JIS Q 45100審査の特徴とよくある所見


日本で唯一JIS Q 45100(日本版OHSMS規格)の審査を実施している中央労働災害防止協会(中災防)が、JIS Q 45100を中心に発行経緯、有効性、認証スキーム、規格要件、審査の特徴、認証取得のポイントなどについて、アイソス2020年4月号から9月号まで連載してくれました。本稿はその中の第4回の記事(2020年7月号)です。

はじめに



前号まで、JIS Q 45100における追加要求事項、認証スキーム、附属書Aのうち「リスク高の組織における必須事項」として指定されている12の活動の審査のポイント等、JIS Q 45100における審査の特徴について解説した。

本号からは、中災防の長年にわたる労働安全衛生の知見、及び、これまでのISO 45001/JIS Q 45100認証審査から、改善すべきポイントとなりやすい事項のいくつかをピックアップして3回にわたって解説する。特に本号では、箇条4、箇条5及び安全衛生リスクの評価を除く箇条6に関係する部分を解説する。

なお、ケーススタディで紹介する事例や所見は、筆者が創作したものであることを断っておく。



ケーススタディ①



A社では、経営会議や安全衛生委員会等の場から得られた情報をもとに把握した組織内外の課題や利害関係者のニーズ及び期待に対して、取り組む必要があるリスク及び機会を評価し、必要な取組み事項を、取組みの計画として作成しているが、以下の状況が見られた。

• 評価の要素として緊急度を加味しており、緊急性が高いものは今年度取り組むこととしているが、年度の安全衛生計画にそれらが触れられていない、またはつながりが明確でない部分があった。

• OSHMSに対するその他のリスク及び機会に対する取組みが見当たらなかった。



解説



解説の前に、ISO 45001/JIS Q 45100規格(以下、「規格」という)における組織の状況の理解から、リスク及び機会の評価、取組みの計画の流れを確認しておきたい。

規格では、組織の状況を理解することが要求されている。具体的には、①OSHMS(労働安全衛生マネジメントシステム)の意図した成果の達成に影響する組織の能力に影響する内外の課題、及び、②働く人をはじめとした利害関係者のニーズ及び期待を把握することである。この課題やニーズ及び期待を把握することにより、「組織のあるべき姿」が浮かび上がり、ひいては中長期的に取り組むべき事項を明確にすることができる。

さらに、この課題やニーズ及び期待を整理し、そのためにどのような取組みを進めていくかを中長期的な視点で決定(取組みの計画を策定)し、当該年度はどこまで実施するのかを安全衛生目標に落とし込み、安全衛生目標を達成するための計画(一般的にいう「年度安全衛生計画」等)により展開していくことになる。

(1)取組みの計画から年度安全衛生計画へのつながり
A社では、この中長期的な視点からブレークダウンして当該年度は何を実施するのかが明確になっていない部分が見られた。
取組みの計画はよく「振り分けの計画」と言われることがあるように、取り組むべき事項の展開方法として、年度の安全衛生計画や事業プロセスにリンクさせることが求められている。特に、取組みの計画で決定した内容のうち当該年度で行うものについて安全衛生計画等に落とし込むことはPDCAサイクルを回す上で基本的な流れとなる。
これまで労働安全衛生分野では、(年度単位の)安全衛生計画を基に活動を進めてきた組織が多く、取組みの計画という中長期的な視点で進めていくことが重要である。

(2)OSHMSに対するその他のリスク及び機会に対する取組み
規格では、課題やニーズ及び期待を踏まえたリスク及び機会について取り組む事項を決定することになっているが、このリスク及び機会は、労働安全衛生に関するリスク及び機会だけではない。OSHMSに対するその他のリスク及び機会(以下、「その他のリスク及び機会」という)に対する取組み事項も決定する必要がある。
その他のリスク及び機会は、幅の広い概念で、慣れない考え方でもあり、これらに対する取組みを計画するのに悩まれている方も多いのではないか。リスク及び機会の全般に言えることだが、評価した結果、意図した成果の達成のために他に優先して取り組むべき事項等があれば、当該リスク及び機会については、当分取り組まないという判断があっても当然構わない。よって取組み事項がないことというよりも、それらの評価過程が見えない、検討していないと判断された場合は、不適合となる可能性がある。



