カーボンニュートラルの国内の取組み


海外の国々と連携しながら国際ビジネス支援を長年続けている野元伸一郎氏(kiipl & nap エグゼクティブ・コンサルタント)に、アイソス2022年4月号から同年9月号まで「いかにしてカーボンニュートラル対応のQMSを構築・運用するか」というテーマで連載記事をご執筆いただきました。本稿は、その中から連載第3回「カーボンニュートラルの国内の取組み」(2022年6月号)の記事全文を掲載しています。国内の自治体や環境省、国内企業のカーボンニュートラルの取組みが紹介されています。


4月から6回にわたって、“いかにしてカーボンニュートラル対応のQMSを構築・運用するか”というテーマで連載を開始しています。

カーボンニュートラルは今後、世界的にビジネスの場で対応が求められるテーマです。第3回目は、“カーボンニュートラルの国内の取組み”について考えていきます。



1. ウクライナ、ロシア戦争の影響をどう捉えるか



ここのところ毎日、ロシアがウクライナに攻め込んでいることがニュースになっています。

ロシアの2020年の液化天然ガス(LNG)生産量は6,385億㎥です。ロシアは天然ガス確認埋蔵量で世界1位であることに加え、生産量でもアメリカに次ぐ2位となっています。液化天然ガス(LNG)の単位あたりの発熱量は、石炭の2倍、灯油の1.4倍程度です。CO2排出係数は原油に比べ大幅に低いことをふまえると、液化天然ガス(LNG)はカーボンニュートラルに大きく寄与します。しかし、ロシアへの経済制裁のため、欧州、日本はロシアからの液化天然ガス(LNG)の輸入を大幅に制限したため、電力を含むエネルギーを他の手段に転換することが余儀なくされています。

ドイツ、イギリスは原子力発電への回帰、日本は火力発電、原子力発電への回帰も視野に入れています。しかし、特に火力発電はCO2排出量が多いという性質があります。

毎年、カーボンニュートラルや環境改善について世界的に議論されている国連気候変動枠組み条約の本年度の開催は第27回締約国会議(COP27)として、エジプトで実施される予定です。ここではロシアの液化天然ガス(LNG)の使用制限に伴う欧州のエネルギー危機対策とカーボンニュートラル目標の見直しについて議論されると思われますが、紛糾が予想されます。

日本では2020年にカーボンニュートラル宣言を行った菅元首相が、当面その目標数値(2050年までにカーボンニュートラル実現)は順守すべきだという見解を述べられたこともあり、当面はその実現に向かい、産官学で取組みを加速することが求められます。



2. 国内の取組みについて



(1)カーボンニュートラル宣言をしている企業、自治体について

まず、参考までに、経済産業省が発表している日本の大手企業のカーボンニュートラル目標について、図表1に記させていただきます。



また、カーボンニュートラルを宣言した自治体の一覧を図表2に記載します。

民間企業72社がカーボンニュートラルを宣言していますが、1社だけでカーボンニュートラルを実現するのは不可能です。それは企業とはバリューチェーンの中で活動しているからです。

自動車メーカーであれば、一次下請が6,000社以上、二次下請は3万社以上と言われています。これらの企業全てがカーボンニュートラルに向けた取組みを行わないと、最終製品である自動車の環境対応は成り立たないということです。

食品会社であれば、農産物、物流業者、加工業者、包装材料会社、自社の製造工場、販売店等とバリューチェーンがつながっています。これらの企業、農家と連携して、カーボンニュートラルに関する取組みを進めていくことが求められます。

自治体であれば、役所内部はもちろんですが、住民、企業、走行しているモビリティ(電車、バス、自家用車、トラック、バイク等)、ごみ処理場等、様々なステークホルダーとの連携・協力が求められるのは言うまでもありません。

環境省は、“地域別脱炭素ロードマップのイメージ”(図表3)の中で、最初の10年間がカギを握ると述べています。まずは、

① 既存技術でできる重点対策を全国で実施
② 先行モデルケースづくり≑ドミノスタート

ということから始めるべきと提唱しています。

これらの動きをバリューチェーンで進めていくことが肝要であるということです。



(2)カーボンニュートラルに取り組む視点と適用例

それでは国内各社の動向を踏まえながら、カーボンニュートラルに取り組む視点を整理していきます(図表4)



