ルールメイキングの面白さを知ってほしい


欧米中の標準化大国と比べると、日本は標準化にそれほど大きなリソースを投じることはできませんが、得意分野の技術とサービスに係る規格を提案してピンポイントで国際標準化活動に貢献しています。国際標準化活動は民間主導の取組みであり、国際エキスパートの多くは企業のベテラン世代が担っていますが、2050年に向けた長期戦略を考えると30代の若い世代の参画が必須になってきます。経済産業省産業技術環境局国際標準課の秋田恵菜課長補佐から、最近の国際標準化動向と日本の活躍、若い世代に向けた国際標準化研修や標準化活動の面白さについて話を伺いました。


日本は高品質な技術分野や新たなサービス分野でISOに提案



−最近の国際標準化動向を概説いただけるでしょうか。

大まかな動向を見ますと、欧州は特に人権、環境問題に大きな関心を持っており、この分野でのISO化において積極的な取組みを見せています。ISOでの採決は1国1票・多数決制ですので、欧州で意見が固まればそのままISOでも有利に働きかけることができます。一方、米国は、航空機やIT分野でのフォーラム規格で強い力を持っています。最近力を付けてきているのが中国で、標準化協定を通じた二国間関係の強化をしつつ、ISOにおいても存在感を増しています。

一方、日本は、自動運転やドローンといった高品質な技術力の分野や、コールドチェーン物流やシェアリングエコノミーといった新たなサービス分野においてISOで積極的に提案しています。日本は中国のように莫大な資金やリソースがあるわけではないので、戦略的にリソースを配分しながら強みを出していると思います。

国際規格の最近の開発動向については、AIや自動運転、ドローン、量子コンピューターといった最先端のデジタル技術分野や、そういったデジタル技術とそのサービスの活用までを含めたスマートシティやシェアリングエコノミー、さらに社会課題解決に向けたサーキュラーエコノミーやサステナブルファイナンスといった新たな分野が登場し、私どもとしましては、海外の動向を見据えながら、日本としてどのような戦略を立てて国際標準化に取り組んでいくかが課題になっています。

−特に日本として力を入れている標準化の分野は。

私ども国際標準課は、業界団体や政策を所管する当局から提案のあった標準について、標準化の選択肢を提示したり、標準化機関同士の枠組みを活用しながら支援したりする部署ですので、業界でニーズがある分野については満遍なく対応しています。私はサービス分野の標準化を担当しているのですが、先ほど述べましたコールドチェーン物流やシェアリングエコノミーの分野では、日本がISO/TC(技術委員会)の国際幹事と議長を担当して活躍しています。さらに、顧客に期待以上の体験をもたらすサービスを提供する能力について規定するサービスエクセレンスの分野では、日本からも規格を提案し、発行されています。このようにサービス分野の国際規格でも、日本は大きな成果を出しています。

昨年6月に経済産業省は関係省庁と連携して「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表しました。今後はカーボンニュートラルに向けた新技術を社会実装するツールとして国際標準化の重要度が上がると思っています。

ヤンプロで学べる国際交渉のスキル



−日本企業の方々にもっと積極的に、ルールメイキングに参加していただきたいものです。

技術や品質が確保されればモノが売れる時代であれば、日本企業はとても有利になるのですが、近年は利用者のニーズといかに一致しているかが重視されるようになってきていると思います。そうした中で日本企業が競争力を維持し続けるためには、ただ技術が優れているというだけでなく、それと並行してユーザーインターフェースの設定、すなわち市場が受容してくれるためのルールメイキングが必要です。国際標準化というのは、まさにそのルールメイキングの1つです。特に2050年を見据えたときに、日本の人口減少はほぼ間違いないことですから、日本企業が海外市場に打って出るため、国際標準化戦略にリソースを割くことは必須ではないかと考えています。

現在、国際標準化活動に参加いただいているのは、だいたい50代前後の、企業においてはベテランと言われる方々だと思います。技術面の知識と経験が豊富な人材に参加いただくことは合理的な対応なのですが、一方で、2050年を見据えた長期的な視点で標準化活動に取り組むためには、今後は30代前後の若い世代に、標準化に取り組んでいただくことが重要になってくると考えています。経済産業省でも「ISO/IEC国際標準化人材育成講座(通称:ヤンプロ)」をはじめとして、若手の人材育成に向けた取組みを行っておりますので、このような制度を活用いただきながら、各企業で標準化人材の体制を強化いただければと思います。

−どんな研修内容なのですか。

ヤンプロは企業の方々向けに年に何回か実施しており、国際標準化の知識や国際交渉のスキル、プレゼンテーションの技法などのノウハウを学ぶことができます。このほか、行政官向けの研修もあります。各行政官にしっかりと標準の知見を身に付けていただくための研修です。さらに企業には、最高標準化責任者であるCSO(Chief Standardization Officer)の設置をお願いしており、現在67社で設置されていますが、そのCSOの方々とは定期的に意見交換を実施しており、4月と5月にはCSO間の連携を目的にワークショップも開催し、標準化に関するテーマについて意見交換を実施いただく予定です。



ルールを自分たちで作れば、すごく面白い



−若手である秋田さんご自身が感じていらっしゃる標準化の面白さを述べていただくのもPRになるかと思いますが、いかがですか。

標準化活動の前提が「ルールは守るもの」だけですと、あまり面白くないと思いますが、「ルールって自分たちで作れるんだ」と考えると、すごく面白いと思います。ISOやJISって、最低限守るべき規則はあるのですが、フォーマットがほとんどないのです。もちろん、規格を作るときに、前例を参考にしたりする必要はありますが、最終的には自分たちで「こういうルールを作りたい」と思ったら、まずそれを原案として提案し、関係者の意向を広く反映することで策定できてしまうのです。

−標準作りって、意外に柔軟性があるのですね。

私も本当にびっくりしました。逆に、原案のフォーマットがないので、困ってしまう人も多いのです(笑)。そんなときは、参考になる規格を一緒に調べたりしています。うまくルールメイキングすると、市場に導入される上で規格が参照されるので、自社の製品やサービスが売れ、競争力に直結するという面白さがあります。そういった点に着目して、若い方にもっと標準を身近に感じていただければいいなと思っています。 (取材日:2022年3月15日)




取材先: 秋田恵菜

経済産業省 産業技術環境局 国際標準課/サービス標準化推進室 課長補佐