連載記事 飯塚悦功
第16回 日常管理(3)

7. 日常管理の対象

7.1 目的的管理と手段的管理

日常管理として何を管理するか、すなわち「管理の対象」について考えたいと思います。実は、「業務機能展開」や「管理項目」を話題にしたとき、きちんと考察しておくべきだったかもしれません。なぜなら業務機能展開は、当然のことながら「何を管理することになるか」に関係し、また「管理項目」の設定にあたっては、管理の目的と管理の対象を明らかにする必要があるからです。

連載第6回で「目的的管理」と「手段的管理」に言及しました。このときは「マネジメントにおける管理対象」について考察していました。「目的的管理」とは、品質管理、原価管理、量・納期管理、安全管理、環境管理など、それぞれ品質、原価、量・納期、安全、環境に関する目的達成行動です。これに対し、「手段的管理」とは、業務管理、作業管理、設備・治工具管理、計測管理、物流管理、情報管理、労務管理、人事管理など、それぞれ業務、作業、設備・治工具、計測、物流、情報、労務、人事の手段を管理(統御、制御、監理、狭義の管理)して、何らかの目的を達成しようとする活動です。

例えば、品質管理のような目的的管理においては、品質に関するどのような目的を達成しようとするのか適切に定めなければなりません。また、巧みな管理のための方法について様々な知見を有している必要があります。設備管理のような手段的管理においては、設備を管理することによって何を達成したいのか明確にし、そのためにどのような方法で管理すべきか検討しておかなければなりません。いずれの管理においても、目的の定義・展開などによる明確化と、適度な粒度で目的を達成する手段を明らかにしておかなければなりません。

実は微妙な管理もあります。「利益管理」は目的的でしょうか、手段的でしょうか。経営者にこのような問いをすると「目的に決まっている!」と一喝されそうです。でも、どのような手段を講じてでも利益目標を達成するという経営スタイルには、心情的に受け入れにくい面があります。むしろ“利益で”経営の質、業務の質を管理するという考え方の方が健全な経営管理に導くという考え方もあります。ひところ一世を風靡したBalanced Score Cardが提示する「財務の視点」「顧客の視点」「プロセスの視点」「学習と成長の視点」というような考え方は、多様な意味でのバランスのとれた経営への誘導を示唆するものでした。

少々話がずれてきました。元に戻します。目的的管理の代表ともいえる品質の管理については、この連載の主題でもあり、これまでにも様々な側面から考察してきましたし、これからも検討を続けます。ここではその他の、原価管理、量・納期管理などの目的的管理と、いくつかの手段的管理における工夫について考えてみることにします。

7.2 原価管理

品質と並んで重要な「原価」の管理について、少しだけ触れておきます。最も重要なことは「原価意識」ではないかと思います。投資と創出価値の関係の理解、あるいは管理会計の考え方に基づく、合理的な原価を追及しようという意識です。価値を生み出すためには、何らかの原資が必要です。これをコストと呼んでもよいですが、コストというと少なければ少ないほど望ましいとの感覚を持ちやすいですが、現実にはそうでもありません。むしろ回収、リターンを期待した投資と考えた方がよいと思います。いくらになるか(原価がいくらになるか)は、大げさに言えば、ときのState of the Artsによって実現できる合理的レベルでなければなりません。

多くの組織で、商法、税法上の義務を果たすための、いわゆる「財務会計」とは別に「管理会計」ともいえる経理システムを運用していますが、これは意義・意味のある活動、あるいは価値創出活動にどれだけの原資を投入し、いつどれだけ回収できるかを計ろうとするものです。これをどの程度の粒度でできるようにしておくかが、その組織の実力とも言えます。ドンブリ経理で、締めてみたら黒字だ、赤字だというのでは経営とは言えません。製造では、製番別、さらにはロット別に製造原価把握ができないと、原価管理とは言えないでしょう。

