意味しています。

「問題解決力」とはどんなことができる能力なのか、図表1に簡単に記しておきます。もちろん完全とは思っていませんし、何を言おうとしているのか十分にはご理解いただけない恐れは大ですが、とりあえず挙げておきます。


さて、「問題解決」については、この連載の数回あとで本格的に取り上げたいと思っています。改善活動の推進のために有用と思われる、問題のタイプに応じた問題解決法や、マネジメントシステムの脆弱性分析などについて、ご紹介したいと考えています。しばらくお待ちください。

問題

[1] メールの宛先を間違えて誤送信をしてしまったとします。そのときの状況にはいろいろあると思いますが、適当に設定をしたうえで、「再発防止」(是正処置)と言えるものがどのような対応であり、また「未然防止」(予防処置)と言えるものはどのような対応でありうるか、考察してみて下さい。

[2] 結局、PDCAにおけるDoとActの違いは何だと思いますか。「Planに基づく実施」と「Check(=確認と分析)に基づく対応(=修正+次へのPlan)」について考察してみて下さい。

[3] 「PDCAを回す」ことと「改善」には、どのような関係があると思いますか。「管理/マネジメント」と「改善」の関係、「PDCAの回し方」と「改善の質」の関係などについて考察してみて下さい。

[4] あなたの組織における改善・革新を組織的に進める体制はどのようなものですか。その体制にどのような改善の余地がありますか。

[5] 図表1に示した「問題解決力」は少し視野が狭いようにも思います。あなたは「問題解決力」とはどのような能力だと思いますか。