飯塚悦功教授 最終講義⑤

頭がいいってことは目的が分かっていること

これが最後の講義なのですが、実は奥さんの前でこんなに長くしゃべったのは初めてです。(編集部注:今回の最終講義には飯塚夫妻で出席された)どうせあとで、奥さんにケチョンケチョンに言われるのに決まってます(笑)。

ところで、毎年1月3日の夕方4時になると、私の家に学生OBが集まり、延々と夜中の12時くらいまで懇談するということを長年続けてきました。もう今は定年になったので、この集まりはやめていますが、その時に、「頭がいいというのは、どういうことか?」というテーマで、学生OBたちと一緒に次のような議論したことがあり、それが今でも印象に残っています。

「頭がいいって、どんなこと?」
「まず、記憶力だろ」
「もうシナプスが切れてるんだから、それはやめようよ」
「切れ味鋭いっていうか、いろんなことがパッと分かっちゃう奴じゃないか」
「いいねえ。いいけど、やめよう。あれ、遺伝だから」
「もっと、何かないか」
「努力できる奴」
「おっ、いいじゃん。努力できるのは、これも遺伝かもしれないけど、鍛えればできるかもしれない。我慢の能力だね」
「なんで、我慢して努力できるんだろう」
「目的が分かっているからじゃないか?」
「そうだ。しかも、因果関係も分からないとダメだね。その目的を達成することが重要だと分かっているから、しょうがないからコツコツ努力するんだ。それが、『頭がいい』ってことだろう」

確かに専門バカと言われない賢い人は、何をしなければならないかという目的を持っている。これが賢さの第一だと思います。賢さの第二は原因を考えるという思考形態。何かを言われた時に、その因果関係、目的と手段との関係を自然に考えている人っていますけど、頭いいなぁと思います。賢さの第三は、正月の議論で「遺伝だからやめよう」と言って切り捨てたものだと思います。いろんな話を聞いて、これだと本質をつかまえられること。理解力、抽象化能力、一般化能力とも言えますが、これも頭の良さの重要な要素だと思います。「目的、因果、本質、この3つとも、品質管理をやると、そなわるぞ!」って、学生たちに言っています(笑)。

品質管理の基本思想は顧客志向です。これは賢さの第一の、目的志向に他ならない。品質を達成する方法論として、もういやらしいくらいに「なぜなぜ」って聞きます。失敗した、じゃあ原因は何だ、とにかく原因を考える。この分野にいると、それをずっと言われ続けます。また、何かあったら、展開する。目的の展開、手段の展開、その方法をいろいろ教わるのです。これが第二の因果、手段への展開です。それから、何かあったら、その本質的な原因をつかまえろと言われます。根本原因・真因です。これが第三の本質理解。ですから、「品質管理をやっていると、何でもできるようになるぞ!」と言うとウソっぽいですが(笑)、筋のよい優れたものの考え方ができるようになります。

重要なのは「妥当な目的の設定」と「目的達成手段の工夫」

30数年間、いろんな問題を扱いましたが、その中で重要なのは、妥当な目的を設定すること、世の中がどうなっているのかというニーズを見て、このへんのところだろうと気づくこと、そのための方法論を持っていなければいけないと思っています。それから、目的達成手段をまともに出していけるように工夫すること。もちろんこれは、要素知識の蓄積、最適化の基本的方法論が必要なわけで、なかなかむずかしい。

これらをモノにできるのであるならば、品質管理を通じて鍛えられてきた、「お客様は誰?」「目的は何?」「原因は?」「手段は?」「真因は何?」といった問いかけが、さまざまな活動をする際の、いい方法論になると思います。

「30数年やってきて、それだけか?」と思われるかもしれませんが、私がやってきたのはこんなことです。困ったのは、ここに来るまでの間に、いろんな人から「最終講義、楽しみにしています」って言われたことです。私はちっとも楽しみにしていないのに(笑)。

また多くの人から「来年から、どうするんですか?」っていう問いもあり困りました。一人ひとりにお答えするのがいいのかもしれませんが、後ほど懇親会でお伝えします。さてさて、おあとがよろしいようで(笑)。どうもありがとうございました。(講義終了)

【飯塚悦功教授 最終講義次第】
2012年3月2日 15:00〜17:00
開会の辞:大久保達也教授
経歴紹介:平尾雅彦教授
最終講義:飯塚悦功教授
閉会の辞:山口由岐夫教授
(司会:水流聡子教授)

飯塚悦功氏の近影&プロフィール

飯塚 悦功(いいづか よしのり)  東京大学名誉教授
1947年東京生まれ。日本品質管理学会元会長、デミング賞審査委員会元委員長、日本経営品質賞委員会委員、ISO/TC176国内委員会前委員長、医療の質・安全学会理事などを歴任。2016年6月日本適合性認定協会(JAB)理事長に就任、2020年6月重任。2006年度デミング賞本賞受賞。2012年工業標準化内閣総理大臣表彰。品質論、現代品質経営、次世代TQM等の研究を通じ、品質マネジメント、TQM、ISO 9000等、日本のQMSを牽引してきた第一人者。現在、超ISO企業研究会の会長として、国内の主に中堅・中小企業発展のために、「真・品質経営」の思想と実践の方法論の普及に務めている。