連載記事 飯塚悦功
第18回 方針管理(1)

1. 方針管理とは

1.1 方針管理のねらい

経営における3つの管理の3つ目として方針管理について考えてみます。まずは、この連載の4ヵ月前に使った図(図表1)を再掲します。



「方針管理」とは、環境の変化への対応、自社のビジョン達成のために、通常の管理体制(日常管理の仕組み)の中で満足に実施することが難しいような全社的な重要課題を、組織を挙げてベクトルをあわせて確実に解決していくための管理の方法論です。

経営環境、すなわち市場・顧客、技術動向、競合状況、そして自社の能力にそれほどの変化がなければ、適切に定められた組織の目的を合理的に達成するために、適切な構造(部門構成)の組織を作り、組織の目的を各部門の目的・目標に適切に展開して、適切に構築された日常管理の仕組みを運営し、さらに部門横断管理としての機能別管理(経営要素管理)を適切に運営すれば、これでうまく乗り切っていけるはずです。

方針管理は、この2つのタテ・ヨコの日常的な管理体制では不十分な、全組織が一丸となって取り組むような「変化への対応」に焦点をあてた運営管理です。正々粛々とした静的なマネジメントは基本としてもちろん重要ですが、同時に、経営環境の変化に応じた、全組織一丸となった動的な管理もまた重要です。このために、組織は、少数の重要経営課題を設定し、これらの課題を達成するために、全組織を挙げた体系的な管理システムを構築することが必要です。

実は、方針管理は、日本の品質管理(TQC:Total Quality Control、 総合的品質管理、全社的品質管理)が生んだ経営管理の方法論です。TQCにおける日本発の概念・方法論・手法には、QCサークル(小集団活動)、QCストーリー(QC的問題解決法)、特性要因図、QFD(Quality Function Deployment、品質機能展開)、魅力品質・当り前品質、PDPC法(Process Decision Program Chart、過程決定計画図)などがありますが、経営に与えた影響の大きさは「方針管理」がダントツです。1980年代初めに日本的品質管理が世界の注目を集めましたが、欧米の経営管理層を喜ばせたのは方針管理でした。経営トップ層が「こうしたい」と思うことを、組織を挙げて実現する経営手法だったからです。

方針管理がねらいとしている、組織一丸の経営管理は、どんな組織でも実施しようとしているものです。皆様は「目標管理」という管理手法をお聞きになったことがあると思います。20世紀最高の経営学者と言ってよいドラッカーが提唱したものです。「目標による管理」(MBO; Management by Objectives)とか「結果による管理」(MBR;Management by Results)と言われていた目標管理の特徴は、組織全体の目標の徹底的な分解による組織構成員各人の目標の明確化と、インセンティブによる各人の目標達成の確実化にありました。目標による管理、結果による管理とは、各人に具体的目標を与え、得られた結果で管理する方法という意味です。これは目標の明示、その展開、到達結果と目標との差異を起点とするフィードバックという点で、管理の基本を踏まえた正統的な管理手法でした。しかしながら、目標管理の目標達成率は高くありませんでした。目標は明示しましたが、達成手段に対する考察が弱かったからです。

方針管理は、同じねらいを持った経営管理手法と言えますが、その目標達成率は非常に高いものです。それは、方針管理が、実現可能性も考慮した目標の展開、目標達成の方策・手段への展開、実施過程における「プロセス管理」の原則の適用、年度末の大々的な「反省(振り返り)」に、その特徴があったからです。いまでは、目標管理も方針管理の影響を受けていて、事実上、方針管理と変わらないものとなっています。目標管理を変身させた手法として、方針管理は高く評価されてよい経営手法だと思います。

1.2 方針管理の枠組み確立への道

日本の品質管理の発展過程において、経営管理全般にまでもの申すような「方針管理」という大それた経営手法を提案するにいたる経緯・背景には興味深いものがあります。それは1960年代半ば、「品質のための全社的管理の体系的方法論」の検討の過程で行われた「管理」についての深い考察から生まれました。

管理とは「目的を継続的に効率的に達成するためのすべての活動」なのだから、まず目的を明確に決める必要がある、目的達成レベルとしての目標の明示のために目的達成度合いを測る尺度を決める必要がある、そして目的を実現するための方策・手段・方法を決める必要がある、これを組織で体系的に行うにはどうしたらよいだろうか、などということを飽きもせずに実践しながら検討していったのです。ご記憶ですか。これはPDCAサイクルのP(計画)において実施すべき事項である、①目的の明確化、②管理項目の決定、③目標(管理水準)の設定、④実行手順(目的達成手段・方法)の設定、について詳細に検討したことにほかなりません。

