施策三本柱は情報開示/地域金融/ポジティブインパクト


環境省内で「環境を経済の真ん中に置く」という発想で始まったのが環境経済課であり、その中で経済の血流である金融からアプローチするべく、金融機関出身者が大半を占めるチームで構成されたのが環境金融推進室です。同室の役割は、企業や金融機関に対し、本業・収益の源泉としての環境対応行動を自律的に促し、大企業・大手金融機関だけでなく地域の自治体・金融機関・中小企業への展開を重視するところにあります。2020年7月から環境金融推進室の三代目室長を務める近藤崇史氏に、日本におけるサステナブルファイナンス施策、脱炭素社会に向けたトランジション・ファイナンス政策、ESGを通じた企業のクリエイティビティの発揮などについて話を聞きました。


環境省・経済産業省・金融庁でサステナブルファイナンス施策を展開



−日本におけるサステナブルファイナンス政策についてお聞きしたいのですが、この政策にはどんな省庁が関係しているのでしょうか。

現在は、環境省・経済産業省・金融庁の三者が中心となって日本のサステナブルファイナンスに関する施策を展開しています。脱炭素を主要テーマとし、大きな産業、例えば鉄や自動車といった分野は経済産業省が担当し、中小企業や地域、暮らしと人に近いところは環境省が担当しています。ただ、環境省は当然ながら、環境施策全般を司っていますので、横串的に施策を展開することも多く、その場合は他省庁の支援もいただきながら実施していくことになります。例えば金融に関する情報開示のルールや基盤整備などは、金融庁が横断的に取り扱う分野ですが、地域の脱炭素を金融の力を借りて推進する場合などは、環境省と金融庁の重複分野になりますので、両者の連携が必要になってきます。

−環境省としてはどのような施策を展開しているのですか。

ESG金融促進のための主要施策を示したのが図表1で、図の中の①②③で示した施策を「三本柱」と呼んでいます。

①については、投融資を行う際、当該企業がどのような企業なのかが開示されていることが前提になります。従来は財務状況を評価するのが主だったのですが、それに加え、環境等への取組みによって次世代へのリスク・機会対応を行っていることが評価されるようにしたいと考えています。そのためには、企業や金融機関が環境対応に取り組むことを開示していただき、投資家と企業あるいは金融機関との間でコミュニケーションを図ることが重要になります。では、どのように開示するのか。例えば気候変動のリスクと機会についてはTCFDが世の中でよく使われていて、日本は世界で一番賛同企業が多いという状況ですから、まずはこれをベースに施策を展開しています。

順番を入れ替えたほうが話しやすいので、次は図の③についてですが、ではどのような投融資を行えばよいのかというと、サステナビリティに配慮した金融活動によって企業の行動変容を促していくことが重要になります。そのためにはグリーンな活動などサステナビリティに対応した企業やプロジェクトが投融資先に選ばれるような仕組みが必要になってきます。具体的には、グリーンボンドやグリーンローンなど、ポジティブなインパクトを企図した金融商品の促進などが挙げられます。

このようなサステナブルファイナンスの動きは、どうしても大企業や機関投資家などが中心になりがちなのですが、例えば日本全体の脱炭素化を推進するには、地域企業、中小企業の参画も不可欠であり、このような環境を含めたリスクを抑え、機会を捉えていただくことが重要です。それを促進することはすなわち環境省版の地方創生でもあるわけです。そのためには、地域の金融機関が中小企業を適切に支援してくださることが必要ですから、ESG金融のエッセンスを地域にも導入していこうと考えています。それが図の②で示していることです。

これら①、②、③は相互に連関しています。



企業が脱炭素社会へ移行(トランジション)するためのファイナンス



−日本を脱炭素社会にどんどん近づけていこうというグラデーションのような政策であるトランジション・ファイナンスについても、基本的な考え方と最近の動向をご紹介いただけますか。

トランジション・ファイナンスは、先ほど説明しました三本柱の③で、トランジション・ファイナンスを通じた脱炭素社会への移行の促進として挙げているもので、環境省・経済産業省・金融庁の三者で取り組んでいますが、今議論されているのは気候変動に関するトランジション・ファイナンスですので、特に経済産業省とリンケージの強いエリアになっています。

トランジション・ファイナンスに関する政策動向をまとめたのが図表2です。

現状から脱炭素社会への「移行」を「トランジション」と称しているわけですが、すべての企業が一足飛びに脱炭素社会に適合できるわけではなく、移行していく途中にも資金が必要になってくるわけです。例えば、一足飛びにすべてのエネルギー源を水素にすることはできません。ですが、今石炭を燃やしているよりは効率的で、将来は水素を燃やすこともできる設備があるとすれば、それ単独ではグリーンとは説明できなくても、トランジションとして重要であると判断して一体的に投資を行うという投資判断があり得るわけです。