①再生可能エネルギー活用型
これまで地域の電力会社から化石燃料由来の火力発電所、原子力発電所由来の電力を購入していた企業、自治体が、太陽光、風力、水力等の再生可能由来の電気を購入し、事業活動に活用するのが再生可能エネルギー活用型です。最近、日本各地で風力発電所が増えてきました。しかし、再生可能エネルギーだけで事業を賄うのは難しいのが現実と思いますが、大手電力会社から購入する電力とミックスすることでもCO2削減に貢献できます。将来的には充電池が活用できれば、再生可能エネルギー比率をさらに増加させることもできます。ただし、再生可能エネルギーは、例えば天気が曇り、雨であれば太陽光発電の発電量が落ちるといったリスクがあります。このリスクに対応していくことが求められます。

②技術・方式変更によるCO2低減型
これまでの技術・方式を変更することでCO2を低減することも可能です。例えば、ガソリン車を電気自動車やハイブリッド自動車に変更することで、ガソリン消費量が低減でき、CO2を削減することができます。液晶テレビを有機ELテレビに変更することでも消費電力が低減できますし、高効率のエアコンの導入、LED照明の導入、生産設備の見直しもこのパターンにあてはまります。最近、JRがディーゼルカーから充電池を搭載したハイブリッドカーに切替を開始しています。このような取組みを積極的に進めていくことが求められます。このような取組みを加速するには、自社業界はもちろん、他業種の情報を取り入れる、アナロジーするといったマーケティング・リサーチを進めていくことが必要です。

③新技術によるCO2低減型
これは②の技術・方式変更によるCO2低減型よりも、よりドラスティックに技術・方式を見直すようなパターンです。最近、計画されている水素ガスやアンモニアガスを活用した発電所といったものがこれにあたります。これは企業における事業戦略の大幅な変更が必要であり、新たな技術導入にあたっては、M&A、技術提携、人材採用・育成といった取組みが必要になります。

④シェアリングによるエネルギー低減型
これは企業、事業体を超えて協業することでCO2を低減する取組みです。例えばこれまでの工業団地ではデベロッパーが、電力、水、ガスと土地を提供し、後は各社で事業活動を行ってくださいというのが一般的でした。しかし、今回のコロナ禍でSCMの問題が各社を直撃しました。特に半導体を含む電子部品といった輸入原材料は顕著であり、今でもその影響はおさまっていません。これまで、各社はJust in Timeによる在庫ゼロを目指すことが当たり前でした。しかし、今後は在庫を持つこと、それも企業間を越えて持つことも当たり前のケースとして出てくると思われます。このように工業団地内の企業が原材料を共同発注、在庫を倉庫で持つ、物流を協業する、教育も共同で行うといった取組みを行うことも出てくるでしょう。通信ネットワークをローカル5Gで共用するといったことも出てくると想定されます(図表5)。このような協業によりCO2の低減を目指す場合、各社のQMS(品質マネジメントシステム)を見直し、連携していくことも求められるでしょう。



⑤業務効率化アプローチ型
これは現状の業務プロセスを見直すことにより、CO2低減を目指すアプローチです。例えば製造業であれば、金型試作から3Dプリンタ試作への切替により、金型製作、試作によるCO2を排除する、ペーパーレスを図ること、これは企業間のやりとりの改善にもつながります。このような取組みを仕組み化するには、業務プロセス改革結果をQMSへ展開していくことが求められます。

⑥業務時間シフト型
①で再生可能エネルギー活用型のお話をさせていただきました。太陽光・風力等の天候により左右される再生可能エネルギーは時間帯によって発電量のバラツキが生じ、電力市場の取引量に影響を及ぼすため、仕入価格の基となる市場価格と販売価格で価格差が生じます。この価格差を活用することによって、就業時間の見直し、生産計画の見直しといったアイデアに展開していくことも考えられます。