まず「管理項目」についての熱い議論が延々と続きました。管理項目としてどのような項目・特性を定めるかについては日常管理の項で少し説明しました。実は当時の議論の中心は、ある一つのプロセス・機能・活動の管理項目というよりは、組織を挙げた体系的な管理のための管理項目の体系、管理の方法論についての検討でした。「管理項目一覧表」(ブリヂストン)、「旗管理方式」(小松製作所)、「管理項目・点検項目」などです。いずれも管理項目間の関係、組織全体としての管理項目の体系に関心がありました。点検項目とは、自分・自部門では直接に介入・管理できず結果を確認して何らかの限定されたアクションをとるための項目という意味でしたが、いまでは廃れてしまった考え方です。管理項目の体系、体系的管理の方法論の検討は、その後すぐに日の目を見る「方針展開」「方策展開」に直結する話題でした。

1990年代後半に、BSC(Balanced Score Card、バランスト・スコアカード)という手法が広まりました。財務を中心とする経営管理指標に偏らず、①財務、②顧客、③業務プロセス、④学習・成長などに及ぶ、バランスのとれた管理指標を設定する必要があるというものです。アメリカ型財務中心経営に対する一種の警告・啓発としては秀逸な経営手法と言えます。しかし、財務上の成功には、顧客満足が必須で、そのためには業務プロセス、さらに基盤としての組織インフラ・経営リソースが重要という構造を考えると、財務目的ではなく、社会・顧客に対する価値提供という組織の目的・使命がどの程度達成できたかを測るために、どのような管理項目・目標の体系を持てばよいかと考察すれば自然に導かれるものであって、日本の一部の企業は、これを青臭く1960年代半ばに実践していたことになります。

管理項目の次に延々と議論したことは、目的達成の手段の明確化についてでした。Plan(計画)では2つのことをします。第一が目的の明確化と目標の設定です。第二が目的達成手段の明確化です。この第二の欠けているものを「夢まぼろし」「幻想」「白日夢」などと申します。方向を示しただけで、ゴールへの道筋、方法を明確にしなければ目標は達成できません。ボケッと夢想していても、夢は実現しません。ビジョン、目的・目標、課題などと、それらをどのようにして達成するかの方策との関係を熱心に検討したのです。WhatよりもHowが得意な日本人の面目躍如とも言えますが、「目標・方策展開表」などというものを開発しました。手段への展開をすれば、当然、それを誰が担当するかの議論になりますので、組織の上下・左右との調整方法も検討されました。こうして方針管理のフレームワークができあがっていったのです。

1.3 方針管理のポイント

「方針管理」は、組織一丸の管理の方法論を模索するうち帰納的に整理されてきた(品質)経営・管理の方法論です。1970年ごろの提案当初は、3〜5年程度を想定した中期経営方針的な性格も持たせようとしていたようですが、普及にともなって年度方針の管理が主流になってきました。ここで方針管理のポイントの絵解きをするにあたり、年度方針管理に限定することにします。

上述しましたように、帰納的に整理されてきましたので、戦略かくあるべしと導出し、それを演繹的に展開したものではありません。したがって、理論的には美しくない要素がそこかしこに見受けられます。それでも、組織一丸の管理体制構築のために何が必要かと考えてみれば、ポイントを突いた特徴を有するなかなかの方法論です。

これらの特徴を端的に説明するのは難しいのですが、そこは私の独断と偏見をもってすれば容易なこと、エイヤッと以下の6項目に整理できると断言してしまいます。

[1] 方針策定:重点を絞った合理的かつ明確な全組織的方針の設定
[2] 方針展開:方針の展開、方策への展開、各部門・各階層への展開
[3] 管理項目:目的達成度合い把握のための指標、合理的目標の設定
[4] 実施計画:方針達成のための具体的実施計画
[5] 進捗管理:実施過程における進捗チェックとフォロー
[6] 振り返り:年度末などにおける振り返りと次年度へのフィードバック

次章以降でこれらのポイントについて、さらに考察します。

2. 方針策定

方針の管理において、「方針策定」が重要な特徴であるのは当然のことと思われるでしょう。企業が戦略を立案するときには、何であれ、これと思う方針・施策を明確に決めます。そのなかで、方針管理の特徴は、「重点を絞った合理的な」を重視するところにあると言えます。

