グリーン債の国際規格化動向


アイソスでは2021年10月号より6回の連載で、ISO/TC207(環境マネジメント)で策定されているISO 14030(グリーン債)シリーズの解説の執筆を大野香代氏(一般社団法人産業環境管理協会 環境管理部門 国際協力・技術センター 所長)にお願いしました。本稿は、同連載最終回(2022年3月号)の抜粋記事であり、ISO 14030シリーズを取り巻く国際規格について整理し、国内のグリーン債の推進に向けてISO 14030シリーズをどのように活用することができるかについての提言が掲載されています。


はじめに



本誌2021年10月号より6回の連載で、ISO/TC207(環境マネジメント)で策定されているISO 14030(グリーン債)シリーズの内容について紹介してきたが、今回が最終回となる。第1回は「ISO 14030シリーズの開発経緯」、第2回は「ISO 14030-1 グリーンボンド規格」、第3回は「ISO 14030-2 グリーンローン規格」について、第4回は「ISO 14030-4 グリーン債の検証規格」、第5回は「ISO 14030-3 タクソノミー開発の現状と今後」について各規格内容の詳細及びその活用について紹介してきた。最終回では、ISO 14030シリーズを取り巻くISO規格について整理し、国内のグリーン債の推進に向けてISO 14030シリーズをどのように活用することができるかについて考えてみたい。

1. ISO 14030シリーズを取り巻く環境マネジメント関連規格



1-1 ISO 14030シリーズに関連するISO規格

冒頭の図表にISO 14030シリーズのPart 1、Part 2、Part 3及びPart 4を使用する際に参考となる他のISO規格を示した。この図は中心にISO 14030シリーズの4つの規格、その周りに関連する他ISO規格を記載し、各規格群がISO 14030シリーズのどの規格と関連するかを矢印で示している。

中心の図を見るとISO 14030シリーズの4つの規格がどのように相互に関係しているかが分かる。Part 1及びPart 2では、それぞれグリーンボンド及びグリーンローンの原則、手順及び要求事項が規定されている(第2回及び第3回連載参照)。両規格において、グリーンプロジェクトの選定・評価を行う際には、Part 3(タクソノミー)に規定されたグリーンな産業分類と基準(閾値や除外)を用いるか、またはその他のタクソノミーを用いて行うこととされ、適格なタクソノミーがない場合には、適格性プロセステストを行うこととなっている(第5回連載参照)。また、適格性プロセステストや発行前及び発行後の報告についてはPart 4に準拠した妥当性確認及び検証をそれぞれ行うことが推奨されている(第4回連載参照)。この4つの規格を活用することで、ISO準拠のグリーンボンド又はグリーンローンを発行することができる。4つの規格には関連するISO規格が多くあり、それらを上手く参照することで、報告書の精度を上げることができる。次に、ISO 14030シリーズの参照となるISO規格について説明する。

Part 1とPart 2に関連する規格を①の枠内に示した。グリーンボンド又はグリーンローンに該当する適格なプロジェクト、資産、活動(以後プロジェクト等と記す)を選定し、評価する段階においては、当該プロジェクト等を実施した際の環境影響評価について予め確認する必要があるが、その際、ISO 14001及びISO 14002-1の環境マネジメント規格が参考となる。Guild 64、ISO 14044やISO 14067はプロジェクト等の環境への貢献度をライフサイクル的思考(life-cycle thinking)に基づいて判断する際に参考となる規格である。また、プロジェクト等の実施前と実施後の環境パフォーマンス指標の設定や評価、報告においては、ISO 14031及びISO 14033の環境パフォーマンス評価の手法やその定量化に関する規格を参照とすることができる。プロジェクト等で使用する環境技術のパフォーマンス評価については、ISO 14034の環境技術実証(ETV)により作成された報告書を活用することができる。この①の枠内で示した規格はPart 3及びPart 4の規格にも同様に利用が可能である。