製品開発において、コストは品質と同等の重要性を持つ要素です。製品が売れるかどうかはその製品の品質と価格のかねあいで決まります。競争市場においては、価格はメーカーが自由に設定できるものではありませんので、利益をあげるためには妥当なコストを実現しなければなりません。

こうした背景から、現在では「原価企画」という考え方が主流です。高度成長期には、とにかく(コスト高であっても)製品を上市して、その後に徹底的なコストダウンを図るという経営が通用しましたが、成熟経済社会になってそのようなことは通用しなくなりました。最初から利益を確保できるような製品開発が必須となりました。そこで「原価低減」ではなく「原価企画」というわけです。

そのポイントは、合理的な原価目標の設定と、目標達成のための周到な検討にあります。合理的な原価目標の設定のためには、各構成要素に対する「コストテーブル」の整備が必須です。このテーブルは、単なるコストの実績表ではありません。

原価目標の設定ないし見積りにおいて、積み上げ方式は得策ではありません。見積りに時間がかかり、しかも未経験部分には適用できません。そこで、過去に開発・生産した製品をいくつかの機能要素に分解し、機能要素ごとに機能値(馬力、耐圧、速度、容量などその要素の性能値のうち原価を左右する特性値のレベル)と原価の関係を図、表、経験式の形で保有します。この段階で提示する目標値は、様々の努力の結果達成できそうな妥当な目標が設定できればよいのであって、設計が確定したあとの精密な見積りとは性格を異にします。

コスト目標達成のために、重量、部品点数などの目標値を定め、これに挑戦してコストダウンを目的とする設計を行います。コストダウン設計を要領よく行うために、コストダウンの着想を得るための定石集の整備、類似製品との比較、競合他社製品の分析、各構成要素の果たすべき機能の徹底的分析などが必要です。機能分析を徹底的に行ってコストダウンに結びつける手法として、VA(Value Analysis)やVE(Value Engineering)が活用されます。コストダウン案に対しては、その実現手段に内在するリスクを正当に評価できなければなりません。FMEA(Failure Mode and Effect Analysis)やDR(Design Review)がそれらの影響の検討の機会となります。この意味では、合理的コストとは、総合技術力の成果であるとも言えます。

7.3 量・納期管理

量・納期管理とは、定められた時期に、定められた量を提供するための総合的活動です。この活動は、価値あるものを創出し、それを欲する者に適時に提供するという、需要と供給の時間的関係の管理とも言えます。話を分かりやすくするために、有形の生産物の生産を例にしますが、これが無形の価値であっても同様の考慮が必要となります。

考慮すべき事項は、生産能力、多品種の生産方式、負荷変動への対応などとなるでしょう。「生産能力」に関しては、絶対的な容量、稼働率、生産効率(速度)などが問題となります。絶対的な容量が不足していてはどうしようもありませんが、それでも稼働率(生産している時間比率)や、生産速度などによる効率向上によって、ある程度は増やすことが可能となります。設備稼働率の向上やタクトタイムの短縮などはそのための活動です。

「多品種生産」の場合、段取り替えの時間短縮(回数減、段取り時間短縮)、混流(複数品種を同一工程で生産)などを可能として、その最適化運用を図ります。

「負荷変動への対応」には、需要の変動と、ある意味それと同じですが直前での生産計画変更への対応があります。需要については、顧客の要求が本当にその指定した納期・量であるのか確認し調整をすべきです。顧客の要求ですから尊重はしますが、無意味な短納期、大きすぎる量変動は、交渉・調整の対象にすべきです。そのほかに様々な理由により生産計画の変更がなされますが、これらに対しある程度は的確に対応できる能力が要求されます。そのための底力として生産リードタイム短縮が必要で、さらに進捗状況把握と的確な対応能力が要求されます。

