大学で学んだ標準化の知見を企業で活かす


中部大学ESDエコマネーチームは2009年から学生主体の標準化教育や標準化教材の開発・普及に取り組んでいます。アイソスでは、同チームを卒業生が社会人になって、大学で学んだ標準化の知見を職場でどのように活用しているかを連載で紹介することにしました。今回は連載第3回として、角野裕哉氏(有限会社角野製作所 新事業グループ)に「小水力発電 × SDGs」というテーマで執筆いただいた記事をご紹介します。掲載誌はアイソス2021年12月号です。


はじめに



近年、インターネットやテレビ等でSDGsについて耳にすることが増えています。これはSDGsの取組みや考え方は各企業だけではなく、一般消費者に浸透してきたからです。本稿ではSDGの中で「3.すべての人に健康と福祉を」「4.質の高い教育をみんなに」「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」について、中部大学卒業後から関わらせていただいた小水力発電について紹介します。

私は2010年に東京ビックサイトで開催された日本最大級の環境展示会「エコプロダクツ展」に中部大学のESDエコマネーチームの一員として参加したことで、「環境」と「ビジネス」に対する考え方が大きく変わりました。大学生の私は、それまで環境問題に対して取り組むビジネスは、消費者の印象を良くするための広告材料であると考えていました。しかし、当時出展していた企業・団体の方々から話を聞くと、その考え方は間違っていたことが分かったのです。企業・団体の方々は、広告として環境問題を扱っているだけではなく、その商品やサービスを提供することで自然と人間がより良く共存できる持続可能な社会を本気で作り出そうとしていました。そのときに体感した感動を10年たった今でも鮮明に覚えています。

中部大学を卒業後、家族の経営する角野製作所へ入社しました。角野製作所は金属の切削加工を本業としており、自動車や航空機の部品を製造する工場です。2009年から小水力発電事業に参入して、螺旋式ピコ水力発電装置「ピコピカ」と呼ばれる小型の水力発電装置の開発・製造・販売を行っています。私は中部大学のESDエコマネーチームで学んだ「環境ビジネス」の知識を基にピコピカシリーズに携わっています。業務の一つとして上記のエコプロダクツ展に2013年から出展し続けており、国内外に向けてピコピカシリーズの情報を発信しています。

水力発電とは



水力発電とは水の位置エネルギーから電力を取り出す仕組みのことです。高い位置から低い位置まで水が流れる際の「位置エネルギー」を利用して水車を回転させ、発電機を動かすことで発電を行います。水の力を使う水力発電の発電量は下記のように流量と落差によって算定できます。

出力(kW)=9.8(重力加速度)×1秒間の水量(㎥/sec)×有効落差(m)×効率(0.5〜0.7)

日本の山間部には河川や用水路が多く、水の豊かな日本の中小水力発電にはまだまだ可能性があります。より多くの発電を行うためには多くの水量を用いて発電を行うか、高い位置から水を落として発電させることが必要となります。水の量と落差は水力発電装置の設置環境によって決まるため、従来の中小水力発電では水力発電装置を設置する場所に適した羽根を設計し、効率を上げることでロスの少ない発電を行ってきました。

基本的に専用設計を行うことが主流である水力発電業界では、発電方法や発電量等の様々な分類によって細分化されています。その中でも「発電の規模による分類」として、一般的に10,000kW以下の発電システムを「小水力発電」、1,000kW以下の発電システムを「ミニ水力発電」、100kW以下の発電システムを「マイクロ水力発電」、1kW以下の極めて小規模な発電システムを「ピコ水力発電」と分類しています。100kW以下のものでも総称として小水力と呼ぶこともあり、上記の呼び名は必ずしも定着しているわけではありません。

その中で本稿では私が主に携わっている極めて小規模な発電システムである「ピコ水力発電」について紹介します。



螺旋式ピコ水力発電装置「ピコピカ」



SDGsの考え方(7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに)が世界中で広がる中、世界規模でエネルギーの見直しを行う時期に来ています。化石燃料の代替品である再生可能エネルギーの需要が高まっており、小水力発電も有力な再生可能エネルギーの一つとして認知が広まっています。現在の社会を築く大人と未来を担う子供たちが「環境とエネルギーの共存」という共通の目的を持続的に解決し続けることが重要です。

