ISO 45001独特のポイント


ISO 45001規格独特の表現を今回は勉強しましょう。まずは、箇条5.4の「働く人の協議及び参加」です。これは、ISO 9001やISO 14001にない、ISO 45001独特の要求事項です。もう1つはリスクが2種類、機会も2種類あることです。すわなち、「労働安全衛生リスク」と「OHSMSに対するその他のリスク」、「労働安全衛生機会」と「OHSMSに対するその他の機会」です。斉藤信吾氏によるISO 45001解説記事は、アイソス2018年5月号から同年9月号まで連載され、本稿はその中の連載第2回の記事(2018年6月号)です。

ISO 45001は2018年3月12日に発行され、皆さんがこの原稿をご覧になる頃には日本規格協会の対訳版も発行されていることでしょう(JIS Q 45001の発行は夏頃の予定)。連載2回目は箇条5と箇条6をご紹介します。なお、ISOの著作権と紙面の都合上、ISO 45001全文は引用できませんので、今回も特徴的な箇所のみ転載します。また、本稿を執筆している3月下旬はまだISO 45001のJISが発行されていませんので、FDISからの引用になります。

5 リーダーシップ及び働く人の参加
5.1 リーダーシップ及びコミットメント
トップマネジメントは,次に示す事項によって,労働安全衛生マネジメントシステムに関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない。
a) 労働に関係する負傷及び疾病を防止すること,及び安全で健康的な職場と活動を提供すること,に対する全体的な責任及び説明責任を負うこと。
b) 労働安全衛生方針及び関連する労働安全衛生目標を確立し,それらが組織の戦略的な方向性と両立することを確実にすること。
c) 組織の事業プロセスへの労働安全衛生マネジメントシステムの要求事項の統合を確実にすること。
d) 労働安全衛生マネジメントシステムの確立,実施,維持及び改善に必要な資源が利用可能であることを確実にすること。
e) 有効な労働安全衛生マネジメント及び労働安全衛生マネジメントシステム要求事項への適合の重要性を伝達すること。
f) 労働安全衛生マネジメントシステムがその意図した成果を達成することを確実にすること。
g) 労働安全衛生マネジメントシステムの有効性に寄与するよう人々を指揮し,支援すること。
h) 継続的改善を確実にし,推進すること。
i) その他の関連する管理層がその責任の領域においてリーダーシップを実証するよう,管理層の役割を支援すること。
j) 労働安全衛生マネジメントシステムの意図した成果を支援する文化を組織内で形成し,主導し,かつ,推進すること。
k) 働く人がインシデント,危険源,リスク及び機会の報告をするときに報復から擁護すること。
l) 組織が働く人の協議及び参加のプロセスを確立し,実施することを確実にすること(5.4参照)。
m) 安全衛生委員会の設置及び委員会が機能することを支援すること(5.4 e) 1)参照)。
注記 この規格で“事業”という場合,それは,組織の存在の目的の中核となる活動という広義の意味で解釈され得る。


OHSMSに限らずマネジメントシステムの成功の第一の鍵はトップマネジメントにありますが、ISO 45001の「リーダーシップ及びコミットメント」は、他のISOマネジメントシステム規格より要求事項を強化しています。特にj)〜m)はILO(国際労働機関)の意向を組み込んだISO 45001に特徴的な要求事項です。

j)では「OHSMSの意図した成果を支援する文化」の形成等について要求されています。DIS(国際規格案)の段階では「安全衛生文化」という表現が使用されていましたが、広義に捉えられる可能性があるため現在の表現が採用されました。

k)は日本の文化、習慣ではあまり考えられないかもしれませんが、働く人が安全衛生に関係する報告をした際、報復的な解雇や異動を防止するための要求事項です。

l)は箇条5.4で求められている働く人の意見をISO 45001の運用に確実に反映させる、また意思決定に関与させるプロセスの確立等についてもトップマネジメントがリーダーシップを発揮することを求めています。OHSMSにはトップダウンはもちろんですがボトムアップも非常に重要であり、労使が一丸となって運用を進めることがISO 45001の特徴です。

m)の「安全衛生委員会」は、日本の労働安全衛生法で規定されている「安全衛生委員会」より広義となっています。したがって、同法に基づく安全衛生委員会が設置されていればその場を活用すればよいですし、他の安全衛生について話し合う場があればそれでも差し支えありません。