当然のことながら楽なのは、一定水準の量の同一作業による生産です。その意味で、生産計画において平準化を図ることは生産効率向上のみならず、品質向上のためにも有効です。諸般の事情、要求を考慮し、需給ギャップを埋めるような生産計画を設定するのが、優れた生産管理と言えます。最後に、需給ギャップを埋める手段の一つとして在庫、すなわち事前に作っておくという手があることにも触れておきます。

7.4 安全管理

安全は質や効率を語る前に取組むべき基本的な課題です。産業界での経験では、安全管理の最大の課題は「安全意識の高揚」です。業務従事者自身の安全の確保でありながら、その重要性がなかなか理解されず、不用意に危険な行為を行ってしまうことが問題なのです。安全に関する教育を繰り返し、安全パトロールを実施するなどして、常に注意を喚起する必要があります。

安全に関して必ずしも望ましい管理がなされないのは、職場の安全に関する技術の体系化がなされていないからです。一般的な意味で、安全第一とか注意するように言われても、具体的に自分の業務のどこがどのように危ないのか実感できませんので注意のしようがありません。安全パトロールを行っても的確な指摘ができず長続きしません。事故や事故寸前といった危険なことが発生しても、それはたまたま運悪く起きたのだと考えられやすく、またとられた安全対策が個別的・断片的になりがちです。安全でないことに関する様相(不安全モード)が体系化されていないから、自分の職場の危険を的確に予測できないのです。

こうした事態を打破するために、「KYT(危険予知訓練)活動」を充実させることが考えられます。現在の方法は、紙芝居を作って「危険」を指摘させるものですが、個別的・断片的すぎます。自己の職場を見渡して「安全でない状態」を列挙し、それぞれのどこがどの様に安全でないのかを深く分析し、安全でない状態を一般的に表わすキーワード、しかも具体的な危険を連想させるような用語を抽出するとよいと思います。ある程度集積できたらこれを分類・整理してみます。このキーワード集を用いて、危険の予測を行い、危険予知のための問題を作ってみるとよいでしょう。要は、断片的に見える事象も偶然起こっているのではなく、実はそれぞれに深い訳があることを理解し、危険に至るメカニズムに関する整理した知識を持っていれば相当程度まで予測可能であると納得することが重要だと思います。

7.5 作業・業務の管理

QCDSEというような目的を達成するために管理の対象とする手段的管理のいくつかについて、何がポイントになるか考えてみます。

作業・業務の質は、提供する製品・サービスの質と生産性に直接大きな影響を与えますので、当然のことながら管理が必要です。なすべき作業・業務を定め、それらをどのように実施するか定め、必要な力量(教育・訓練、経験などで培われた能力)を持った人々が定められた通りに実施することが基本となります。

作業・業務の目的を達成するための合理的な方法が作業標準、業務手順等に定められているのなら、これに従って実施することに焦点をあてた管理を行います。そのためには、作業・業務に従事する人々が、標準の内容を理解し、標準通りに実施できるように技能を習得しておくことが必要です。

作業・業務に携わる人々は、

• 何をするか(目的)
• どのようにするか(方法、手段)
• なぜそうするか(根拠)

が分かっていなければなりません。

第2項の「どのようにするか」は、第1項の「何をするか」の詳細手順、あるいは作業・業務のノウハウやコツで、レベルの高い作業・業務に必要な知識となります。第3項の「なぜそうするか」が重要です。そうすることによって質と生産性が保証される根拠、そうしないとどのような不具合が生じ、それがどのような意味で製品・サービスの質に悪影響を与えるかを理解していないと、標準通りの正しい作業・業務を持続して遂行してもらえないからです。

標準通り実施しても良い結果が得られないとき、このことに自ら気づき自らの判断で修正して実施して業務の質と生産性を確保している場合、この人を誉めるか、それとも叱るか、どちらにすべきでしょうか。この問いかけは、連載第7回(PDCA)で「賢者の愚直」という話題で触れました。標準の非合理性を発見し作業に工夫をしたことは評価できます。しかしながら、標準通りの作業・業務をしていなかったことは厳重に注意すべきです。標準に不備がある場合、そのことを申告し、標準を改訂し、改訂した標準に従って作業・業務を実施すべきだからです。こうした行動原理を浸透させておかないと、ルール・標準に基づく作業・業務の実施、組織内での“良い”方法の共有、改善の基盤の維持において、いろいろ問題を引き起こします。

