連載記事 市川芳明
第4回 Society 5.0 とその標準化の意義

本稿は月刊アイソス2019年7月号に掲載された市川芳明氏(多摩大学 ルール形成戦略研究所 客員教授)執筆の連載記事『ビジネスの基本ルールは自ら作れ 〜コンセプト規格とSociety 5.0の標準化〜』第4回の全文です。(本誌編集部)

これまでコンセプト規格の効用と事例について述べてきた。今回からは、標準化に取り組むべきであると筆者が考えている日本発の重要なコンセプト「Society 5.0」を取り上げる。

Society 5.0が生まれた経緯

2001年に内閣府に設置された「総合科学技術会議」が2014年に「総合科学技術・イノベーション会議(CSTI:Council for Science, Technology and Innovation)」に改組され、日本の科学技術イノベーション政策推進の司令塔として政策の企画立案や調整を行ってきた。このCSTIが立案した第5期科学技術基本計画(2016年閣議決定)に盛り込まれた斬新なコンセプトがSociety 5.0であった[1]。
[1] 内閣府 「CSTI(総合科学技術・イノベーション会議)パンフレット2017」(2017年)
当初は「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、(中略)活き活きと快適に暮らすことのできる社会」と定義されていた。この基本計画を実行するために策定された総合戦略2017では「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させることにより、(中略)経済的発展と社会課題の解決を両立し、人々が快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることのできる、人間中心の社会」と再定義され、さらに最新では、「サイバー空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」とより単純化されている[2]。
[2] 内閣府説明資料 https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/society5_0.pdf

なぜ5.0なのか? と疑問に思う方もいるだろう。図表1をご覧いただきたい.

人類の狩猟社会を1.0とし、その後の産業革命を4段階に分類し、各々の革命ごとに社会が進歩してきたとする考えである。「第4次産業革命」という言葉は日本発ではなく世界でも共通語になっているが、これは1990年代のインターネットを契機とした情報革命(第3次)を超える、次なる革命であると捉えられている。CSTIはこの革命によってもたらされるはずの未来社会をSociety 5.0と名付けたのである。

図表1の出典となる経団連の文献[3]ではSociety 5.0は「創造社会」であると述べている(つまり図中の「?」である)。加えて「Society 5.0 for SDGs」というキーワードを導入し社会課題の解決の文脈でSDGsとの関連を強調した。
[3] 経団連「Society 5.0 −共に想像する未来−」(2018年11月)

それでは、Society 5.0の具体的なイメージはどう描かれているのだろうか。図表2をご覧いただきたい。

4.0(左側)と比べて5.0(右側)のフィジカル空間とサイバー空間がより密接に結びつき、相互に影響を与え合っている。そのための鍵となるのがIoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、AIといった最新技術であるとされている。内閣府の広報ウェブページ[4]にはこのような未来が動画で紹介されているので、ぜひご覧いただきたい。
[4] 内閣府広報ページ https://www.gov-online.go.jp/cam/s5/index.html

実現に向けての政府の取組み

日本政府は上記の閣議決定を受け、様々な動きを開始した。まず内閣官房再生本部は、未来投資戦略2018[5]を公布し、一部のIT企業が社会を支配するという「デジタル専制主義」の解消、およびSDGsの達成を狙いとして加え、Society 5.0の実現に向けた政府の戦略を設定した。
[5] 日本経済再生本部「未来投資戦略2018−「Society 5.0」「データ駆動型社会」への変革−」(2018年6月)
この戦略では重点的にリソースを投入すべきフラグシッププロジェクトとして、モビリティ、ヘルスケア、エネルギー転換、FinTech、デジタル型行政、インフラ・メンテナンス、スマート農業、生産性革命等を指定すると共に、これらの基盤となる共通技術の開発、人材育成、そして「新たなルールの構築」を進めると述べている。

Society 5.0のコンセプトの生みの親である内閣府はCSTIが5年間で300億円を超える予算をトップダウンでつぎ込むSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)によってSociety 5.0の実現を推進している。そのテーマはおおよそ上記の未来投資戦略のフラグシッププロジェクトと整合している。

さらに産業界の自主的な動きもある。経団連は前出の文献[3]を皮切りに、2018年にはSociety 5.0を実現するための企業の取り組みの方向を定める「Society 5.0実現ビジネス3原則」[6]を、さらに今年2019年になってから政策提言書[7]を発表した。
[6] 経団連「Society 5.0実現ビジネス3原則」による新たな価値の創造〜「知的財産戦略ビジョン」策定に向けて〜(2018年5月)
[7] 経団連「Society 5.0の実現に向けた 「戦略」と「創発」への転換 〜政府研究開発投資に関する提言〜」(2019年4月)

Society 5.0標準化の必要性と効用

未来投資戦略においても、経団連の提言においても、「新たな社会ルール」の構築がSociety 5.0を実現する上で不可欠であることが述べられている。前出の経団連の3原則のうち、本稿のテーマに密接な原則3では「革新技術を用いた製品・サービスで、グローバルに需要を創造し、市場を拡大するためには、自ら「ルール」を創るという発想が必要になる。Society 5.0の実現に向け、SDGsを国際競争力向上に向けた切り口と捉えて、国際的な規制や標準等の「ルール創り」に積極的に関与することが不可欠である」と述べている。

本稿で標準化と言っているのはもちろん日本国内のJISや法律のみを指しているのではない。実は日本のこれまでの取り組みは、海外への展開に関してやや弱い傾向があった。しかし、次回述べるように海外の政府も好感をもって着目している。いまこそ国際舞台で低下した日本のプレゼンスを高め、平成の時代に伸び悩んだ経済を一気に成長させるために、Society 5.0をグローバルに展開すべきである。そのためにこそ「国際標準化」を活用すべきだ。次回ではSociety 5.0の国際標準化戦略と現在の活動について述べたい。