遠隔監査の実施方法


二者監査のプロフェッショナルであり、ISO 19011国内委員会委員を務めた福丸典芳氏に、アイソス2021年10月号から2022年3月号まで「遠隔内部監査の効果的・効率的手法」というテーマで連載記事をご執筆いただきました。本稿は、その中から連載第4回「遠隔監査の実施方法」(2022年1月号)の記事全文を掲載しています。遠隔監査において現地の状態を撮影する際の制約及び遠隔監査のコツ、並びに遠隔監査の事例について詳しく解説いただきました。


1.はじめに



監査員は、監査活動を行う際には、監査対象プロセスの活動状況を色々な角度からその実態を自分自身で確認する必要があります。しかし、遠隔監査ではプロセスを確認するためには、被監査者又は補助者などに具体的に確認したいものや活動について、IT機器を使って撮影してもらう必要があります。このため、監査員が意図したことと相違する場合があるので、やり取りが多くなり思ったより時間がかかることがあり得ます。

今回は、このようなことを理解したうえで、遠隔監査で現地の状態を撮影する際の制約及び遠隔監査のコツ、並びに遠隔監査の事例について解説します。



2.遠隔監査における制約



現地監査の場合に比較して、遠隔監査で映像を通して監査する場合には次に示すような制約があるので、これを考慮して監査に取り組むことが大切です。

▶︎同時に複数の情報を確認することが難しい
監査で利用できるツール、監査で使用するパソコン環境等の制約がある場合には、同時に複数の情報を確認することが難しいものです。このため、一つ一つ確認しながら監査を行う必要があります。

▶︎視界画像の制約があるため、監査員の意思で広範囲に注意を払うことが難しい
監査員が直接現場を見る際には、見る視野が広いので広範囲の状態を把握することができますが、映像で確認する場合には、ある一定方向だけの映像になるため視野が狭くなります。このため、撮影機器を左右上下に動かしてもらう必要があります。

▶︎視点を集中することや良く見ることが難しい場合が多い
映像で見るため立体感がなく、何となく画像を確認することになってしまうことや細かいところまで確認することが難しい場合があります。このため、撮影機器をゆっくり動かしてもらうようにする必要があります。

▶︎作業状況の把握や個々の作業者の状況に基づくサンプリングなどの選定が難しい
作業の活動状況を全体的に見ることが難しいので、サンプルの範囲が狭くなることがあり、遠隔で効果的なサンプリングをすることが難しい場合があります。このため、サンプルは事前に抽出することが大切です。また、作業状況を映像で監査する場合、作業時間に至るまでの周辺環境、工場建屋の周辺場内の5Sの実施状況、及び機械ライン等の稼働状況が分かるように撮影してもらう必要があります。

さらに、作業で用いている機器、現在進行している作業の進捗等のインプット情報、使用している材料が製造された製品の識別のポイント、検査で見るべきポイントをできるだけ映像に反映してもらうなど、証拠に至る道筋をできるだけ明らかにしてもらう必要があります。

▶︎一般的に要求した記録等の文書はいきなり画面に表示されることが多いので、ファイルから取り出すなどの文書管理の状況を把握することが難しい
このような場合には、提示を依頼した情報しか確認できないという困難があります。このため、要求した証拠のみでなくその文書記録がどのように保管管理されているか、その文書記録に至るまでの一連の操作を見せてもらうことが効果的です。

▶︎遠隔の映像と手順書等の比較が難しい
遠隔の映像がどの手順書に該当しているかを確認しづらい場合があります。このため、手順書を見ながらどの手順を撮影しているのかをその都度確認する必要があります。

▶︎遠隔説明者の説明が聞き取りにくい
周囲の音や機械音等を拾って説明が聞こえにくい、スピーカーの状況と監査者の音声が伝わりにくい場合があります。このような場合には、ノイズキャンセラーの機能がある機器を使うことで対応可能です。



3.遠隔監査の方法



(1)作業現場の遠隔監査

遠隔監査では、監査員が被監査者又は撮影者に監査員が確認したいものを明確にして、撮影箇所を適切に明示する必要があります。これが曖昧であるとやり取りを何回もすることになり、監査時間のロスにつながります。

このような状態にならないように明確な指示をすることが大切です。このためには、監査員が何を確認したいのかという意図を明確にすることで、効率的な遠隔監査を行うことが可能です。

例えば、現地監査の場合に、品質データの確認をする活動のストーリーは、図表1のようになります。



図表1の例で遠隔監査を行う場合には、図表2に示すストーリーになります。これから分かることは、監査員は被監査者に対して気付いた箇所の撮影を具体的に指示する必要があります。このように遠隔監査では思った以上に時間を費やすことがよくあるので、被監査者とのコミュニケーションを十分図ることが大切です。



このため、監査実施においては、監査時間が現地監査に比べて多くかかるというリスクを考慮して監査計画を立てることが大切です。

図表3〜図表7に遠隔監査の例を示します。これからも分かるように監査員と被監査者とのやり取りが多くなります。













(2)会議室での遠隔監査

この場所の監査では、オンライン会議の設備を用いて監査を行いますが、文書や記録の確認が現地監査と違って、図表8に示すようにデータが確認できない場合には、準備できるまで待つのではなく、次の質問を行うことが効果的です。





(3)遠隔監査のポイント

遠隔監査では、次の事項を行うことで効果的で効率的な監査ができます。

▶ 事前に情報を入手し確認しておくべきこと、現地で確認すべきこと、現地の確認後にフォローアップすべきことをしっかり整理しておく。

▶ 録画した画像を利用する場合は、どのような情報を映像で確認したいのかをしっかり伝えておく。

▶ 監査リーダーが、当日の監査をスムーズに進行できるように、被監査者に当日の監査ポイントや確認すべき事項を事前に指示する(有効な遠隔監査とするためには、監査チームと被監査者の信頼関係が不可欠)。

▶ 各監査リーダーが主体となり、トラブル回避のため使用する機器(スマートフォン、Webカメラ、モバイルWi-Fiルータ等)の操作やネットワーク接続等の事前チェックを実施する。なお、通信トラブルや機器の動作不良等で当日確認が不十分となった場合は、事後のデータ提供を依頼する(遠隔表示板、紙ベースの個別ドキュメントなど)。

▶ 社内システムに登録されていない設計企画書、開発計画書などの情報は事前にPDF化する。

【福丸典芳氏の連載概要】
・連載第1回「遠隔監査に関する基準とそのメリット及びデメリット」(アイソス2021年10月号掲載)
・連載第2回「遠隔内部監査の手順の明確化とリスクへの対応」(アイソス2021年11月号掲載)
・連載第3回「遠隔監査の準備」(アイソス2021年12月号掲載)
・連載第4回「遠隔監査の実施方法」(アイソス2022年1月号掲載)
・連載第5回「内部監査員の力量向上の方法」(アイソス2022年2月号掲載)
・連載第6回・最終回「遠隔内部監査の今後の課題と展望」(アイソス2022年3月号掲載)


執筆者:福丸典芳

(有)福丸マネジメントテクノ 代表取締役
専門分野はTQM、ISOマネジメントシステムなどであり、コンサルティング業務、講演会・研修会の実施、書籍の執筆など多方面で活躍している。また、外部活動として(一財)日本規格協会品質マネジメントシステム国内委員会の委員及び講師、(一財)日本科学技術連盟講師、(一社)ものづくり日本語検定協会企画委員会委員を歴任している。