課題はISO認証の更なる普及・発展とSDGs等の新たな動きへのISO認証の活用


IAF加盟の認定機関に認定された、日本国内で活動する認証機関で構成される日本マネジメントシステム認証機関協議会(JACB)は2022年4月19日に第32回総会を開催、日本検査キューエイ株式会社代表取締役社長の菅野良一氏がJACBの新代表幹事に就任しました。菅野氏に、JACBの概要と最近の活動成果、今年度の活動方針と活動予定、今後の課題、就任の抱負について話を伺いました。(このインタビュー記事はアイソス2022年8月号の「Viewpoint this month」に掲載されたものです)


認証組織や会員機関に対する情報発信で成果



−JACBの主な活動内容をご紹介ください。

菅野 日本マネジメントシステム認証機関協議会(JACB)は、ISO認証活動の質の向上と認証制度の健全な普及・発展を目的として2000年に設立された任意団体です。現在の会員数は40機関で、各会員機関の国内認証件数の合計は日本全体の認証件数の9割を占めています。ISO認証を通じて日本の産業を支え続けてきました。

JACBの最も重要な活動は、規格別の5つ(品質、環境、情報セキュリティ、食品安全、労働安全衛生)の技術委員会です。委員会では、ISO規格や審査ルールの解釈・運用、企業・組織に役立つ審査技法、審査のベストプラクティス共有化などを検討・推進しています。

ISO認証に関する国際的調査「ISO Survey 2020」によると、2020年末時点での日本の認証件数はISO 9001が世界で4位、ISO 14001は2位、ISO/IEC 27001は2位と極めて高いレベルです。またISO 9001の2015年版改訂では日本がいち早く改訂規格への移行に取り組んでおり、2017年末時点での日本の2015年版への認証移行率は世界1位という実績もあります。日本のISO認証の普及には、会員機関の努力に加えて、JACBの委員会活動の貢献があったことをPRしたいと思います。

JACBは国内外の規格作成及び標準化活動にも参画しています。ISO関連では、ISO/CASCO(適合性評価)、ISO/TC 176(品質)、ISO/TC 207(環境)など45の委員会に、日本国内ではJIS規格制定に関わる21の委員会に参加してきました。また、国際認定フォーラム(IAF)では、準会員として日本を代表し意見を表明してきています。JACBは目立つ存在ではありませんが、地道な活動を通じてグローバルなルール形成面でも足跡を残しています。

−最近の活動成果をお聞かせください。

菅野 認証組織や会員機関に対する情報発信については、かなりの成果を残したのではないかと思います。なかでも、2021年12月15日に開催したJACB主催のリモート講演会「QUALITY MANEGEMENTを考える」では、認証組織を中心に2,000人を超える聴講者が参加し、好評を博しました。聴講者からは次回に向けて、マネジメントシステムの有効活用事例や失敗事例を取り上げてほしいという要望が寄せられており、今年度も継続してリモート講演会を開催していく予定です。

もう1つ大きな反響があったものに、2022年4月に発行されたアンケート調査報告書『ISOマネジメントシステムの価値を実現する〜ISOの組織的活用に関するアンケート調査から〜』が挙げられます。



これはJACBマーケット調査委員会(委員長:明治学院大学・神田良教授)による4,500を超える認証組織を対象にアンケート調査を実施し、その結果から「ISO認証がもたらし得る価値」を総合的に分析した力作で、JACBのウェブサイトで公表されています。ISO認証の価値をテーマに、これだけ大きな規模で実施された調査結果は、おそらく世界でも類を見ないと思われます。

−分析の結果、どのようなことがわかりましたか。

菅野 この報告書では、ISOマネジメントシステムがもたらす価値を、「認証価値」、「規格価値」、「審査価値」の3つの視点から分析しています。その結果、これら3つの価値の実現に強い影響を及ぼしているのが「推進体制」、つまり「全社的な取組み、トップマネジメントの関与、他のスタッフ部門との連携、本来業務への一体化」であることが具体的に明らかになりました。優れた推進体制を持つ組織を、神田委員長は「完璧推進体制組織」と命名されました。このような組織は全体の10%強であり、他の組織と比較して利益向上・効率化・リスク低減・教育・顧客拡大などの効果をより多く得ている傾向が示されました。

ただし、認証の総合的な価値という面では「入札・取引条件」という対外的メリットへの評価が最も高く、そのメリットは企業・組織の仕組み改善といった内部的メリットを上回る結果でした。また、継続年数を重ねても認証の効果獲得の仕組みを習得できないという傾向も明らかになりました。アンケート調査では、残念ながら効果獲得のための方法論までは明らかになっていません。繰り返しになりますが、「全社的な取組み、トップマネジメントの関与、他のスタッフ部門との連携、本来業務への一体化」が重要であり、認証機関も審査を通じて、そのような活動を支援していく必要があります。



8月にJABと共催でリモート講演会を開催



−今年度の活動方針と具体的な活動予定についてお聞かせください。

菅野 JACBの活動には、①「技術委員会」を通じた審査の質向上活動、②ISO・JIS・IAF等「国内外関連委員会への参画」を通じたルール形成への貢献、③JAB・経産省・業界団体等の「外部機関・団体とのリレーション」の強化、④会員や組織向け「講演会等情報発信」を通じたISO認証に対する啓発活動などがあります。今年度は特に「ISO認証の価値」に焦点をおきたいと考えています。具体的には2つの活動を予定しています。