そのような方針であるためには、組織が置かれた事業環境を正しく認識し(状況認識)、当該組織が実現したいと考える上位の目的・目標を達成するうえで有効であって、また方針の実施に必要なリソースが現実的なものでなければなりません。

通常は、方針の策定へのインプット情報としては以下の3つがあります。

• 上位の目的・目標
• 事業環境分析
• 前年の振り返り

「上位の目的・目標」とは、例えば、ミッション(使命)・理念・社是などの組織設立の目的や理念に関わるもの、10年程度を視野に入れた「ビジョン」、3〜5年程度の期間を想定しての中長期経営計画などです。また、重要な経営機能に関して定めている品質、市場、技術、人財・人材などに関わる基本方針が存在するかもしれません。要するに、ここでいう「上位」とは、長期的視点、目的・手段関係の観点での上位、概念として基本的・原則的ということになります。

方針管理がおもに年度方針達成のための経営管理手法として用いられている場合、しかるべき方針を策定するためには、年度方針の上位に位置づけられる経営目標・戦略の妥当性が重要ということになります。それは、直接的には中長期経営計画であり、あるいはその上位に位置付けられる「ミッション」−「ビジョン」−「戦略」であるかもしれません。

これらの戦略立案の方法はいろいろあるでしょうが、まずは、何らかの形で、事業環境の理解に基づいて、事業構造(当該事業分野に関係のあるプレーヤーの特定とそれらの間の関係)の理解、競争環境下において顧客を含む関係者に提供すべき価値、持つべき組織能力(競争優位要因)、その能力を実装すべきマネジメントシステム要素を明らかにする必要があるでしょう。そのうえで、現状とのギャップを踏まえて経営課題を特定し、課題達成・解決への上位の方策としての戦略を策定し、これらが中長期経営計画に反映され、その本年版が年度方針となるというのが自然です。

ここで「中長期経営計画」とは、市場や製品系列別の売上や利益などについての数値目標だけを意味しているのではなく、そのために必要な方策も含みます。それは例えば、○○市場への進出、○○領域における新製品開発・上市、○○プロセスの進化、○○知識ベース確立というようなものです。当然のことながら、これらは適切に展開されなければなりません。展開については次章に譲ります。

年度方針策定へのインプットになり得るものとして、毎年の事業環境分析、前年度の実績の分析があります。事業環境は時々刻々変化していきますので、適時適切な状況把握・分析が必要で、それが次の方針策定のための状況認識となります。実は、上述したビジョン策定、中長期経営計画策定において、当該事業分野において持つべき組織能力を明らかにするために、事業構造の理解のために分析をしていますが、毎年、その見直しをすると考えてもよいかもしれません。

さらに、もっと具体的な分析素材として、前年度の実績の分析もあります。実際、前年も方針を定め、組織を挙げてその達成のための活動を行ってきたのですから、その過程で多くの知見が得られたでしょうし、新たな課題も認識したことでしょう。前年度の活動が必ずしも成功裏に終わっていないなら、積み残し課題として継承しなければならないかもしれませんし、別の方策を考察しなければならないかもしれません。

こう考えてみると、中長期計画と年度計画との関係は、数値目標のうえではそうしていなくても、目標達成のための方策という観点では、実質的にはローリングになるでしょう。年度より長い方針、例えば中長期ビジョン、中期経営計画については、年に一度は情勢分析を行い、また前年実績を踏まえてローリングで見直し、それに応じ、次の年度の方針に反映されるものです。

方針を合理的に定めようとすれば、「課題の重大さ」と「実施に必要なリソース」の考慮が必要です。この意味で総花的な方針は、この方針を念頭に努力する者にとっては、望ましいとは言えないでしょう。「あれもこれも全部やれ」と言われ、リソースが限られていたら、組織としては、まともな目標達成行動にはなり得ません。

一見もっともらしいのですが、経営環境も重要課題も考慮されていない百年使えるダメ方針の典型としてよく例にされるのが、「①品質第一、②トータルコストダウン、③納期遵守100%、④人材育成、⑤職場の安全確保」という方針です。これらは一般論としていつでも重要であって、すでに日常管理で実現するようにその仕組みに埋め込まれているはずです。現在の経営環境にあって、これらのうちのどれがなぜ重要なのか、これらのうち具体的に重点を置くべき基本方針は何かを掲げなければ、的確な組織活動にならないというのです。