トップマネジメントが安全衛生に熱心な方に交代され、組織の安全衛生レベルが目を見張るように向上していった事業場を筆者はいくつか見てきました。とても残念なことですが、その逆のパターンもありました。トップマネジメントがOHSMSに積極的に取り組めば、現場の安全衛生に関する意識も向上していき、逆にトップマネジメントの行動が伴わないと働く人の意識は上がりません。トップマネジメントはOHSMSの重要性を十分認識し自ら進んで取り組むことが重要です。

5 リーダーシップ及び働く人の参加
5.1 リーダーシップ及びコミットメント
トップマネジメントは,次に示す事項によって,労働安全衛生マネジメントシステムに関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない。
a) 労働に関係する負傷及び疾病を防止すること,及び安全で健康的な職場と活動を提供すること,に対する全体的な責任及び説明責任を負うこと。
b) 労働安全衛生方針及び関連する労働安全衛生目標を確立し,それらが組織の戦略的な方向性と両立することを確実にすること。
c) 組織の事業プロセスへの労働安全衛生マネジメントシステムの要求事項の統合を確実にすること。
d) 労働安全衛生マネジメントシステムの確立,実施,維持及び改善に必要な資源が利用可能であることを確実にすること。
e) 有効な労働安全衛生マネジメント及び労働安全衛生マネジメントシステム要求事項への適合の重要性を伝達すること。
f) 労働安全衛生マネジメントシステムがその意図した成果を達成することを確実にすること。
g) 労働安全衛生マネジメントシステムの有効性に寄与するよう人々を指揮し,支援すること。
h) 継続的改善を確実にし,推進すること。
i) その他の関連する管理層がその責任の領域においてリーダーシップを実証するよう,管理層の役割を支援すること。
j) 労働安全衛生マネジメントシステムの意図した成果を支援する文化を組織内で形成し,主導し,かつ,推進すること。
k) 働く人がインシデント,危険源,リスク及び機会の報告をするときに報復から擁護すること。
l) 組織が働く人の協議及び参加のプロセスを確立し,実施することを確実にすること(5.4参照)。
m) 安全衛生委員会の設置及び委員会が機能することを支援すること(5.4 e) 1)参照)。
注記 この規格で“事業”という場合,それは,組織の存在の目的の中核となる活動という広義の意味で解釈され得る。


OHSMSに限らずマネジメントシステムの成功の第一の鍵はトップマネジメントにありますが、ISO 45001の「リーダーシップ及びコミットメント」は、他のISOマネジメントシステム規格より要求事項を強化しています。特にj)〜m)はILO(国際労働機関)の意向を組み込んだISO 45001に特徴的な要求事項です。

j)では「OHSMSの意図した成果を支援する文化」の形成等について要求されています。DIS(国際規格案)の段階では「安全衛生文化」という表現が使用されていましたが、広義に捉えられる可能性があるため現在の表現が採用されました。

k)は日本の文化、習慣ではあまり考えられないかもしれませんが、働く人が安全衛生に関係する報告をした際、報復的な解雇や異動を防止するための要求事項です。

l)は箇条5.4で求められている働く人の意見をISO 45001の運用に確実に反映させる、また意思決定に関与させるプロセスの確立等についてもトップマネジメントがリーダーシップを発揮することを求めています。OHSMSにはトップダウンはもちろんですがボトムアップも非常に重要であり、労使が一丸となって運用を進めることがISO 45001の特徴です。

m)の「安全衛生委員会」は、日本の労働安全衛生法で規定されている「安全衛生委員会」より広義となっています。したがって、同法に基づく安全衛生委員会が設置されていればその場を活用すればよいですし、他の安全衛生について話し合う場があればそれでも差し支えありません。