螺旋式ピコ水力発電装置「ピコピカ」(以下ピコピカ)は環境教育や小水力発電の導入を通じて、エネルギーへの関心を子供たちに持っていただき、地域に眠る自然資源を発掘して再生可能エネルギーを導入することで循環型社会の創造を目指した商品です。

「ピコピカ」はシリーズ商品で、発電量によって名称が変わります。瞬間発電量が10W相当の実用的な環境教育教材として多く使用される「ピコピカ10」と、瞬間発電量が500W相当の一般的な一世帯当たりを賄うことが可能な「ピコピカ500」が販売されています。本稿では実用的な環境教育教材としてのヒット商品である「ピコピカ10」にフォーカスさせていただきます。

「ピコピカ10」は『中山間地域のエネルギー自立を目指すJST-RISTEX「地域に根差した脱温暖化・環境共生社会」研究開発領域』および、『平成21年度ものづくり中小企業製品開発支援補助金(試作開発等支援事業)』のプロジェクトとして、特定非営利活動法人地域再生機構と岐阜県立中津川工業高等学校の生徒と共に研究開発を実施して商品化されました。「子供たちが集めたペットボトルキャップで通学路を照らそう」をコンセプトとしており、「ピコピカ10」の螺旋部分は子供たちがエコキャップ運動(ペットボトルのリサイクル活動)で集めたペットボトルキャップを再利用して製作しています。「ピコピカ10」の発電量は10W相当と非常に少ないですが、消費電力が少ないLED防犯灯によって夜間照明として活用が可能です。また、「ピコピカ10」は組立キットとなっており、小学5・6年生の子供たちが1時間ほどで簡単に組み立てることができます。(下の写真は、小学校での「ピコピカ10」の組立・設置作業の様子です)





ドライバーやスパナ等の一般的な工具で組み立てるため、工作の学習としても使用されます。組み立ての際に取り付けられる螺旋部分が分割されており、この部分で特許を取得しています(PAT.5845498)。各パーツが簡単に組み外し可能であり、メンテナンスも容易です。完成品のサイズはH380mm×W280mm×D1,085mm、重量が17.5kgと大人1人で持ち運びも可能です。基本的な設置場所は10ℓ/秒の流量がある30㎝幅のU字溝(農業用水路等)を想定しています。  組み立てられた「ピコピカ10」は近くの水路に設置し、電灯の設備が整っていない通学路や農道に設置されます。水路に「ピコピカ10」を設置することで付属されている専用のLED防犯灯が点灯します。(下の写真は、水路に設置された「ピコピカ10」と付属のLED防犯灯です)



この「ピコピカ10」は常設することで一つの意識改革が生まれます。それはエネルギーの見える化です。普段人々は水路や河川に水が流れていても気にも留めません。「ピコピカ10」を設置することで水の流れが明かりとなって目に見えるようになります。子供たちは家庭や学校で使用していない照明は「もったいない」から消すように教育されていることが多く、「ピコピカ10」で常時点灯している電力が「もったいなく」感じます。そこで大人たちが「電気を消さないことがもったいないのではなく、垂れ流しのエネルギーがもったいない」と教育するのです。これにより普段垂れ流されている再生可能エネルギーを更に身近に感じます。これによって水力だけではなく、太陽光や風力等の再生可能エネルギーも身近なものとして認識されます。「ピコピカ10」を通じて子供たちが「自分で学ぶ力」を無意識のうちに身に付けることができます。



日本の電力事情



我々が限りある資源を利用して生活している以上、近い将来エネルギー不足が問われることは間違いありません。しかし、現在の日本国において、エネルギーが不足していると感じている人は非常に少なく、どこか他人事で、この重要な問題を先送りしているのが現実です。そこで、我々は未来を担う子供たちがエネルギー不足に悩まないように、地域が主体となる再生可能エネルギーの導入を目指して環境教育や小水力発電の普及を推進してきました。これらのエネルギー問題を解決するには、何世代にもわたる取組みが必要であると考え、大人と子供が一緒に楽しめる体験型の環境教育を主体とした「環境学習が可能な小水力発電装置の開発」に取り組み、現在まで継続的に環境学習を実施しています。