次に、Part 3(タクソノミ—)に関連する規格を②の枠内に示す。Part 3(タクソノミ—)を利用する場合、対象となる産業分類が多岐にわたるため、関連するTCで策定されている環境規定などを参照すると良いと思われる。例えば、バイオエネルギーの環境規定についてはISO 13065の持続可能なバイオエネルギーの基準を規定している規格、CCS(二酸化炭素回収・貯留)の技術を用いる場合ではTC265で策定したISO 27014やISO 27919、ビルのエネルギー効率の評価についてはTC163とTC205が共同作成したISO 52001-1などを参考にすることができる。その他、②の点線枠内に記載した国際条約や規定も参考となる。例えば、各分野におけるGHGの算定方法ではIPCCのガイドライン、残留性有害汚染物質(POPs)はストックホルム条約、国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についてはロッテルダム条約、有害農薬や殺虫剤はWHOのガイドライン、オゾン層破壊物質についてはモントリオール議定書などを参照することが望ましい。

Part 4(検証)に関連するISO規格を③の枠内に示す。Part 4の検証では、“環境情報の妥当性確認及び検証する機関の一般原則及び要求事項”の規格であるISO 14065を基礎として検証を行うこととなっている。また、検証の手順についての詳細は“GHG算定の妥当性確認及び検証のための要求事項”を規定しているISO 14064-3を参照する必要がある。ISO 17011はグリーン債の第三者認証機関を認定する機関に対する要求事項の規格であり、間接的ではあるが、この規格も関連する。第三者適合証明書の発行についてはISO 17030に従うこととなる。

1-2 TC207で策定されている環境ファイナンス関連規格

図表1にISO 14030シリーズを取り巻く環境ファイナンス関連規格とそれらの関連性を示す。



図表1①の枠内では、TC207でISO 14030シリーズの開発と並行して開発された2件の環境ファイナンス関連規格を示している。一つは気候変動関連の投融資活動の評価と報告のための枠組みと原則に関する規格ISO 14097(2021年5月発行)である。この規格は機関投資家等に対し、気候変動のリスクと機会の特定、気候変動への影響のモニタリングと結果の評価、報告に関する枠組みを示している。近年、金融機関や保険会社等の機関投資家はESG投資に関する情報公開が求められており、この規格はそのためのガイドである。また、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の推奨により、企業は年次の財務報告に、財務に影響のある気候関連情報の開示を行うことが機関投資家等より求められているため、企業も活用が可能と思われる。2つ目はグリーンファイナンスの実施をサポートするためのガイダンス規格ISO 14100(現在DIS段階)である。この規格はグリーンプロジェクト等を実施する際に投融資を受ける側(借り手:borrower)と投融資を行う側(フィナンシェ:financier)が行うべき、プロジェクト等の環境側面に関するリスクと機会の決定やその評価を行う方法について枠組みや概要を記載したものである。この規格のAnnexには関連するISO規格及び国際的なイニシアチブ等のリストが提供されている。これら2つの規格は図表1①の枠内に示すとおり、環境影響、環境パフォーマンス、リスクの特定や基準の決定に関して、ISO 14030と相互に関係し合っている。これらの規格を有効に活用することで、ESG投資を推進できるようになっている。

次に、図表1②の枠内には近年TC207で策定された又は策定している規格を記している。これらの規格は環境ファイナンスを推進するために活用できる。GHG排出及び吸収に関連した規格として、カーボンニュートラリティーの定義やアプローチ手法についてISO 14068が開発されている。また、LCA関連では社会側面を指標としたLCA(ソーシャルLCA)の手法に関する規格ISO 14075が新たに開発されている。また、気候変動適応関連では、“原則と一般的要求事項”、“脆弱性評価”、“地方自治体等の適応計画”についての規格がISO 14090シリーズとして3件発行されている。

これら、TC207での規格策定活動に加え、図表1③の枠内に記したように、環境と社会の両面を考慮した持続可能な発展(SDGs)に寄与する投資を推進するため、TC322(サステナブルファイナンス)が新たに設置されている。ここでは、基本概念と主要なイニシアチブに関する技術レポートのISO/TR 32220が2021年に発行され、現在はサステナブルファイナンスの原則及びガイダンスの規格であるISO 32210が策定中である。今後はTC322で開発される規格は、TC207に大きく関係してくるものと思われ、環境ファイナンスの関係者はこちらの動きにも注視する必要があろう。