トップマネジメントが安全衛生に熱心な方に交代され、組織の安全衛生レベルが目を見張るように向上していった事業場を筆者はいくつか見てきました。とても残念なことですが、その逆のパターンもありました。トップマネジメントがOHSMSに積極的に取り組めば、現場の安全衛生に関する意識も向上していき、逆にトップマネジメントの行動が伴わないと働く人の意識は上がりません。トップマネジメントはOHSMSの重要性を十分認識し自ら進んで取り組むことが重要です。

5.2 労働安全衛生方針
5.3 組織の役割,責任及び権限
省略
5.4 働く人の協議及び参加
組織は,労働安全衛生マネジメントシステムの開発,計画,実施,パフォーマンス評価及び改善のための処置について,適用可能な全ての階層及び部門の働く人及び働く人の代表(いる場合)による協議及び参加のためのプロセスを確立し,実施し,かつ,維持しなければならない。
組織は,次の事項を行わなければならない。
a) 協議及び参加に必要な仕組み,時間,教育訓練及び資源を提供すること。
注記1 働く人の代表は協議及び参加の仕組みになり得る。
b) 労働安全衛生マネジメントシステムに関する明確で理解しやすい,関連情報を適宜利用できるようにすること。
c) 参加の障害又は障壁を決定して取り除き,取り除けない障害又は障壁を最小化すること。
注記2 障害及び障壁には,働く人の意見又は提案への対応の不備,言語又は識字能力の障壁,報復又は報復の脅し,及び働く人の参加の妨げ又は不利になるような施策若しくは慣行が含まれ得る。
d) 次の事項に対する非管理職との協議に重点を置く。
 1) 利害関係者のニーズ及び期待を決定すること(4.2参照)。
 2) 労働安全衛生方針を確立すること(5.2参照)。
 3) 組織上の役割,責任及び権限を該当する場合は,必ず,割り当てること(5.3参照)。
 4) 法的要求事項及びその他の要求事項を満足する方法を決定すること(6.1.3参照)。
 5) 労働安全衛生目標を確立し,かつ,その達成を計画すること(6.2参照)。
 6) 外部委託,調達及び請負者に適用される管理を決定すること(8.1.4参照)。
 7) モニタリング,測定及び評価を要する対象を決定すること(9.1参照)。
 8) 監査プログラムを計画し,確立し,実施し,かつ,維持すること(9.2.2参照)。
 9) 継続的改善を確実にすること(10.3参照)。
e) 次の事項に対する非管理職の参加に重点を置く。
 1) 非管理職の協議及び参加のための仕組みを決定すること。
 2) 危険源の特定並びにリスク及び機会の評価をすること(6.1.1及び6.1.2参照)。
 3) 危険源を除去し労働安全衛生リスクを低減するための処置を決定すること(6.1.4参照)。
 4) 力量の要求事項,教育訓練のニーズ及び教育訓練を決定し,教育訓練の評価をすること(7.2参照)。
 5) コミュニケーションの必要がある情報及び方法の決定をすること(7.4参照)。
 6) 管理方法及びそれらの効果的な実施及び使用を決定すること(8.1,8.1.3及び8.2参照)。
 7) インシデント及び不適合を調査し,是正処置を決定すること(10.2参照)。
注記3 非管理職への協議及び参加の強化の意図は労働活動を実施する人を関与させることであって,例えば労働活動又は組織の他の要因で影響を受ける管理職の関与を除くことは意図していない。
注記4  働く人に教育訓練を無償提供すること,可能な場合就労時間内で教育訓練を受けさせることは,働く人の参加への大きな障害を除き得ることが広く認められている。