海外の電力事情「3.すべての人に健康と福祉を」



海外の無電化地域に暮らしている住民や、それを支援する団体の方々から得られた情報によると、無電化地域では冷蔵機能が非常に求められているということが判明しました。冷蔵機能により、食料を安全に長期保管できることはもちろんですが、特に病気に対抗できる薬や血清を保管するために必要とされています。薬や血清は限られた集落や栄えている町に保管されていることが多く、長期保管が難しい無電化地域では必要な時に手に入りにくいのです。薬や血清があれば救うことができる命を守るために、我々は小さな家電の動力として利用できる小水力発電装置の開発・販売を行っています。我々は今を生きる全ての人が限りあるエネルギーを有効に使うために、未来を生きる子供達がエネルギー問題に悩まないように、持続可能な社会の実現に向けて再生可能エネルギーの有効性を多くの方に伝えて、全ての人や地域の方々、子供たちと共に再生可能エネルギーの普及に努めています。



国内外からの評価



「ピコピカ10」は国内外で約500台の販売実績があります。「ピコピカ10」は同形状の水力発電装置の中では国内で最も売れている水力発電装置と言われています(2021年10月現在)。水力発電装置の考え方を変えたピコピカシリーズは下記のように多くの評価を受けています。

• 2014年5月、日本設計工学会 平成25年度秋季研究発表講演会において優秀発表賞を受賞。
• 2018年10月、UNIDO(国際連合工業開発機関)東京投資・技術移転促進事務所が発展途上国・新興国への持続的な産業開発のために、日本の優れた技術を紹介するプラットフォームである「STePP(サステナブル技術普及プラットフォーム)」に登録。
• 2019年5月、日本外務省の製作する番組(Japan Video Topics)で、日本語、英語、フランス語、スペイン語、韓国語、中国語及びアラビア語で世界各国へ日本の技術(小水力発電装置)を紹介する短編動画で紹介。
• YouTubeにて490万回以上の再生数を記録(2021年10月現在)。
• 2020年3月、第22回日本水大賞において経済産業大臣賞を受賞。



STEM教育と再生可能エネルギー「4.質の高い教育をみんなに」



STEM(ステム)教育とは世界的に国を挙げて実施されている教育方針です。小・中・高校から大学までの様々な教育関係者に実用的な環境教育教材として「ピコピカ10」はSTEM教育に適していると評価いただいています。実際に「ピコピカ10」を活用し、下記の6項目の体験学習を行うことで実体験を経験し、理系・工学に興味を持つ人材の育成につながります。

① 水力発電を用いて再生可能エネルギーと環境について学ぶ
② 水の特性を体感することで力学について学ぶ
③ 「ピコピカ10」を組み立てることで工具の使用方法や水車の原理を学ぶ
④ 発電された電気を用いて実験等を体験する
⑤ 「ピコピカ10」を常設することで地域社会の現状について考える
⑥ 身近に水力発電を取り入れた生活をすることで再生可能エネルギーの本質を知る
  

我々が環境教育に伺った高校の生徒の中には、「ピコピカ10」を使用した卒業研究を行い、大学では電気について専攻し、卒業後大手電力会社に就職された方もいます。我々は環境教育に携わる者として子供たちに少しでもより良い教育がいきわたればと考えています。



小水力発電と標準化



ピコピカシリーズは国内外で需要が高まり続けています。ピコピカシリーズは製造面では、既存の規格で製造されている部品を使用しつつ、ピコピカシリーズの製造者及び外注加工業者が製造しやすい構造となっています。商品としては子供でも理解できる組み立て易さや、安全性を保つことで消費者利益を確保しています。

新技術・製品であるピコピカシリーズは既存の製品構造等を独自の基準で設計されています。ピコピカシリーズの中に新たな型式の物やオプション品も開発し続けています。他に類を見ない独自の進化を続けるピコピカシリーズは、その需要が高まり続けていることで世の中のデファクトスタンダート(事実上の標準)になりつつあります。

我々はデファクトスタンダートになりつつあることを理解し、いただいている評価に誇りを持ち、国内外のお客様の消費者利益を確保する責任を常に持ち、日々進化し続けます。




執筆者: 角野裕哉

有限会社角野製作所 新事業グループ
中部大学経営情報学部経営学科卒業。元ESDエコマネーチーム2010 エネルギー部最高責任者。大学卒業後、有限会社角野製作所に入社。環境ビジネスの知識を基に新事業グループにて螺旋式ピコ水力発電装置「ピコピカ」の設計開発・製造・販売に取り組む。医療機器事業では、医療機器製造販売業及び医療機器製造業の薬事業務を担当。2021年2月、医療機器修理責任技術者取得。