私がこれまでで最もスゴイと思ったのは、「バラツキ半減」という方針一つを2年間全社方針に掲げた社長です。「そんなバカな」とわが耳を疑いたくなるのですが、実によく会社の問題・課題、さらに問題・課題の原因構造を見ぬいていて、社員が各々の立場で、自分の仕事のバラツキがどんな影響を与えていて、その原因が自分の仕事にどこにあるのかを明らかにせよと叱咤激励する方針でした。「バラツキ」という用語が、各部門が果たすべき経営機能に関わる「期待との乖離」、そのための活動における「プロセス能力」を意味していて、組織全体のなかでの部門の役割の再認識、個々人の立ち位置の再認識、その上での課題の認識を促すものでした。

3. 方針展開

方針管理のポイントで挙げた6項目のうち、「方針展開」に方針管理たるゆえんが現れます。トップ方針、全社方針を、ほぼそのままの形でスローガン的に唱えるのでなく、自己、自部門の役割・責任・権限を踏まえて、上位方針達成のために何をなすべきかを、組織構造に従って丹念に展開していくのです。全社方針(→事業部方針、本部方針)→部方針→課方針という感じです。そして、下位の方針が達成されたとき、上位方針が達成できるかどうか、方針策定のときに確認しておきます。

3.1 3つの展開

「方針管理」という経営管理の方法論を「方針展開」と理解する会社もあるくらい、「展開」は方針管理において特徴的なことでした。元祖「目標管理」では、全体目標を実に組織を構成する個人のレベルにまで分解・展開しますが、この管理がそれなりに有効であることは広く理解されていました。その目標管理の一つの弱点である「目標達成プロセス」を強化したと言える方針管理においても、目標・結果の適切な分解・展開が重要であることは変わりなく、その意味で「展開」こそが重要と受けとめられていました。

ひと言で「展開」と言っても、いろいろあります。大きくは以下のような3つの分解・展開があるものと考えられます。

• 目標の分解・展開
• 目標達成手段への展開
• 担当部門への展開

第一に、目標の分解・展開、要するに、到達目標の分解です。例えば、全社の売上目標を、事業分野別、さらにはそれぞれの事業分野の製品系列や品種ごとの目標に分解することなどです。同様に、国内・海外それぞれの目標に分解するとか、さらには中国、アジア、北米、中南米、欧州、アフリカ、中東などの市場別の売上目標に分解することもあるでしょう。供給体制でいうなら、各工場の生産量、生産高目標とか、品質レベルに分解することもあるでしょう。

第二は、手段への展開、要するに目標を達成するための手段・方法への展開です。例えば、売上向上を目標に掲げている場合、「売上向上!」と声高に叫んだところで実現するわけもなく、売上向上を実現する方策を考察し、それぞれの方策をどう実施し、目標達成にどう貢献させるか検討します。既存顧客への関連製品の売り込み、新規顧客への既存製品の売り込み、新製品の開発、新市場の開拓などです。価格競争力の向上による売上向上のために様々な原価低減(原低)、例えば、購入部品・材料の原低交渉、新規供給者の開拓、VA/VEによる設計・材料・部品・工法の改善による原低、生産性向上、生産工程の安定化による原低を考えるかもしれません。製品品質の向上、信頼感を通してのブランド確立による売上向上という、本流中の本流ともいえる策もあり得ます。

言うまでもなく、手段への展開のポイントは、目的−手段関係を十分に考察したうえで、どのように実現するかを考えることにあります。PDCAのPlanの説明において、目的の明確化とともに目的実現手段を決めることが重要だと申し上げたことがありますが、まさにそのことを言っています。元祖目標管理がうまく機能しなかったのは、各人に展開された目標を達成するための方法についての検討が各人に任されていたことが一因でした。目的を達成する手段を考案するのはやさしいことではありません。だから、優秀な人は優れた目的達成手段を考察して効果を挙げますが、そうでもない人は思いつきで手段を考えて、運が良くない限りは目標達成とはいかないのです。

思いつきの手段というものはいくらでも考えられますが、その手段で目的をどのくらい達成できるのか、技術的に成立するのか、いくらかかるのか、どのくらい時間がかかるのか、どんなリスクがあるのかなどを考慮して決定しなければなりません。方針管理は、目的−手段関係を組織的に考察させる経営手法でもあるのです。

第三は、担当部門への展開、すなわち分解された目標の達成を担当する部門、あるいは目標を達成する方策を担当する部門を決めることです。方針展開・方策展開の過程で、上位方針をどの部門が受けるかの検討にも配慮が必要です。担当すべき部門が明確と思えても、該当部門が有している技術的能力、量的能力(保有工数)を考慮する必要がありますし、また複数部門が協力して担当する場合の分担も決めなければなりません。こうして、目標を分解し、方策への展開をし、いろいろ考えて担当部門を決めるのです。