標準の内容の理解とともに、その通り実施できる「腕前」もまた必要です。いわゆる技能レベル、スキルを確認し、必要に応じて訓練することが重要です。知識教育と一体となった訓練プログラムを用意し、資格認定の仕組みを考えてもよいでしょう。座学や業務を離れた訓練(Off-JT)ばかりでなく、業務を通じての訓練(OJT;On the Job Traning)を考えるのもよいことです。

作業・業務のパフォーマンスの管理もまた重要です。個人やグループごとに、適切な管理指標を定めて実績を把握し、これを作業・業務のレベルアップに活用します。個人・グループの評価とそれに基づくインセンティブだけの目的に使うと、必ずしもよい結果をもたらさないので注意が必要です。適材適所、作業・業務レベル向上に役立つような解析と対応が必要となります。

質の高い作業・業務は、標準通りの作業・業務の実施によって保証されますので、常に合理的な作業標準、業務標準を維持することが肝要です。そのためには、教育・訓練とともに、標準に問題がある場合、あるいは改善の余地がある場合、それを速やかに検討して、標準の改訂に結びつける仕組みが必要です。作業・業務に携わる人々からの標準に対する質問、疑問、意見、提案を受け付け、迅速に採否を決め、改訂した場合にその内容の周知を図る仕組みです。これらが、人々の意欲向上につながり、何よりも「正しいことを決め、共有し、それを守って、レベルの高い仕事をする」という価値観、文化の醸成をもたらします。

7.6 設備・機器・装置、治工具の管理

生産・サービス提供において様々な設備・機器・装置、治具・工具(治具=加工・組立において部品等の位置を正確に定めるための道具)、計算機ソフトウェアが使われますが、これらが品質に及ぼす影響を明らかにし、要求品質を満たすために適切な管理をしなければなりません。

当然のことながら、設備・治工具類は、それらを使って要求品質を達成することができるかどうかを確認しておくことが必要です。そのために下表に示すようなことを検討します。詳細はともかく、皆さんが何気なく使っている機器・道具類がきちんと管理されていないと満足できる仕事ができない恐れがあることを感じて下さい。



こうして定めた管理計画に従って設備・治工具類の日常維持管理活動を行いますが、原則は工程の維持管理と同様です。ただ、設備類はその維持のために、技術的・技能的に高度なレベルが要求され、また経済的な影響も大きいことから、特別の配慮が必要です。たとえば、いざというときのために、復旧のための要員や補修部品を確保しておくことが必要です。また、故障に際しては、迅速に修理を行い、その現象、原因、処置などを記録、解析し、再発防止に役立てるととともに、将来の設備改善に生かします。

7.7 計測の管理

設備・機器・装置の一部とも言えますが、測定、評価、プロセス管理に用いられる計測・分析・試験機器、検査・試験治工具についても適切に管理しなければなりません。品質の管理は科学的であるべきで、科学的な管理において、計測(測定・分析)はその基本です。それにもかかわらず、品質問題の原因が計測にあることは珍しいことではありません。事故・不祥事につながることが多いのも計測の管理です。

計測の管理のために、実施すべき計測の種類、頻度、要求精度を明らかにし、計測計画を立案します。計測機器を使う前に、要求精度を満たしているかどうかを確認しておくことが大切です。自動測定装置、自動選別機などは、正常に機能しているように思いがちですが、実態はそんなことはなく、とくに注意が必要です。