ケーススタディ②



B社は、トップマネジメントによる労働安全衛生方針を定めており、その中には以下の文言が含まれていた。

安全衛生意識向上のために、全員参加の安全衛生活動を実行します。



解説



規格にて労働安全衛生方針の表明等が要求されているOSHMSを導入していない組織でも安全衛生方針を表明している組織は多く、規格への対応も行いやすいと思われる。

規格では、働く人及び働く人の代表(いる場合)の「協議」及び「参加」のコミットメントが要求されている。コミットメントとは、「制約」「確約」といった意味があり一般的な「約束」より強い意味合いを持つ。したがって、方針の表現は厳密にしておいた方がよいと考える。

これまでの日本の代表的な安全衛生方針の例としてB社のように、「安全衛生活動等の全員参加」「全従業員の職場の安全と健康の確保」等の文言がよく見られた。この文言自体、重要なものであり、その存在を否定するつもりはない。しかし、規格で定義されている、決定する前に意見を求めるという「協議」や意思決定への関与という「参加」の意味合いが含まれているとまでは方針の文言からは直接読み取りづらい。「協議」や「参加」という意味が含まれているということが働く人全体で共通理解になっているなら良いが、なっていない場合には、何らかの所見が出される可能性は高い。

先述のとおり、規格への対応が行いやすい部分であることから、規格で要求されている内容が漏れなく含まれているか、「コミットメント」であるという考え方から、改めて安全衛生方針を見直していただきたい。



ケーススタディ③



C社では、毎月1回、安全衛生委員会を開催しているが、議事録を確認したところ、以下の状況が見られた。

• 法令で求められている調査審議事項のみ議題として取り上げていた。
• 議題に「安全衛生計画の審議」とあり、議事録には「事務局案のとおり承認された」とだけ記載されていた。
• 労働者側委員に多数の欠席が見られた。



解説



日本の製造業(一定規模以上の事業場に限る)においては、安全衛生委員会(または安全委員会及び衛生委員会両方)の開催が労働安全衛生法で必須となっていることから、働く人の協議及び参加のプロセスの場として、安全衛生委員会や職場単位で行う安全衛生会議(以下、「委員会等」という)を活用している組織が多いと思われる。また、安全衛生委員会における議事で重要なものに係る記録については、その記録を作成の上で一定期間保存することが法令で求められているため、審査の際、非管理職との協議を行った記録として、安全衛生委員会の議事録を提示する組織が多いだろう。JIS Q 45100では、この委員会等の働く人の意見を聴くための場を、働く人の協議及び参加の場として活用することが必須となっている。一見して規格への対応が簡単に行えるように思われるが、C社の状況を見ていきたい。

(1)委員会等の審議事項
安全衛生委員会の調査審議事項は、法令により規定されているが、直接的に規定された内容だけでは規格に満足しないと思われる(利害関係者のニーズ及び期待の決定、監査プログラムに関すること等は直接的な規定はない)。規格に対応させるには、現状の審議事項を見直し、規格要求事項がすべて含まれているか今一度確認する必要がある。

(2)非管理職との協議を行った記録の残し方
議事録の議題により協議を行ったと読み取れなくもないが、協議は「意思決定をする前に意見を求めること」であり、議題や「承認された」の記載のみでは、協議の内容が明確でなく、協議の証拠としては薄いと感じる。議事録に労働者側委員(非管理職)の意見等の記載があれば、非管理職との協議がより明確となりうる。規格において協議及び参加の結果の記録までは求められていないので、議事録に意見等の記載がないことのみをもって、不適合とは判断されないが、協議を行ったことが明確でないことについて、何らか所見として残る可能性がある。