秋田県にローカルでんき株式会社という企業があります。この企業は秋田県営水力発電所由来の電気を調達し、再生可能エネルギーとして秋田県の企業に販売しています。この企業が最近、秋田県のDX実証実験にて、顧客の電力使用時間帯のパターンを分類し、顧客の就業時間、生産計画検討に時間帯別の価格差を提案し、win-winを目指すという取組みを開始しました。従来の大手電力会社のビジネスでは考えられない取組みです。このような取組みこそ、カーボンニュートラルの新しいビジネスモデルとしてピッタリではないでしょうか(図表6)



⑦ サーキュラーエコノミー型
自社の市場投入した製品、原材料を回収し、リユース、リサイクルを図るパターンです。サーキュラーエコノミーは昨今の脱プラスチックの流れの中で取組みが始まった循環経済のことです。循環経済を進めるにあたってはたくさんのステークホルダーと方針を合意し、win-winになるための戦略を共有していく必要があります。例えば、ペットボトルのような樹脂製飲料容器の場合、消費者が使用済み容器を確実にリサイクルboxに廃棄し、それを回収業者が分別、洗浄し、樹脂メーカーがペレット化し、容器メーカーへ納入し、飲料容器として再生産するまでの循環サイクルを構築し、かつステークホルダーが確実にぺイする、儲かるビジネスモデル設計まで考えることが求められます。その結果としてカーボンニュートラルにつなげたいということです。

⑧CO2回収・活用型
最後はCO2回収・活用型です。最近、世界各国のプラント系機器メーカーがCO2回収装置を開発しています。この装置を活用することで、火力発電所、バイオマス発電所、製鉄工場、セメント工場、ごみ焼却施設等の大量のCO2を排出する企業・施設に貢献することができます。今後は回収したCO2をエタノールやメタノールといった化学物質につなげ、新たな商品・資源として市場適用できるようになることが求められています。



3. まとめ



国内のカーボンニュートラルの取組みとして、8つのパターンに整理してみました。それぞれの8つのパターンをプロセスに整理してみると、それぞれのパターンの進め方の課題が明確になります。共通に言えることは、自社内のみで解決できる課題は少ないということです。また、カーボンニュートラルの取組みは、事業戦略そのものです。よって、このような取組みを仕組みとして進めるためには、最終的に事業戦略からQMSに落とし込む必要があります。また前述したように、他社と連携したQMS構築が求められていくでしょう。現在、カーボンニュートラルはISO化されていませんが、近い将来、ISO化されると思われます。そのためにもQMSとして整理しておきたいものです。

第3回目は、“カーボンニュートラルの国内の取組み”について考えてみました。この中で8つのパターンの考え方と国内の取組みについて整理してみました。

第4回目は、“QMSの提案”について考えていきたいと思います。

【野元伸一郎氏の連載概要】
・連載第1回「企業におけるカーボンニュートラル対応の必要性」(アイソス2022年4月号掲載)
・連載第2回「カーボンニュートラルをビジネス成果につなげるには」(アイソス2022年5月号掲載)
・連載第3回「カーボンニュートラルの国内の取組み」(アイソス2022年6月号掲載)
・連載第4回「カーボンニュートラルに伴うQMSの提案(1)」(アイソス2022年7月号掲載)
・連載第5回「カーボンニュートラルに伴うQMSの提案(2)」(アイソス2022年8月号掲載)
・連載第6回・最終回「カーボンニュートラルを効果的にビジネスに展開するために」(アイソス2022年9月号掲載)



執筆者:野元伸一郎

株式会社 kiipl & nap エグゼクティブ・コンサルタント
1993年日本能率協会コンサルティング入社。2009年シニア・コンサルタント。2012年JMA Holdings ASEAN推進センターへ出向、センター長。2016年日本能率協会コンサルティング グローバル開発革新センター長。2018年日本能率協会コンサルティング退職、みらい株式会社に転職、統括ディレクター/COO、2021年株式会社kiipl & nap エグゼクティブコンサルタント兼務、2022年3月みらい退職、現在に至る。2018年から北陸先端科学技術大学院大学非常勤講師。