1つ目は古くして新しい課題ですが、「気付きを与える付加価値の高い審査」について、改めてJACBの各技術委員会にて議論し、方向性を整理していきます。組織の皆様は激しく変化する市場や社会への適応が求められており、認証機関としても組織の皆様の改善につながるソリューションへの気づきを促す努力・貢献が必要です。ISO 17021-1(マネジメントシステム認証機関に対する要求事項)をはじめとする認証機関への要求事項を改めて精査しながら、審査におけるベストプラクティスを含む組織への情報提供のあり方・方法論などについて議論を始めているところです。

2つ目は、経営におけるISO認証の活用に関する考え方や事例、ESG・SDGs・カーボンニュートラルなどの最新情報をテーマにしたリモート講演会の開催です。今年度は2回実施する計画で、第1回目は日本適合性認証協会(JAB)との共催で8月25日(木)午後に予定しています。「激変する環境下での経営革新−リスクを機会に変えるマネジメント−」というタイトルで著名な講師陣を迎えて開催します。企業・組織のトップマネジメントをはじめとする関係者に広く聴講を呼びかけていきます。



ISO認証の「発展」にフォーカスしたい



−JACBの今後の課題についてお聞かせください。

菅野 JACBの使命は「ISO認証活動の質の向上と認証制度の健全な普及・発展」です。このなかの「発展」にフォーカスしていきたい、簡潔に言いますと、もっとISOマネジメントシステムを効果的に使って頂けるようにしたい。ISOマネジメントシステムは標準化にも、また変化への対応にも活用できる優れた仕組みですので、より効果的な活用と普及・発展を呼びかけていきたい。具体的な方向は2つあります。

1つ目は、より多くの企業・組織に「自らの価値及び能力向上のツール」としてISO認証を取得してもらうことです。この背景には日本でのISO認証件数の停滞・減少があります。「ISO Survey 2018」と「2020」の調査結果から、2020年における認証件数トップ10各国の、過去2年間の件数増加率を比較しました(下の図表参照)



2020年の時点で日本は認証件数では上位にあるのですが、2018年から2年間の増加率という点では、他国に比べて低い水準となっています。加えてISO 9001とISO 14001ではマイナス成長であり、プラス成長であるISO/IEC 27001についても日本の増加率が10%強なのに対して、イタリア、中国、オランダでは70%前後と大変高い値になっています。

こうした状況について、日本は早期に認証取得に動いたため、すでに成熟レベルにあるという見方もできそうです。しかしISO Survey 2020によれば、日本のISOマネジメントシステムの認証件数は約6万件です。小規模企業を除く日本の企業数は約50万社であることを鑑みると、まだ認証を取得していない企業がたくさんあることがわかります。JACBとしては、企業の皆様のISO認証取得への理解を一層深めて頂けるように活動していきたいと思います。

2つ目は、社会・市場の「急速な変化への適応のツール」として企業・組織でISO認証を活用してもらうことです。ESG、SDGs、カーボンニュートラル、非財務情報などに関連した様々な市場の動きがあり、必然的に企業・組織は自らの活動の変革が求められています。このような動きとISOマネジメントシステムとの関係性に関する企業の皆様の理解が十分ではないと感じています。SDGsを例に取りますと、取り組む目標を選択し、その目標レベルをどう定量化し、さらにいつまでにやるかを決める、これがSDGsだと思います。それを実施して改善していく手段の一つとして、ISOマネジメントシステムという仕組みが大いに役に立ちます。自ら目標設定し、それをいつまでにどのようにして達成するのかをマネージしていくのがISOマネジメントシステムとなります。JACBでは世の中で求められている動きに対して、ISOマネジメントシステムがどう関連しているといった情報をタイムリーに分かりやすく発信していきます。

−そのためには、実際にISOマネジメントシステムをうまく活用してSDGs等の新しい動きに対応している事例を紹介することが必要になってくるでしょうか。

菅野 そうですね。やはり事例がないと難しいと思います。恐らくベースはISO 9001になりますが、そこにSDGsのいくつかの目標を設定し、企業全体でのPDCAによって成果が得られるという成功事例の紹介が必要になると思います。今後、JACBでの議論を通じて、具体的な事例を発信できればと考えています。特にカーボンニュートラルへの対応は企業にとって極めて難しい課題です。顧客からScope3への対応を要求される企業では、多くの経営者の皆様が対応に悩んでいるはずです。マネジメントシステムの中でいかに対応していくかといった事例提供ができると良いと思っています。

究極的な目標は「日本の産業競争力の向上」



−最後に、代表幹事就任の抱負をお聞かせください。

菅野 JACBは日本の国内で活動している、IAF加盟の認定機関に認定された認証機関で構成されています。会員機関は日本で活動する企業・組織の認証審査を行っているわけですから、究極的な目標は「日本の産業競争力の向上」になります。その目標に貢献するという高い志をもって、代表幹事という役割を担いたいと思います。簡潔に言いますと、最終的には日本が強くなるために尽力したい。「失われた30年」と言われる状況の中で、JACBができることは限られていますが、ISOマネジメントシステムというツールの効果的な活用を通じて日本の産業界を支援していきたいと考えています。(取材日:2022年6月9日)




取材先:菅野良一氏

日本マネジメントシステム認証機関協議会(JACB) 代表幹事
日本検査キューエイ株式会社 代表取締役社長
1984年東工大院理工学研究科修士課程修了、新日本製鉄(現日本製鉄)入社。1993年米・コーネル大院博士課程修了。2008年技術開発本部鉄鋼研究所・鋼構造研究開発センター所長。14年フェロー(執行役員待遇)。2020年6月日本検査キューエイ常務取締役。2021年6月代表取締役社長。2022年4月JACB代表幹事就任。