担当部門を決めるための調整、各部門からすれば上位方針を受ける範囲、必要なリソース(要するに、お金と人)の確保のための調整を「キャッチボール」とか「すりあわせ」などと呼んでいます。不謹慎ですが、私は、「キャッチボール」と聞いて、ババ抜きのババの渡しあいを想像して笑ってしまいました。現実にはいろいろな駆け引きがあるようですが、そこまで調整をして決めたことですから、年度末にはほぼ目標が達成され、ここに方針管理のポイントがあるとも言えます。

3.2 合成

3つの分解・展開について考察してきましたが、下位へ展開していくだけでは、展開された事項の妥当性は保証されません。分解・展開と対になる概念である「合成」という考え方も重要です。すなわち、分解・展開された下位の目標・方策が期待通りの成果を挙げたら、果たして上位の目標が達成できるかどうかの検討も必要ということです。「○○のためには、□□が必要」と列挙しただけではダメで、「列挙した□□を実施したら、○○は実現できるのか」という考察も必要ということです。これは、目的・手段関係の考察にとどまらず、因果関係の考察においても必要な思考方法です。「○○の原因は△△だろう」という仮説に対して、「△△であると、本当に○○が起こるのか。どのような因果メカニズムでそうなるのか」という検討も必要です。演繹的にトップダウンで解を得ただけでは不十分で、その解で何がどのようなことが起こるか考察しなければならないということです。

「方針管理」が「方針展開」に血道を上げるのには、組織の各部門、各階層に対し、組織の全体方針の内容、意図、思いを伝えるという意味もあります。方針管理の運営において、全社方針を知らない社員がいることは恥とされてきました。そのため社内のあちこちに方針が掲示されていたり、手帳・カードなどが配布されたりもしました。私は「ちょっとね」と疑問を感じた部類の人間です。マジメに展開していれば、一言一句間違いなく復唱はできなくても意味は分かっているはずで、それこそが重要なことです。周到な展開によって、組織としての方向性、価値観の共有を図るという効果を期待できます。

とくに展開の3つ目の「部門への展開」の過程で、すったもんだして担当することになった目標の一部や目標達成の方策のいくつかですから、後述する詳細計画の策定の過程で、なぜそれをしなければならないか、それをしないとどのような不都合が起きるかなど、組織を取り巻く状況の認識や取り組むべき課題に対する共通認識が深まり、また広まるという効果を期待できます。逆に、組織を構成する多くの部門や人々を巻き込むのですから、組織全体の方針というものはまともなものでなければなりません。

4. 管理項目

4.1 管理項目の役割

方針が展開されたら、次は、それらの方針を達成するための具体的実施計画の作成と進捗管理が必要になります。それらの活動を円滑に進めるための重要な要素として「管理項目」について考察しておきます。

「管理項目」については、「日常管理」のときにも触れました。業務分掌の理解、すなわち業務目的や実施事項の理解を深めるために業務機能展開を行い、それらの業務機能を「管理」するために、目的達成度、効率、目的達成手段の実施状況を把握する尺度が必要というようなことを申し上げました。方針管理における管理項目についても、同様の考慮が必要です。

日常管理のときの説明と重複しますが簡単に振り返っておきます。

• 管理項目として設定する管理指標によって把握しようとしている特性は、目的達成度、目的達成手段・条件の出来栄え、それに効率です。
• 目的達成度を測る指標は、日常管理における管理項目と同様に、当該プロジェクトの目的達成度合いを端的に把握できるものを設定します。例えば、飛躍の必要な事業分野の人材の能力向上を方針に挙げているなら、対象となっている人材の業務遂行能力を測る工夫をするでしょう。実は、端的に把握するのは難しいし、将来でないと分からないことが多いのですが。
• 目的達成手段・条件については、目的達成に重大な影響を与える条件のレベルや、実施事項の進捗を把握する指標を考えることになります。例えば、能力向上のための能力開発(教育・訓練など)の適切さを把握するのに、教育訓練後の理解レベル、技能レベル、あるいは対象人数、教育訓練時間などを考えます。
• 効率については、そのプロジェクトの実施に投入したリソースの量を指標にするかもしれません。能力開発の例では、コスト、時間(付与した教育訓練量とは別の意味で、何時間・何日かけてどれだけ教えたのかを測るため)などを考えます。
• 日常管理のときと同様に、どの方策がどう効くのかという観点での、間接的効果、支援業務の効果をどう測るかは難しいですし、また最終的な効果の現れる前の中間到達レベルや、最終結果につながるかもしれない予兆・兆候をどうとらえるかも易しくはありません。
• さらに、日常管理のときと同様に、適切な指標が見つからないことも多く、成功裏に終わった時とそうでない時の状況を想定し、どこに相違が現れるか、何を知ればよいか考えることもします。
• 重要なことは、やはり日常管理の管理項目と同様に、指標というものの宿命とも言える「定めた尺度だけではすべてを測れない」ということの再認識が重要です。それを手がかりにして、管理目的が達成できているか総合的に判断する尺度、それが管理項目です。