計測機器は、振動、熱、磁気などを嫌い、乱暴に取り扱うと、壊れるほどではなくても精度が確保できなくなることがあります。日常の業務・作業においては、取扱い、環境に十分に注意しなければなりません。業務従事者の教育・訓練、点検、校正を確実に実施することが必要です。

精度を維持するために、定期的に要求精度を満たしているかどうかを点検し、必要に応じて調整、修理、校正を行います。点検の頻度は、計測器の使用頻度、使用環境を考慮して定めます。温度計、血圧計、マイクロメーター、ノギス、電圧・電流計など、持ち運びされて使われる計測機器には登録番号を付けて識別できるようにしておき、保管場所、保管基準を定めた方がよい場合もあります。点検の実施状況を明確にするために、計測機器の管理台帳を整備することもあります。個々の計測機器に有効期限を示すラベルを貼るなどして、校正期限の切れた機器の使用を防ぐことも行われます。計測機器の検定・校正に関しては、トレーサビリティ(得られる計測値が標準器による計測と同等と見なせると遡れること)を確保する必要があります。

いかに正しい計測機器を用いても、いかに慎重に計測しても、計測値はばらつきます。計測値と真値との差、すなわち計測誤差には、正確さ(カタヨリ)と精度(バラツキ)の二面性があります。また、計測誤差はその原因によって、計測機器に固有の誤差、計測者による誤差、測定方法による誤差、使用・環境条件による誤差などに分類できます。これらの誤差を小さくするように総合的に管理することが計測管理と言われているものです。すなわち、計測に用いられるハードである計測機器の管理ばかりでは計測管理とは言えず、それら計測機器を使いこなし、計測の目的を達成するためのすべての活動が計測管理なのです。

計測の管理には以下のような事項が含まれます。

• 計測技術の確立:計測目的を達成するための計測の原理・方法論、計測誤差の発生メカニズム
• 計測作業の標準化:計測目的を達成するための“正しい”方法の指定
• 計測作業標準類の遵守:標準通りの計測作業
• 計測作業従事者の教育・訓練:必要な知識・技能の習得、当該計測作業の意義の理解
• 計測作業のチェック方法の確立:正しい計測が行われているかどうかの確認方法
• 計測管理組織の整備:総合的な計測管理の運営組織

とくに、外観、色、味、臭いなど人間の感覚が測定器として用いられる官能検査においては配慮が必要で、検査する要員の識別能力の評価、検査員間の判定基準の調整を、標準物質、限度見本などを用いて定期的に行い、検査基準の管理を行う必要があります。

7.8 取扱い・保管の管理

生産においても、サービス提供においても、そこで扱うモノや情報そのものの管理が重要です。例えば、モノや情報の識別とトレーサビリティを確実にして、正しいモノや情報が利用されるようにしておかなければなりません。また、原材料・部品、半製品、完成品の取扱い、保管の過程で品質の維持のための標準を設定し、これに従って作業を実施する必要があります。

(1) 識別とトレーサビリティ

正しいモノや情報が使用されるように、必要に応じて、製品・サービス実現の全過程において適切な方法で製品やサービスを識別する必要があります。製品の出荷、サービスの提供後の識別についても、その管理に関する手順を確立し、実施する必要があります。原材料・部品、半製品、完成品の履歴が必要な場合、あるいはデータ・情報の出典、経緯、根拠が必要な場合、これらトレーサビリティに関する要求事項を満たせるように、製品・サービスについて固有の識別を管理し、記録する必要があります。

識別、トレーサビリティの維持のために、いわゆる「構成管理」がその有力な手段となります。とくに、膨大な要素で構成されるシステム製品、ソフトウェア、多量・複雑なサービスのセットを提供する形態のサービスなどでは、ITを活用したシステムで管理しますが、これによって必要な識別やトレーサビリティが確保されます。