「働く人の協議及び参加」はISO 9001やISO 14001など他のISOマネジメントシステム規格にはないISO 45001の労働安全衛生の規格ならではの大きな特徴です。繰り返しになりますが、OHSMS運用の成否はトップダウンだけでなくボトムアップも非常に重要になります。箇条5.4のd)とe)は当初のISO 45001には含まれていませんでしたが、実際に労働災害に被災するのは非管理職が多いことから、2015年のダブリン会議で急遽タスクグループを編成し要求事項として加えました。これには、非管理職との協議と参加を要求事項とすることで現場の意見をOHSMSに反映させるという意図があります。

「協議」とはISO 45001では「意思決定をする前に意見を求めること」と定義されています。上記d)1〜9について、組織は意思決定の前に必要な情報を非管理職に提供しフィードバックを求める等、双方向のコミュニケーションが求められています。また、「参加」は「意思決定に関与させること」と定義されています。上記e)1〜7について意思決定をする際は非管理職が関与できるようにします。

労働安全衛生法による安全衛生委員会が設置されている組織では、箇条5.4の要求事項を安全衛生委員会に付議すれば良いでしょう。安全衛生水準向上のためには、安全衛生委員会で労使がきちんと審議していることが重要です。もし、総括安全衛生管理者(又は事業の実施を統括管理する者)や産業医の欠席が常態化していては、安全衛生委員会が機能しているとは言えません。例えば、安全衛生委員会の開催日を毎月第一月曜日に固定するなど、参加者がスケジュール調整をしやすくすると良いでしょう。また、安全衛生委員会が単なる報告会で終わらないよう、事前に資料を配布するなど意見が出やすくする工夫も必要です。協議や参加の場は安全衛生委員会だけでなく、職場単位で実施されている会議、朝礼、終礼などを活用することもできます。なお、安全衛生委員会の設置が義務づけされていない組織であっても、安全衛生について関係労働者の意見を聴くための機会を設けることが法令で義務付けされていますので、その場を活用してください。

前号でご紹介したとおりISO 45001の「働く人」の定義には、トップマネジメント、インターンシップ、ボランティアも含まれます。したがって、箇条5.4では正規雇用者だけでなく、全階層の働く人との協議と参加が求められます。派遣職員やパートタイマーの代表が安全衛生委員会に参加している組織もありますが、そこまでできなくても派遣職員、パートタイマー、ボランティア等の意見も聞き、協議や参加の場に反映することが望まれます。なお、労働組合があれば、「働く人の代表」として労働組合を活用すれば良いでしょう。

6 計画
6.1 リスク及び機会への取組み
6.1.1 一般
労働安全衛生マネジメントシステムの計画を策定するとき,組織は,4.1(状況)に規定する課題,並びに4.2(利害関係者)及び4.3(労働安全衛生マネジメントシステムの適用範囲)に規定する要求事項を考慮し,次の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しなければならない。
a) 労働安全衛生マネジメントシステムが,その意図した成果を達成できるという確信を与えること。
b) 望ましくない影響を防止又は低減すること。
c) 継続的改善を達成すること。
組織は,取り組む必要のある労働衛生安全マネジメントシステム及びその意図した成果に対するリスク及び機会を決定するときには,次の事項を考慮に入れなければならない。
— 危険源(6.1.2.1参照)
— 労働安全衛生リスク及びその他のリスク(6.1.2.2参照)
— 労働安全衛生機会及びその他の機会(6.1.2.3参照)
— 法的要求事項及びその他の要求事項(6.1.3参照)
組織は,計画プロセスにおいて,組織,組織のプロセス又は労働安全衛生マネジメントシステムの変更に付随して,労働安全衛生マネジメントシステムの意図した成果に関わるリスク及び機会を決定し,評価しなければならない。永続的か暫定的かを問わず,計画的な変更の場合は,変更を実施する前にこの評価を行わなければならない(8.1.3参照)。
組織は,次の事項に関する文書化した情報を維持しなければならない。
— リスク及び機会
— 計画通りに実施されたことの確信を得るために必要な範囲で,リスク及び機会(6.1.2から6.1.4参照)を決定し,取り組むために必要なプロセス及び処置