ところで、「管理項目」という日本語は、誤解を生みやすいようです。様々な組織が設定した管理項目と称する項目を拝見してみると、管理すべき事項や活動が書かれていることがあります。何を管理するか、すなわち管理の目的や手段が書かれていることがあります。いっそのこと管理指標というか、KPI(Key Performance Indicator)と言った方がその意味が伝わるかもしれません。

4.2 目標

様々な目標達成行動において、当然のことながら目標を設定します。管理項目の主眼が目的達成度の端的な把握にあるのなら、その指標についてなんらかの目標値を設定することになります。

ところが、妥当なレベルの目標を設定することは、とても難しいことです。第一に考えるべきことは、その目的・目標の上位の目的のニーズ・要求のレベルです。目的・目標と言いながら、それが最終的な究極の目的ということはなく、上位の何かを達成するためにその目的・目標を設定しているはずで、その上位のニーズを満たすためにどれほどのレベルでなければならないかを考察し決めるということです。

同時に達成可能性も考慮しなければ現実的ではありません。方針管理の場合、かなり丁寧に方策展開をしますし、方策を実施したら上位の目的が達成できるかという、3.2節で説明した「合成」で検証しますので、目標達成の可能性を何となく考えながら到達可能な現実的な目標を設定します。とはいえ、それが上位の目標達成にほど遠くては何の意味もありませんので、想定される目的達成手段の有効性や、必要リソース、実現可能性、現実性などを考慮して、合理的な背伸びをして、何とか達成できるレベルを考えるのが普通です。

方針管理においては、通常は1年を区切りとしたプロジェクト計画が策定されることになりますが、年度末における達成目標のみならず、中間目標や実施事項の進捗に関わる目標も設定するのが普通です。さらに、期央において適切な対応をとるためには、このまま推移したら期末にどの程度のレベルに到達できるかを測る見込み値を推定・予測し、これをもとに管理することも考えられます。このような管理の仕方を「予測的PDCA」と言ったら、その意図は伝わるでしょうか。取り返しのつかない時期まで有効な対応策をとらず、「できませんでした」なんて澄ました顔をしないということです。

4.3 評価

当然のことながら、管理項目、管理指標は、評価に使われます。そのとき、いくつかの注意が必要です。

まず「時間」に対する考慮が必要です。有効な策が打たれてもその効果が現れるまでにいくばくかの時間(タイムラグ)が必要とか、累積で効いてくるので時間がかかるなどの場合、形式的な判断は対応を誤らせますので注意が必要です。

また、施策の効果が現れてくる因果構造が複雑なとき、何がどう効いたのか、どのような間接効果があったのかきちんと把握しないと、評価を誤り、不適切な追加対応策につながる恐れもあります。

さらに、神風・逆風などの環境要因や他の活動による、プラスの効果やマイナスの影響があり得ますので、これらを正しく認識していないと、目的達成のための施策・諸活動を的確に評価できなくなるので注意が必要です。

問題

[1] あなたの組織全体の方針を改めて読んでみて下さい。納得できましたか。どのような問題意識から、何のために、そのような方針が設定されているか、その妥当性や根拠を理解できますか。

[2] あなたの部門に展開されている方針や方策は、どのような上位の方針を達成するためのものですか。その方策によって上位の方針は達成できると考えられますか。

[3] 展開された方針・方策に関わる管理項目(管理指標)が設定されていますか。それらは、どのような側面を把握することになりますか。それらの指標で、方針や方策の達成状況を的確に把握できると考えられますか。

[4] 各管理項目に設定されている管理水準(目標)のレベルは妥当と考えられますか。そのレベルの根拠を理解できますか。