(3)参加の障害又は障壁を取り除く
働く人の協議及び参加の箇条では、参加の障害又は障壁を取り除くか、最小化することが求められている。障害又は障壁として、規格の注記にあるとおり、言語の違いが想起される。労働者に外国人が含まれている場合、翻訳したものを支給する、外国人らが参加できる仕組み作りも当然に求められる。

一方で、C社のように、安全衛生委員会の労働者側委員の出席率が低い場合、参加への障害又は障壁が取り除けていないとみられる場合がある。なるべく多数の委員が出席できるよう、例えば毎月第〇月曜日に開催するというように時期を固定している事例も見られる。また、ケーススタディとは関係しないが、産業医の出席率が低い組織も一部に見られる。法的要求事項に鑑みて、所見として当該事項が残る可能性がある。



ケーススタディ④



D社では、安全衛生部門が中心となって全社的な法的要求事項の特定表を作成していたが、以下の状況が見られた。

• 組織に該当する法令や資格、各種検査等が列挙されているだけで、どの部署や機械設備にどの項目が適用されるのか明確でなかった。

• 法令で規定されている特定化学物質を使用していたが、これに関する対応事項が特定表から漏れていた。

• 詳しくヒアリングを実施したところ、マニュアルには「最新の状態を維持する」との記載はあったが、誰が維持するか等の共通理解は図られていなかった。



解説



労働安全衛生法や労働安全衛生規則といった労働安全衛生関連法令は多岐にわたることから、組織に適用されるものを特定し、最新の状態に維持することはなかなか難しい。

(1)対応関係を示す
規格では「組織への適用方法の決定」が求められており、D社のように、列挙のみでは対応関係が見えにくく、関係部門での順守に漏れが生じる可能性が考えられる。一方で、適用される法令・資格等に関して組織の部門や階層ごとの該否、機械設備ごとの該否を一覧で示し、分かりやすくすることで、特定漏れを防ぐ事例が見られる。

(2)最新状態の維持方法を決定する
規格では、組織の危険源、労働安全衛生リスク及びOSHMSに適用される最新の法的要求事項等を決定し、入手するプロセスを求めている。D社のように、マニュアル等に「最新の状態を維持する」等の記載はあるものの、その具体的方法が決定されていない、またはあいまいになっているケースが考えられる。
規格では、プロセス及びその文書化した情報の維持が求められているため、「誰が、いつ、どのように」最新の情報を入手するのか決定されていない場合、不適合となる可能性がある。D社のようにこの方法が定まっていない場合は、特定漏れが生じる可能性があり、ひいては法令順守が達成されないことにつながりかねない。このため、その具体的な方法を明確にしておくことが組織に求められる。



ケーススタディ⑤



E社の年度安全衛生計画を確認したところ、以下の状況が見られた。

• 取組みの計画で今年度取り組むとしていた事項が実施事項に含まれていなかった。

• 安全衛生目標として、「階層別研修受講率100%」「ヒヤリハット2件/人・月 出す」などを掲げていた。

• 各実施事項には「実施部署」の記載があったが、ヒアリングで誰が実施責任者か確認したところ、明確でなかった。

• 実施事項にKY活動、パトロールの実施等は含まれていたが、健康確保の取組み、健康教育が含まれていなかった。



解説



OSHMS及び労働安全衛生レベルの向上に直結する安全衛生目標の確立及び安全衛生計画の策定は、規格の中でも労働安全衛生レベルの向上という点で重要な要求事項であることは言うまでもない。このため、規格への適合性はもとより、有効性についても特に気にかけていただきたいところである。