箇条6では、箇条4.1で把握した「組織の外部及び内部の課題」及び箇条4.2で把握した「働く人及びその他の利害関係者のニーズと期待」を考慮し、組織として取り組むリスク及び機会を決定します。この流れはISO 9001やISO 14001など他のISOマネジメントシステム規格と同じですがISO 45001では、a)の「意図した成果」とは労働災害を防止し、安全で健康的な職場を形成することを意味しています。b)の「望ましくない影響」とは、法令が順守できなくなる、災害が発生する等が考えられます。

6.1.2 危険源の特定並びにリスク及び機会の評価
6.1.2.1 危険源の特定
省略
6.1.2.2 労働安全衛生リスク及び労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他のリスクの評価
組織は,次の事項のためのプロセスを確立し,実施し,かつ,維持しなければならない。
a) 既存の管理策の有効性を考慮に入れた上で,特定された危険源から生じる労働安全衛生リスクを評価すること。
b) 労働安全衛生マネジメントシステムの確立,実施,運用及び維持に関係するその他のリスクを決定し,評価すること。
6.1.2.3 労働安全衛生機会及び労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他の機会の評価
組織は,次の事項を評価するためのプロセスを確立し,実施し,かつ,維持しなければならない。
a) 組織,組織の方針,プロセス又は組織の活動の計画的変更を考慮に入れた労働安全衛生パフォーマンス向上の労働安全衛生機会及び,
 1) 作業,作業組織及び作業環境を働く人に合わせて調整する機会
 2) 危険源を除去し労働安全衛生リスクを低減する機会
b) 労働安全衛生マネジメントシステムを改善するその他の機会


前号でご紹介しましたがISO 45001の「リスク及び機会」には4つの意味があります。リスク、機会ともに2種類ずつあるのがISO 45001の特徴です。箇条6.1.2.2では2種類のリスク、すなわちa)の「労働安全衛生リスク」とb)の「OHSMSに対するその他のリスク」について評価するためのプロセスの確立と実施等が要求されています。

①労働安全衛生リスク

労働安全衛生リスクとは労働災害のリスクを指します。具体的にはプレス等の機械に挟まれたり、作業中に高所から転落したり、重量物の運搬で腰痛になったり、化学物質の中毒になったり、仕事に関連してケガや病気になるリスクのことです。ISO/PC283国際会議では「リスクの評価」には「リスクアセスメント」が含まれるが、それ以外の評価方法でも良いことでコンセンサスが得られています。したがって、箇条6.1.2.2ではリスクアセスメントの実施までは求められていません。ただし、日本では労働安全衛生法(以下、安衛法)第28条の2に基づいてリスクアセスメントが努力義務化されていますし、化学物質のリスクアセスメントは安衛法第57条の3により義務化されていますので、リスクアセスメントを実施している組織はそれを継続することで問題ありません。なお、努力義務には罰則がありませんが「実施してもしなくても良い」という意味ではなく、「努める義務」があります。労働災害防止のためにはリスクアセスメントを実施することを強くお勧めします。

ISO 45001では具体的なリスクの評価手法まで要求されていないため、組織が実施している評価方法で差し支えありません。なお、労働安全衛生リスクの評価については評価方法、評価基準、実施時期を決定し、文書化しておくことが求められています。

②OHSMSに対するその他リスク

OHSMSに対するその他リスクとは、OHSMSの運用が悪化してしまうようなリスクを指します。例えば、組織内の安全衛生スタッフが不足していたり、トップの安全衛生への関与が希薄だったり、安全衛生予算が削減されてしまうと、OHSMSがうまく運用できなくなるリスクとなり得ます。

