QC工程表導入で農作物の品質・生産性向上


農作業におけるQC工程表をご覧になったことはありますか? 国内玉ねぎの生産拡大を目指し、専業農家と大学がコラボして玉ねぎ農作業のQC工程表を作成しました。本稿では、その作成手順と実際のQC工程表の記載例を紹介。参加した農家からは、農作業も標準化が可能であり、実用性が高いと評価されました。この研究活動を主導した東海大学准教授の金子雅明氏執筆による連載記事の一部を紹介します。

対象としたA農家と玉ねぎについて



A農家は栃木県塩谷郡にある、父と子の親子による専業農家であり、主な農作物には米5ha、麦1.2ha、大豆1.2ha、玉ねぎ2.1ha(H26年度実績)があります。これまでの主要な収入源となっていた米に対する国・政府による支援もなくなりつつあることと、国内で使用している玉ねぎの全量を国内生産だけでカバーできておらず、そのために国内産玉ねぎが有望な市場であることから、近年A農家では経営改善のためには国産玉ねぎの生産拡大が必要不可欠となっている状況下にあります。

そのような背景もあり、A農家の方と筆者の出会いをきっかけとして、玉ねぎにおける農作業について、図表1のQC工程表の記載様式を用いて可視化することにしました。



A農家におけるQC工程表の構築手順



図表2は、A農家におけるQC工程表の一部です。図表1の下の段の表の結果を用いて、A農家におけるQC工程表をいかに構築したかを説明したいと思います。



【図表2の下段の記載例の場合】

Step1: 全体の軸となる①時期と⑤作業工程を対応付けて記載します。ここでは、①時期の“10月28日〜11月3日”に行われる⑤作業工程は“補植”として設定できました。

Step2: Step1に対応付けて②生育モデルを記載します。ここでは、Step1の段階での②生育モデルは“第4葉期”となります。

Step3: Step2を実現するために満たす条件の③品質基準を記載します。ここでは、Step1, Step2が設定できたことにより、③品質基準は“適切な間隔で定植され、苗の白い部分が見えないくらいに埋まっていること”であると明確化しました。

Step4: Step2、Step3を実現するために必要な条件の④環境条件を記載します。ここでは、Step2、Step3が設定できたことにより、④環境条件は“圃場に植える間隔:10㎝、定殖の深さ:白い部分が見えないくらいに埋まっていること”としました。

Step5: ⑤作業工程で必要なリソースである⑥作業場と⑦担当者と⑧機械・資材を記載します。ここでは、⑦担当者は“補植(2〜10名:軽作業)”、⑧機械・資材は“ザル”であることが明確化できました。

Step6: ⑤作業工程で必要となる、⑨知識・技術と⑩異常管理を記載しました。ここでは、⑨知識・技術は“苗をあらかじめ補植用に作業機で苗取りをしておく、定植の間隔が狭すぎると球が変形する”ということが特定できました。さらに、⑩異常管理では、補植の必要作業量が多くなる場合もあり、その際に人手の確保(追加の人件費)が急に必要となるため、“人手が必要なため、人件費を要する”を入れました。

以上のように、Step1〜Step6の手順に沿って、A農家におけるQC工程表の記載項目を埋めていきました。なお、記載項目の内容が曖昧で記載できなかった場合は“不明”とし、該当しない場合は“該当なし”と表記しています。

この作成作業はそんなにスムーズに進んだわけではありません。A農家で行われている農作業を実際に観察したり、普段は無意識の中で実施している農作業のやり方や必要な知識について、A農家の作業者に対してその都度インタビューを行って把握しました。また、一度整理したQC工程表を一覧にして提示し、改めてA農家の方々に意見をもらい、修正を繰り返していきました。

また、得られたA農家のQC工程表の全体像は紙面の制約上、その一部のみ図表1に示していますが、全記載項目数は233あります。また、④環境条件について整理した結果を図表3に示しておきます。



(この記事はアイソス2020年5月号から抜粋したものです。金子雅明氏の連載記事はアイソス2020年4月号から9月号まで6回にわたって掲載されています)


執筆者: 金子 雅明 氏

東海大学 情報通信学部経営システム工学科 准教授。1979年福岡県生まれ。2009年早稲田大学理工学研究科で博士(工学)を取得。2007年同大学助手に就任。2010年青山学院大学理工学部経営システム工学科助手、2013年同大学助教に就任。2014年より東海大学情報通信学部経営システム工学科専任講師(品質管理)、2017年同大学准教授に就任し、現在に至る。専門分野は品質管理・TQM、医療の質・安全保証、BCMS。