(1)安全衛生目標の確立
規格への適合性という観点からは、A社の取組みの計画のケーススタディと重なるが、取組みの計画で年度安全衛生計画により取り組むことを指定したものについて、安全衛生目標・計画で設定されていない場合、リスク及び機会の評価結果を考慮に入れていないとみなされ、不適合となる可能性がある。
有効性の観点からは、E社に見られるいわゆる実施目標の設定だけでなく、達成目標(教育を行い、理解度テストで全員80点以上取る、提出されたヒヤリハットの改善率100%といった、どのレベルまで求めるかの程度)も設定することが望ましい。本来、安全衛生目標は、組織が目指すべき安全衛生レベルに少しでも近づくように設定されるべきである。実施目標の設定だけでは、単に実施することが目的化し、中身(質)が問われないことで、安全衛生レベルの向上に寄与しないこともある。E社の事例でも有効性の観点からも実施目標のみの設定は推奨されるべきものではなく、何らかの所見が出される可能性がある。

(2)安全衛生計画の策定
前述したように、労働安全衛生目標を達成するための計画として、一般的には年間の安全衛生計画を策定している場合がほとんどである。規格では目標を達成するための責任者を決定することが求められているが、E社のように、安全衛生計画に実施部署を記載している場合が多い。一般的には実施部署の長が責任者であるが、それを明示し、関係者間で共有する必要があろう。
また、JIS Q 45100では、図表1の取組み事項全てについて、労働安全衛生目標を達成するための計画の実施事項に含めることが求められている。これらの内容全てを安全衛生計画にのみ盛り込む必要はない(例えば、教育計画等に含めてもよい)が、全ての対応が求められている。安全活動を中心に行っている組織では、E社のように健康関係の取組み事項の計画漏れが懸念される。健康確保の取組み事項として職場での体操やウォーキング大会の実施等が、健康教育の取組み事項としてメンタルヘルス教育の実施等が考えられ、これらに取り組んでいる組織も多い。規格で求められる計画に含むべき実施事項として、これらの組織内の活動が、安全衛生計画等に含まれているか確認いただきたい。また、取組み計画においても、図表1の事項を含めることが求められていることも補足する。



ケーススタディから若干離れるが、JIS Q 45100認証を検討している場合は、この機会に組織内で行われている活動がJIS Q 45100の附属書Aで示されている取組み事項のどの項目(特に、前号で取り上げた「12の必須活動」に対して)に該当するのかを棚卸し、規格への対応状況を把握することをお勧めする。





おわりに



ISO 45001/JIS Q 45100規格において改善が求められやすいポイントについて、本号で5つのケーススタディを紹介した。OSHMS構築中の組織や認証を考えている組織の方々には、今一度確認いただきたい内容である。

なお、この5つのケーススタディ全てに対応することで、これらの関連項目の箇条全ての適合を保証するものではないこと、また、紹介した所見ポイントは画一的な判断により出されるものではなく、審査でのヒアリング結果やエビデンスの機微によっても変わってくるものであることに留意をいただきたい。次号は、引き続き改善ポイントについてケーススタディにより解説する。



【中災防による連載記事「これならできる! ISO 45001/JIS Q 45100 〜認証審査の特徴とよくある所見〜」一覧】



第1回:日本版労働安全衛生マネジメントシステム規格「JIS Q 45100」はなぜ有効か アイソス2020年4月号掲載
第2回:JIS Q 45100の審査の特徴① アイソス2020年5月号掲載
第3回:JIS Q 45100の審査の特徴② アイソス2020年6月号掲載
第4回:ISO 45001/JIS Q 45100 よくある改善ポイント 〜ケーススタディ①〜 アイソス2021年7月号掲載
第5回:ISO 45001/JIS Q 45100 よくある改善ポイント 〜ケーススタディ②〜 アイソス2021年8月号掲載
第6回(最終回):ISO 45001/JIS Q 45100 よくある改善ポイント 〜ケーススタディ③〜、本連載のまとめ アイソス2021年9月号掲載




連載第4回執筆者: 南 聡

中央労働災害防止協会 安全衛生マネジメントシステム審査センター 認証審査課 認証審査係長
2010年、中央労働災害防止協会採用。マネジメントシステム推進センター、教育推進部、総務部(ISO27001事務局)等を経て、2019年4月より現職。労働安全コンサルタント(機械)