グリーンリカバリーで主導


2020年7月、欧州委員会は復興基金「次世代のEU(Next Generation EU)」創設に合意。資本市場からの7,500億ユーロの調達と共に、復興に際しては環境配慮・持続可能性を軸とする「グリーンリカバリー」が強調されています。本稿ではグリーンリカバリーの概要と、関連分野の欧州のルール形成動向について考察します。執筆者は橋田貴子氏。国際ルール形成の動向記事は、デロイト トーマツ コンサルティングのリレー執筆でアイソス2020年10月号から2021年3月号まで連載され、本稿はその中の連載第1回の記事です。

欧州における環境問題意識の醸成及び政策における取組み



欧州では、古くから域内における環境政策を推進し、国際社会における関連ルールも主導してきた。

現在のEUにおける環境政策のルーツは、現在のEUの前身となる欧州経済共同体(EEC)に端を発し、1983年に独シュツットガルトで開催された欧州理事会においては、環境政策が共同体と加盟国が進める諸政策の基本となることを確認している。その後1987年に発効した単一欧州議定書にて環境に関する規定を初めてEC条約に取り入れ、環境政策発展の契機とした。さらに1993年発効のマーストリヒト条約において環境関連規定を強化、1999年発効のアムステルダム条約において環境統合原則(Integration Principle)を規定する等、持続可能な発展促進のために環境保全が共同体の共通政策1において常に考慮されるべきとの考え方を確立していった。

こうした法的根拠の下、2000年に欧州は、2010年をターゲットとする中長期的な経済・社会改革戦略「リスボン戦略」をEU首脳会議にて採択した。当時の大国である、米国や日本等との競争・生き残りを意識し、同戦略では知識経済への移行、貧困克服・雇用実現等の他、域内エネルギー・環境産業振興を柱として掲げている。その後2010年には新たな成長戦略「欧州2020(Europe 2020)」を掲げ、「賢い成長、持続可能な成長、包括的な成長」のために温室効果ガスの削減や再エネルギー比率の向上等を規定している。

欧州による「グリーン」施策・コンセプト起点でのグローバルリーダーシップの発揮



欧州による環境問題・気候変動への積極的な取組み姿勢は、域内に留まらず、国際社会にも積極的に発信がなされている。国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)(2015年)でのパリ協定締結前に、「2030年気候・エネルギー政策枠組み」(2014年)を発表し、温室効果ガス削減の高い目標を掲げる等、グローバルの気候変動対策を牽引する姿勢を示しているのは記憶に新しい。

さらに気候変動・エネルギー対策と並行し、資源効率・資源循環の分野でもグローバル先駆者となるべく、EUは多様な政策を掲げている。2015年には「循環型経済行動計画(Circular Economy Action Plan)」として、持続可能で、低炭素・資源効率的で、競争力の高い経済へ変容するための「循環型経済」の実現を目指すことを発表した。直近では、昨年12月1日に発足したウルズラ・フォンデアライエン氏率いる新欧州委員会(EC)が、気候変動対策を中核とした政策パッケージ「欧州グリーンディール」を最優先課題として提示した。当政策は、温室効果ガスの排出削減目標引き上げ等従来の気候変動分野での対策の他、全EU政策においてサステナビリティを主流化させるとの思想の下、これまで気候変動やサステナビリティと直接関連してこなかった金融(サステナブルファイナンス)や社会政策(公正な移行)、競争政策(国家補助ガイドライン見直し)等も盛り込んでいる点が特徴だ。この他「エネルギー部門の脱炭素化」、「建物の改修によるエネルギー使用量削減」、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)の推進」等も含まれる。包括的な内容でグリーンエコノミーに革新を起こし、環境・エネルギー政策でグローバルリーダーとなることにより域内成長にもつなげるという姿勢が提示されている。その上で、2020年3月に欧州グリーンディール及び欧州新産業戦略の一部をなす新たな行動計画として、環境フレンドリーな経済の発展、競争力と環境保護の両立、消費者の権利強化を目的とする「新循環型経済行動計画」を発表している。(下図参照)

昨今の欧州による「グリーン」関連標準化の推進



このように経済発展と環境政策の両立により国際社会を牽引する姿勢は、域内及び国際標準化の世界でも展開されている。循環型経済、環境配慮・持続可能な投資を中核コンセプトとする基準作りの主導にも積極的だ。

前述の「循環型経済行動計画」(2015年)に基づくサーキュラーエコノミーの実現、関連国際規格の策定を掲げ、フランスは国際標準化機構(ISO)へ新技術委員会(TC)設置提案を行い、ISO/TC323 Circular Economyが2018年に設置された。同TCでは、現在4つのワーキンググループが設置され、国やビジネス単位での循環型経済の評価・測定方法や原則・用語の定義といった基準作りが進んでいる。また国際標準化とは別にEU域内では、エネルギー効率・循環型経済における製品のあり方を検討し、欧州エコデザイン指令に基づくエネルギー関連製品のエコデザイン標準化を実現するためCEN/CLC JTC10(Energy-related products- Material Efficiency Aspects for Ecodesign)が設置されている。同委員会では、欧州標準化委員会(CEN)及び欧州電気標準化委員会(CENELEC)の合同委員会としてエコデザイン指令のマンデートに基づく規格策定が進められている。(下図参照)