2. ISO 14030シリーズの活用について



現在、国内のグリーンボンドやグリーンローンはそれぞれICMAが公開しているGBP(Green Bond Principles)、LMA等が公開するGLP(Green Loan Principles)又は環境省のガイドラインに準拠して実施されている。しかし、これらのガイドには、適格なグリーンプロジェクトの選定や評価、プロジェクト等の環境パフォーマンスの指標や目標値の設定、モニタリングと環境影響評価、レポーティングに関しての詳細な手順がない。そのため、グリーン債の発行体(issuers)、借り手(borrower)または貸し手(lender)は独自に方法を定めて調査を行っており、それらの報告書のレベルは統一されてない状況である。これらの理由によって、環境金融市場では実際に環境に貢献しないプロジェクトに融資が行われるグリーンウォッシュが課題となっている。ISO 14030シリーズはGBPやGLPの4つの基本原則(①資金調達の使途、②グリーンプロジェクトの評価選定プロセス、③調達資金の管理、④レポーティング)を踏襲し、各プロセスにおける手順と要求事項を具体的に示している。そのためISO 14030シリーズを利用することにより、グリーン債商品の発行体等は各プロセスにおいて、どのような内容を確認すべきかを理解することができる。特に、プロジェクトの選定・評価の段階では、Part 3(タクソノミー)で規定されたグリーンとして適格なプロジェクトの産業分類表を用いることで、選定したプロジェクトの妥当性を担保することができる。連載第5回で説明したが、Part 3のタクソノミーは日本の産業界の意見が大きく反映された内容となっており、製造業分野においては目標値(閾値)の設定に、BAT(Best available techniques:利用可能な最善の方法)を用いるなど定性的な目標を設定することも推奨している。また、エネルギー効率向上のための製造プロセスの改修等も適格な活動となっており、日本にとっては使用しやすいタクソノミーになっていると思われる。日本は独自のタクソノミーがないため、日本で発行されたグリーン債が国際的にも受け入れられ易くするためにISOを活用することができるのではないかと思われる。そのほか、Part 3タクソノミーの活用としては、企業の環境情報の公開、リスクや機会を特定する際にも参考にすることが可能と思われる。

ICMAの報告書によると、国際的にはEUタクソノミーや中国のグリーン産業ガイダンスカタログが大きな影響力をもっており、その影響を受け、マレーシア、バングラデシュ、モンゴル、シンガポール、南アフリカがそれぞれ独自のタクソノミーを作成している。またオーストラリア、カナダ、コロンビアは現在策定中とのことである。このように世界的には各種のタクソノミーが各国の状況を勘案し策定されているが、今後、国際的な投融資活動においては、Part 3が世界共通として利用されることが望まれる。

ISO 14030シリーズ準拠のグリーン債はPart 4に準拠した検証又は妥当性確認を行うことを推奨しており、その検証の要求事項は環境情報やGHG排出量及び吸収量の算定の検証と同等のレベルが要求されているため、グリーン債の透明性や信頼性を担保することが可能である。

このようにISO 14030シリーズを活用することのメリットは、グリーン債の発行体等にとっては、より信頼性の高いグリーン債商品を発行することができ、投資家は確実に環境に貢献するプロジェクト等に投融資を行うことが可能になることである。また、ISO準拠のグリーン債発行には、適格性プロセステストの妥当性確認や実施前及び実施後の報告書の検証が不可欠となってくると思われ、グリーン債の検証事業を行うビジネスも今後需要が高まるものと思われる。




執筆者: 大野香代

一般社団法人産業環境管理協会 環境管理部門 国際協力・技術センター 所長
理学博士(化学)。環境計測及び環境管理関連規格の開発や新興国への環境技術・制度構築支援を専門とする。ISO/TC207/SC4(環境パフォーマンス評価)国際エキスパート、ISO/TC146(大気質)国際エキスパート、及びISO/TC147(水質)/SC2/WG79コンビナー、SC5/WG9プロジェクトリーダー。日本産業標準調査会 化学・環境技術専門委員会委員及び適合性・管理システム・サービス規格専門委員会委員。