ですが、グリーンについての世界の基準と照らし合わせると現時点ではグリーンとは言えないものを含めて投資をしていくことになる中、いわゆる「グリーンウォッシュ」は避けなければなりません。そこで、どういうものが2050年にカーボンニュートラルにたどり着く経路に乗っている技術やアプローチ、あるいは事業なのかということを見極めるためには、何らかの基準線が必要です。そこで、BAU(Business As Usual)、つまり対策を施していない「なりゆき」状態を基準線にし、それと比較しながら、ファイナンスを使ってエネルギー効率を上げるなどの改善を行いつつ、パリ協定に掲げる2050年の目標に整合していくことを示すことでファイナンスの正当性を示す、というのがトランジション・ファイナンスの基本的な考え方です。

何をトランジションとするかについては、昨年5月に「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」を環境省・経済産業省・金融庁の3省庁で策定しています。産業別には、エネルギー系では電力・ガス・石油、素材系では鉄鋼・セメント・化学・紙パルプ、輸送系では自動車・船舶・航空といったように、個別に順次策定しています。このロードマップに沿った内容になっているかが、脱炭素へのトランジションに資する取組みとして資金供給がなされるかどうかの基準になっていくと思います。

このように日本ではトランジションの議論を非常に積極的に実施しており、モデル事業の事例もいくつか出てきています。

−昨春から環境ファイナンス分野で、気候変動、グリーンボンド、グリーンローン、サステナブルファイナンスといったタイトルのISO規格が相次いで発行されていますが、環境省としてはこのように急速に高まっている環境ファイナンス分野の国際規格動向をどのように見ていますか。

組織の皆さんにとっては、考え方のフレームワークが示されると、「どれをやればいいのか」「どこまでやればいいのか」という逡巡のコストが非常に減りますし、やや直接的な言い方をすれば、組織内でも了解を取りやすいところがあると思います。そうした中、ISO規格のような国際的に認められた基準があることは、組織がそれをうまく使うことができれば、意義のあることだと考えています。ただ、その上でさらに組織としてクリエイティビティを発揮していただきたいという個人的な思いはあります。

環境ファイナンス分野というのは、クリエイティビティがチャンスになっているエリアではないかと考えています。ISO規格にしても、基準を利用しつつその上でどのようなことができるかが重要であり、その土台としての基準の力というものに、私としては非常に期待を持っています。

ESGは新たなハードの追加ではなくソフトのアップデート



−環境省としては、ESGについてガイドラインを提供し、その中でフレームワークや事例などを紹介していくわけですが、「ガイドラインをそのまま真似るのではなく、それをベースにクリエイティブな活動してください」ということを、どのように訴えていきますか

おそらく本業の中でクリエイティビティを発揮していない企業は存在していないと思います。クリエイティビティを発揮していないと生き残れないのがビジネスの世界でしょうから。しかし、そのクリエイティビティをこのESGの分野に適用できるか、言い換えればESG要素をいかに本業に取り込むか、が今後非常に重要です。例えば、ESGを、これまでの自分たちの事業とは関係がなく、何か新しいものが本業の上に乗ってきたと考えてしまうと、「こうすればサステナビリティに対応したことになるのですね」といった具合にガイドラインをそのままなぞるという発想になってしまうことが危惧されます。ただ、例えば地域金融の場合で考えてみますと、限定された営業エリアでビジネスを持続するためには、地域における環境対応や社会的な持続可能性の追求というのは、まさに本業ではないでしょうか。

今まで意識してこなかったけれども、ESGに対応していることが本業の中に相当あると思います。特にESGの中のS、ソーシャルの部分です。例えば、地域の人口減にどう対応するかは、どの金融機関でももともとやってきたことです。取引先企業の後継者をちゃんと確保して事業承継をサポートするというのもその1つです。

私どもは常々、ESGについて「皆さんの本業の外側にあるものを無理やり取り込んでほしいということではなく、本業で求められていることに、一要素が加わったというふうに捉えてください。何か新しいハードを追加するのではなく、ソフトのアップデートと考えてください」と申し上げています。
(取材日:2022年3月17日)




取材先: 近藤崇史

環境省 大臣官房 環境経済課 環境金融推進室長
(2022年7月19日に環境省を離任し日本銀行に帰任)