さらに直近は、ビジネス・投資活動、経済発展における環境政策・持続可能性両立の観点から、グリーン金融、サステナブル金融分野でも、ルール形成が活発化している。EUは、「持続可能な成長に向けた金融アクションプラン」(2018年)として持続可能な成長において金融が果たす役割・アクション事項を示すと共に、当分野での国際主導を企図し、タクソノミーを策定している。EUにおいて発足したサステナブル金融に関する技術専門家グループ(TEG)は、タクソノミーや評価方法について、EU域内外へのパブコメを経て、サステナブルな経済活動の基準を定めた「EUタクソノミーに関する最終報告書」を2020年3月に発表した。同最終報告書の内容に基づき、EUでは持続可能な投資に係る法制度化も進められている。また、持続可能な金融活動・経済活動への先進的な取組みを梃に、国際標準化の世界においても、ISO/TC322 Sustainable Financeが2018年に発足し、英国が幹事となってサステナブル金融の枠組みに関する規格標準化を進めている。(下図参照)





欧州による「グリーンリカバリー」強調とその狙い



新型コロナウイルス(COVID-19)により感染者数・死亡者数が拡大し、都市封鎖によって経済的にも大打撃を受ける中、EU加盟国12カ国の大臣とグローバル企業39社のCEOは4月14日に「グリーンリカバリー・アライアンス」を結成した。当アライアンスの結成によって、「COVID-19からの復興形成対策で気候変動を重視する」姿勢がEU内外に提示され、「グリーンリカバリー」が復興分野において浸透しつつある。ECは、5月27日にCOVID-19からの経済再建を図るための復興基金草案を公表した。復興・再建は、競争力のあるサステナビリティを加速させるものでなければならないとし、グリーンファイナンスや循環型経済等の要素を強調している。予算案のベースとなる政策基盤では、①復興戦略としての「欧州グリーンディール」、②統一市場の強化とデジタル化、③全ての人にとって公正で包摂的な復興、を提示し、「グリーンディール」2との整合性が強調されている。また、COVID-19からの再建に向けた復興基金「次世代のEU」設立・実行にあたっては、3本の柱として1)投資・改革による加盟国支援、2)民間投資の促進、3)COVID-19危機の教訓を踏まえた保健体制強化、が掲げられている。「次世代のEU」基金総額7,500億ユーロのうち約6,725億ユーロは「復興と回復ファシリティ—」として充当され、「グリーン」や「デジタル」への移行、加盟国経済のレジリエンス向上に向けた投資と改革の支援・援助が行われる予定である。(下図参照)



欧州は「グリーンリカバリー」で世界のルール形成を主導できるか



COVID-19感染拡大により痛手を負った欧州において、「環境」と「経済復興・発展」という一見対立しうる目標に対し、これまでの環境対策や持続可能性への取組みをいかに適用していくのか、世界が注目している。7月のEU首脳会議においては、復興基金の返済不要補助金と要返済の融資比率など、基金の実行に向け各国の意見が対立する場面も見られたものの、無事合意に至った。EUとしての従来の当分野でのリーダーシップ性を発揮し、実行に向けた前進がなされるものと期待したい。

COVID-19の防疫対応においては、韓国等アジア勢が自国の成功体験をもとに国際ルール形成を狙う一方、COVID-19以前より欧州が強みとしている環境配慮やサステナビリティの観点から「復興」段階に焦点を当て、ルール形成を牽引する余地は十分あると考えられる。気候変動対策や「クライメイトニュートラル」は世界共通の課題である。「グリーンリカバリー」での取組みを通じて確立した基準や成果が、今後国際標準化等の国際ルールの舞台に波及してくることも十分考えられる。




【デロイト トーマツ コンサルティングによる連載記事「COVID-19を踏まえた国際ルール形成の潮流」一覧】



第1回:アフターコロナのルール形成:欧州は「グリーンリカバリー」で世界を主導できるか(執筆/橋田貴子)アイソス2020年10月号掲載
第2回:「非接触」の鍵となるか:ドローン分野における運用/実用化に向けたルール形成動向(執筆/橋田貴子)アイソス2020年11月号掲載
第3回:衛生分野のルール形成を通じたWith/Afterコロナの観光業再生における日本の突破口(執筆/光頼篤樹)アイソス2020年12月号掲載
第4回:日本企業に求められるスマートシティ国際標準化の戦略的活用(執筆/田中克昌)アイソス2021年01月号掲載
第5回:官民連携のデータ利活用のカギとなるか:接触確認アプリ開発・普及におけるオープンソース活用(執筆/橋田貴子)アイソス2021年02月号掲載
第6回(最終回):With/Afterコロナにおける製造業の姿とは? 3Dプリンティング技術(付加製造技術)活用の可能性と欧米におけるルール形成動向(執筆/橋田貴子)アイソス2021年03月号掲載




執筆者: 橋田 貴子

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネジャー(執筆当時)
米国にて公共政策大学院(MPA)修了後、デロイトに参画。官公庁の政策・ルール調査事業やJIS法改正に向けた経済産業省の研究会の事務局の運営支援などを手掛ける。民間企業に対するルール形成戦略立案や規格策定・国際標準化支援にも精通している。アイソス2018年10月号「これから始まる6つのルール形成: 第1回 JIS法改正の狙いと企業への影響を読み解く」掲載。