箇条6.1.2.2では、箇条4.1及び4.2でリストアップした内容を考慮し、OHSMSに対するその他のリスクに該当する事項を選び、評価し、組織として取り組むべき事項を決定します。その他のリスクの評価は評価方法や基準を含めて具体的な手法は要求されていないため、組織が評価方法を決めて実施することになります。なお、中災防では重要度と緊急度を考慮して評価する方法をお勧めしています(下図参照)。
さらに、箇条6.1.2.3では2種類の機会、すなわちa)の「労働安全衛生機会」とb)の「OHSMSに対するその他の機会」を評価するためのプロセスの確立と実施等を要求しています。

③労働安全衛生機会

労働安全衛生機会とは、「労働安全衛生パフォーマンスの向上につながり得る状況又は一連の状況」と定義されています。例えば、日本の製造業や建設業で従来から実施されてきたKY(危険予知)活動や5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)活動では職場の安全性が向上しますし、危険体感教育では働く人の危険感受性の向上が期待できます。さらに、他工場や他職場の良い事例を水平展開すれば、安全衛生水準が向上します。このように安全衛生パフォーマンスが向上する状況を労働安全衛生機会と呼んでいます。また、最近ではパワースーツの着用により重量物運搬作業時の腰痛を防いだり、ドローンの利用により作業者が高所の点検を行わなくても済む事例がありますが、このような新技術の導入も労働安全衛生機会と言えます。日本では、多くの組織がKY活動や5S活動といった取組みを実施しており、これらの活動を実施している組織では既に労働安全衛生機会に取り組んでいると言えるでしょう。

労働安全衛生機会も箇条4.1及び4.2でリストアップした内容を考慮して、評価を行い組織として取り組むべき事項を決定します。安全衛生機会の評価は、評価方法や基準を含めて、具体的な手法や文書化は要求されていませんので、組織が評価方法を決めて実施することになります。中災防では重要度と緊急度を考慮して評価する方法をお勧めしています。

④OHSMSに対するその他の機会

OHSMSに対するその他の機会とは、OHSMSが改善されるような機会を指します。例えば、災害が減らないのに内部監査でまったく不適合が指摘されないようであれば、監査方法や監査員を見直すことで組織が改善すべき潜在的な課題が表面化することもあります。また、安全衛生スタッフが他の業務を兼任している場合では、専任化によりOHSMSにさらに注力することが可能になります。なお、OHSMSに対するその他の機会の評価方法は安全衛生機会と同様です。

6.1.3 法的要求事項及びその他の要求事項の決定
組織は,次の事項のためのプロセスを確立し,実施し,維持しなければならない。
a) 組織の危険源,労働安全衛生リスク及び労働安全衛生マネジメントシステムに適用される最新の法的要求事項及びその他の要求事項を決定し,入手すること。
b) これらの法的要求事項及びその他の要求事項の組織への適用方法,並びにコミュニケーションする必要があるものを決定すること。
c) 組織の労働安全衛生マネジメントシステムを確立し,実施し,維持し,継続的に改善するときに,これらの法的要求事項及びその他の要求事項を考慮に入れること。
組織は,法的要求事項及びその他の要求事項に関する文書化した情報を維持し,保持しなければならない。また,全ての変更が反映されるように,この情報を最新の状態にしておくことを確実にしなければならない。
注記 法的要求事項及びその他の要求事項は,組織に対するリスク及び機会をもたらし得る。


ISO 14001では「順守義務」が要求されていますが、ISO 45001では「法的要求事項及びその他の要求事項の決定」が求められています。ISO/PC283国際会議でILOが「途上国では法令が順守されない傾向があることから、法令を順守するための仕組みを要求事項にすべきである」と主張し、それが採用されたものです。