識別とは、それがそれであること、すなわち名前・ラベル・記号などをつけて他と区別しようとしているものが、まさにいま取扱おうとしているものであると認識することです。例えば、病院においては、患者に関わる識別、ID(Identification)が最重要で、患者本人、患者名、患者コード、処方内容、処置内容、指示内容、患者から採取した検体、検査結果などの関係が正しく維持されるような管理の仕組みを考えなければなりません。

(2) 取扱い

材料、部品、半製品、完成品の誤用、濫用、損傷、劣化を防ぐために、取扱い規準を設定しておくとよいでしょう。この規準には、例えば、

① 身元の不明な物品や異品との混入防止
② 仕切り箱、パレット、袋などの運搬荷姿およびその輸送手段
③ 保護カバーなどの損傷防止の手段
④ 汚染・劣化防止の手段
⑤ 物品の識別を確保する手段

などが規定されます。

(3) 保管

使用待ち、出荷待ちなどの物品について、保管中の品質劣化などを防止するために、保管規準を設定しておくとよいでしょう。この規準には、例えば、

① 保管場所の設定
② 保管場所への搬入、保管場所からの搬出の手続き
③ 品質劣化を防ぐための保管条件の設定とその維持
④ 保管有効期限の設定とそのチェック
⑤ 品質、安全に影響がある場合、関係者以外の立入禁止措置

などが規定されます。

(4) 保存

製品・サービスの実体は顧客に引き渡せる状態になっていて、引渡しまでの間、製品を良好な状態のまま管理すること(ISO 9001で「保存(preservation)」と呼んでいます)も重要です。その管理手順では、

① 製品、製品構成要素の特性
② 保存方法(包装など)
③ 保存期間、保存条件
④ 保存製品の評価方法
⑤ 識別、取扱い

などを考慮して定め、確実に実施する必要があります。

(5) 在庫管理

製品、部品、材料、備品、消耗品などを良好な状態に保ち、また経営資源の有効活用を図るため、適切な在庫管理の計画を策定し、管理する必要があります。在庫管理の計画の策定にあたっては、

① 特性の劣化(鮮度など)
② 適正在庫量
③ 在庫の監視(使用実績、回転率など)
④ 在庫に関する情報の共有
⑤ 在庫の確認の方法
⑥ 使用に適さない製品、部品、材料、備品、消耗品などの処理

などに留意する必要があります。

7.9 作業環境の管理

作業・業務の環境は品質確保の基本的条件です。安全確保、業務規律維持の点でも不可欠の要件です。整理・整頓の行き届いた現場・事務所の質と効率のレベルは例外なく高いものです。

業務の場の環境改善の第一歩は「整理・整頓」です。不要なもの、理由のないものは一切その場に置かないことを原則とします。作業・業務の場にあるものは、材料、部品、半製品、治工具、書類のいずれについても、すべて意味があり、必要なときにすぐに使えるようになっていなければなりません。さらに「清掃」が行き届いていれば申し分ありません。これによって、作業・業務の規律は向上し質も確保できます。5Sは、極めて基本的な当たり前のつまらないことに見えて、実は業務の質と効率の基盤となるものなのです。(自宅の私の部屋、机の周辺は、まさに反面教師です。とてもお見せできません。私は先生ですが、自分でできないから教えているのです)

照明、振動、騒音、塵埃、温度、湿度などの職場環境は、直接的には業務従事者の仕事の質と生産性を左右し、間接的には職場のモラールを通じて製品・サービスの質に影響を与えます。贅沢はお勧めしませんが、働く人々に対する尊敬の念は表してほしいものです。これは質、安全、効率に対する有効な投資です。

問題

[1] あなたの担当業務について、コスト(あるいは業務効率)、納期がどのように「管理」されているかレビューしてみて下さい。

[2] あなたに管理責任がある業務プロセスについて、作業・業務の管理がどのようになされているかレビューしてみて下さい。

[3] あなたの担当業務で使う設備・機器類について、その管理がどのようになされているか確認してみて下さい。業務目的を適時適切に達成できるようになっていますか。