連載記事 持丸正明
第2回 シェアリングエコノミーの標準化

本稿は月刊アイソス2018年11月号に掲載された持丸正明氏(産業技術総合研究所 人間拡張研究センター センター長)執筆の連載記事『サービス標準化 世界の現状と日本の課題』第2回の全文です。

シェアリングエコノミーとは

シェアリングエコノミーというサービス業態が急速に拡大している。平成28年版情報通信白書によれば、その市場は150億ドル(2013年)から3,350億ドル(2025年)に成長すると見込まれている。国内市場も233億円(2014年)から462億円(2018年予想)にもなる。このサービス業態の代表格が、Uber(ライドシェア)、Airbnb(民泊)である。シェアリングとは資源を共用することであり、その業態は共用する資源によって大きく5つに分けられる。第一は移動のシェアリング、第二は民泊のようなスペースのシェアリングである。第三のモノのシェアリングでは、工具やスポーツ用品、衣類のシェアリングがある。第四にスキルのシェアリングとして翻訳、イラスト作成、保育などの技能をシェアするビジネスがあり、第五のクラウドファンディングも広義のシェアリング(資金のシェア)と位置付けられている。シェアリングエコノミーは、基本的にエンドユーザーの資源を他のエンドユーザーに共用提供するもので、プラットフォーム運営者(シェア事業者)は、ITを用いて資源があるユーザーと活用したいユーザーのマッチングを図る。広義には、ホテルやレンタカーもシェアリングであるが、企業が貸出のために独自保有する資源を時分割でエンドユーザーに提供するようなビジネスは、シェアリングエコノミーから除外して考えている。


業法の縛りと自主的ルール策定


サービス業には、さまざまな業法が存在する。それらは、事業者の品質を担保し、サービス利用者のリスクを低減するためのルールとして整備されてきた。社会基盤的なサービス業(輸送、金融、エネルギーなど)は、万が一、企業が破綻した場合の利用者への影響が大きい。このため、業法には事業継続を支えるという側面もある。その既存業法がシェアリングエコノミーに拡大適用されると、新しいビジネス形態が実現できないこともある(日本国内で、ライドシェアのUberが実現できないなど)。また、実施できたとしても、トラブルが頻発すれば、サービス利用者のリスクを低減するための新しい業法が策定され、規制が強まる恐れもある。

そこで、シェアリングエコノミーを規制する新しい業法が策定される前に、シェアリングエコノミー業界自身が利用者保護のための自主的ルールを策定すべきだ、という動きが出てきた。ことに、日本人は欧米・中国に比べて「事故やトラブル時の対応に不安がある」という理由でシェアリングエコノミーを活用しない比率が高いと指摘されている(平成28年版情報通信白書)。このような自主的ルールの策定とそれに基づく認証があれば、利用者は、一定の品質を持つシェア事業者を容易に見極めることができ、結果的に、健全な市場の拡大に資する。このような状況は、諸外国でも同様であり、たとえば、英国ではSharing Economy UKという団体が、自主ルールを定めて認証を行い、TRUSTSEALという認証マークを発行している。


内閣官房指針からフォーラム認証へ


2016年に、内閣官房IT総合戦略室を中心として、自主的ルール策定を議論するシェアリングエコノミー検討会議(委員長:中央大学法学科・安念潤司 教授)が構成された。ここで、筆者も含めた有識者10余名と、シェアリングエコノミー協会、各省庁関係者が、半年にわたって議論を行った。その成果として、シェアリングエコノミーの品質管理の基本原則と、その原則を遂行する品質管理ガイドラインのモデルが策定された(シェアリングエコノミー検討会議 中間報告書, 内閣官房IT総合戦略室, 2016.11)。その基本原則は、(ア)安全であること、(イ)信頼・信用を見える化すること、(ウ)責任分担の明確化による価値共創、(エ)持続可能性の向上、の4つである。このモデルガイドラインに基づいて、シェアリングエコノミー協会では、有識者を交えた認証委員会(委員長:持丸正明)を組織し、独自の認証ガイドラインを策定するとともに、その基準に基づいて、認証を希望するシェア事業者に対して審査と認証を行ってきた。現在までに、17のシェアビジネスが認証マークを取得している。


IWA27への参画、PAS策定からISO TC提案へ


シェアリングエコノミーは、ITを基盤としており市場が国際化しやすい。海外で事業展開することもあれば、インバウンド観光客が利用するケースもある。したがって、ガイドラインや認証も国際化が必要となる。2016年、ISOにおいてもシェアリングエコノミーの標準に関する動きがあった。フランスとカナダが主導した「IWA 27:2017 Guiding principles and framework for the sharing economy」の策定である。このIWA27も、日本のガイドラインとよく似た狙いで作られており、プラットフォーム運営者(シェア事業者)に対する指針と行動の枠組みを提示している。日本もIWA27の議論にエキスパートを派遣して、日本で策定したガイドラインの基本原則との整合性を図った。

IWAが採択されると、その主導国が新しいTC設立に動くことが多いが、IWA27については、あまり目立った動きが見受けられなかった。そこで、日本は、シェアリングエコノミー協会の認証ガイドラインを国際化する手段を模索しはじめた。フォーラム標準である認証ガイドラインを、まず国内デジュール標準(JIS)にし、それをISOに提案していくのが一般的であるが、本連載記事の第1稿で述べた通り、その時点では、サービスを対象とするJISが策定できない事情があった。そこで、英国BSIの協力を得て、フォーラム標準を英訳してBSIの公開標準仕様(PAS)として策定し、それを国際デジュール標準であるISOに提案していく方策を獲った(下図)。並行して、そのISO提案を審議するための新しいTCの設置提案も行っている。順調に進めば、2018年度末にはPASが合意され、同じ頃にシェアリングエコノミーの標準を議論する新しいISOのTCの設置が決議されることになるだろう。日本発の新TC設置ということになる。