なお、その他の要求事項とは、法令ではありませんが、組織の規程類や契約など守る必要がある事項を意味しています。

6.1.4 取組みの計画策定
組織は,次の事項を計画しなければならない。
a) 次の事項を実行するための処置
 1) 上記によって決定したリスク及び機会に取り組むこと(6.1.2.2及び6.1.2.3参照)。
 2) 法的要求事項及びその他の要求事項に取り組むこと(6.1.3参照)。
 3) 緊急事態への準備をし,対応すること(8.2参照)。
b) 次の事項を行う方法
 1) その取組みの労働安全衛生マネジメントシステムのプロセス又はその他の事業プロセスへの統合及び実施
 2) その取組みの有効性の評価


箇条6.1.4では、箇条6.1.2.2及び箇条6.1.2.3で評価し、組織として取り組むことを決めた労働安全衛生リスク、OHSMSに対するその他のリスク、労働安全衛生機会、OHSMSに対するその他の機会について、取り組むための計画を作成することを要求しています。この「取組みの計画」とは組織が実施する事項をリスト化する程度のもので良く、具体的な計画書までは求められていません。下図は取組みの計画の例です。

b)1)では組織が取り組む事項について「事業プロセスとの統合」が求められていますが、上図のように組織が既に実施している規程、計画、活動、手順等に組み込んで実施していけば良いでしょう。

また、箇条6.1.4ではリスク及び機会に対する取組みに加え、法的要求事項及びその他の要求事項への取組み、緊急事態への準備と対応も、具体的な実施事項と取り組むための計画を作成することが要求されています。なお、「その他の要求事項」とは組織の規程類や雇用契約など、組織が守るべき事項を指します。

b) 2)の有効性の評価とは、上記の取組みが労働災害防止や安全で健康的な職場の形成に効果が出ているか判断することです。これをどのように評価するかについても計画の段階で定めておく必要があります。

6.2 労働安全衛生目標及びそれを達成するための計画策定
6.2.1 労働安全衛生目標
6.2.2 労働安全衛生目標を達成するための計画策定
省略


ISO 45001の引用は省略しますが、労働安全衛生目標は箇条6.1.2.2及び6.1.2.3の評価結果、箇条5.4の協議の結果を考慮に入れて設定することが求められています。また、労働安全衛生目標を達成するための計画とは、いわゆる安全衛生計画のことです。

数年前ですが、私の母校の陸上部に偶然にも速いランナーが数十人入部し、箱根駅伝の予選会に出場できたことがあります。結果は「最下位の前」でしたが、卒業生の間では「あと2時間タイムを縮めれば箱根に出場できる」と非現実的な盛り上がりを見せていました。私事の事例で恐縮ですが、私の母校が箱根駅伝出場を目標に掲げても達成することは極めて困難でしょう。安全衛生目標も達成が困難な高い目標を掲げるのではなく、組織の安全衛生水準の向上に確実につながる目標を設定する必要があります。


【斉藤信吾による連載記事「ISO 45001規格の内容と運用のポイント」一覧】



第1回:注意が必要な用語と箇条4のポイント アイソス2018年05月号掲載
第2回:箇条5と箇条6のポイント アイソス2018年06月号掲載
第3回:箇条7と箇条8のポイント アイソス2018年07月号掲載
第4回:箇条9と箇条10のポイント アイソス2018年08月号掲載
第5回(最終回):日本版マネジメント規格(JIS Q 45100)の概要 アイソス2018年09月号掲載




執筆者: 斉藤 信吾

ISO/TC283日本代表エキスパート
中央労働災害防止協会 安全衛生マネジメントシステム審査センター所長
1987年中央労働災害防止協会に入社。2003年より3年間クアラルンプールに赴任し、国際協力機構(JICA)の長期専門家としてマレーシア国立労働安全衛生研究所(NIOSH)に労働衛生工学分野の技術移転を行った。 現在、ISO/TC283(ISO 45001)日本代表エキスパート、ISO/CASCO JWG48(ISO 17021-10)日本代表エキスパート、ISO/TC283国内審議委員会委員、ISO/TC302国内審議委員会委員の他、JIS Q 45001、JIS Q 17021-10の作成にも携わっている。